第 3 章 インドシナ地域における国際連系送電線プラン
3.3.5 財務分析
ここでは、各国電力事業者から独立した第三者が連系送電線の建設、管理・運営を行う 場合の事業性について分析する。なお、対象としたケースは、前節で検討したもののうち 経済比較の結果上位となったCase 2、5、7、10である。事業性については、財務的内部 収益率(FIRR)の観点から検討を行った。
(1)FIRRとは
一般に財務分析とはプロジェクトのリターンがどの程度となるのかという観点から、対 象となるプロジェクトの利益性を評価することである。プロジェクトに必要なインプット は、「財務費用」とも呼ばれ、市場価格により評価される。同様にアウトプットも市場価格 により測定され、「財務便益」と呼ばれる。
「財務費用」と「財務便益」は、プロジェクトの耐用年数を通じた現在価値に変換して 比較される。財務的分析を行う際には財務費用(C)の現在価値の総和が、全便益の財務 便益(B)の現在価値の総和と一致するような割引率を算出し、それをさまざまな資本コ ストと比較することによって、財務的観点から事業性の評価が可能となる。この割引率の ことを財務的内部収益率(Financial Internal Rate of Return: FIRR)という。
∑
∑
==
=
=
+ = +
T t t
t T
t t
t
Bt R
Ct R
1
1
( 1 ) ( 1 )
ここで、
T = プロジェクト耐用年数の最終年 Ct = t年における財務費用
Bt = t年における財務便益 R = 財務的内部収益率(FIRR)
(2)分析における基本的な考え方
①前提
本分析では、各国電力事業者から独立した第三者(連系送電線事業者)が連系送電線の 建設ならびに管理・運営を担うこと(たとえば BOT 方式)を前提とする。その際、連系 送電線事業者は連系送電線を通過する融通電力量から発生する収入によって、建設費用お
よびO&M費用を回収することとなる。よって、財務分析において使用する「財務便益」
は、融通電力量に 1kWh あたりの連系送電線使用料金を乗じたもの、「財務費用」につい ては、前項で算定した各モデルケースの建設費用およびO&M費用となる。
なお、この前提においては、各国は連系送電線の建設、管理・運営には無関係であるこ とから、供給信頼度向上効果による便益を考慮しないものとする。
②融通電力量、連系送電線使用料金単価、各国メリット
本分析においての融通電力量とは、経済融通によって発生する電力量とする。
連系送電線使用料金単価については、最大でA国とB国の燃料費単価差まで設定するこ とも可能であるが、各国とも享受するメリットなしの条件で融通を実施するとは考えにく いため、本分析では融通によって生じるメリットを各国および連系送電線事業者が分け合 うことものとする39。
本分析における連系送電線プロジェクトの事業イメージを図3-23に示す。
図3-23 連系送電線プロジェクトの事業イメージ
前述のとおり、連系送電線プロジェクトを事業として行う場合、その収入はすべて連系 送電線の使用料から回収することとなるため、連系送電線の使用頻度(融通電力量)を把 握する必要がある。図3-24は、Case 5における連系送電線を活用した融通電力量と燃料 費単価差との関係を示したものである。これは電力融通を行う条件(燃料費単価条件:a <
b)をクリアした融通電力量を燃料費単価別に集計・プロットしたものである。
図3-24から明らかなように、燃料費単価差が大きくなると融通電力量が小さくなること がわかる。これは、燃料単価差が大きくなるにつれて、その燃料費単価差を満足するよう な電源設備の組み合わせは減少し40、結果として融通電力量も減少するためである。
また、燃料費単価差が小さいと融通電力量は多くなるが、融通によるメリットは(燃料
39 この考え方は、日本で実施されている経済融通と同様の考え方であり、その目的とするところは、経 済融通を実施する相互の電気事業者の発電設備を効率的に活用することにより、電気事業者全体の効率 的運用を達成しようとするものである。
40 たとえば、A国には燃料費単価の違う4発電所(あ: 10¢/kWh、い: 8¢/kWh、う: 6¢/kWh、え: 4¢
/kWh)があり、B国には4発電所(ア: 6¢/kWh、イ: 4¢/kWh、ウ: 2¢/kWh、エ: 0¢/kWh)がある とすると、燃料費単価差2¢/kWh以上をクリアするのは11通りあるが、4¢以上は9通り、以下6通 り、3通り…となる。
