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「知的障害者の自立」の定義

ドキュメント内 老障介護家庭 (ページ 44-57)

第2章 知的障害者と自立

第3節 「知的障害者の自立」の定義

第1項 社会福祉から捉える「自立」

一般的に「自立」とは、「ほかの援助や支配を受けず、自分の力で判断したり身 を立てたりすること」「ひとりだち」(新村ら 2018)と解されている。だが、古川

(2007)は、「自分の力で身がなっている状態」、すなわち、「自助的自立」が維持 できる期間は青壮年期の一部であると述べ、「人々の生活は、潜在的また顕在的に、

多様な場面と程度において他者や社会制度への依存を不可避とする状態にある」

(古川 2007:286)という理解のもと、「依存的自立」によって人々の生活は成り 立っていると説いている。また、古川は、社会福祉で用いられている「自立」の うち、身辺的自立、心理的自立、社会関係的自立、経済的自立という4つの自立 を「道具的自立」、そして、人格的自立を「目的的自立」にまとめ、道具的自立に よって目的的自立の実現と維持ができるものだと、それらの関係性についても説 明している。

「自立」という用語に触れている社会福祉関連法には、生活保護法や児童福祉 法、障害者基本法、介護保険法など多くある。たとえば、生活保護法第1条には、

「日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国 民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保 障するとともに、その自立を助長することを目的とする」と明記されている。こ こでいう「自立」とは、小山(1975)によれば、「公私の扶助を受けず自分の力で 社会生活に適応した生活を営むこと」(小山 1975:94)と解される。しかし、生 活保護法を含め、ほかの法律でも条項のなかから自立の定義を特定化することは できない。

行政による社会福祉から捉えた自立の解釈は、2004 年4月 20 日に厚生労働省 で行われた第9回社会保障審議会福祉部会で配布された『社会福祉事業及び社会 福祉法人について(参考資料)』に提示されている。この資料によれば、「自立」

とは、広義には「他の援助を受けずに自分の力で身を立てること」、福祉分野で狭 義に用いる場合には、「人権意識の高まりやノーマライゼーションの思想の普及を 背景として、『自己決定に基づいて主体的な生活を営むこと』、『障害を持っていて

もその能力を活用して社会活動に参加すること』」としている。

また、2017 年8月 23 日に厚生労働省で行われた第 145 回社会保障審議会介護 給付費分科会で配布された『資料1 介護サービスの質の評価・自立支援に向け た事業者へのインセンティブ』とその参考資料には、「どういった観点に着目する かによって様々な捉え方が考え得る」と断りを入れたうえで、高齢者の自立に向 けたリハビリテーションには「心身機能・身体構造」「活動・参加」という ICF の 考え方が取り入れられていると記載されている。

このほかに、三宅(2017)の研究では、生活保護法による自立助長を受けてい る利用世帯側から捉えた自立の解釈を試みている。まず、三宅は先行研究の知見 をもとに、行政関係者や研究者の側からみた生活保護制度における自立の概念に ついて、「依存しない経済的自立」という「古い自立観」と「生活保護の利用=依 存」という「新しい自立観」の2つに分類している。対して、実際に生活保護制 度を利用する立場にいる有子世帯の養育者は、生活保護制度を利用することは望 ましくない状態だと捉え、「のぞましい」「目標」「理想」とされる「自立」とは「経 済的自立(保護廃止)」であると解釈していたことを明らかにしている。

第2項 障害者福祉から捉える「自立」

(1)政策からみる障害者の自立

1949 年に施行された身体障害者福祉法では当初、職業能力が損傷している身体 障害者の経済的自立を前提とする職業的自立を目指すものとされてきた。その後、

1984 年の身体障害者福祉法の改正とともに、厚生省社会局は「身体障害者福祉法 の一部を改正する法律の施行について」(昭和 59 年 9 月 28 日厚生省社第 786 号)

を通知し、「自立は社会全体の発展に寄与するという考え方であり、(中略)『更生』

も単に職業的、経済的自立を意味するものではなく、広く身体障害者の日常生活 の安定を含」んでいること、そして「社会経済活動」も「職業活動のみを意味す るものではなく日常生活及び社会生活を営むすべての活動をさす」と明文化され た。同日に厚生省社会局が通知した「身体障害者障害程度等級表について」(昭和 59 年 9 月 28 日社更第 127 号)でも、「『更生』とは必ずしも経済的、社会的、独 立を意味するものではなく、日常生活能力の回復をも含む広義的なものである」

とした。この見解は、2013 年に厚生労働省社会援護局障害保健福祉部から通知さ れた「身体障害者障害程度等級表の解説(身体障害認定基準)について」(平成 15 年1月 10 日障発第 0110001 号)に引き継がれている。

