第1節 基本属性
インタビューを行ったときの子ども8人の平均年齢は 40.9 歳であった。調査時 点で子どもがグループホームに移行してから2年から 10 年が経過していた。自宅 からグループホームに移行したときの子どもの平均年齢は 36.4 歳であった。その ときの母親の平均年齢は 66.1 歳であった。
療育手帳の障害判定は、1度(最重度)はなし、2度(重度)が2人、3度(中 度)が5人、4度(軽度)が1人であった。障害支援区分では、非該当はなし、
区分1はなし、区分2が1人、区分3が3人、区分4が3人、区分5が1人、区 分6はなしであった。
また、子どもの知的障害以外の主な診断は、自閉症が2人、ダウン症候群が2 人、身体障害が1人であった。
ほかに子どもがグループホームに移行した当時の家族構成について整理した結 果を表6-1に示した。個人の特定化を防ぐために個別的な性別は記載していな いが、男性が4人で女性が4人であった。また、子ども8人の居住地は市区町村 単位で5自治体にまたがり、グループホーム数でみると7法人が運営する7施設 であった。これらの居住地や法人名、グループホーム名も調査対象者個人の特定 化に繋がる懸念から記載していない。
表6-1子どもの基本属性(1) 年齢GHでの 生活年数
子どもの障害の状況 家族構成(2) 子ども母親療育手帳支援区分主な診断名 a子40代前半70代後半5年33知的障害(父) 母 (兄) (兄) 子 c子40代前半70代前半3年34知的障害・自閉症父 母 (姉) 子 d子40代前半70代前半10年24知的障害父 母 子 (弟) e子30代後半60代後半2年25知的障害・身体障害父 母 (姉) 子 g子30代後半60代後半4年34知的障害・ダウン症父 母 (兄) 子 i子20代後半60代後半2年33知的障害・ダウン症父 母 (兄) 子 (妹) l子50代前半80代前半8年33知的障害・自閉症(父) 母 子 m子40代後半70代前半2年33知的障害(父) 母 (兄) 子 (1)調査対象者個人の特定を防ぐため、個別的な性別や居住地の記載を避けるとともに、内容に影響を与えない範囲でデータを改変した。 なお、子どもの性別は男性4人、女性4人であった。また、「GH」は「グループホーム」の略である。 (2)「子」とは調査対象者である「知的障害のある子ども」を指す。「()」は「知的障害のある子ども」がグループホームに移行した時点 で、死亡、あるいは、独立していたことを表す。
第2節 結果と分析
第1項 経験プロセスの可視化
老障介護家庭における子ども本人の自立をめぐる行動や認識、また自立を阻ん できた要因と促してきた要因に着目し、時間の流れに沿ったそれらの変容を図6
-1のTEM図に示した。図中の「GH」は「グループホーム」を表している。
以下、結果の整理にあたり、第5章と同じように、本文では時期区分を≪ ≫、
子どもの行動や認識のうち、等至点・分岐点・必須通過点にあたる概念を【 】、 その概念を構成する下位ラベルを< >、他の要になる子どもの行動や認識を{ }、 子どもの自立に向けた行動や認識に作用した諸要因を[ ]で表記した。
(1)概念の設定
子どもから得られたデータには、「親と暮らしている状態」に関する明確な語り はなかった。A子の「(グループホームで暮らす)前は…(略)」やl子の「お母 さんたちと暮らしていたときに…(略)」、m子の「家にいたときは…(略)」といっ た、グループホームでの生活と自宅での生活を対比する語りのなかで、「親と暮ら している状態」が表現されていた。そのため、【親と暮らす】を必須通過点とし、
子ども自身の自立にまつわる経験の始点に位置づけた。
一方、調査を行った時点で6人の子どもは、「いずれ親が病気になるかもしれな いこと」や「いずれ親が亡くなるかもしれないこと」を理解し、自宅ではなくグ ループホームで生活し続けていく意思を固めていた。この【親がいなくなっても グループホームで暮らす】は、子どもが将来を見据える重要な意味を持っていた ため、二つ目の等至点に設定し、子ども自身の自立にまつわる経験の終点に位置 づけた。
なお、一つ目の等至点は、研究目的に沿って、「子どもが自宅からグループホー ム移行すること」に関する語りから抽出された【家を出る】にした。つまり、子 どもは【家を出】たことで、さらにその先の【親がいなくなってもグループホー ムで暮らす】という新たな未来展望が生まれたことになる。
結果的に、すぐに自立に結びつくことはなかったが、2人の子どもが経験した
【繰り返しグループホームを見学する】は、ともすれば老障介護家庭になる前に 親元から自立する可能性を子どもにもたらし得る経験であった。そのため、この
【繰り返しグループホームを見学する】を分岐点に設定した。
グループホームで生活し始めた子どものうち6人は、【家に帰りたい】気持ちが 募っていた。【家を出る】理由や動機は様々で、また、その後の径路をみても{な んだかグループホームもいいところ}と肯定的にグループホームを捉えるように なっていた子どもや、{野宿よりまし}とグループホームを消極的に選択していた 子どもがいた。子どもの径路は多様でありながらも、2人を除く子ども6人が【家 に帰りたい】という同じような経験をしていたため、これを必須通過点に定めた。
また、【グループホームに入るよう切り出される】は、【親と暮ら】している状 態から【家を出る】状態へと、子どもの生活環境に変化をもたらした出来事であ り、なおかつ、どの子どもも母親の言葉を発端にして【家を出】て、グループホー ムで生活するようになった。そのため、【グループホームに入るよう切り出される】
には、分岐点と必須通過点の2つの概念を当てはめることにした。
