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経済成長と所得分配

ドキュメント内 424_カンボジア本文.PDF (ページ 44-51)

第 2 章 カンボジア政府の取り組み

2.1. 貧困問題を取り巻く経済環境

2.1.2 経済成長と所得分配

(1)

外国投資主導の経済成長

1990

年代のカンボジア経済は、GDP実質成長率で見ると、和平合意前の

1989

年を基準と する固定価格ベースでの

1990

1.2%から 1991

年、1992年にそれぞれ、7.6%、7.0%と大 幅に伸びた。(表

2-2)セクターで見ると、 1991

年には各セクターが全般的に

7%前後で伸

びているが、

1992

年には農業、製造業が低迷したのに対し、サービスセクターが

11%超と 2

桁成長であった。これは、1991年に和平合意に達し、内戦により停滞していた経済活動 が活発化し始めたことによる。また、サービスセクターについては、1992年から

UNTAC

が任務を開始し、国際支援が本格化したことによる在留外国人向け生活関連需要によるも のであった。

表 2-2  実質経済成長率の推移(1989年=100)

1990 1991 1992

実質GDP 1.2% 7.6% 7.0%

農業 1.2% 6.7% 1.9%

製造業 -4.4% 7.0% 3.3%

サービス 2.6% 8.5% 11.1%

[出所] Asian Development Bank. (2001). Key Indicators of Developing Asian and Pacific Countries より作成

1993

年の総選挙以降、市場経済化・経済自由化が本格化し、カンボジア経済はプラス成長 を続けている。1994年から

2000

年までの

7

年間の平均実質成長率は

4.2%であった

51。高 成長の牽引力となっているのは製造業で、

GDP

に占めるセクターの割合では

14%程度であ

るものの、1995年以降、

2

桁の高成長を続けており、GDP成長率を押し上げている。一方 で、

GDP

シェアのそれぞれ

40%を占めている農業セクターおよびサービスセクターは、マ

イナス成長となっている年もあり、変動が激しい。特に、農業セクターについては、カン ボジアにおいてはいまだ天水農業が主流であり、天候の影響を非常に受けやすいため、安 定的にマクロ経済成長に貢献するものではない(図

2-4)。

51 1991年から1993年にかけて100%超の高インフレが起こっているため、1992年までは1989年を基準年とす

る固定価格を使用し、1993年以降は1993年を基準年とする固定価格としている。異なる基準年の固定価格 を使用しているため、経済成長率の推移は1990年〜1992年、1994年〜2000年で分けている。

-10%

-5%

0%

5%

10%

15%

20%

25%

30%

35%

40%

1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000

実質GDP 農業 製造業 サービス

[出所] Asian Development Bank. (2001). Key Indicators of Developing Asian and Pacific Countriesより作成 図 2-4  実質経済成長率の推移(1993年=100)

カンボジア経済の成長に最も寄与している製造業セクターの内訳を見ると、繊維・衣料・

製靴の成長率がもっとも著しく、

1996

97%、 1997

128%であり、前年比 2

倍の勢いで 伸びた。アジア通貨危機以後伸び率は低下しているが、1998年、1999年と前年比で

40%

を超える成長を続けている。同セクターは、GDPに占める割合においても拡大しており、

1996

年までは

1%前後であったが、1999

年には

6%を越えている(図 2-5

)。

0.0%

1.0%

2.0%

3.0%

4.0%

5.0%

6.0%

7.0%

1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999

-40%

-20%

0%

20%

40%

60%

80%

100%

120%

140%

食品・飲料・タバコ 繊維・衣料・靴 食品・飲料・タバコ 繊維・衣料・靴

(線グラフ:実質成長率)

(棒グラフ:GDPシェア)

[出所] National Institute of Statistics. (2000) Cambodia Statistical Yearbookより作成 図 2-5  カンボジア製造業の動向

[出所] 日本貿易振興会「ジェトロ投資白書」1999年版、2000年版、2001年版より作成 図 2-6  カンボジアへの外国直接投資の動向(認可額)