(2)先行研究からみる障害者の自立

障害者福祉の分野でも「自立」の定義は様々で、障害者の自立概念も多義的な 解釈が可能だといわれている(大村 2013;愼 2013)。

障害者の「自立概念は障害の種別や程度などを問わず、あらゆる障害者に適用 しうる内容」(定藤 1986:131)で抽出していくことの重要性を説いた定藤(1986)

は、地域福祉との関連の中で身体障害者の自立概念を素材にしながら、他の障害 種別にも当てはまる自立概念の普遍化を目指している。

これに対して愼(2013)は、「すべての障害者を対象とした『実現可能な自立』

の定義は困難」(愼 2013:26)であるといい、時代背景や対象者、障害種別など によって最終目標となる自立概念は異なると述べている。愼によれば、自立とい う用語が広く用いられるようになったのは 130 年以上も前のことである。当初、

自立は自活を表す「経済的自立」という意味で使用されていたが、「障害のあるも のを育てる過程や介護する中で(中略)『身辺自立』の問題が重要な課題」(愼 2013:

3)になっていったという。こうした2つの「伝統的な自立」に対する反発や批判 によって、「『自己決定できること』を『自立』と捉えようとする新たな自立論」

(愼 2013:3)など様々な概念も生まれたが、一方で、自立概念の解釈は曖昧に もなっていったという。たとえば、障害当事者や関係者が強調した「自立生活は 地域で」という概念は障害者権利条約では謳われていないと説いている(愼 2013:

176)。

この愼も述べているが、これまでの障害者の自立に関する定義の多くは、身体 障害者のなかでも、脳性マヒや脊髄損傷などの障害を持つ全身性障害者に焦点が あてられてきた。1980 年に厚生省社会局内で発足した脳性マヒ者等全身性障害者 問題研究会は 1982 年に、『脳性マヒ者等全身性障害者問題に関する報告』(脳性 マヒ者等全身性障害者問題研究会 1982)をまとめている。その報告書の中で、「自 立」を「自らの判断と決定により主体的に生き、その行動について自ら責任を負 うことである」と定めている。

仲村(1984)は、障害者の本当の自立とは、「生活保護や福祉サービスを受けな いでもすむようになること」ではなく、「たとえどんなに重度の障害者であっても、

彼、又は彼女が、地域において主体的に生きる全人的な人格者として自己実現を はかること」(仲村 1984:v)だと述べている。

また、中西ら(2003)によれば、1970 年代の米国で始まった障害者自立生活運 動は、国内でも脳性麻痺者の権利擁護運動を萌芽に 1970 年代から 1980 年代にか けて拡がっていく。この間に、たとえ障害を持っていたとしても、「必要な支援は 社会から得て、みずからの人生を非障害者が享受するのと同じように享受してい ける社会」(中西 2003:30)が目指されていったという。この障害者自立生活運 動では、当事者を客体として保護や世話の対象とする「介護」(care)ではなく、

当事者の主体性を尊重して行われる「介助」(personal assistance)が強調されたと いい、「どんな重度の障害をもっていても、介助などの支援を得たうえで、自己選 択、自己決定にもとづいて地域で生活すること」(中西ら 2003:29)が自立生活 の定義であったと述べている。

河野(1984)は、全身性障害者は社会的自立が可能でありながらも、「自立を営 むための諸条件から疎外されている人々」(河野 1984:4)であると述べている。

その河野によれば、全身性障害者の自立とは、「労働力としての社会復帰が期待で きない重度障害者が社会の一員として意義ある自己実現と社会参加を果たそうと する努力を社会的に位置づけようとするもの(中略)つまり、自らの判断と決定 により主体的に生き、その行動について自ら責任を負うこと」(河野 1984:48)

であると定めている。

田中(2009:22-23)の言葉を援用すれば、こうした自立の「理念的定義」とは 対照的に、「生活の場」による定義を行ったのは安積(1999)や立岩(1999)であ る。やはり両者も全身性障害者の自立に焦点をあて、安積は自立を、「日常的に介 助=手助けを必要とする障害者が『親の家庭や施設を出て、地域で生活すること』」

(安積 1999:1)とし、立岩は自立を、「生活を、基本に、施設においてではなく、

また家族や家族による雇用者によらず営む生活」(立岩 1999:58)と定義してい る。また、立岩は、「近年、経済的な自立という意味ではなく、自らの生活を自ら の意志で決定するという意味に用いられるようになった」(立岩 1999:58)と述 べ、障害者の自立のうち、職業・経済的自立と日常生活動作の自立は「義務とし

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