第 2 章 カンボジア政府の取り組み
2.2. 貧困問題をめぐる諸政策
2.2.2 政府予算と公共支出
表 2-9 SEDPIの実施に向けた公共投資プログラム
PIP(1996-1998)* PIP(1999-2001)
セクター 金額(ドル) シェア(%) 金額(ドル) シェア(%)
農業・農村開発 168,000 14.0 130,427 9.3
鉱工業 24,000 2.0 - -
運輸 252,375 18.0
通信
312,000 (運輸・通信の合計)
26.0 (運輸・通信の合計)
50,100 3.6
電力・エネルギー 108,000 9.0 104,258 7.4
貿易・産業 - - 13,804 1.0
教育 144,000 12.0 114,276 8.2
宗教・分化 36,000 3.0 18,800 1.3
行政 46,138 3.3
社会/コミュニティ・サービス
72,000
(行政及び社会/コミュ ニティ・サービスの合計)
6.0
(行政及び社会/コミュ
ニティ・サービスの合計) 62,888 4.5 水資源・水供給・衛生 96,000 8.0 154,329 11.0
保健 240,000 20.0 347,420 24.8
環境保護 - - 27,038 1.9
観光 - - 2,747 0.2
特別プログラム 200,000 - 75,400 5.4
合計 1,400,000 100.0* 1,400,000 100.0
[出所] Ministry of Planning, Public Investment Programme 1996-1998及びPublic Investment Programme1999-2001より作成
[注] *PIP1996-1998におけるセクター別シェアの合計には特別プログラムは含まない。
(2)
政府財政の動向20
年以上にわたる内戦の後遺症により、カンボジアの財政基盤は非常に脆弱である。内戦 終結後の1993
年以降に成立した政権下においても、依然として政府の組織能力は不十分で あり、特に財政管理については問題が山積している。1993
年以降で見ても、カンボジア財政は一貫して歳出超過であり、特に、1993
年から1996
年までは、歳入の2
倍前後の歳出が行われ、大幅な財政赤字であった。1997
年以降、やや 改善が見られるが、1999
年の歳出は歳入の1.4
倍である。政府の財政赤字は、対GDP
比で みると1995
年がピークで約8%に達しているが、その後低下しており、1999
年には4.5%
に改善している(図
2-8)
。[出所] National Institute of Statistics. (2001). Statistical Yearbook 2000およびWorld Bank. (1999).Cambodia: Public Expenditure Reviewより作成
図 2-8 政府財政の動向
政府は財政赤字を当初国内借入で賄っていたが、これが
100%を超える高インフレの原因
となった。IMFおよびWB
の支援を受け、財政改革を進め、無秩序な国内借入による財政 赤字のファイナンスは抑えられたが、一方で海外借入に依存する財政体質に陥っている。海外借入の対
GDP
比は、財政赤字のそれとほぼ同率であり、財政赤字が悪化した1995
年 には海外借入も8%近くに拡大したが、1999
年には4.6%に縮小している(表 2−10)。
表 2-10 政府財政の動向(対GDP比)
(単位:%)
1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999
税収 4.4 6.2 5.4 9.6 8.9 9.1 9.7 9.0 11.5
一般歳出 7.4 9.5 6.9 11.0 9.6 9.9 9.0 14.3 16.1 財政赤字 3.4 3.6 5.9 6.8 7.7 7.2 4.3 5.4 4.5 海外借入 0.5 0.1 4.4 7.0 7.8 7.0 4.9 4.7 4.6 [出所] National Institute of Statistics,(2001), Statistical Yearbook 2000およびWorld Bank, Cambodia: Public Expenditure Review
より作成
カンボジアの財政赤字は、税収基盤が脆弱であり、歳入の確保が不十分である一方で、歳 出管理が甘く、歳出が過大なために生じている。一般歳出の対
GDP
比は、税収のそれを上 回っており、最近2〜3
年は5
ポイント前後に格差が広がっている。税収基盤が脆弱な原因としては、税収構造がアンバランスであることが挙げられる。所得 税および法人税を合わせた直接税の比率は
10%未満であり、
間接税が90%以上を占めてい
0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 2000
1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999
(10億リエル)
歳入 歳出
る。特に、関税の比率が非常に高く、1995 年までは
70%を超えていた。1996
年以降、低 下してはいるが、1998年でも55%の高水準になっている。
このように、税収に占める関税の比率が高いことは、国内に税収基盤がないことを示して
いる。(表
2-11)所得税は、1994
年まで徴税されておらず、1998年にいたっても税収に占める割合は
1%を超えたところである。所得税の割合が低い理由としては、徴税制度がい