<融通によるメリット:収入>
P(kWh)× b(¢/kWh)− P(kWh)× a(¢/kWh)
= P(b−a)(¢)= △D>0
融通によるメリットP(b−a) (¢)をA国,B国および運営会社で分ける。
A→B
融通電力量 P(kWh)
a(¢/kWh) < b(¢/kWh)
A 国
燃料費単価 a (¢/kWh)
A国の燃料費増 P(kWh)×a(¢/kWh)
B国
燃料費単価 b(¢/kWh)
B国の燃料費減 P(kWh)×b(¢/kWh)
費単価差)×(融通電力量)であるため、融通電力量が多いからといって連系送電線事業 者の収入が大きくはならない。
0 2000 4000 6000 8000 10000 12000
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4
燃料費単価差(¢/kWh)
融通電力量(GWh)
図3-24 融通電力量と燃料費単価差との関係(Case 5)
以上のインドシナ地域における融通電力量と燃料費単価差を踏まえ、連系送電線事業者 の収入と連系送電線使用料金単価との関係を図 3-25 に示した。なお、各国メリットが 0 の場合の連系送電線事業者収入を計算することも可能であるが、何のメリットも享受でき ないプロジェクトに各国が参加するという仮定は現実的ではないため、各国メリットが
0.5¢/kWhならびに1.0¢/kWhの条件で検討を行った。図3-25からも明らかなように、
各国のメリットが1.0¢/kWhの場合はほとんど収入が得られない。
0 5 10 15 20
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4
連系送電線使用料金単価(¢/kWh)
収入(MUS$)
各国メリット 0.5¢/kWh 各国メリット 1.0¢/kWh
図3-25 連系送電線使用料金単価と事業者収入の関係(Case 5)
本項の財務分析では、もっとも収入の多い条件での事業性を検討する。すなわち図3-25 の破線で囲われた部分:
①各国メリット0.5¢の場合→連系送電線使用料金単価1.5¢
②各国メリット1.0¢の場合→連系送電線使用料金単価2.5¢
の条件について財務分析(FIRRの計算)を行う。
また、本調査対象4カ国すべてに跨る連系ではないものの効果の高かった、Case 2にお ける融通電力量と燃料費単価差との関係、および連系送電線使用料金単価と事業者収入の 関係を図3-26、図3-27に示す。
0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4
燃料費単価差(¢/kWh)
融通電力量(GWh)
図3-26 融通電力量と燃料費単価差との関係(Case 2)
0 5 10 15 20
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4
連系送電線使用料金単価(¢/kWh)
収入(MUS$)
各国メリット 0.5¢/kWh 各国メリット 1.0¢/kWh
図3-27 連系送電線使用料金単価と事業者収入の関係(Case 2)
③その他の条件
FIRRの計算を行うにあたり、連系送電線プロジェクト期間を15年、20年、25年41の 3パターンを想定した。なお、プロジェクトの建設期間はすべて4年間とする。
(3)計算結果ならびに考察
上記条件のもと計算した2015年における財務分析結果(FIRR)を表3-55に示す。
表3-55からわかるように、FIRRの値はおしなべて低い値となった。最もよいパフォー マンスを示した条件(Case 2、25年、各国メリット0.5¢/kWh、送電線使用料金単価1.5¢
/kWh)でさえFIRRの値は6%程度である。
表3-55 2015年における財務分析結果(FIRR)
期間 25年 20年 15年
各国メリット 連系送電線 使用料金単価
0.5
¢/kWh
1.0 ¢/kWh
0.5
¢/kWh
1.0 ¢/kWh
0.5
¢/kWh
1.0 ¢/kWh
0.5 – – – – – –
1.0 5.90% – 4.78% – 2.60% –
1.5 6.37% – 5.30% – 3.19% –
2.0 1.98% – 0.43% – -2.41% –
Case 2
2.5 1.50% – -0.10% – -3.03% –
0.5 – – – – – –
1.0 2.08% – 0.55% – -2.27% –
1.5 2.33% – 0.83% – -1.95% –
