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認知症高齢者介護の発展

ドキュメント内 - 社会関係性の視点から - (ページ 61-65)

59 c) 老人福祉法施策の対象外

第2節 認知症高齢者介護の発展

1)地域課題としての認識と実践活動(1980~1990 年代)

1980

年代に入ると認知症のある高齢者の介護は、最初の転機を迎える。病院や施設にお いて療法・介護手法が模索され、家族介護者による活動も始まった。1980年には、認知症 患者家族の高見国生氏や京都府にある堀川病院の早川一光医師や三宅貴夫医師らにより

「呆け老人をかかえる家族の会(現認知症の人と家族の会)」が結成され、家族介護経験者 や元施設職員等によって宅老所も開設された。中でも全国的に大きな転機を迎えたのは、

宅老所やグループホームの誕生である。

a)

特別養護老人ホームの取り組み

前述の特別養護老人ホームきのこ荘(1984年開設)以外にも、当時、ほとんどの特別養 護老人ホームが入所対象としていなかった認知症高齢者を、積極的に受け入れた施設があ る。その代表に、東京都八王子市にある特別養護老人ホーム山水園(1975年開設)、岐阜県 池田町にあるサンビレッジ新生苑(1976年開設)、三重県四日市市にある第二小山田特別養 護老人ホーム(1981 年開設)、新潟県長岡市にある特別養護老人ホームみしま園(1982 年開設)が挙げられる。

特別養護老人ホーム山水園の園長石井健太郎は、山水園開設前、

20

年間精神病院に勤め、

認知症高齢者が向精神薬の副作用によって衰弱する姿や抑制や拘禁によって非人間的扱い をされてきた姿を見てきたxii(石井ほか

1986)。こうした状況に対し、高齢者が安らかに和

やかに生活できる場をつくりたいと、建物は閉鎖感のない住空間づくりに重点をおき、副 作用の強い薬の使用を極力回避し、職員研修では、お年寄りの気持ちを頭と心で理解し、

限りなく受容すること、人間の自然の姿として老いもぼけをとらえて惻隠の情を寄せるこ と、どのようなお年寄りにも人間らしく生活する権利が与えられているということ、の

3

点を徹底した。その結果、入所希望者の選定を行っていた八王子福祉事務所からは、どこ のホームでも引き受けられない人の依頼が多く集まったが、入所した認知症高齢者が、和 やかに話をしたり、明るい表情を見せたり、穏やかに過ごすことのできるホームとなった。

また、岐阜県池田町にあるサンビレッジ新生苑は、当時、その地で地域医療を行ってい た今村勲医師によって

1976

年に開設された特別養護老人ホームである。今村は、往診の際、

病状が改善して退院したはずの高齢者が、家族が働きに出て誰もいない家の中で、ひとり

xii 石井(1986:51)は、山水園の開設の背景について、「多少ぼけておかしいというだけで家族に見捨 てられ、治療効果がないからと医師にも見放されているお年寄りたち。あるいは必要のない治療に苦し んだり、投薬でヨレヨレになっているお年寄りたち。そういうお年寄りたちをなんとかしてあげたいと 思いつづけてきた。(中略)こうした事情から山水園の建設計画が浮かんだのは、1972年初めての頃で ある。折から、超過入院規制もいっそう厳しくなり、治療の対象とならないお年寄りの退院が求められ た。山水園建設計画は1973年の事業計画にのせられた。」と述べている。

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で寝かされ、体には褥瘡や拘縮が生じている姿を何度も目の当たりにしていた。これは、

医療だけでは解決できないと感じ、その状況を打開するために特別養護老人ホームの開設 に乗り出した(渡辺

1995、総合ケアセンターサンビレッジ 2006)

。開設の際、今村は、そ の後

2

代目理事長となる娘の石原美智子とオーストラリアで先進的な介護を学んだ。職員 が高齢者本人に対して当たり前のように、本人の意思を尊重する意識のもと、介護を行っ ていた姿に感銘を受け、職員の意識改革に乗り出した。開設当時は、介護は誰にでもでき ることと考えられており、子どもが親の面倒をみるのは当たり前の時代、施設職員も相手 を尊重するよりは、面倒をみてあげているという優越感の意識の方が強く出ていたという。

研修を積み重ねる中で、職員間で「自分ならどうありたいか」をテーマに話し合い、その 中からベーシックニーズ(「意思疎通」「食事」「排泄」「保清」「離床」「更衣」「睡眠」「移 動」と生活行為を具現化したもの)を考案するに至り、職員の意識も介護手法も変わって いった(総合ケアセンターサンビレッジ

2006)

三重県四日市市の第二小山田特別養護老人ホームは、日本初の痴呆性老人専門施設とし て開設され、開設当初から全国の注目を浴びてきたxiii。法人理事長である川村耕造は、当時、

特別養護老人ホームの入所者の中に、「徘徊、不潔行為、攻撃的行為、妄想、夜間せん妄、

弄火、弄便など異常行動のある老人」が一人でもいると、他の入所者の生活リズムが崩れ、

問題が生じてくるため、認知症高齢者の専用の施設の整備に着手した(川村

1983a)

