第 3 章 インドシナ地域における国際連系送電線プラン
3.1 調査検討手法
3.1.1 供給信頼度面からの検討手法
(1)供給信頼度の定義と供給信頼度に影響を与える要因
電力系統における供給信頼度は、一般的には、供給支障を起こすことなく電力を供給する 能力と定義される。供給信頼度のレベルは需要と供給力の量的な関係に左右されるが、同じ 需要と供給力の関係にある電力系統であっても、以下の 6 つの要因に違いがあれば、異な った供給信頼度となる。
1)需要の形状(特にピーク時間帯の長さ)
2)需要の想定誤差 3)設備の事故停止率
4)単機容量と系統規模の関係 5)出水変動確率と一般水力構成比率 6)他系統との連系
これらの要因のうち、供給信頼度を悪化させるものとしては、需要の予測外の急増や発電 設備の事故による供給力の減少が考えられる。系統規模に比べて大きな単機容量を持つ系統 では、単一の事故で大幅な供給力の減少となる。また、水力の構成比率が大きければ、渇水 による水力供給力の減少も懸念される。ただし、これらの事象がオフピーク時間帯に発生し た場合には大きな問題とはならない。また、例えピーク時間帯に発生したとしても、他系統 と連系していれば、応援融通が期待でき、供給信頼度の悪化を回避することが可能となる。
(2)供給信頼度の指標
供給信頼度レベルを測る指標としては、LOLE(Loss-of-Load Expectation)、LOLP
(Loss-of-Load Probability)、供給予備率、EUE(Expected Undelivered Energy)などが 使用されている。本調査では、世界的に広く使用されているLOLEおよび供給予備率を使 用する。LOLEの特徴は、以下のとおりである。
・世界的に広く使用されているために、他の系統と比較検討が容易
・供給支障発生時間を直接の指標としているので、具体的な信頼度レベルの把握が容易
・計算データ数が多く、計算が複雑
一方、供給予備率は供給予備力(供給力合計−最大需要)を最大需要で除したもので、以 下のような特徴がある。
・容易に計算することが可能
・供給支障の頻度は示さないので、具体的な信頼度レベルの把握が不可能
LOLEと供給予備率は上記のように特徴が異なるが、双方とも非常に優れた指標であり、
あらかじめLOLEと供給予備率の関係を把握しておけば、供給予備率を、具体的な供給支 障発生時間をイメージできる簡易的な供給信頼度指標として使用することが可能となる。
(3)供給信頼度レベル(LOLE)と供給予備率の関係
LOLEは、供給支障発生時間の期待値として定義される。
LOLE = Σ ( P i × H i )
ここでP i は、発電設備の事故や水力設備の出水変動など、供給力側変動の確率分布と、
需要側変動の確率分布を合成した総合変動確率分布上のある点で、ある変動量における確率 を表す。一方H i は、その変動量となるときに発生する供給支障時間を表す(図3-1)。
供給予備力の値を逐次変化させて計算することにより、その系統単独時における供給予備 率とLOLEの関係が求まる(図3-2)。また、系統連系時の検討も同様の方法により計算す る。総合変動確率分布上でP iの確率となる変動量(需要に対する不足量)が発生したとき に他系統からの応援融通があれば、その分不足量が減少するため、結果として供給支障時間 H i が減少し、同じ予備力を保有していてもLOLE値が減少することとなる。
図3-1 LOLEの算出 図3-2 LOLEと供給予備率
(4)使用ツール
供給信頼度検討には、平成12年度JETROアジア経済研究所の委託事業として、東京電 力㈱によりEGATをカウンターパートとして実施した「メコン河流域諸国・地域での最適 電力連系設備整備共同研究」で、関係 6 カ国の系統連系計画に対する供給信頼度検討に使 用した実績を持つ、「RETICS」(連系系統の信頼度評価ツール)を使用した。
(5)「RETICS」 を使用した系統間連系の供給信頼度向上効果算定手法
当然のことながら供給信頼度レベルを向上させれば、それだけ供給支障が発生する確率が 低くなるが、そのためには多くの設備量が必要となり、全体の経費が高くなる。つまり、供 給支障の発生量を抑制することと、設備形成に必要な経費を抑制することは、全く相反する 命題である。この二つの命題を両立させる一つの案として、系統間を相互に連系する方策が 考えられる。
すなわち、他の系統との間に連系線を建設し、供給予備力の共有化を図れば、比較的少な LOLE
20hrs
10% 供給予備率 Pi
Hi 8760hrs
供給予備力
需要形状 総合変動
確率分布 0
(MW)
い投資で両方の系統の供給信頼度レベルを向上させることが可能であり、経済性の面も考慮 に入れると非常に有効な手段となる。
このような用途に対応して開発されたのが、「RETICS」(連系系統信頼度評価ツール)で ある。「RETICS」を使用すれば、供給信頼度レベルと供給予備率の関係を把握・換算はも とより、連系系統において、系統間連系の経済的効果を定量的に評価可能である。具体的な 手法は以下のとおり。
・各系統の総合変動確率分布に乱数を当てはめ、各系統の需給状況を模擬する。その状況に おいて、電力不足を極力解消するように、連系線を活用した電力融通を実施した後、それ でも電力不足が解消しない系統について、不足する時間(LOLE)を累計する。
