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1)創薬研究

 薬学部6年制の導入により薬学教育の幅が大きく広がってきている。

 一般に6年制を専攻する学生は臨床薬剤師を目指し、4+2制を専攻する学生は従来

どおり研究職を目指す予備軍と考えられている。

 製薬企業では研究職の採用の際に決して薬学部卒の4+2制の学生に拘ってなく、最 近ではむしろ薬学部以外の学部からの採用も えている。その背景として、創薬研究に 必要とされる専門教育が(例えば、有機化学、分子生物学、生化学、構造化学など)薬 学部以外でも履修可能であることがあげられる。そのため薬学部以外の多くの学生にも 研究職での採用の機会が与えられている。そういう意味では、製薬企業の研究者を目指 す上で、薬学部で学ぶことが決して有利に働くとはいえない状況と言える。しかしなが ら、医薬品に関連した一連の教育(創薬プロセス、臨床試験、製造、関連法規、調剤)

を受け、薬剤の開発・製造に関する全体的な流れを理解している薬学生は、依然、製薬 会社では貴重な人材である。

 最近、創薬研究も従来のやり方に留まらず、より臨床現場に即した創薬研究が注目さ れてきている。その主たる要因として、これまでの創薬研究がヒトではなく実験動物を 用いた非臨床研究が中心であったため、非臨床と臨床との間での大きなギャップのある 領域では、いくら動物実験で優れた有効性や安全性を示したものでも、ヒトでは十分な 臨床効果が得られないというケースが少なくなく、このことが、創薬研究の生産性を著 しく 下させる一因となっている。

 “では非臨床と臨床との間のギャップを縮める方法はないか?”この質問に対する回 答として最近注目されているのが、患者さんより得られた臨床材料や医療現場の情報を 取り入れた創薬研究、あるいは臨床早期の探索的臨床試験段階においてヒトでの有効性 を探索する手法である。具体的には、トランスレーショナルリサーチやバイオマーカー を用いた研究などが挙げられる。すなわち医療現場のアンメット・メディカルニーズを 収集し、現場より得られた情報を創薬研究にタイムリーに反映させ、さらに医薬品開発 の成功確率を上げていくかが創薬研究の生産性向上の大きな鍵を握っている。

 ところで6年制薬学生には医療現場での実習を通じて常に患者さんの目線で薬剤の有 効性や安全性を考える機会が与えられている。このような実践的教育は臨床の現場から の情報を生かして薬を作り出す現場志向型創薬研究の人材育成に大いに活かされるはず である。

 現在多くの薬学部の6年制を専攻する学生は、臨床実習に加え大学の研究室に配属と なり、研究テーマにも取り組んでいる。6年制の学生は4+2制の学生に比べ研究に費 やす時間は決して多いとは言えないが、一般的に創薬研究スキルが企業に入社後、数年 の経験を積み上げることで真に身がつくことを考えると、入社時点での創薬研究力には 6年制学生と4+2制学生との間に本質的な大きな差は無いと考えても何ら不思議では

ない。むしろ、6年制の新しいカリキュラムで薬学教育を履修した6年制薬剤師だから こそ、4+2制学生にはない医療現場での経験でしか得られない患者目線で判断する目 利きが大きな武器として期待できる。

 しばしば創薬研究の領域は4+2制学生の進む先とみなされているが、この領域も6 年制薬剤師の活躍の場の一つとなることが大いに期待される。

2)臨床開発・CRO

 臨床開発の仕事は、さらに、①開発企画、②モニタリング、③データマネージメント、

④臨床薬理、⑤統計解析 に細分化される。

 開発企画とは、薬剤の有効性と安全性を患者さんにおいて評価する臨床試験の全体の プランニングとマネージメントを行うセクションであり、各種ガイドラインに沿った臨 床開発計画(Clinical Development Plan:CDP)を立案し、それをブレークダウンした 個々の臨床試験の試験実施計画書(プロトコール)の作成から実施に向けた他部門との 調整など、迅速かつ的確に臨床開発を遂行することが役割となる。