。設備 においても、鉄格子をなくし、個室を多くし、近くに公園をつくって明治の農家の家を移 築し、日中に散歩ができるようにしたりした。介護上でも、①身体的ケアを第一にするこ と、②受容的保護的態度を崩さないこと、③異常行動を冷静に観察して個人に合った介護 をすることを徹底したり、入所者の生活歴と周辺症状の関連を検討したり(川村

1983b)、

心理的圧迫を取り除き、職員の受容的な態度と静かな環境によって睡眠剤の投薬をほとん ど行わないようにしていた(川村

1984)。

この時期の特別養護老人ホームでの取り組みは、人権を無視した処遇から脱却し、認知 症高齢者の受容し理解すること、多量の薬や拘禁からの脱出、職員の意識変化に重点の置 かれた改革であった。しかし、失禁するからオムツを使用する、オムツを外すからつなぎ 服を着せるといった対症的介護や集団への適応を目的とした介護は続いていた。

また、認知症が特別養護老人ホームの入所要件に入っていなくとも、既存の特別養護老 人ホームに認知症高齢者がいなかったわけではない。1981 年

11

月の全国の老人社会福祉 施設の調査を基にした推計によると、1982 年

10

月現在、老年期痴呆である高齢者は、特 別養護老人ホームに

24,168

名(在所者

89,510

名中

27.0%)、養護老人ホームに 6,396

(在所者

68,044

名中

9.4%)、軽費老人ホームに 193

名(13,781名中

1.4%)、有料老人ホ

ームに

71

名(6,488名中

1.1%)おり、精神病院に入院している認知症高齢者と同様に痴呆

以外のさまざまな症状や問題行動(幻聴、睡眠障害や心気症状、妄想、うつ状態、幻視、

xiii 2小山田特別養護老人ホームは、開設直後から半年間をNHKが取材しており、ドキュメンタリー番 組「ニ度童子の人びと」の放映は大きな反響を呼んだ。

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失禁、自閉的行動、徘徊、夜間の不穏行動、攻撃的言動など)がみられた(大塚

1984)。

第二小山田特別養護老人ホームの展開をみてもわかるように、当時、認知症高齢者の介護 手法は、全国の特別養護老人ホームでも大きな課題であった。こうした状況に対し、1984 年には、痴呆性老人処遇技術研修が制度化され、痴呆性老人処遇技術研修施設として、前 述の特別養護老人ホーム山水園や神奈川県横須賀市にある横須賀老人ホーム等も厚生省の 指定を受けている。

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[図表2-8] 全国の痴呆性老人処遇技術研修事業指定施設一覧 痴呆性老人処遇技術研修事業

指定施設

老人デイケア 承認施設数

(1991年当時)

老人性痴呆疾患 治療・療養病棟

(1993年当時)

老人性痴呆疾患 センター数

(1993年当時)

北海道 美ヶ丘敬楽荘/札幌市 稲寿園 1 1 2

青森県 弘前静光園 0 1 4

岩手県 山岸和敬荘 0 0 1

宮城県 和風荘 0 0 0

秋田県 光峰荘 1 0 0

山形県 大寿荘 2 1 2

福島県 2 2 4

茨城県 県立水戸老人ホーム 1 1 5

栃木県 とちの木荘 0 1 1

群馬県 1 0 2

埼玉県 名栗園 2 0 3

千葉県 さくら園 2 1 5

東京県 山水園 2 1 0

神奈川県 横須賀第二老人ホーム

(横浜市:ハマノ愛生園) 1 1 4

新潟県 みしま園 3 3 1

富山県 流杉老人ホーム 0 0 2

石川県 3 1 3

福井県 愛全園 2 0 0

山梨県 1 1 2

長野県 きらく園 6 0 5

岐阜県 0 0 1

静岡県 あしたかホーム 0 0 8

愛知県 大府寮 3 1 0

三重県 第二小山田特別養護老人ホーム 1 0 4

滋賀県 1 0 0

京都府 梅林園 4 0 2

大阪府 大阪新生苑 7 0 5

兵庫県 万寿の家 2 0 4

奈良県 国見苑 0 0 1

和歌山県 喜成会 1 0 0

鳥取県 2 1 2

島根県 2 4 4

岡山県 第三日本原荘 7 3 2

広島県 桜ケ丘保養園 3 2 4

山口県 あかり園 2 2 1

徳島県 大神子園 1 0 1

香川県 紅山荘 0 0 1

愛媛県 白寿荘 2 3 1

高知県 三宝荘 1 1 1

福岡県 奈多創生園/北九州市 さわみ園 3 8 0

佐賀県 真心の園 1 1 1

長崎県 0 0 1

熊本県 しらぬい荘 2 1 0

大分県 清静園 1 2 1

宮崎県 中郷園 1 3 3

鹿児島県 錦江園 1 0 1

沖縄県 東雲の丘 2 2 0

痴呆性老人処遇技術研修事業指定施設:全国社会福祉協議会編(1986)『痴呆性老人の理解と処遇 全国社会福祉協議 会痴呆性老人処遇研究会報告』全国社会福祉協議会.p92より抜粋

老人デイケア開設数:斎藤和子(1993)「老人デイケアからみた地域ケアシステム」『季刊・社会保障研究』29(2), pp131-138.

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