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第 2 章 先行研究

2.4 ライティング・プロセスの研究

2.4.3 計画方略の研究…

「計画」は、ライティング・プロセスを導きモニターすると考えられている重要なライ ティング方略であり、本研究が焦点を当てるライティング方略の1つでもある。ここでは、

「計画」の主な範疇と定義の多様性を見て、次に、「計画」についての研究を概観する。

表 3 は、先行研究におけるライティング方略としての「計画」の範疇と定義を比較した ものである。

表3 先行研究のライティング方略「計画」の範疇と定義

計画の範疇 定義 Raimes (1985)

計画 ライティング方略の計画、次の文やエッセイ全体の進め方の計画

Arndt (1987)

計画 焦点の発見、何について書くかの決定 包括的計画 全体的なテクストの構成の仕方の決定

Hu & Chen (2006)

包括的計画 作文全体や2パラグラフ以上についての考えや構成 局所的計画 パラグラフの一部や次の文についての考えや構成

Van Weijen (2009)

計画:自己指示 ライティング・プロセスの次のステップに関する自分への指示 計画:目標設定 課題の要求の言い換えや新たな目標の設定

計画:構成 考えの選択・整理や、アウトラインの作成

Raimes (1985) は、大学のライティング・コースに在籍する8名の熟達していない書き手

(L1は中国語4名、ギリシア語2名、スペイン語1名、ビルマ語1名)について、L2であ る英語のライティング・プロセスを思考発話法により調査した。「計画」の下位範疇は設け ず、ライティングに関する「計画」は、次の文であれ全体の計画であれ全て「計画」とし た。その結果、計画方略の使用は、トピックの意味が分からず格闘した1名の例外的な12 回を含めて全員で17回に過ぎず、リストやアウトラインやメモなしで書き始めたのが参加

35 者に共通した特徴だった。

Arndt (1987) は、「計画」と並んで「包括的計画」の範疇を設けている。6名の中国人EFL 大学院生の思考発話法によるL1及びL2ライティングを分析した結果、「計画」にこだわる 書き手も、全く「計画」しない書き手もいたが、「計画」への固執は、テクスト産出を容易 にせず、かえって妨げとなることを指摘した(p.262)。

Hu & Chen (2006) は、「計画」の下位範疇として「包括的計画」と「局所的計画」を設け た。3名の中国人EFL大学生のL2ライティング方略について思考発話法でライティングし てもらい調査した結果、熟達していない書き手の方が熟達した書き手よりも「包括的計画」

を多く行い、「局所的計画」については量的な違いはなかった。「計画」の量ではなく、効 果的に「計画」を行うことが重要であると結論づけている(p.47)。

Van Weijen (2009) も思考発話法を研究手法として用いているが、「計画」に関する範疇に 包括的 / 局所的の区別は設けなかった。ライティングの最初の認知モデルである Hayes &

Flower (1980) の「計画」の下位範疇、「アイディア創出」、「目標設定」、「構成」から「アイ ディア創出」を独立させ、「計画」の下位範疇として新たに「自己指示」を加えた。22名の 大学生のL1(オランダ語)とL2(英語)でのライティング・プロセスを調査した結果、「計 画」全体の中で圧倒的に使用が多かったのは、L1、L2ライティング共に「自己指示」だっ た。L1 ではライティング・プロセスの最初に計画方略を使用した方がプロダクトの質に肯 定的影響を与え、L2では半ば以降に「計画」した方がプロダクトの質が良かった(p.99)。

このように、これまで比較的研究されてきた計画方略は、コード化範疇 1 つをとっても 多様で、研究結果も様々である。先行研究から、効果的にライティングを行うための鍵を 握ると思われる「包括的計画」は、独立した範疇として扱うArndt (1987) もあれば、Hu & Chen

(2006) のように「計画」の下位範疇としている研究もある。また、「包括的計画」の定義も、

全体的な構成についての計画とするArndt (1987) に対して、Hu & Chen (2006) は2パラグ ラフ以上の考えや構成の計画も「包括的計画」に含めている。

