第 2 章 電力セクターの現状と将来計画
2.2 電力セクターの現状と将来計画
2.2.3 タイ
(1)電気事業の組織形態
タイにおける現在の電力事業体制は、EGAT がタイ全土の発送電の大部分を担当し、他 にEGCOなどのIPP(2000年にタイ初のIPPが運転を開始)、小規模発電事業者(Small Power Producer: SPP)が発電事業を行っている。配電については、首都圏配電公社
(Metropolitan Electricity Authority: MEA)がバンコクおよび周辺の2県を、地方配電公 社(Provincial Electricity Authority: PEA)が MEA以外の地域を担当している。
1992年12月に電力部門の民営化計画が策定され、1996年までに電力3社を完全民営化 することとしたが、90 年代はあまり進展していない。2000年 3月に国家エネルギー政策 局(National Energy Policy Office: NEPO)により、「タイにおける電力プールと電気事業 再編〜第一段階〜」が発表され、現在は2003年のプール制導入に向けて再編(電力公社の 分割・民営化、諸制度の整備)を進めている。
(2)電力需要想定とその課題
需要想定は、関係機関(国家統計局、工業連盟、EGAT、MEA、PEAなど)の代表者お
27 ディーゼル発電や太陽光発電などの独立系統による地方電化も含む。
よび議長(NEPO)からなる需要想定委員会(Thailand Load Forecast Subcommittee:
TLFS)にて作成される。アジア通貨危機後のタイ国内の年間需要電力量は1998年、1999
年と減少傾向を示していたが、2000年実績では7%増と復調の兆しを見せており、今後も6
〜7%程度で推移していくと想定されている(図2-13 参照)。また、タイにおける2000 年 の最大電力発生日(4月5日)の日負荷曲線を図2-14に示す。
出所:EGATからの入手データより作成 0
50,000 100,000 150,000 200,000 250,000 300,000
1988 1993 1998 2003 2008 2013 年
最大電力(MW)
0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 30,000 35,000 40,000 45,000
発電電力量(GWh)
発電電力量(GWh) 最大電力(MW)
図2-13 電力需要想定(タイ)
出所:EGATからの入手データより作成 0
2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000 16000
0 6 12 18
時刻
負荷(MW)
図2-14 日負荷曲線(タイ)
需要想定手法の内、長期想定については GDP や家庭用電力などのパラメータについて、
End User Methodを用いて成長率の回帰分析を行い、電力量(GWh)を想定している。ま
た、最大電力(MW)は、想定した電力量を負荷率で割り戻すことによって算定している。
その負荷率の基準となる負荷曲線は、PEA とMEAにより、産業用・家庭用などのセクタ 年間電力量:98,636GWh
年負荷率 :75.3%
ー別に分けて検討されている28。
短期想定は、過去 3 年間の需要履歴データ、気象データ(気温予想)による補正を加味 して、需要想定用のソフトウェアにより想定している。通常は、最も気温の上昇する4月に 最大需要が発生し、エアコン需要などの気温に影響される需要は、気温1度当たり200MW 程度変動する。
上記想定手法については特に問題はないと思われるが、今後は需要想定時における誤差の 程度を把握し、需要の不確実性に対するリスクマネージメントを強化する必要がある。特に 今後の冷房需要の増大に伴い、気温 1 度当たりの感応度が増大し、需要のふれ幅が大きく なることに対する考慮が必要である。
タイについては、想定手法および想定結果について、特段指摘すべき事項はないものと思 われることから、提出された需要想定をそのまま検討に使用した。ただし、2017年以降の 想定が現段階では行われていないことから、2017年から 2020 年までの電力量の想定につ いては、直前の5ヶ年のトレンドにて2020年までを想定した。一方、最大電力の想定につ いては、想定した電力量に基づき、2016年の想定負荷率を用いて、最大電力を算出した。
タイの検討に使用した需要想定を図2-15、16に示す。
最大電力(MW):2010年、2015年の想定値で2000年の1.9倍、2.6倍 2000年〜2020年の年平均伸び率6.1%
電力量 (GWh):2010年、2015年の想定値で2000年の1.9倍、2.5倍 2000年〜2020年の年平均伸び率6.0%
負荷率 (%):2010年 73%、2015年 73%
0 10000 20000 30000 40000 50000 60000
2000 2005 2010 2015 2020 YEAR
最大電力(MW)
0 50000 100000 150000 200000 250000 300000 350000
2000 2005 2010 2015 2020 YEAR
電力量(GWh)
図2-15 タイの需要想定(MW) 図2-16 タイの需要想定(GWh)
28 NEPOとのインタビューより。
(3)発電設備 1)現状29
現在 EGATの電力系統に連系されている総発電設備容量は22,269.0MWであり、76.5%
がEGAT、残り23.5%がEGAT以外からの買電となっている。発電設備の概要を表2-5に
示す。
表2-5 タイ発電設備
EGATの発電設備 設備容量(MW)
汽力 7,962.5
コンバインドサイクル 5,534.6
水力 2,880.0
ガスタービン 656.0
ディーゼル 6.0
再生エネルギー 0.5
小計 17,039.6
EGATの電力購入先発電設備
EGCO REGCO: Rayong Electricity Generating Co., Ltd. 1,232.0 KEGCO: Khanom Electricity Generating Co., Ltd. 824.0
IPT: Independent Power(Thailand)Co., Ltd. 700.0
TECO: Tri Energy Co., Ltd. 700.0
SPPs: Small Power Producers 1,433.4
DEDP: Department of Energy Devfelopment and Promotion 0.0
ラオス Theun-Hinboun 214.0
Houay Ho 126.0
小計 5,229.4
合計 22,269.00
出所:EGAT Annual Report 2000, 2000, EGAT
2)電源開発政策30
供給信頼度基準はLOLP(Loss-of-Load Probability)で24h/年、供給予備率で25%を満 たすように電源計画が策定される。発電燃料種別の利用目標値は特に決まっていないが、現 時点における燃料別比率としては、天然ガスが 70%を占めているのが特徴的である。これ
は、Take or Pay契約のために、一定量の天然ガスを購入する責任があるためである。他の
要因としては、石油価格が高騰しているということもある。
3)電源設備計画
2000年5月に改定された「Power Development Plan 99-02」では、穏やかな経済回復 シナリオ想定にあわせて電源開発計画が策定されている。2000年現在のタイの供給予備率