これらの概念は、子どもの発言の生データとともに等至点は表6-2、分岐点 は表6-3、必須通過点は表6-4に整理して示した。必須通過点と分岐点の2 つの概念が当てはまった【グループホームに入るよう切り出される】の発言の生 データとは、表6-5に整理して示した。
また、子どもの行動や認識に働いていた5つの抑制要因([どこにもグループホー ムがない][家にいなくちゃダメ][お父さんが死んじゃう][友達が辞めちゃう]
[いじわるが続く])と、12 の促進要因([いずれグループホームに入る][1人 で暮らすすごい人][病気のお父さんがいなくなる][お母さんがダメになる][通 所施設がグループホームを建ててくれる][面接に受かる][グループホームで暮 らす友達][遠くに引っ越した友達][グループホームの居心地のよさ][自分と同 じ家に帰れない仲間][お母さんは自分のことだけでも大変][今まで通りお母さ んに会える])が見出された。これらは子どもの発言の生データとともに抑制要因 は表6-6、促進要因は表6-7に整理して示した。
(2)時期区分の設定
子どもの経験を、等至点や分岐点、必須通過点を指標にして時期の区分けをし
た。その結果、始点に定めた【親元で暮らす】から終点に定めた【親がいなくなっ てもグループホームでがんばる】へと至るまでに、子どもは≪当たり前に親と暮 らしている≫時期、≪母親の言葉を咀嚼し自立に向かう≫時期、≪新生活に馴染 みきれない≫時期、≪グループホームで暮らしていくと決心する≫時期という4 つの段階を経ていた。
【親と暮らす】から【グループホームに入るよう切り出される】までは、早い 時期から自立することを望んでいた2人の子どもを含め、どの子どもも自宅で親 と一緒に生活している状態がごく自然な形であると思っていた。そのため、この 時期を第Ⅰ期≪当たり前に親と暮らしている≫時期とした。
【グループホームに入るよう切り出される】から【家を出る】までは、前触れ なく突然母親に【グループホームに入るよう切り出され】たことに驚き、6人の 子どもは引き続き自宅で生活したいと思っていた。この6人の中には、家庭の事 情で自立する以外に選択の余地は残されていなかった子どもも含まれていた。多 くの子どもは、母親と時間をかけてグループホームで生活することについて話し 合い、グループホームとの接点を持ち始め、自立することに向き合い、そして自 立の実現へと進んでいた。そのため、この時期を第Ⅱ期≪母親の言葉を咀嚼し自 立に向かう≫時期とした。
【家を出る】から【家に帰りたい】までは、子どもは新しい生活スタイルや人 間関係に戸惑い、グループホームになかなか馴染めない期間が続いていた。その ため、この時期を第Ⅲ期≪新生活に馴染み切れない≫時期とした。
【家に帰りたい】から【親がいなくなってもグループホームでがんばる】まで は、子どもは【家に帰りたい】気持ちが募りながらも、グループホームでの生活 を続けていこうと意思を固めた時期であった。父親の死や体力が低下していく母 親の姿をみていくうちに家族や、家庭での自分の置かれた状況を理解し、自宅で はなくグループホームで生活しなければならないと考えるようになっていった。
そのため、この時期を第Ⅳ期≪グループホームで暮らしていくと決心する≫時期 とした。
以下、時間の流れに沿いながら、老障介護家庭における自立をめぐる子ども本 人の経験とそのプロセスに作用した諸要因をみていく。
表6-2 子どもの経験プロセスにおける「等至点」の概念とその発言
【ラベル名】
<概念を構成する
下位ラベル名> 発言の生データ
【家を出る】
<「やっと」と喜ぶ
>
(家から)出たいとずっと待っていたので、やっとグループ ホームができたって喜んだ。すぐに家を離れてグループホー ムで暮らすようになった(e子)
<嫌だけど選択肢は ない>
お母さんは一人で暮らしていけるかが心配だった。でもお母 さんが「グループホームに入らないとダメだから」って。「家 はダメっ」て(l子)
本当にそれでいいのかなって疑問だった。でも、グループホー ム以外に行くところがないから家を出て。嫌だったけど(m 子)
<友達と一緒になれ る>
〔通所施設名〕で同じ〔人名〕さんがいてくれて。仲がいい から「(グループホームに)おいでよ」って。一緒にいられ て嬉しかったから、わかったって言ったと思う(g子)
〔人名〕ちゃんと同じグループホームに入れてよかった。お 母さんたちと一緒だとできないけど、これから遊べると思い ました(i子)
<近いから、まだま し>
(入所施設に入居した人に比べれば)僕はまだましなほうだっ て、近いから。まだいいでしょ。それで家を出た(d子)
【親がいなくなってもグループホームでがんばる】
お母さんがいなくなったら、グループホームにいなくちゃいけない。(母親が死 んだら)お母さんもお父さんも一緒に天国で…、どうしようって思う。一人でが んばろうと思う。だからグループホームで友達と暮らしたい(a子)
わからないけれど、〔グループホーム名〕で暮らしていきます。職員さんと一緒 に暮らしていこうと思います(c子)
これからもここ(グループホーム)で暮らしていこうと思う(d子)
お父さん、お母さんがいなくなった後も、今働いているところで働いて、グルー プホームで生活します(e子)
お父さん、お母さんが病気になったり、いなくなっても、これからもグループ ホームで暮らしたい(l子)
お母さんがいなくなったら自分で、ここで。頼るところがないから(m子)
(注)データは逐語録の一部を抜粋したものである。調査対象者の特定を防ぐため、内容に影響を与 えない範囲でデータを改変した。カッコ内は筆者の加筆である。