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調査の方法

ドキュメント内 老障介護家庭 (ページ 97-104)

第4章 実証的調査の方法

第2節 調査の方法

第1項 調査方法の選択

本調査では調査目的に照らし合わせ、質的調査法のうち帰納的アプローチを採 用した。

帰納的アプローチを用いた質的調査法は、新たな現象の発見や実証的データに 基づく新たな理論の生成を目的とし、人々が生きる自然な日常の文脈のなかで行 われていくものである(Flick=2011:14-19)。また、人々の連続的に積み重ねら れていく日々の生活を、さまざまな側面から包括的に把握し、理解しようとする 立場をとる調査法ともいわれている(Peter=2002:35)。

本調査は、老障介護家庭で生活している知的障害者が、「自宅で生活している状 態」から「グループホームで生活する状態」へと至るまでの、老親と知的障害の ある子どもそれぞれの「老障介護家庭における知的障害者の自立」をめぐる行動 や認識、それらに作用した諸要因の時間的変容を可視化しようと試みるものであ る。よって、帰納的アプローチを用いた質的調査法の選択は妥当であると考えた。

第2項 調査対象者の選定

(1)老親(母親)の選定

第1調査で調査対象となる老親の選定にあたっては、①60 歳を過ぎてから ② 知的障害と診断された子どもを、 ③自宅からグループホームに送り出した ④ 母親の4点を選定条件にした。

X都市で障害者総合支援法に基づいて運営している障害福祉サービス事業所の 管理者と、X都市の手をつなぐ親の会の各支部代表に調査の趣旨を説明し、選定 条件に該当する母親の紹介を依頼した。その後、紹介を受けた母親8人に調査の 趣旨を説明し、そのうち6人から調査協力の了解が得られた。また、調査協力の 了解が得られた母親にも別の母親の紹介を依頼し、雪だるま式に新たに5人の調 査協力が得られた。結果、調査対象者は計 11 人になった。このうち、第2調査で 調査協力が得られた子どもと親子関係にある母親は6人であった。

当初、「知的障害と診断された子どもを、65 歳を過ぎてから自宅からグループ ホームに送り出した母親」に設定し、母親の紹介を依頼した。しかし、紹介元の 障害福祉サービス事業所と手をつなぐ親の会より、認知症を患い調査協力が難し い母親やすでに亡くなっている母親が多いため、選定条件に見合う母親の紹介は 困難との返答が寄せられた。そのため、老親の年齢を5歳引き下げ、「60 歳を過 ぎてから子どもをグループホームに送り出した母親」に再設定し、調査協力者の 紹介を依頼した。

母親を選定した理由

本調査で老親のうち、父親ではなく母親を選定条件とした一つ目の理由は、知 的障害のある子どもの母親は、「母親のジェンダーにより、ケアの第一義的責任を 負わされている」(中根 2006:89)という点に着目したためである。

土屋(2003:124-125)によれば、障害のある子どもの有無にかかわらず、典型 的な性別役割分業からみた父親の役割は、家族のための経済的な支援や非日常的 なレジャー的ケア、子どもの母親を評価し感謝することであるという。また、中 根(2008)は、障害のある子どもを持つ父親は、「障害をもつ子どもの父親として 子どもに関わりたいという願いを持ちつつも」、父親にとって「定年退職前に、『職 業人』としての自らを否定することは『男性性』を大きく揺らがす」(中根 2008:

134)ことになるといい、その価値観の転換には困難を伴うといわれている。対し て、障害のある子どもを持つ母親は、子どもに障害があると診断された瞬間から

「訓練を施す母親」となり、社会からの直接的な要請はなくとも、障害のある子 どもを産んだという罪悪感から「介助する母親」という役割を当然のこととして 引き受けるようになるという(土屋 2002:175-176)。

二つ目の理由は、これら障害者家族を対象にした土屋(2002)と中根(2006)

の研究では、母親に比べて父親の調査協力を得ることの難しさが指摘されている。

この状況は先行研究に限ったことではなく、本調査でも同様であったためである。

本調査では、調査協力者の紹介を正式に依頼する前に、複数の障害福祉サービス 事業所の管理者と手をつなぐ親の会の代表者と打ち合わせ、助言を得た。そのと きの内容から紹介できる老親の多くは母親であること、また、子どもの主たる介 護者も大半は母親であることが見込まれた。

実際、本調査で調査対象になった子ども8人が自宅で生活していたときの主た る介護者は、全員が母親であった。また、既述したように、東京都(2014)が行っ た調査でも主たる介護者のうち父親が占める割合は 9.0%であるのに対し、母親は 73.1%と圧倒的に多い。こうした今日の知的障害者家族の実情を反映していくた めにも、老親のうち母親に焦点をあてたソーシャルワーク実践の示唆を得ること に研究上の意義があると考えた。

したがって、本調査では老親のうち母親の語りに限って収集し、その経験を分 析することにした。

(2)知的障害のある子どもの選定

第2調査で調査対象となる子どもの選定にあたっては、①母親の年齢が 60 歳を 過ぎてから ②自宅からグループホームに移行した経験を持つ ③知的障害者で、

④質問項目に対する回答が十分可能であることの4点を選定条件にした。除外条 件は、「現在のグループホームに入居する前に、別の居住施設で長期に渡る入所経 験を持つ知的障害者」とした。