繊維・縫製産業の成長は、カンボジアへの外国直接投資の流入が拡大したのと期を一にし ている。外国直接投資が本格化したのは、1994年

8

月の投資法施行以降である。1994年

8

月からアジア通貨危機が発生する

1997

8

月までの

4

年間に外国直接投資認可累計額は、

33

億ドルを超えた。カンボジアへの主要な投資国は、マレーシア、シンガポール、タイ

など

ASEAN

諸国や中国、台湾である(図

2-6)。

外国直接投資のうち、繊維・縫製産業への投資は全体の

8%にのぼっている。繊維・縫製

産業への外国直接投資が拡大した背景には、EU や米国から特恵関税を認められ、輸出環 境が好転したことがある。また、

1990

年代に入って高度成長が続く

ASEAN

諸国の人件費 の上昇により、ASEAN 諸国に比して人件費の安いことも、カンボジアに労働集約的産業 の繊維・縫製などの生産拠点をシフトする大きな要因となった。

外国直接投資によって成長した産業を牽引役とする経済成長は、国際経済環境の変化に対 して脆弱であり、

1997

年にアジア通貨危機が発生すると、カンボジア経済も深刻な影響を

受け、

1998

年は

1.5%の伸びと経済成長は鈍化した。農業セクターの成長率は前年 5.8%か

2.5%に低下し、サービスセクターは前年に続いてマイナス成長であった。製造業につい

ては、15%を超える成長率であったが、1997年に比して

20

ポイント落ちこんだ。1997年 のアジア通貨危機の影響としては、

a.

主要投資国の韓国、台湾、ASEAN諸国からの直接投資減少

b. ASEAN

諸国の通貨切り下げに伴うカンボジアの輸出競争力の低下

こうした要因に加え、

1997

年の政変による政治的リスクの高まりはカンボジアの投資環境 の悪化につながった。しかしながら、現在では政治的な安定を回復し、1999年に

ASEAN

に正式加盟をしたことで、再び投資環境は改善し、投資は回復の兆しを見せている。

622.4 592.6 558.4

196.2 161.9

2,476.3

0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000

1994.8〜1995.12 1996 1997 1998 1999 2000.1〜9

(百万ドル)

(2)

成長による貧困・不平等への影響

上述の通り、

1990

年代のカンボジア経済は、アジア通貨危機等の影響により一時的な停滞 はあったものの、経済の安定化、政治的安定化、及び外国直接投資の流入等に伴う製造業 部門の成長に牽引され、概ね

5

から

6%のプラス経済成長を達成している。

1993

年、

1997

年、

1999

年の

CSES

データを基に推計された、ほぼ同時期の各貧困指標(貧 困者比率・貧困ギャップ・2乗貧困ギャップ)及び不平等指標(ジニ係数・タイル指数)

の推移を見ると、必ずしも大幅な改善とは言えないまでも、1993年から

1999

年の間に貧 困及び不平等いずれも徐々に改善の傾向にあることがわかる52。しかしながら、こうした 全体として良好な経済成長パフォーマンスが、実態として貧困及び不平等是正に貢献でき たか否かについては必ずしも判断できないとの指摘53もある。

一般的に言って、不平等度が一定であれば経済成長が貧困削減のエンジンとなることは明 白だが、経済成長に伴って不平等度が悪化しない保障はない。クズネッツの逆

U

字仮説が 示す通り、経済成長の過渡期においては成長に伴って不平等度が悪化する可能性も否定で きない。仮に経済成長が過度な不平等度拡大を伴えば、経済成長による貧困層への裨益効 果は不平等度の拡大効果により相殺されてしまう。このため、成長と不平等の関係は経済 成長による貧困削減効果を概観する上で重要な視点となる。

2-3

は、カンボジアにおける経済成長と不平等が貧困にどのような影響を与えたのかを 定量的に概観すべく、

Kakwani

(1993)54による成長と不平等に係る貧困指標の弾性値推計 手法を参考とし、1993年から

1999

年の一人当たり支出、各貧困指標、ジニ係数データに 基づきカンボジアでの成長と不平等度に係る各貧困指標(貧困者比率、貧困ギャップ、2 乗貧困ギャップ)の弾性値を推計したものである。表

2-3

にある(i)成長に係る貧困指標 の粗弾性値は、仮に不平等度(ジニ係数)が一定と仮定した場合に

1%の成長(一人当た

り支出)による貧困指標の低下効果を示したものであり、

1%の成長により貧困率でマイナ

3.1%の低下効果を推計。(ii)成長に係る不平等指標弾性値は、1%の成長(一人当たり

支出)による不平等指標(ジニ係数)の低下効果(マイナス

0.79%の不平等度改善効果)

を示したものであり、(iii)不平等度に係る貧困指標弾性値は不平等度(ジニ係数)1ポイ ントの上昇が貧困指標をどれだけ増加(不平等度

1%の増加により貧困率で 1.37%の上昇効

果)させるかを推計したものである。また、(iv)成長に係る純貧困指標弾性値は、不平等 度の変化を加味した成長による貧困指標の低下効果を示しており、

1%の成長により貧困率

でマイナス

4.18%の低下効果が推計された。

表 2-3  カンボジアにおける成長、不平等および貧困の関係(1993-1999)

