• 検索結果がありません。

ネガティブな社会関係性をもつ認知症高齢者に対する支援 1)調査の目的および研究方法

ドキュメント内 - 社会関係性の視点から - (ページ 172-185)

a)

調査の目的

前節の調査分析結果から、利用類型が

f

群(施設利用同様型)であるケースが少ないグル ープ

A

とグループ

C

では、住民組織との関わり方においても、事業所周辺の地域住民組織 との関係を発展させていくだけでなく、利用者に対する支援に地域住民が関わっている事 業所もあった。同じ日常生活圏域を意識した地域密着型サービスであっても、認知症対応 型共同生活介護の入居者の主たる生活の場は、事業所であるが、小規模多機能型居宅介護 事業の利用者の主たる生活の場は、利用者宅である。利用者宅での支援において、利用者 宅周辺の住民組織と事業所周辺の住民組織が異なっている場合、事業所周辺の住民組織が そのまま利用者の生活支援につながるとは限らない。

そこで、認知症高齢者の利用者宅での生活支援において、小規模多機能型居宅介護事業 所がどのようなサービスを提供し、また利用者の社会関係性に目を向けた支援を、どのよ うに行っているのか、その具体を明らかにするために訪問ヒアリング調査を実施した。

b)

調査方法と倫理的配慮

本訪問ヒアリング調査では、

L

地区にある事業所

M

にて半構造化面接を行った。著者は、

2007

年に実施された「厚生労働省老人保健健康増進等事業 未来志向研究プロジェクト 地 域密着型サービスの今後の在り方に関する調査研究」(立教大学森本佳樹研究室受託)およ び

2008

年に実施された「厚生労働省老人保健健康増進等事業 未来志向研究プロジェクト 地域包括ケアにおける小規模多機能型居宅介護のあり方に関する研究」(立教大学森本佳樹 研究室受託)において、調査実施者の一人として、既に事業所

M

を訪問しており、事業所

M

は、同調査でのヒアリング調査先の中でも、先駆的な活動をしている事業所の一つとし て評価していた。事業所

M

を立ち上げた現施設長は、自身の職務経験と個人的な介護経験 から、「まちづくり」の重要性を認識し、介護事業の運営だけでなく、サロン活動や地区社 協に相当する会での勉強会の講師も務めたりしている。また、介護支援専門員

N

氏も、そ うした施設長の意識や活動を認識しながら、介護が必要になっても地域で暮らし続けられ る地域であるよう、住民意識の向上に取り組んでいる。

2008

年度の調査(森本

2009)では、

全国の小規模多機能型居宅介護事業所のうち、自治体の人口規模別にいくつかの観点から

16

地域

22

ヶ所の事業所を選定し、半構造化面接を行っており、その中で「地域力(地域住 民の潜在的行動力、協力、主体的行動力)を組み入れた支援の展開プロセス」について検 討した結果、他の事業所と比較して高い評価を得た。事業所

M

は、「認知症をもつ利用者が、

在宅生活を継続するにあたり、利用者本人が、これまで日常生活で関わってきた人々(例:

散髪屋、スーパー、喫茶店などの人たち)を図にまとめ、自分自身でその関係を、利用者 の後ろで『追体験』することにより、関係者の理解と協力を得て、共に利用者を支えるよ

173

173

うに働きかけている。また、このことによって認知症に対する住民理解も高まっている。」

という実践から、第

0

段階から第

4

段階ある展開プロセスのうち、「第

3

段階:各ケースを 通して作られた地域ネットワークによる支援」をおこなっている事業所として位置づけら れ、「利用者の目線で、本人を取り巻く従来からのネットワークを組み入れること」の重要 性も示した。以上のことから、事業所

M

を本調査の対象として選定した。調査方法の概要 は図表

4-7

の通りである。

なお、倫理的配慮として、ヒアリング調査時は、プライバシーの保護に考慮して説明し てもらい、調査時の記録(調査メモおよび録音記録を文字化したもの)においても、利用 者等の個人名や個人が特定される地名等は、個人が特定できない形にコード化した。また、

