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ポジティブな社会関係性を活かした支援 1)調査の目的および研究方法

ドキュメント内 - 社会関係性の視点から - (ページ 185-199)

a)

調査の目的

前節では、被害妄想による他者への攻撃的な言動への対応やそうした言動によって悪化 した社会関係性へのアプローチの他に、サービス導入初期までの期間のアプローチの重要 性も示唆された。そこで、本節では、サービス利用以前からポジティブな社会関係性を持 っている人に対して、どのように社会関係性に目を向けた支援を行っているのか、その具 体を明らかにするために訪問ヒアリング調査を実施した。

b)

調査方法と倫理的配慮

本訪問ヒアリング調査では、ある地域にある

P

病院にて半構造化面接を行った。P病院 を選択した理由は、

P

病院のある自治体は、小規模多機能型居宅介護を活用し、認知症ケア を中心とした地域住民の活動を推進する事業を行い、小規模多機能型居宅介護事業所には 地域交流拠点の併設を義務付けており、既に全国区でその先駆的事業として報告されてい る。筆者は、2010年に実施された「厚生労働科学研究被補助金 政策科学総合研究事業 ソ ーシャル・キャピタルと地域包括ケアに関する研究」(井上由起子・森本佳樹・筒井孝子)

において、調査員として、既にこの自治体の職員やこの自治体にある小規模多機能型居宅 介護事業所数ヶ所に対して、ヒアリング調査を行っており、その中で、

P

病院が、地域住民 によって設立された

NPO

法人の活動を活用しながら自宅退院の支援を重点的に行い始め ていると聞いていたため、本調査先として選んだ。調査方法の概要は図表

4-13

の通りであ る。

倫理的配慮として、ヒアリング調査時は、プライバシーの保護に考慮して説明してもら い、調査時の記録(調査メモおよび録音記録を文字化したもの)においても、利用者等の 個人名や個人が特定される地名等は、個人が特定できない形にコード化した。また、本論 での表記でも、事業所や利用者等の個人や場所が特定できるような情報については掲載し ていない。なお本調査の一部は、立教大学コミュニティ福祉研究所学術研究推進資金助成 によって行われたものである。

[図表4-13] 調査方法の概要

【調査方法】半構造化面接

【調査期間】20121121700分~1830

【面接対象】P病院の医療ソーシャルワーカーR

【調査項目】病院の概要、NPO法人の設立経緯と活動内容、退院支援事例(患者の基本属性、退院支 援の内容、医療ソーシャルワーカーや小規模多機能型居宅介護事業所の関わり方等)

186

186

2)調査結果の概要

a)

病院の概況

P

病院のある自治体は、人口

10

万人強(2010年現在)、高齢化率は

30%を超え、高齢者

のみの世帯の割合も

29.7%に上っている。自治会加入率は 34%と低い。

自治体は、前述の通り、小規模多機能型居宅介護事業所に地域交流施設の併設を義務付 け、認知症コーディネーター養成研修や高齢者等

SOS

ネットワーク構築を通し、小学校区 単位の身近な地域のネットワークづくりや地域づくりを図ってきた。地域交流施設は、自 治体が国の地域介護・福祉空間等整備交付金を活用し、初年度整備に

750

万円の補助を出 している。

P

病院には、外来(内科、リハビリテーション科、放射線科)と一般病床

60

床、療養病 床

98

床、介護療養型医療施設

60

床がある。入院患者の平均年齢は

88.7

歳。現状として、

急性期病院や回復期リハビリテーション病院から在宅生活に戻れなかった患者の受け入れ 病院となっており、入院患者の半数は独居高齢者。市内に特別養護老人ホームや介護老人 保健施設もあるが、特別養護老人ホームの待機者はおよそ

800

名、介護老人保健施設も申 し込みをしてから入所まで

6~7

ヶ月かかっているという。また、家族が遠方に住んでいる 場合が多く、ある程度身体機能が向上しても今まで通り自宅で生活することに不安を感じ て、P病院に入院してくるケースが多いという。

b)

社会関係を切らない退院支援事例

P

病院の退院を予定している

Q

氏は、90歳代女性。パーキンソン病があり、進行は遅い が、運動症状の日内変動がみられる。

P

病院には、骨折のため数ヶ月入院していた。これま で、

2

度骨折によって別の病院に入院し、リハビリ後に自宅退院していたが、今回は自宅に 戻るには難しいと判断され、

P

病院に転院となった。夫は他界しており、一人暮らし。子ど もは別居しており、今回の骨折が

3

回目だったため、絶対に家には戻せないと考え、施設 入所を希望していたが、本人は頑なに自宅での生活を希望した。

Q

氏の退院前訪問指導(家屋調査)には、Q 氏、Q 氏の子ども、近隣住民、P 病院の医 療ソーシャルワーカー(R氏)、作業療法士、理学療法士、病院看護師、P病院の同法人が 運営する小規模多機能型居宅介護の計画作成担当者が参加した。退院後の計画の話になる と、「じゃあ、私が朝、雨戸をあけに来る」、「夕ご飯を持っていく」、「私が犬の散歩のとき に見守る」、「寂しかったら、私が昼間はお茶を飲みに来る」等、次々に近隣住民から声が 挙がった。

R

氏は、この訪問指導の前に、近隣住民に、Q 氏の退院後のことも考えたいので一緒に 来てもらえないか依頼していた。しかし、集まった

Q

氏の近隣住民は、日頃からよく会っ ていた仲ではなかったという。R 氏が声をかけた近隣住民が、さらに、Q 氏が帰ってくる からと、他の人にも声をかけ集めたという。

小規模多機能型居宅介護の計画作成担当者は、サービス提供を前提に訪問指導に同席し

187

187

ていたため、近隣住民の声に、「結局、私は何をすればいいんですか。」と拍子抜けした。R 氏は、「介護保険が先に入っちゃうと、地域の人たちが離れていく」、「ヘルパーとかが毎日 入ってくると、見守りとかは要らなくなるという話なんですよ。だからだめなんですよ、