は27%であるが、経済が急成長すると仮定した場合でも、2001年運転開始の発電所がある
ため供給力が大きくなり、2001年の予備率は34%となる。これは現在設定している最低予
備率の25%を大きく上回る値であるため、今後は15〜24%の範囲に予備率が収まるように
電源開発計画を策定する予定である。
29 EGAT. 2000a.
30 NEPO、EGATとのインタビューより。
電力需給バランスとしては、穏やかな経済回復シナリオでは、2011年までは供給過多の 状態であり、新規電源開発については一層の縮小が進められるものと考えられる。そのよう な条件の下、発電設備容量は、図2-17の示すように推移するものと想定している。
0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 30,000 35,000 40,000 45,000
1986 1991 1996 2001 2006 2011 年
発電設備容量(MW)
水力 火力(石油、ガス、褐炭)
コンバインドサイクル ガスタービン・ディーゼル その他買電
出所:Power Development Plan 99-02, May 2000, EGAT
図2-17 発電設備容量の推移(タイ)
(4)国際連系31 1)考え方
国際連系系統をどのように運営していくかについては、EGAT が計画し、サービス基準 を維持するのは供給会社であるMEAとPEAの役割となる。外国との契約などについても 契約自体はEGATが行うが、NEPOによって契約内容がサービス規準に反しないかどうか 管理される。
国際連系によって他国から電力を輸入する場合においても、基本的には最も重要なことは、
消費者へのインパクトを最小限にすることであり、経済性はその次であるとしている。なお、
輸入電力量の制限・規則などは特に定められていないが、1カ国からの場合 13%、2 カ国 からの場合26%、3カ国からの場合33%を目安にしている。
2)現状
ラオスからタイへの売電専用IPPである2水力発電所から340MWとヴィエンチャン系 統の余剰電力(供給量に関しての取り決めなし)を輸入しており、この一方でEGATから ラオスの中央‐2 系統へ、PEAからBokeo、Xaignabouly、Khammuaneに電力を輸出し ている。
マレーシアとは、緊急時の電力融通を目的とした電圧 132/115kVの送電線で連系されて おり、マレーシア電力公社(Tenaga National Berhad: TNB)からEGATに最大80MW、
EGATからTNBに最大50MWまで電力融通が可能となっている。現在、マレーシアとの
31 NEPO、EGATとのインタビューより。
連系を強化するために、高電圧直流送電線32を建設している。これが完成すると300MWの 電力融通が可能となる。
3)今後の予定
政府間で電力輸入に関する以下のMOUが結ばれている。
ラオス : 2008年までに3,000MW(Nam Theun2など)
ミャンマー : 2010年までに1,500MW
中国雲南省 : 2017年までに3,000MW(景洪など)
このうち、中国からの電力融通用500kV送電線プロジェクトについては、ラオス国内の 送電線建設について、どのように実施するかタイ、ラオス、中国間で協議中である。
(5)送変電設備
基幹系統は、バンコク周辺の火力発電所と変電所を結ぶ230kV外輪線、タイ北西部のメ モ火力発電所と首都圏を結ぶ500kV送電線、ブミモン・シリキット・シーナカリン・カオ レム(タイ西部)の4大水力発電所と首都圏を結ぶ230kV送電線である。
この基幹系統以外に、東北タイに散在する水力発電所を結ぶ110kV送電線、中部タイと 南部タイを結ぶ115kV送電線(ラオスのヴィエンチャン系統および2カ所のIPPとも接続)
などで構成されている。なお、電力供給の安全性についてはN−1基準(1回線が駄目にな っても電気が供給できる体制)で考えている。参考までに、タイの発・送・配電合計ロス率 を図2-18に示す。低減傾向を示している。
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20
1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 年
ロス率(%)
出所:Power Development Plan 99-02, May 2000, EGAT
図2-18 発送配電ロス率の推移(タイ)
32 HVDC 300MW、亘長120km、2001年10月運開予定。
(6)設備運用33
EGAT の電圧の管理基準値は、常時で定格+5%、−2%、非常時で定格±8%である。周 波数については、定格(50Hz)±0.1Hzである。水力発電はピーク対応で運用しているが、
周波数の制御のためにも運用している。
翌日の発電計画は、前日(12:00)にEGATおよび IPPの各発電所から発電可能量の連 絡を受け中央給電指令所で作成(16:00)している。発電設備運用におけるプライオリティ は、①環境汚染防止、②安全性(予備率の確保)、③信頼度(系統電圧および周波数の維持)、
④経済性(最小コストによる発電)が基本となっている。
(7)国内電化率
国内電化に関しては、村などの集落単位では、ほぼ100%の電化率となっている。家屋単 位の電化率に関しては、図2-19に示す。
0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 80.0 90.0 100.0
1987 1992 1997
年 電化率(%)
出所:Power Development Plan 99-02, May 2000, EGAT
図2-19 家屋電化率(タイ)