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知的障害者へのソーシャルワーク実践

ドキュメント内 老障介護家庭 (ページ 66-70)

第2章 知的障害者と自立

第5節 知的障害者へのソーシャルワーク実践

第1項 知的障害者個々に応じたソーシャルワーク実践

Schalock ら(=2002)によれば、知的障害者は多くの場合、学習面で大きな困 難を経験している、地域社会での日常的な活動への参加が難しい、権利侵害を受 けやすいといった特徴がみられるという(Schalock ら=2002:111)。また、たと え知的障害の程度が軽度であったとしても、教育や社会経済的状態、雇用、住宅、

健康、友達付き合いと社会的行動、家族の幸福、権利、社会的判断、不適切な社 会的反応と社会的判断、思考と学習上の困難といった様々な日常生活上の場面で 制約がみられ、それらによって社会的な課題にも直面する可能性があると説いて いる(Schalock ら=2002:157-167)。

また、Göransson ら(=2000)は知的障害者の全体像を捉えるために、知的障 害のある「ペーテル」というひとりの少年の身体、物理的環境、社会的環境、心 理、そして、相互作用のそれぞれの観点から、過去から現在に至るまでの状況に ついて説明している。それによれば、ペーテルは「知能の発達が『ゆっくり』し ていた」ため、知能が「他の子どもと同じところまで発達しなかったこと」(Göransson ら=2000:27)、物理的環境が広がらないということではないが、「他の人たちの ように自由にあちこちに行くことができ」(Göransson ら=2000:33)ないこと、

親密な関係が築ける他者は限定的であること(Göransson ら=2000:35-39)、読 み書きや数字の理解、計算、時刻の理解が苦手で、「思いがけないことが起きると、

どうしたらよいかわからなくなって」(Göransson ら=2000:44)しまうといった 姿が描かれている。さらに、Göransson ら(=2000)は、重度知的障害者や軽度 知的障害者の状態像についても触れ、日常生活を送る中で生じる制約の軽減に向 けた支援の必要性を提示している。

こうした知的障害者の状態像を捉えながら Schalock ら(=2002)は、「利用で きるすべての支援を必要とする人はいないであろう」と述べ、「人の支援ニーズ は量的(数量)にも質的(性質)にも異なる」ことから、「人々が必要とする支 援の種類を特定すべきである」(Schalock ら=2002:119)と指摘している。こ の場合、知的障害者本人の支援ニーズに基づいて、個人の夢や嗜好、興味に着眼

しながら、本人や本人にとって重要な人々と本人中心の支援計画を作成していく ことが必要であるという。また、本人が求める生活や目標などが具現化された度 合いを評価する必要もあるといい、こうした過程を経ながら知的障害者個々に応 じた社会参加に必要な支援内容や、提供される支援サービスの量が定まっていく と述べている。

また、髙山(2000)は、知的障害者を取り巻く様々な障壁(バリア)によって、

知的障害者が本来持っているはずの力が歪められ、抑え込まれてしまっている実 情を指摘している(髙山 2000:134)。髙山は、知的障害者が本来持っているそ の力を引き出し、本人が自らの生活を組み立てていかれるよう、ソーシャルワー カーには、知的障害者の主体性や自己決定の力を引き出す個別的な支援、また、

その力の獲得に向けたエンパワメントの視点が必要になると述べている(髙山 2000:

137)。

第2項 知的障害者が地域生活を送るためのソーシャルワーク実践

前項で整理したように、ソーシャルワーカーには、知的障害者の日常生活全般 を支えるために、知的障害者個々のニーズや障害程度、それに伴う支援の必要度 に応じたソーシャルワーク実践が求められている。さらに、知的障害者の地域生 活の選択肢が増え、知的障害者の地域生活を支えるソーシャルワーク実践の必要 性が先行研究で指摘されてきている。そのようなソーシャルワーク実践の一部は、

知的障害者の地域生活が端緒につき始めた 2000 年代初頭から、「障害者ケアマネ ジメント」という用語で説明されてきた。

2000 年以降の障害者福祉施策をめぐるひとつの流れとして、施設福祉から在宅 福祉への転換がある。これは、2002 年に策定された「新障害者基本計画及び重点 施策実施5か年計画(新障害者プラン)」で、「入所施設は、地域の実情を踏まえ て、真に必要なものに限定する」と、施設サービスの再構築と地域の基盤整備を 明確に打ち出したことによるものである。

すでに 2001 年には、厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長が「平成 13 年 度障害者ケアマネジメント体制整備推進事業の実施について」(平成 13 年 5 月 22 日 障発第 227 号)を通知し、現に地域で生活している、あるいは、これから地

