74 d) 地方自治体による民間デイサービス補助事業
第3節 認知症のある高齢者と社会関係性に関する研究の動向 1)認知症に対するイメージや意識に関する先行研究
認知症の人に対する偏見の歴史は長く、井口(2010)は、認知症のある人に対する「自 己や周囲のことがわからない」、「私たちとは違う世界の人」、「なにもわからない人」とい うイメージは、認知症の人の正しい理解と包摂を考えていくときの第一の「敵」となるも のであると述べている。また、目黒ら(2002)も、認知症に関する一般的な誤解を通じた 誤った情報として、「1)ボケと痴呆を混同し、2)痴呆を状態像ではなく一つの疾患とし、
3)生活習慣が関係することを強調、4)予防を痴呆の原因疾患・症状別に第一次から第 三次予防に分けて考えていない」ことを挙げている。
現在、こうした認識の改善策として、認知症サポーター養成講座や製薬会社によるテレ ビ
CM
放映をはじめとする啓発活動が行われているが、いまだに認知症に対して否定的な イメージを持っている人は多い。三重県長寿介護課が実施した認知症に関する調査(2008、2012)では、認知症を病気ととして認識している人は、87.8%(n=925)に上り、2008
年度調査よりも
21
ポイント上昇したが、「認知症の人が偏見を持って見られる傾向にあるか どうか」との問いには、「そう思う」と回答した人が24.2%、「どちらかといえばそうと思
う」と回答した人が48.9%と、合わせて 7
割を超えており、2008
年度調査と比較しても9.6
ポイントしか減少はみられなかった。そこで本項では、日本における認知症に対するイメ ージや意識ついて、先行研究における知見の整理を行ったxvii。a)
認知症に対するイメージ小林ら(2009)や松岡ら(2009)が行った調査では、回答者のほぼ全員が、認知症(痴 呆症)という言葉を聞いたことがあったり、何らかの知識を有していたりと、認知度は非 常に高く、主な情報源は、テレビ、新聞、映画等のメディアからであったり、家族・友人・
知人からであった。また、認知症にアルツハイマー型認知症や脳血管性認知症などの種類 があることを「知っている」と回答したのは
58.8%(n=858)と半数を超え、アルツハイマー
病進行抑制薬があることを知っていると回答した人も42.5%に上った(松岡ら 2009)
。さ らに古村ら(2010)が行った民生委員に対する調査では、「認知症を早期に発見することの 必要性を知っているか」との問いに、「はい」と回答したのは387
名(97.5%)であり、「早 期の治療により進行を遅らせることができることを知っているか」では、379 名(95.5%)xvii 文献検索では、CiNii、医中誌Webを用い、「認知症(痴呆)」、「イメージ」をキーワードとして検索 した。その結果CiNiiでは131件、医中誌Web(原著論文に限定)では、393件の文献が該当した。そ のうち、両者に検出されている論文を除き、認知症の画像診断に関する論文を除くなど、内容に関する 精査を行った結果、48件が該当したが、その半数以上は看護学生や福祉・介護学生、専門職に関する論 文であった。また、「認知症(痴呆)」、「住民」、「意識」をキーワードとして同様の文献検索および精査 を行った結果、11件が該当した。
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の人が「はい」と回答した。また、本間(2001)が行った調査では、認知症に関する認知 度と情報源、認知症にいくつかの種類があること知っているかどうかについては、上記の 結果とほとんど変わりはないが、アルツハイマー病進行抑制薬があることを知っていると 回答した人は
3
地域(首都圏 n=455、大阪市 n=245、仙台市 n=283)とも20%前後であ
ったことから、このおよそ10
年間でアルツハイマー病の進行抑制薬の認知度が高まってい ることがわかる。一方で、認知症に対するイメージや意識に関する調査研究では、「いやに思う」、「怖い」、
「悲しい」、「かわいそう」、「恥ずかしい」、「大切にされない」、「不幸だと思う」、「気の毒、
大変だと思う」、など否定的なイメージや同情的なイメージが大半を占めている(大澤
2007、
久木原ら
2011)
。また、認知症高齢者と聞いて思い浮かべる様子として、「ひどい物忘れをする」、「しつこく同じ話をする」、「外出すると一人で戻れなくなる」、「目的もなく歩き回 る」、「火の不始末や火の元の管理ができない」、「おしっこや便をおもらしする」等が多く 回答され(中野
2001)、認知症に対するイメージの半数以上は中核症状に関することである、
その他の内容は少なく、認知症に対する知識は、一面的または断片的であった(木村
2008)
。 こうしたイメージと認知症に関する正しい知識の不足によって、認知症の人との関わり 方について、「どのように対応したらよいか想像もつかない」、「自分の身内がなったら、う まく対応できるかわからない」といった困惑や、関わりたくないとの否定的な意見が生じ ていたり(大澤2007)
、否定的なイメージや偏った知識は、認知症になることや介護の不安 の要因にもなったり(小林ら2009)