それじゃ。本人からすると地域の人たちから見てもらっていたほうが嬉しいわけですよね。

これは、生かされているか生きているかという話なんですよ。」と話す。そして、Q 氏は、

退院後、同法人の小規模多機能型居宅介護を利用し、週

2~3

回の訪問を中心としたサービ スプランになった。

また、R氏は、訪問指導時の様子を見て、「地域の人たちのほうが、僕たちより(Q氏と の関わりの距離が)近かった」ことに気づいたと話す。そして、その象徴が、訪問指導参 加者の座る位置だという。通常であれば、Q 氏の近くに家族が座り、その近くに専門職が 座る。しかし、この事例では、本人のすぐ近くに近隣住民がおり、次に家族がおり、専門 職が最も

Q

氏から遠い位置にいた。

[図表4-14] Q 氏の退院前訪問指導時の各人の座った位置

R氏の撮影した写真より作成

c)

社会関係を切らない退院支援の基盤となった

NPO

法人の活動と住民意識の変化 医療ソーシャルワーカーR氏が、

P

病院に勤めた当初からこうした退院支援ができていた わけではない。このような退院支援ができる背景に住民の意識の変化と

NPO

法人の活動、

そのきっかけを作った

R

氏の働きかけがある。

P

病院のある自治体では、当時、認知症のある人とその家族を支えて見守ることができる よう認知症の理解を促し、地域の意識を高めようと、「ほっと安心(徘徊)ネットワーク」

事業の取り組みを始めていた。市内の小学校区にある福祉施設や医療機関が事務局となり、

自治会長や地区社協、民生委員等に呼びかけ、一緒に取り組んでいくというものであった。

自治体がこの事業を始めてから、3年後、P病院のある校区でも、P病院が事務局となっ

188

188

て、初めて高齢者等

SOS

ネットワーク徘徊模擬訓練を行うことになった。校区の住民は、

3,380

世帯約

7,500

名であったが、案内を全戸に配布しても、訓練参加者は、そのうち

9

であった。そして、徘徊者役

1

名が

2

時間、校区内を歩いても、地域住民からの声かけは

1

件だけであった。住民の中には、「何で徘徊をするような人を地域で見守らなくちゃいけな いんだ」、「火を出したらどうするんだ」、「行方不明になったらどうするんだ」、「わけわか らない人をその辺にふらふらふらふらさせて、おまえたちは馬鹿じゃないのか」等と言う 人もいたという。自治会長や民生委員も認知症をもつ人を受け入れる意識はなかった。

こうした現状を認識した

R

氏は、小規模多機能型居宅介護事業所(初めて高齢者等

SOS

ネットワーク徘徊模擬訓練を実施してから

2

年後、

P

病院の近くに開設)に併設される地域 交流センターの管理運営を、医療ソーシャルワーカーが担当するよう法人に働きかけ実現 した。

地域交流センター開設から

1

年半後、行政から「地域ふれあいフォーラム」を開催しな いかと話があり、自治会、地区社協、民生委員、いきいきクラブ、老人クラブに声をかけ、

地域包括支援センター(自治体直営)と一緒に開催した。しかし、住民からは、「何でこん な年度末の忙しいときに、行政の予算消化じゃないのか」、「P病院がこういう公民館まがい みたいなものをつくって、結局自治会をつぶす考え方じゃないのか」と批判を受け、行政 に対しても批判が集まった。

当時、自治会からは、地域の触れ合いや支え合いの体制づくりは地区社協がやるべきこ とであり、自治会としては主体的に捉えていないと言われ、地区社協の会長からは、地域 の触れ合いとか支え合いの旗振りは民生委員がやるべきと言われ、民生委員は、ただでさ え疲弊しているところに、私たちがそこまでできるわけがない、自治会に言ってください と言われた。

1

回の地域ふれあいフォーラムから半年後、地域の中での支え合いの体制をつくるに はどうすればいいのか検討することを目的に、

2

回目のフォーラムを開催した。行政職員を

10

名程呼び、自治会等の組織と話し合いの場とすると、行政職員は強烈に批判され、結局、

地域住民は、行政に頼らず、この校区のことは自分たちでやっていこうという意識へと変 わった。

しかし、地域の支え合いの体制をつくるには、住民組織の一部の人達と専門職だけでは 限界があることを実感し、校区を住みよい町にするための決起集会として、前回から

1

年 後、3回目の地域ふれあいフォーラムを開催した。校区住民

220

名が集まり、住民からは、

「私たちも実は不安で仕方がなかった」、「隣近所の人たちの顔も知らないし、顔は知って いても助けてくれるとか助けるとかという関係じゃない。」、「介護保険も新聞とかで見ると やっぱりそんな使えないと言ってたし、私も息子とか娘は遠方にいるんだけどそこにお世 話になりたくはないし、なれない」、「どうやっていくか考えていた」等の意見が挙がった。

そして、これらの声を受け、任意団体が立ち上がった。

同時期、高齢者等

SOS

ネットワーク徘徊模擬訓練を行うことになった。前回

9

名だった 参加者は

87

名に増加したが、徘徊者役

6

名が市民と言葉を交わしたのは

35

件であったが、

ドキュメント内 - 社会関係性の視点から - (ページ 185-199)