域で生活しようとする障害者が適切なサービスを適切に利用できるよう、個々人 のケア計画を作成し、実施することを目的にした障害者ケアマネジメント体制が 整備されることになった。また、2003 年に廃止された措置制度に代わって導入さ れた支援費制度とも相まって、「利用者主体」という考えの具体化を目指した障害 者ケアマネジメントへの関心はさらに高まっていった。

石渡(2015)は、これまでの自身の経験を踏まえながら、障害者ケアマネジメ ントを①本人主体 ②地域生活支援 ③権利擁護の「3つの柱」に整理し、「障害 者の自己決定に基づき、それぞれの地域生活を総合的・継続的に支援し、結果と して権利擁護に繋がる実践である」と説明している。このうち、地域生活支援に ついて石渡(2001)は、知的障害者が「家族に依存している地域生活でしかない 実情」を踏まえ、エンパワメントの関連から検討している。そして、ケアマネジ メントの本質について、「いかに適切なニーズ把握(ニーズアセスメント)ができ るか」に加え、「ニーズに応えるために地域の社会資源を①活用できるか、②掘り 起こすことができるか、③つなぎ合わせることができるか、そして④無いものを 創り出すことができるか、が求められてくる」と説いている。なかでも、知的障 害者のケアマネジメントには、「関係機関が連携した『資源開発』の重要性」があ ると指摘している。

また、植戸(2011)は、知的障害者を対象にしたソーシャルワークで重要な位 置を占めるのは、自己決定や自己選択といった権利の尊重である述べている(植 戸 2011:137)。特定非営利法人日本ソーシャルワーカー協会(2005)が承認した 倫理綱領にも、「利用者の自己決定を尊重し、利用者がその権利を十分に理解し、

活用していけるように援助する」こととし、さらに、「意思決定能力の不十分な利 用者に対して、常に最善の方法を用いて利益と権利を擁護する」ことと明記され ている。ほかにも、木口(2014)は、これまでの先行研究を踏まえ、自己決定を 支える視点には、「権利」「地域生活」「関係性」「支援プロセス」という4つの視 点があると述べ(木口 2014:22-23)、これらは国連の障害者権利条約における「支 援を受けた意思決定」との関連があると指摘している。特に地域社会における自 立生活は障害者権利条約の趣旨からも重要であるといい、支援を受けた意思決定 は地域社会において行われることを前提としているものと説いている(木口 2014:

44-45)。

松岡ら(2011)は、これまで障害領域の共通のソーシャルワークの確立が具体 化されなかった要因として、一つ目に、「知的障害領域ではかつての施設収容中心 主義の時代においてはレジデンシャルワークやケアワーク的な要素を無視するこ と」(松岡ら 2011:5)はできない点を挙げている。そして、二つ目に「ケアワー ク的な要素は、在宅、地域生活が主流に位置付けられる今日においても、支援の 際に(中略)考慮しておく必要がある」(松岡ら 2011:5)点を挙げている。

しかし、その一方で、中野(2009)によれば、知的障害者福祉のねらいは「知 的障害のある人の『くらしの安定』を実現するために社会的方策として対応して いこう」とするもので、「生活という総合体をマネジメントしていく」ところに支 援行為そのものの特徴が見出せるという(中野 2009:208)。そして、2006 年に 施行された障害者自立支援法で図られた障害福祉サービスの三障害一元化によっ て対応しきれなくなった課題の克服を求めている。

本研究は知的障害者福祉の視点から、老障介護家庭における知的障害者の自立 をめぐる経験を把握し、そこから知的障害者の自立を促すソーシャルワーク実践 の示唆を得ていく。石渡(2000)は、知的障害者の自立に関し必要な視点には、

まず、親の役割を社会に委ね、自立的な経験を積むための知的障害者本人と親の 意識改革、そして、社会の役割として、知的障害者が親以外の生活を選択できる 保障の確立を強調している。これらは、知的障害者のもつ知的障害ゆえに生じる 生活課題であるといえ、中野(2009)の言葉を援用すれば「『知的障害』に起因す る『日常生活の支障性』(中野 2009:9)に、本研究は向き合っていく。とくに、

本研究では知的障害者の自立に焦点をあてた「日常生活の支障性」の解消に向け、

地域の中で知的障害者福祉に従事する様々な立場のソーシャルワーカーのソーシャ ルワーク実践への示唆を得ようとする研究である。

ドキュメント内 老障介護家庭 (ページ 66-70)