X都市で障害者総合支援法に基づいて運営している障害福祉サービス事業所の 管理者と、X都市の手をつなぐ親の会の各支部代表に調査の趣旨を説明し、選定 条件に該当する子どもの紹介を依頼した。その際、障害福祉サービス事業所と手 をつなぐ親の会に配布した研究の趣旨や質問内容を、該当者にわかりやすく口頭 で伝えてもらい、調査への参加・不参加の意思を子ども自らの判断でできるよう 重ねて依頼した。その後、紹介を受けた子どもが指定した場所に出向き、改めて 調査の趣旨をわかりやすく説明するとともに、質問項目への回答が十分可能であ るかを確認した。紹介を受けた子ども全員に調査協力を依頼し、8人全員から調 査協力の了解が得られた。そのうち、第1調査で調査協力の得られた母親と親子 関係にあった子どもは6人であった。

当初、「母親の年齢が 65 歳を過ぎてから、自宅からグループホームに移行した 経験を持つ知的障害者」に設定し子どもの紹介を依頼した。しかし、4つの選定 条件のうち①から③までの条件に該当しても、調査に協力できるだけの言語理解 は乏しく、言語表出も不明瞭であるため、すべての条件に見合う子どもの紹介は 困難との返答が寄せられた。そのため、母親の年齢を5歳引き下げ、「母親の年齢

を 60 歳以上」に再設定し、調査対象者の紹介を依頼することにした。

(3)調査対象者の基本属性

表4-1は調査協力の得られた母親と子どもの基本属性をまとめて示したもの である。「年齢」のグレー色付きの「母親」と「子ども」が調査対象者である。親 子関係にあった調査対象者は、A母とa子、C母とc子、D母とd子、E母とe 子、G母とg子、I母とi子の6組であった。

調査対象にはならなかった子ども5人も含め、表4-1に示した子ども 13 人の 性別は、男性が8人で女性が5人であった。また、子どもの居住地は市区町村単 位で6自治体にまたがり、グループホーム数でみると7法人が運営する9施設で あった。ただし、調査対象者個人の特定化を防ぐため、性別や居住地、法人名、

グループホーム名の個別的な記載はしていない。

なお、母親は「アルファベット大文字と『母』」、子どもは「アルファベット 小文字と『子』」で表している。

表4-1 調査協力者(母親と子ども)の基本属性(1) 年齢(2) GHでの 生活年数

子どもの障害の状況 家族構成(3) 母親子ども療育手帳支援区分子どもの主な診断名 A母70代後半a子40代前半5年33知的障害父 母 (兄) (兄) 子 B母70代前半b子30代前半3年25知的障害・てんかん(父) 母 子 C母70代前半c子40代前半3年34知的障害・自閉症父 母 (姉) 子 D母70代前半d子40代前半10年24知的障害父 母 子 (弟) E母60代後半e子30代後半2年25知的障害・身体障害父 母 (姉) 子 F母60代後半f子30代前半2年25知的障害・てんかん父 母 (姉) 子 G母60代後半g子30代後半4年34知的障害・ダウン症父 母 (兄) 子 H母60代後半h子30代後半7年25知的障害・ダウン症父 母 子 妹 I母60代後半i子20代後半2年33知的障害・ダウン症父 母 (兄) 子 (妹) J母60代後半j子40代前半6年25知的障害・自閉症父 母 子 K母60代後半k子30代後半4年24知的障害・ダウン症祖母 父 母 (姉) 子 (弟) L母80代前半l子50代前半8年33知的障害・自閉症(父) 母 子 M母70代前半m子40代後半2年33知的障害(父) 母 (兄) 子 (1)調査対象者個人の特定を防ぐため、個別的な性別や居住地の記載を避けるとともに、内容に影響を与えない範囲でデータを改変した。 なお、子どもの性別は男性8人、女性5人であった。また、「GH」は「グループホーム」の略である。 (2)グレーの色つきは、実際にインタビューを行った調査対象者である。

第3項 データの収集

(1)老親(母親)のデータの収集

第1調査では母親 11 人を対象に、半構造化面接によるインタビューを通して データを収集した。主な質問内容は、母親や子ども、家族構成などに関する基本 属性のほか、子どもが自宅からグループホームに移り、現在に至るまでの母親の 経験、その時々の母親に影響を与えた人物や出来事、将来の見通しとした。

面接の実施にあたって、事前に調査の趣旨と質問項目を記載した書類を母親に 配布した。1回目の面接は 2016 年3月から5月にかけて、母親が指定する場所で 個別に行った。面接に要した時間は 90 分から 150 分程度であった。いずれも母 親の承諾を得て、IC レコーダーで録音とメモで記録した。初回面接で得られたデー タのうち、追加して詳細な聞き取りが必要になった4人には、電話による追加の 聞き取り調査を行った。

なお、子どもが第2調査に加わった母親でも、母親と子どものインタビューは 別個に行った。

(2)子どものデータの収集

第 2 調査では子ども8人を対象に、半構造化面接によるインタビューを通して データを収集した。主な質問内容は、子どもと主たる介護者、家族構成などの基 本属性のほか、自宅からグループホームに移り、現在に至るまでの経験、その時々 に影響を受けた人物や出来事、将来の見通しとした。ただし、子どもの障害名、

移行当時の親の年齢と家族構成のうち不明瞭な部分があった3人については、母 親や支援者への聞き取り、ケース台帳を用いて補った。

面接の実施にあたって、事前に調査の趣旨と質問項目を記載した書類を子ども に配布した。この質問項目を記載した書類を作成するときには、Department of Health(2010b)を参考にし、使用する文字を大きくし、単語と単語の間には空白 を挿入するなどして、調査対象者が理解しやすく読みやすい記述になるよう心掛 けた。さらに、調査対象者にインタビューをするときにも、ゆっくりと明瞭に話 し、聞き取りやすさや理解のしやすさに配慮した。

また、子どもが希望する場合には、インタビュー中に一切の発言をしないこと を条件に支援者1人までの同席を可能としたところ、3人の子どもが希望した。

ドキュメント内 老障介護家庭 (ページ 97-104)