本論での表記でも、事業所や利用者等の個人や場所が特定できるような情報については掲 載していない。

[図表4-9] 調査方法の概要

【調査方法】半構造化面接

【調査期間】20116131330分~1600

【面接対象】小規模多機能型居宅介護のケアプランに関わる同法人の居宅介護支援事業所の介護支援 専門員1名(N氏)

【調査項目】事業所の概要、小規模多機能型居宅介護を利用している認知症高齢者の基本属性と支援 内容(利用者の基本属性、利用前の社会関係、認知症の進行によって生じた社会関係の 変化とそれにともなうトラブル、利用者に対する支援等)

174

174

2)調査結果の概要

a)

事業所の概況

L

地区は、人口

40

万人を超え(2010年現在)、高齢化率はおよそ

23%の自治体の南部に

位置する。事業所

M

は、有限会社が運営し、認知症対応型共同生活介護、通所介護、居宅 介護支援事業所を運営している。小規模多機能型居宅介護は、認知症対応型共同生活介護 および通所介護と同敷地内に

1

ヶ所(事業所

M、登録定員 12

名)、そのサテライトが

1

ヶ 所(登録定員

6

名)、その他

L

地区内にもう

1

ヶ所(登録定員

25

名、他事業併設なし)が ある。その他、閉園した保育所を借り、その地域の地区社協にあたる会と一緒に、介護予 防事業や機能訓練をおこなったり、サロン活動を行っている。

事業所

M

の開設は

2006

年。法人が

L

地区で事業を始めたのは

2003

年。現施設長は、

理学療法士として

10

年以上病院で勤務した後、老人保健施設での勤務や福祉の専門学校の 教員を経験し、また自宅ある地域の地区社協にあたる会の副会長もしていた。施設長は、

夫の知人から、古い趣のある大きな建物をそのまま活用してくれる人を探しているとの話 を聞き、通所介護事業、認知症対応型共同生活介護事業、訪問介護事業を行うことにした。

b)

利用経緯

事業所

M

を利用している

O

氏は、

70

歳代後半の女性で、要介護認定は、要介護

2。 L

地 区で一人暮らしをしている。アルツハイマー型認知症と高血圧症があり、少し耳が遠いと のこと。短期記憶障害がみられ、5 分間に同じ事を何度も話したりする。被害妄想もあり、

近隣住民を困らせることもあった。HDS-Rは

17

点。身体機能の低下はみられず、走るこ ともできる。

夫は他界しており、子ども(以下、長女)は

1

人。長女は隣の県で家族と暮らし、1~2 ヶ月に

1

回、本人宅を訪問している。その他、夫の兄弟が何人か

L

地区に住んでおり、長 女の夫の母親も近所に住む。もともと近所から好かれているわけではなかったが、特別に 関係が悪かったわけでもない。近隣住民が

O

氏の依頼で代わりに買い物に行っても、おつ りをもらっていないと訴え、何度もその近隣住民を訪ねたり、近所の商店でカレンダーを 無料で配布していると、既にもらっていることを忘れ、20 回程繰り返しもらいに行き、そ の商店主を怒らせてしまったり、診療所の支払いでおつりをもらっていても、そのことを 忘れ、5分の間に

10

回程おつりをもらっていないと苦情を言いに行ったり、いきいきサロ ンに通っていても、何らかの理由で、O氏は途中で怒り帰ってしまうことがあった。

担当地区の地域包括支援センターから、近隣住民から「同じことばかり言う」、「よく怒 る」という連絡があり、地域包括支援センターの職員が

O

氏をアセスメントし、小規模多 機能型居宅介護の利用が適切ではないかと相談があり、事業所

M

の利用に至った。

O

氏は、事業所

M

が関わり始めた

20XX

年当初、要介護

1、HDS-R

21

点であった。

入浴をしているかは不明であったが、よく汗をかいており、やや不衛生な様子が見受けら れた。初夏に毛糸の帽子をかぶるなど、季節に合わない服装もしていた。冷蔵庫には、賞