・指定した計算回数分、同様の計算を実施し、最後に不足時間の累計値を計算回数で除して 年間LOLE値を求める。
・各系統の供給予備力を微小変化させながら、各系統の年間LOLE値が目標値に達するま で収束計算を行う。
・連系線を変化させたいくつかのケース(モデルケース)において、各系統の供給信頼度(年 間 LOLE値)が目標値となる供給予備力を算定することにより、連系線による供給信頼 度向上効果を必要供給予備力の減少という形で表現し、金銭換算が可能となる。
3.1.2 燃料費面からの検討手法
(1)発電原価を用いたスクリーニング
各電源の経済性を端的に比較するには、発電原価(kWh当たりの単価)を比較してみる ことが最も簡便であり、電源構成検討初期段階としては極めて有効である。発電設備の年間 総費用は、建設費のように発電量に関わらず一定にかかる固定費分と、燃料費のように発電 量により増減する可変費分とに分けられる。発電原価は、この年間総費用を年間発生電力量 で除したものであり、年間発生電力量(設備利用率)によって固定費分は大きく変化するが、
可変費分は基本的には変化しない。
上式からも分かる通り固定費が高くても可変費が安いものは、利用率が高い運転、いわゆ るベース用としては経済的である。一方、可変費が高くても、固定費の安いものは、利用率 が低い運転、すなわちピーク用としては相対的に経済性があるといえる。
このため、発電原価を使用すれば、各種電源設備の経済的な運用形態をおおまかに把握す ることが可能であり、需要形状に合わせて、各種電源設備を最適な利用率で運用できるよう 電源を組み合わせることで、最経済的な電源構成の枠組みを掴むことができる。また、域内 各国の発電原価を比較すれば、各国間の発電原価の差を活用した経済融通の可能性をおおま かに把握することも可能である。
建設単価×年経費率 設備利用率×8760(時間)
燃料単価($/kcal)×860(kcal/kWh) 熱効率
発電原価= +
固定費 可変費(燃料費)
(2)需給運用計算による詳細検討
与えられた設備構成ならびに負荷形状の下で、概略的に最経済的な電源運用を模擬するに は、燃料費の安いものから順に高い利用率になるように、負荷持続曲線にあてはめればよい。
ただし、水力発電設備については、自然流量の制限、貯水池容量による調整能力の制約、ま た灌漑用、洪水調整用など発電以外の用途との調整も考慮する必要がある。また、火力発電 設備についても、深夜停止の有無や最低出力の制限などの配慮も必要である。
本検討では、時間単位の日負荷曲線を用いて、様々な運用上の制約条件をチェックする需 給運用検討を行い、最経済的な電源運用を模擬して燃料費を算出する。
(3)使用ツール
需 給 運 用 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン に は 、 東 京 電 力 ㈱ の 計 画 部 門 で 実 務 に 使 用 し て い る 、
「PDPAT」(電源計画策定支援ツール)を使用した。これは東京電力㈱にて、20 年以上の 適用実績がある。
「PDPAT」は、設備量と需要形状を所与のデータとして、供給信頼度レベル、各発電設 備の利用率、燃料使用量、年間経費(固定費+燃料費)などを算定するツールである。発電 設備の運用は、揚水式水力も含め、最経済的な運用が模擬できるようになっており、各系統 個別の経済的な電源計画を策定するツールとしても使用可能である。
(4)「PDPAT」を使用した系統間連系の年経費削減効果算定手法 今回の検討手法は以下のとおりである。
・各系統について、他系統との連系がない状態で、供給信頼度レベルが目標値を満足する ような設備量を求め、その設備で各系統単独での需給運用をシミュレートし、年間経費
(固定費+燃料費)を計算する。
・次に、他系統との連系がある状態で、供給信頼度レベルが目標値を満足するように設備 量を修正し、その設備で系統間の融通も考慮して需給運用をシミュレートし、年間経費 を計算する。その際にどの程度発電設備量を減少すればよいかは、「RETICS」で求め た削減量を使用する。
・系統間の融通については、まず、自系統の供給力のみでは需要を満足できない場合には、
供給余力のある系統から連系容量の範囲内で応援融通を実施する。次に、各系統の燃料 費を相互に比較し、連系送電線の使用コストも含めて融通を実施した方が経済的と判断 すれば、経済融通を実施する。その際、送電側、受電側双方に融通のメリットが生じる。
・連系送電線がない場合とある場合の経費を比較することにより、系統間連系による年経 費削減効果を算定する。
(5)具体的な年経費比較法
全く白紙の状態から電源構成を構築するのであれば、スクリーニングによる理想的な電源 構成を組むことができる。しかしながら、実際はこれまでに建設した既設電源構成は所与の 条件であり、過去に遡って変更することはできない。また、今後開発が可能な地点について も、開発可能年度や燃料種別などがある程度限られている。したがって、電源設備計画にお ける経済性検討においては、与えられた条件の中から建設対象である電源設備と連系送電線