計画方略のコード化は、更に「リハーサル」のような他の範疇の影響を受ける可能性も ある。例えば、先に見たように、Raimes (1985) は思考発話プロトコルを分析して、例外的 な 1 人を除いて計画方略の使用が非常に少ないという結果を得たが、逆に「リハーサル」

は最も行われた活動の1 つであった(p.242)。「リハーサル」の範疇を設けないコード化範 疇を適用すれば、Raimes (1985) において「リハーサル」とされたのと同じ活動が、「計画」

としてコード化されるかもしれず、もしそうなれば、「計画」が少ないという結果にはなら ないのである。このように、範疇化の違いが研究結果に影響する可能性は否定できない。

研究目的に沿ったコード化範疇の設定が必要である。

次に、日本語をL1とする書き手を対象としたライティング研究における、計画方略につ いての結果を見ていく。

ESL環境における高校卒業後の日本人学生22名のライティングを思考発話プロトコル分

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析で調査したUzawa (1996) では、参加者のL1、L2ライティング・プロセスは熟達してい ない書き手のパターンを示し、書き出し前にアイディア創出をしたものの、それらのアイ ディアの構成計画は立てなかった(p.281)。また、ブレイン・ストーミングやトピック・セ ンテンスなどの用語は知っていても、それらの概念を実際にライティングに使用すること はできなかった(p.282)。

先に述べた、Hirose (2005) による、日本でのL1、L2ライティング・プロセス研究の計画 方略について、結果をまとめると、計画方略はL1ライティングからL2ライティングへと 転移しやすく、L1、L2ライティング共に、高グループの方が低グループよりも書き出し前 に時間をかけて計画しており、高グループの特徴は「包括的計画」の使用であったが、一 方、低グループの特徴は「局所的計画」の使用であった。この結果は、Sasaki (2002) のL2 ライティングにおけるエキスパートと初心者の計画方略使用の違いと一致する。また、山 西 (2004) は、L2ライティング能力により高校生16名を3つのレベルに分け、レベルが上 がるほどL2ライティングにおける「包括的計画」がしっかりと行われていることを確認し た。

Hirose (2005) の低グループには、「包括的計画」を行った学生もいたが、プロダクトの質

には反映されなかった。単に良い書き手の方略を使用することが、そのままプロダクトの 質の向上に結びつくわけではないという結論は、他の先行研究の結果とも一致している

(Sasaki, 2002; Hu & Chen, 2006)。Sasaki (2002) は、エキスパートは目標達成のために課題 の特徴を評価した上で「包括的計画」とその後のライティングを行うが、これは短期間に は習得できるものではないと述べている(p.74)。

このように、日本語をL1とする書き手を対象とした先行研究では、L2能力の違いが計画 方略の使用に与える影響と、ライティングの熟達度の違いによる影響とは、よく似ている。

L2能力が高い書き手や熟達した書き手は「包括的計画」を行い、L2能力が低い書き手や熟 達していない書き手は「計画」そのものを立てずに「知識伝達モデル」のような書き方を したり、あるいは「局所的計画」を行ったりすることが特徴的である。更に、ライティン グ方略などの概念を教え、実際に使用したとしても、それがプロダクトの質を高めるに至 るには、長期間の訓練が必要であることが示唆されている。

また、日本語をL1とする書き手を対象とした先行研究で、L2ライティングの「計画」に 主に L1 が使用されていることは(Sasaki & Hirose, 1996; Wolfersberger, 2003; Yamanishi, 2009b)、本研究の事前調査結果と一致している。Wolfersberger (2003) が調査した日本語を L1とするL2 能力の低い書き手は、ESL環境にあっても、「計画」に専らL1を用いた。計 画段階での L1 使用には、社会的側面も影響することも指摘されているが(Ferenz, 2005,

p.204)、L2能力が低い場合には、社会的環境に関わりなく、L1使用により認知負荷の軽減

を図るものと思われる。

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