175

175

味期限が切れたものがたくさんあり、同じ物をよく買ってきていた。洗濯や掃除は、自分 なりにはしていたようである。服薬忘れがあり、血圧が

200

以上になることもあった。近 隣住民とのいざこざから、近隣住民もストレスを感じている様子を知り、介護支援専門員

N

氏は、毎日の訪問(状況把握、服薬確認、通院介助、Nさんと事業所

M

の職員との関係づ くり)の提供から始めることにした。

c)

事業所

M

の支援内容

事業所

M

は、事前に服用薬を全て預かり、毎朝

1

回、その日の

O

氏の服用薬を持って、

職員が訪問した。訪問が始まった当初、O氏は、「私は元気なのに、何で薬をのまなければ いけないの。」、「ちゃんと自分で飲むわよ。」と、職員の訪問に困惑していた。

訪問開始から

1

週間後、O氏は、職員の訪問に慣れ、職員との距離が縮まり始め、「あり がとう」、「薬、今飲んだわよ」といった言葉が返ってくるようになる。

また、近隣住民から、ゴミ出しの曜日がわからないと言って何度も聞きに来る、散髪屋 の予約をしても予約した日を忘れて当日に来ない、来客者用に駐車場を借りに来たが、何 度も見に来るので対応が面倒だ、等の近隣住民のストレスの元となる行動について、相談 が増えた。さらに、O 氏が自宅で、電気をつけずに、ずっと真っ暗な中で過ごしている様 子も見られたことから、介護支援専門員

N

氏は、他者との交流による刺激があった方がい いと考え、週

1

回通いの提供を始めることにした。

通いにあたっては、O氏に、事業所

M

には、O氏の知り合いも多く、話し相手になって もらいたいと伝え、O氏にとっては、仕事に行くような感覚で週

1

回、事業所

M

に通うこ とになり、

2~3

ヶ月経過すると、事業所

M

で入浴や更衣もするようになった。着替えも本 人は、洗濯されていないものを用意していたため、訪問時に、一緒に着替えを用意しよう としたが、O 氏は「なんで持っていかなきゃいけないの」と困惑し、用意することが難し く、長女に

1

セット用意してもらい事業所にて預かった。入浴後には、洗濯されたものを 着て、脱衣したものは、事業所

M

で洗濯し、次回の着替えとした。

しかし、事業所

M

で過ごす間も、自宅にいるときでも、何らかのきっかけで被害的な発 言や被害妄想が表出していた。例えば、自分のお茶菓子を既に食べてしまったことを忘れ て、自分はもらっていないと訴え、「ここはそうやって差別するんですか」と怒ってしまっ たり、傘を持ってきていなくても、傘を持ってきたのになくなったと言い、10 回程自宅と 事業所

M

を往復したり、別の家でも同様のことがあったりした。

また、事業所

M

の職員が誤って

O

氏の鞄の上に座ってしまい、そこから、O氏が事務所 で鞄がなくなったと訴え始め、介護支援専門員

N

氏に盗られたとの話になり、N氏の自宅 まで毎日行くようになった。さらに、

N

氏は仕事で日中、自宅には不在であったが、偶然

O

氏と以前一緒に働いていたことがある女性と出会い、今度は、その女性が鞄を盗ったと訴 えるようになった。その後も、夕方になると、その女性宅に行っては鞄を盗られたと訴え たため、長女の協力を得て、毎日夕方に電話をしてもらうことにしたが、逆に「○○とか 持って帰ったでしょう」と長女に対する被害妄想が生じる結果となり、電話は中止し、毎

ドキュメント内 - 社会関係性の視点から - (ページ 172-185)