(1) すべり系支承を有する免震橋の応答値の算出に際しては,地震力遮断デバイスや地盤,下部構 造の非線形特性を適切に考慮できる解析モデル及び解析手法を用いるものとする。
(2) 地震力遮断デバイスのモデル化は,4 章の規定に従うものとする。
(3) 動的解析に用いる減衰モデルは,地震力遮断デバイスのモデルを考慮して適切に設定しなけれ ばならない。
(4) 地震力遮断デバイスの摩擦係数のばらつきを適切に考慮しなければならない。
(1) すべり系支承を有する免震橋は,すべり現象を考慮した変位やすべり現象による減衰の効果及び 下部構造の非線形性を適切に把握するために,時刻歴応答解析法による動的解析法を用いることが 必要とされる。動的解析においては,すべり系支承はその特性に応じて非線形履歴モデルでモデル 化する。
すべり系支承に発生する摩擦力は一般に鉛直荷重に依存するため,地震時の鉛直荷重の変動によ って摩擦力が時々刻々変化することが考えられる。上下方向の地震動の作用に伴う摩擦力の変動が 地震時応答に及ぼす影響については,参考資料-6 に示しているので参考にしていただきたい。これ によると,すべり系支承の材料の組み合わせが「充填材入りPTFE+SUS」の場合には,その影響が 小さいことが実験的に明らかにされており,このようなすべり系支承を用いる場合には,動的解析 において上下方向の地震動を考慮する必要性は低いと考えてよい。ただし,実験で検証された場合 と諸条件が大きく異なる場合には,上下方向地震動により支承部の摩擦力が変動することによって,
橋の地震応答に大きな影響が生じる実験結果も得られているため,必要に応じて適切に設計に反映 させるのがよい。また,これは,水平 2 方向の地震動を受ける場合についても同様であり,橋軸直 角方向の地震動の作用によりロッキングが生じ,これによって鉛直荷重と摩擦力が変動することに よって橋の地震応答に影響を及ぼす可能性がある場合には,その影響を適切に考慮するのがよい。
なお,上下方向地震動や水平 2 方向地震動については,設計に用いるための標準的な時刻歴波形の 組み合わせは用意されていないので,必要に応じてその影響度を実際の観測波形を用いて検討する のがよい。
すべり系支承をバイリニア型でモデル化した場合には,数値解析上急激な剛性変化を有すること になるため,動的解析における解の収束が適切に行われているかを確認する必要がある。応答波形 に異常が見られるなど動的解析による時刻歴応答の確認により妥当な解が得られていないと判断 される場合は,解の収束計算方法の変更や動的解析時の積分時間間隔を細かくするなどの対処が必 要となるので注意する必要がある。
対象とする橋梁が,表-解 5.1.1 において静的解析の適用が可能なすべり系支承を有する免震橋 の場合には,静的照査法により耐震性能 1 の照査を行ってよい。なお,静的照査法によって耐震性 能 1 を照査する場合は,地震力遮断デバイスの等価剛性を以下により求めてよい。
Be s
B Qdu K
K = + (解 5.2.1) ここに,
KB
Qd
uBe
Ks
:地震力遮断デバイスの等価剛性
:すべり系支承の摩擦力(=Rdµ)
:支承部の有効設計変位
:ゴムバッファのバネ定数(等価剛性)
上記の方法は支承部の有効設計変位に応じて等価剛性が定まるので繰返し収束計算が必要とな る。ゴムバッファとして弾性ゴムを用いる場合には,上部構造変位,各橋脚の橋軸方向分担水平力 を計算することも可能である。これについては,参考資料-5 を参考にしていただきたい。
(2) すべり系支承及びゴムバッファのモデル化については,それぞれ,「4.2.2 すべり系支承のモデル 化」,「4.3.2 ゴムバッファのモデル化」に示した。
すべり現象による摩擦力は,摩擦係数及び鉛直力に影響を受ける。また,一般に摩擦係数は鉛直 力(面圧)やすべり面の相対速度に依存することから,すべり摩擦を正確に把握するにはこれらの 依存性を考慮したモデルとする必要がある。
ここで,一般に「充填材入り PTFE+SUS」の組み合わせのすべり系支承の場合,各種依存性に対 する摩擦係数の変化が小さいことが参考資料-6 に示す振動台実験等で確認されている。このように 使用するデバイスの材料の組み合わせにより各依存性の影響が小さいことが確認されている場合 は,依存性を考慮しなくてもよい。ただし,依存性を考慮しない場合は,材質に応じて適切な摩擦 係数を選定する必要がある。
曲線橋にすべり系支承を採用した場合など,すべる方向が一義的に決まらない場合は,任意の方 向に対して適切に摩擦力を評価することが必要となる。このような場合,すべり系支承を MSS(マ ルチシェアスプリング)要素のように複数の方向の検討が可能なモデル化とすることが望ましい。
すべり系支承の解析モデルは,理想的な摩擦特性としては矩形型の履歴曲線となることから,1 次剛性に大きな剛性を,2 次剛性に 0 に近い小さい剛性を有するバイリニアモデルを仮定する場合 が多い。すべり系支承の初期剛性が明確であればその値を用いればよいが,摩擦を再現するために できるだけ大きな値を仮定した初期剛性を用いることが一般的である。その場合,解析が不安定と ならないように適切な初期剛性を設定することが必要とされる1)。