 モニタリングは、全体の臨床開発計画に基づき計画された個々の臨床試験の内容を把 握した上で、その試験を実施できる医師や医療機関を選定し、医師に対するプロトコー ルの説明・合意を経て、医療機関と契 して臨床試験をスタートするとともに、その後 は試験の進行状況を随時チェックし、参加いただいた被験者の症例データの適正記載の 確認及び回収を行う。

 データマネージメントは、臨床試験により得られた症例データを集 し、記載ミスな どデータ間の不整合が無いかをチェックし、試験報告書作成の元となる試験結果データ ベースを作成する。臨床試験の質を高めるためには重要な役割となる。

 臨床薬理は、ヒトに投与された薬剤が体内でどのように吸収、分布、代謝、排泄する か試験するとともに、薬剤の有効性や安全性をより早期に判断するための臨床指標(バ イオマーカー)などについて考える部署である。

 統計解析は、臨床開発計画立案の段階から、コストや試験期間などを考慮しながら生 物統計学の観点から最も効率的な試験方法や評価方法・解析手法を提案するという役割 を担う。そして試験が終了した後は、作成した解析計画書に基づいて試験結果の解析を 行い、薬剤の有効性や安全性を評価する。

 これら臨床開発の仕事は、製薬企業内で全て行う場合もあれば、部分的にContract Research Organization(CRO)と呼ばれる社外の組織に委託し作業を進める場合もあ るが、仕事の進め方や業務遂行に必要な能力はほぼ同じである。

 臨床試験はGCP(Good Clinical Practice:医薬品の臨床試験の実施に関する基準)と 呼ばれる基準に則り進められる。臨床開発の仕事に従事するのに薬剤師の資格は必要な 条件ではないが、GCPなど薬事関連規制は大学の中でも実質的には薬学部のみで教育が 行われており、また医薬品を、単なる化合物ではなく、生命関連製品として世に出すべ きと理解しているのも薬学部出身者であることを考え併せると、臨床開発は薬学部卒業 生が担当する業務としてふさわしいと思われる。実際、臨床開発は薬学部出身者の比率 の高い部門の一つでもある。

 6年制薬剤師への期待:臨床試験では、明確に判断できる結果が得られるよう試験に 影響を及ぼす不要の因子は試験計画立案の段階で排除する。たとえば、他の病気を併発 している患者さんを試験に加えることを避けたり、可能であれば併用する薬剤に制限を 加え、また薬剤を規則正しく服用してくれるよう指導する。これは治験が介入試験であ る以上、当然の操作である。しかしながら、実際に薬が使われる臨床現場ではそうはい かない。様々な病気を併発して数多くの薬剤を服用している患者さんの場合、実生活の 中では服用タイミングの指示をなかなか守れないこともしばしば起こりうる。

 薬剤の安全性を考える上では、実生活でどのような患者さんがどのように服用するか をイメージし、数多くの該当者がいると想定される事例では、リスクマネージメントの 観点より、臨床試験の段階でそれらの事例での安全性や有効性を評価することが重要で ある。これは開発企画や臨床薬理の役割で、この業務に携わる人は医療の現場での様々 な状況を想像できなければ勤まらないが、この場面で、実習で実際の患者さんを見てき た経験は有用と考えられる。

 また、実習中に治験関連の院内業務を見たり学習した経験があれば、会社に入ってか らも、臨床開発の実務を会社側と施設側の両方の面から考えられるメリットもある。た とえば病院での臨床検査の現場で、何と何がいっしょに測定され、その各種測定結果が どのような形で出力されるか見知っていれば、モニタリングやデータマネージメントに てデータの記載ミスと思われる事例が見つかった際に、どのようにして間違いが生じた か原因を想像するのに役立つであろう。

 教室や職場の机に座っているだけでは分からないことが現場にはあるとしばしば言わ れるが、その現場を経験した上で会社に入ってくる6年制薬学部の卒業生は、臨床開発 の仕事を遂行する上で、従来の薬学部卒業生や他学部の卒業生とは違う存在となること が期待される。