まだ未整備であることが挙げられるが、最も根本的な要因はカンボジアの経済構造にある。すでに見てきたとおり、カンボジアの国民の
80%以上が農業に従事しており、失業率は低
いものの、無給の農業労働者が多数存在している。そのため、国民の所得水準は非常に低 く、所得税を徴収する水準にいたっていないものと考えられる。これは、農村の貧困率の 高さ、また農業従事者の貧困率の高さからも推測される。また、フォーマルな労働による 収入のみでは生活していかれないため、インフォーマルな経済活動により収入を得ている ケースが多い。インフォーマルな経済活動については、徴税ベースに乗らないことも所得 税による税収の割合が非常に低い原因の一つと見られる。表 2-11 税収構造の推移
(単位:%)
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998
所得税 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.2 0.5 1.0 1.3 法人税 7.5 6.4 6.9 9.8 1.7 4.0 3.5 5.9 6.2 売上税 0.0 0.0 0.5 2.3 2.3 3.8 5.1 7.8 9.7 消費税 12.8 14.1 14.6 13.7 12.9 13.5 13.2 12.6 13.3 物品税 0.0 0.0 0.0 0.0 0.8 2.1 10.6 12.4 11.2 関税 66.2 70.7 72.3 68.1 77.1 72.0 64.4 58.1 55.4 その他 13.5 8.7 5.7 6.1 5.3 4.4 2.7 2.3 3.0 税収総額 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 [出所] National Institute of Statistics,(2001) Statistical Yearbook 2000より作成
政府歳出の重点分野への配分を図
2−9
に示す。財政赤字のもっとも大きな要因は軍事関連 支出である。軍事関連の政府歳出は1994
年および1995
年には60%を超えており、その後
低下傾向にあるが、2000年においても40%を超えている。一方で、教育、保健・衛生、農
業・地方開発に対する歳出は、SEDP において重点分野として掲げられているにもかかわ らず、政府予算に占める割合は非常に低い。農業・農村開発は貧困削減において最も重要 であるとされているものの、政府歳出に占める割合でみると1994
年以降2000
年までの7
年間で
2%前後で推移しており、歳出で見る限り農村開発に重点的に配分されているとは
いえない。一方で、教育および保健については政府歳出に占める割合は増加している。教 育セクターは、もともと他の社会セクターに比べて比率が高く、政府歳出の
10%を占めて
いたが、1999
年、2000
年と増加傾向にあり、2000
年の政府歳出に占める割合は16%であっ
た。保健セクターは、1994年以前は1〜2%の水準であったが、1994
年以降伸びており、2000
年には10%を超えた。社会保障・福祉関連の予算については、従来 4〜5%を占めて
いたが、縮小傾向にあり、1999年、2000年には
2%台に低下している。
[出所] Asian Development Bank, Key Indicators of Developing Asian and Pacific Countries 2001,より作成 [注] 2000年の数値は推定値
図 2-9 政府歳出に占める重点セクターへの支出の割合
基本的には、政府予算は経常支出に充当する規模でしかなく、公共サービスにかかる総支 出の約
7
割が援助機関の支援によるものである。貧困層に影響を及ぼす農業・農村開発や 教育、保健など社会開発分野のプロジェクトを含めて、投資プロジェクトの実施は国際機 関をはじめ、二国間援助機関、NGO
などドナーからの援助に依存しているのが現状である。カンボジア政府は財政健全化に向けて、財政赤字削減のために歳入基盤の強化、歳出削減 の方針を打ち出している。
2001
年度予算では経常黒字の対GDP
比1.5%とし、財政赤字は
対
GDP
比5.75%を目標としている。政府歳入については GDP
の12%に拡大し、政府歳出
は軍事・国防費を削減する一方で優先度の高い社会セクターに充当することを掲げている。
IMF
60は、カンボジアの財政健全化の実現には以下の政策の実施が必要としている。a.
付加価値税(VAT)対象品目の見直しなど税制改革の実施b.
兵員解除プログラムの実施による軍事・国防費の削減c.
公務員改革による政府部門人件費61の削減これらの政策はすでに着手はされているものの、カンボジア政府の行政能力および人員が 十分でなく、完全な実施には移されていない。
60 IMF,(2001)Cambodia: Third Review Under the Poverty Reduction and Growth Facility- Staff Report, IMF Country Report No. 01/143参照。
61 公務員のデータをコンピュータ管理することにより、不適切な公務員への給与支払いなどを削減することを 主な目的としている。
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000
教育 保健
社会保障・福祉 農業
軍事・防衛