貧困率 貧困ギャップ 2乗貧困ギャップ

(i)成長に係る貧困指標粗弾性値 -3.10 ** -0.98 * -0.69 **

(ii)成長に係る不平等度弾性値 -0.79 ** -0.79 ** -0.79 **

(iii)不平等度に係る貧困指標弾性値 1.37 * 0.97 ** 0.75 **

(iv)成長に係る貧困指標純弾性値 -4.18 ** -1.74 ** -1.29 **

[注] 独自推計値。**5%水準で有意。*10%水準で有意。

52 1.1.2 貧困指標及び1.1.3不平等指標の推移参照。

53 World Bank. (1999). Cambodia Poverty Assessment. p31参照。

54 Kakwani, N (1993) “Poverty and Economic Growth with Application to Cote d’Ivoire.” Review of Income and Wealth 39:121-39

以上より、1993年から

1999

年における各貧困指標の低下は、成長効果のみならず不平等 改善効果によってももたらされたことを示唆している。成長の拡大は不平等度の悪化をも たらすのが一般的だが、カンボジアの場合は、表

2-3

の推計値を見る限りにおいて不平等 是正を伴う成長が貧困削減に一定の貢献をしたと見ることができる。しかしながら、貧困 ライン以下階層の支出レベルと貧困ラインとの乖離度を示す貧困ギャップおよび貧困ライ ン以下階層の分配に感応的な

2

乗貧困ギャップの成長に係る純弾性値(各々マイナス

1.74、

マイナス

1.29)は貧困率のそれ(マイナス 4.18)と比較して 1/3

から

1/4

程度にすぎない。

この結果の解釈は困難であるが、成長による裨益効果は貧困ライン以下の全ての階層に均 等に配分されたものではなく、貧困ライン以下階層のうち低位階層ほど成長による裨益効 果が薄い可能性が考えられる。

1993

年から

1999

年において、経済成長による裨益効果が貧困層全体に均等に分配された ものではなかったとしても、カンボジアが外国直接投資等に伴う製造業部門に牽引されて 良好な経済成長を概ね維持しつつも、全体として不平等の悪化を回避できた要因について は更なる詳細な調査が必要となる。しかしながら、この要因を探る上では、後段で述べる ように、貧困人口の約

90%、労働人口の約 80%を吸収する農村部及び農村部経済の中心で

ある農業部門の存在を見逃すことはできない。雇用機会の創出は貧困削減のための重要な 要素であるが、カンボジアの製造業部門は経済成長の牽引役であるにも拘わらず、雇用吸 収力は限定的である。一方、労働供給圧力が高まる中で農業部門が雇用アブソーバーとなっ ており、農業部門がカンボジア全体の失業率を押し下げることで全体の不平等度の悪化を 回避させたと考えることもできる。しかしながら、農業部門は部門別

GDP

シェアを低下さ せつつも、増加する労働力を一定に吸収し続けており、これによる同部門での不完全就業

(Under-employment)

の拡大可能性は、今後の貧困・不平等の悪化要因となり得ることも想

定される。

(3)

雇用の実態:農村の不完全就業層

カンボジアの人口成長率は、

1994

年から

2000

年までの

7

年間の平均人口成長率が

3.6%と

高く、また、0〜14歳の若年層の占める割合が全体の約

40%と高い。労働力供給圧力が非

常に高く、

1998

年のセンサスによれば労働人口は

510

万人超であり、

2000

年には

550

万人 に増加しているものと推測される55。こうした労働供給圧力に対し、カンボジアの統計で は毎年変動があるものの、失業率は概ね低い水準で推移しており、

1999

年の失業率はわず

0.6%であった。地域別の失業率の推移(表 2-4)を見ると、プノンペンやその他都市部

の失業率はカンボジア全体の失業率を上回っている一方で、農村部の失業率は

1998

年を除

けば

0.5〜2%と低い水準で推移している。労働人口全体に占める農村労働人口の比率が

80%(表 2-5)と高いため、農村における失業率が全体の失業率を押し下げている。

しかしながら、こうした失業率の低さはカンボジアの全労働人口に対して生産的な雇用機 会が存在していることを示すものではない。表

2-6

1999

年時点でのセクター別の雇用条 件を示している。これによると全産業就労者数の

41.5%が無収入の家族労働により構成さ

れており、無収入の家族労働人口の

96.4%が農業部門に集中する。また農業部門全就労人

口のうち無収入の家族労働人口は全体の約

52%を占める。このことは、農業部門労働人口

の 約 半 数 が 農 林 漁 業 の 限 界 生 産 性 の 向 上 に 寄 与 し な い 偽 装 失 業 状 態 (Disguised

Unemployment)

にある可能性も否定できない。

55 Alan Abrahart,(2000),Cambodia: A Labor Market Study. p.4

ドキュメント内 424_カンボジア本文.PDF (ページ 44-51)