(3) 地震力遮断デバイスのすべり系支承をモデル化する場合,摩擦力を超えるまではすべらない状態 を表現するために,一般に大きな初期剛性を有する剛塑性型のバイリニアモデルとしてモデル化す る場合が多い。摩擦力は,力学的には変位方向と反対の方向に一定の力として作用するため,これ を数値解析上適切にモデルに反映することが必要とされる。一般的な動的解析においては,構造系 の粘性減衰モデルとして,Rayleigh 型減衰や剛性比例型減衰を用いる場合があるが,このような減 衰モデルにおいて大きな初期剛性をそのまま機械的に考慮して解析を行うと解が適切に求められ ない場合がある。一般には,支承部に大きめの減衰効果が作用することにより支承部の応答値を小 さめに,その他の部材の応答値を大きめに評価する等の影響が生じる場合がある。したがって,す べり系支承を剛塑性型のバイリニア型でモデル化する場合には,減衰モデルについて注意するとと もに,動的解析から求められた応答値から断面力分布等を求め,橋全体として力の釣合いが成り立 っていることを確認したり,異なる減衰モデルを用いた場合の結果と比較する等により動的解析結 果が適切に求められているかどうかを確認するのがよい。
すべり系支承を有する免震橋の動的解析に用いる構造系の減衰マトリックスとしては,すべり系 支承の摩擦力自体は粘性減衰には影響しないものとして作成するのがよい。通常の動的解析ソフト ウェアでは,以下のような減衰モデルが組み込まれている場合が多いので,これを用いることがで きる。
1) 要素別剛性比例減衰モデル 2) 要素別 Rayleigh 型減衰モデル
ここで,1) の場合は,主たる卓越振動モードが 1 つの構造系の場合に適用性が良いと考えられ,
要素に与える減衰定数としては,卓越する振動モードのモード減衰定数を用いるか,あるいは,要 素毎に減衰定数を与える方法がある。また,2) の場合は,複数の卓越振動モードを有する構造系 の場合により適用性が良く,要素に与える減衰定数としては,応答に寄与する複数の振動モードを カバーできるように振動モードを選定して設定するのがよい。いずれの場合にも,すべり系支承の 減衰定数は 0 と設定する。なお,以上の減衰モデルは,本共同研究の中で実施したすべり系支承を
有する免震橋の模型振動台実験結果と概ね整合する結果が得られたものである。これについては,
参考資料-8 を参照していただきたい。
なお,減衰モデルにはいくつかの提案があり,時々刻々剛性を変化させる瞬間剛性を用いる減衰 モデルもあるが,数値解析が不安定になるとともに,応答値が実験値よりも大幅に大きくなる結果 が得られる場合もあるので注意が必要である。
要素別剛性比例型減衰,要素別 Rayleigh 型減衰での減衰マトリックスの作成方法を以下に示す。
(要素別剛性比例型減衰モデル)
[ ]
=
∑
= i
N i
ik C h
1
2
ω (解 5.2.2) ここに,
] [C
N
hi
ki
ω
:減衰マトリクス
:構造要素数
:構造要素iの減衰定数
:構造要素iの剛性
:固有円振動数(rad/sec)
(要素別 Rayleigh 型減衰モデル)
[ ] [ ]
= +∑ = i
N
i ik
M C
1
β
α (解 5.2.3) ここに,
] [M
α βi:質量マトリクス
:質量マトリクスに対する比例係数
:構造要素iの剛性に対する比例係数
さらに,すべり系支承の初期剛性の影響を取り除くために,便宜的にすべり系支承の 1 次剛性と 1 次降伏変位を非常に小さくしたトリリニアモデルでモデル化する方法も提案されている 2),3)。ま た,このような減衰モデルについては,すべり系支承に限らず,剛塑性型の力学特性を有するダン パー等同様な要素を有する場合には上記の減衰モデルが適用可能と考えられる4),5),6),7),8)。
アイソレーターとダンパーが一体になったゴム系の免震支承を単にエネルギー吸収による地震力 の低減を期待しない地震時水平力分散支承として使用する場合には,エネルギー吸収を図るといっ た免震支承としての性能が担保されないことから,免震支承は減衰性能を考慮しない一般のゴム支 承と同様にモデル化される。このため,地震力遮断デバイスを設計上すべり系支承の摩擦力による 減衰を期待せず,ゴムバッファによる地震時水平力分散支承として使用する場合には,耐震設計上 はすべり系支承はモデルとして考慮しないものとする。
(4) 地震力遮断デバイスのすべり系支承のモデル化では,要素試験結果に基づいて設定した摩擦係数 を用いる。「4.2.2 すべり系支承のモデル化」に示すような摩擦係数のばらつきが地震時応答に大 きな影響を与える場合には適切にそのばらつきの影響を考慮する必要がある。各種デバイス毎に摩 擦係数を確認し,デバイスのばらつきの範囲で橋の照査に対して決定要因となるケースについて動 的解析を実施して照査しなければならない。これは,地震力遮断デバイスにおいて,すべり摩擦に よる減衰機能を期待する場合には,その摩擦係数のばらつき幅がそのエネルギー吸収性能を決定づ ける支承部の履歴面積に直接的に影響を与え,地震時応答特性への感度が比較的大きく生じるため である。参考資料-7 には,摩擦係数のばらつきの影響を示している。摩擦係数が小さいと支承や橋 脚の変形が大きくなるため,ばらつきを考慮した上で摩擦係数を適切に設定する必要がある。ただ し,すべり系支承自体に作用する摩擦力は摩擦係数が大きい方が大きくなるため注意が必要である。