2.0 -3.58% – -5.88% – -9.82% –
Case 5
2.5 -3.31% – -5.57% – -9.45% –
0.5 – – – – – –
1.0 -3.09% – -5.32% – -9.15% –
1.5 -1.08% – -3.03% – -6.45% –
2.0 -2.10% -12.55% -4.19% -16.25% -7.82% – Case 7
2.5 -1.65% – -3.67% – -7.21% –
0.5 – – – – – –
1.0 -4.58% – -7.03% – -11.19% –
1.5 -0.31% – -2.15% – -5.41% –
2.0 -2.62% – -4.78% – -8.51% –
Case 10
2.5 -2.28% – -4.39% – -8.06% –
(4)結論
上記分析より明らかなように、各国のメリットを確保しつつ、各国電力事業者から独立 した第三者が、連系送電線を通過する融通電力量から発生する連系送電線使用料金収入の みによって事業を展開することは困難であると考えられる。
つまり、連系による電源開発投資繰り延べや燃料費の削減といった国民経済的便益が大
41 タイは、送電線プロジェクトへの投資基準を15年でFIRRが15%以上としている。20年ならびに25年 はそれぞれベトナムならびにタイの一般的な送電線の耐用年数である。
きいとしても、各国電力事業者から独立した第三者が連系送電線プロジェクトを事業とし て成立させることは、2015年の段階においては困難ということになる。
(5)2020年における財務分析結果(FIRR)
参考として、2015 年で検証した 4 ケースについて、その持続性の検証という観点から 2020年のデータを用いて財務分析行った。表3-56が示すとおり、各国の系統規模の拡大 が見込まれる2020年では、最も良いパフォーマンスを示した条件(Case 2、25年、各国
メリット0.5¢/kWh、送電線使用料金単価1.5¢/kWh)でFIRRの値は19%程度となる。
一方、各国メリットを1.0¢の場合は、2015年と同様に、FIRRの値は小さい。したがっ て、系統規模の拡大によって融通電力量が増加すると、各国メリットや連系送電線使用料 金単価の設定次第では、一般的に要求される収益基準と遜色のない高収益性が期待できる。
表3-56 2020年における財務分析結果(FIRR)
期間 25年 20年 15年
各国メリット 連系送電線 使用料金単価
0.5
¢/kWh
1.0 ¢/kWh
0.5
¢/kWh
1.0 ¢/kWh
0.5
¢/kWh
1.0 ¢/kWh
0.5 -5.11% – -7.64% – – –
1.0 11.58% 3.26% 10.93% 1.86% 9.49% -0.74%
1.5 19.42% 2.30% 19.14% 0.79% 18.36% -1.99%
2.0 18.16% 7.01% 17.83% 6.01% 16.97% 3.99%
Case 2
2.5 13.12% 10.18% 12.56% 9.43% 11.28% 7.84%
0.5 -1.26% – -3.23% – -6.69% –
1.0 9.39% 2.75% 8.58% 1.30% 6.88% -1.40%
1.5 15.51% 0.28% 15.08% -1.48% 14.02% -4.63%
2.0 13.62% 3.71% 13.09% 2.37% 11.86% -0.17%
Case 5
2.5 8.11% 6.02% 7.20% 4.92% 5.33% 2.76%
0.5 – – – – – –
1.0 -0.41% -9.00% -2.27% -12.14% -5.56% -17.28%
1.5 5.19% -10.95% 4.01% -14.41% 1.71% -19.98%
2.0 4.09% -4.82% 2.78% -7.30% 0.31% -11.51%
Case 7
2.5 0.51% -1.83% -1.22% -3.88% -4.33% -7.45%
0.5 – – – – – –
1.0 2.01% -5.03% 0.47% -7.55% -2.36% -11.80%
1.5 8.46% -6.44% 7.57% -9.17% 5.76% -13.73%
2.0 7.91% -1.42% 6.98% -3.41% 5.09% -6.90%
Case 10
2.5 3.97% 1.53% 2.66% -0.07% 0.17% -2.99%