、受診に対しての抵抗を持たせたり(久木原ら2011)
、 社会資源利用を阻害する要因となったりもしている(松鵜ら1999)
。例えば、渥美ら(1999)の調査によると、自身が健康でないと認識している人は、認知症は「避けられない」との イメージを持っているのに対し、痴呆に対する予防行動を行っている人は、行っていない と回答した人よりも認知症や認知症の人に対して否定的なイメージ(孤独な、遅い、不潔 な、意義のない、拒否的な、表面的な、不注意な、ざらざらした、みにくい、小さい、感 情的な、軽率な、の
12
項目は有意であった)を持っていり、また、松鵜ら(1999)の調査 によると、日本的家族観が高いと社会資源の利用に対する抵抗度は2.2
倍高まり、偏見度(認 知症老人の行動に対する理解の不足の程度)が高いと社会資源の利用に対する抵抗度は1.6
倍高まるが、痴呆性老人に対する関心度が高かったり、介護経験がある場合には、社会資 源の利用に対する抵抗度は双方0.5
倍になるという。b)
認知症に対する負のイメージの改善と受容こうした地域住民の認知症に対する負のイメージを改善するために、教育講演や理解促 進プログラムの実施が有効であるとの先行研究がある。金ら(2011a、2011b)によると、
認知症の人に対する態度は、「寛容」、「拒否」、「距離感」、「親近感」の
4
因子が関連してお り、認知症の人との関わりの経験が、認知症の人に対する拒否的態度を緩和するという。81
松鵜ら(1999)も、認知症高齢者介護における社会資源の利用を促進する要因として、認 知症高齢者の対する関心および介護経験を挙げている。
丸尾ら(2012)の調査では、認知症のイメージ(怖い、恥ずかしい、悲しい、病気とは 思わない、お先まっくらだと思う、大切にされない、苦しい、自分には関係ない、だれも がなる可能性がある、身近に感じられる)のうち、「認知症になるのは悲しい」、「認知症は 身近に感じられる」、「認知症は自分には関係ない」の
3
項目については、地域住民を対象 とした認知症の理解促進プログラム実施後に有意に改善したとの報告がある。さらに、認知症の人との関わり方として、「もっと認知症の人への対応の方法を知りたい、
実際に介護している人への対応の方法を知りたい、実際に介護している人が学習できる場 があると良いと思う」、「大変だ、地域の人で応援してあげたい」、「家族・身内が大変だか ら地域で見守る必要がある」など支援に対する積極的な意見も挙がっており(大澤
2007)
、 啓発活動においても、認知症になっても自分らしく現在の生活を継続できることを見せて いくことが重要であると考える。2004
年12
月、それまで使用されていた「痴呆」は「認知症」へと名称が変更となり、厚生労働省は、
2005
年度から2014
年度を「認知症を知り地域をつくる10
か年」と位置づ け、認知症サポーター100万人キャラバン(認知症サポーター養成講座の実施)、「認知症で もだいじょうぶ町づくり」キャンペーン、認知症の人「本人ネットワーク支援」、認知症の 人や家族の力を活かしたケアマネジメントの推進、認知症地域支援体制構築等推進事業xviii 等が実施されている。認知症サポーター数も、全国で500
万人を超えたが(2014 年6
月30
日現在)、周知度はまだまだ低いxix。認知症サポーター養成講座の講師役である認知症キ ャラバンメイトを対象とした調査(工藤ら2012)によれば、養成講座等のキャラバンメイ
トの啓発活動を阻害する要因として、「事業の趣旨に関する課題」、「活動立ち上げの困難さ」、「実施上の課題」、「キャラバンメイトの組織化の不足」、「住民の関心の不足」、「行政や関 係者の後押し不足」、「個人の活動困難要因」の
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つが挙げられ、また、活動の促進要因と して、「活動目的の再確認」、「他の活動とリンクした啓発と地域づくり」、「キャラバンメイ トの組織化」、「地域ごとの活動マネジメント」、「行政とのパートナーシップ」、「キャラバ ン名ととしての知識とスキルの向上」、「サポーターの活動に有用な講座」、「個人の活動継 続の秘訣」、「多様な役割の選択の保障」の9
つが挙げられている。このうち共通するキャ ラバンメイトの組織化は、活動促進の中心的要因であり、組織化不足は今後の重要な課題xviii 2007年度より、厚生労働省は、各都道府県にモデル地域を設定し、支援を行う資源をネットワーク化
し、資源の相互連携を通じた地域支援体制づくりを行い、その成果を都道府県管内に普及することを目 指した「認知症地域支援体制構築等推進事業」を開始した。これにより38都道府県103地域がモデル 地域に設定された。
xix三重県長寿介護課(2009)の調査によれば、2009年から義務づけられた運転免許更新時における講習予備 検査(認知機能検査)について、「よく知っている」、「少し知っている」と回答した人は62.2%、「全く 知らない」と回答した人は18.7%であったが、認知症サポーターについて、「よく知っている」、「少し知 っている」と回答した人は10.1%、「全く知らない」と回答した人は69.9%であった。