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 薬局薬剤師のビジョンを実現するためには、法令制度の改革を含め、基盤の整備が必要 である。特に、以下の4点については今後、薬剤師業務の質を向上させる上で重要かつ不 可欠の課題であると考えられる。その取り組みは決して容易なものではないが、薬局薬剤 師が、国民の信頼を勝ち取り、地域包括ケアシステムの重要な一員として積極的な活動が できるよう、薬剤師会を挙げて取り組んでいかなければならない。

1)生涯学習の徹底

 日々高度化する医療の水準に対応するには、薬剤師個人の資質に応じた体系的な生涯学 習に取り組むことが不可欠である。全ての薬剤師が、ジェネラリストとしての資質の維持・

向上を目指し、「日本薬剤師会生涯学習支援システム(JPALS)」に登録し、生涯学習を 充実させるとともに、その認定は国民に薬剤師の資質を客観的に示す代表的な指標とする 必要がある。JPALSでは、ジェネラリストとしての認定にとどまらず、薬局薬剤師の専

門薬剤師・認定薬剤師の制度も検討している。例えば、在宅医療、無菌調剤、緩和ケア、

経管栄養、高度な薬学的管理が必要な疾患、妊婦授乳婦等の専門分野で認定を受けたスペ シャリストの誕生が期待される。

 薬剤師が薬局業務で培った経験や資質をさらに高めるためには、学会発表や調査研究能 力を身に付けた「Pharmacist - Scientists」として薬局業務の新たな役割を切り開く取り 組みも必要となる。そのため、薬剤師会が薬科大学や関連学会との連携を強化し、薬局薬 剤師が学位取得や協同研究に取り組みやすい環境を整備することが必要である。

 生涯学習および認定制度を通じ、薬剤師が常に最新の水準に基づく薬物治療を提供する と同時に、薬局業務における研究・開発にまで取り組むことにより、その社会的な信頼と 評価を獲得することが可能となる。

2)専門薬剤師の養成

 薬剤師は、生涯学習を通じてジェネラリストとしての能力を身につけるとともに、より 高度な専門性に特化した薬物治療の知識や技能を身につけることも求められる。厚生労働 省の「チーム医療の推進に関する検討会」が平成22年(2010年)3月にまとめた報告書で は、薬剤師がチーム医療に参画し、より積極的に処方提案、バイタルサインのチェックを 含む副作用モニタリング、薬学的な管理等を行うことが求められている。薬剤師が医療チー ムの一員として専門性に特化した高度な薬物治療の知識や技能を活用し、CDTM業務へ の発展をとげるには、様々な薬学や疾病の専門分野で「医療に関する広告が可能」とされ るレベルの「認定薬剤師」「専門薬剤師」を輩出する必要がある。

 そのため、薬局業務における公的な認定制度を積極的に構築するとともに、薬局薬剤師 が明確な目標と意欲をもって専門的分野の研修に取り組むことが求められる。

CDTM(Collaborative Drug Therapy Management)

 一人以上の医師と薬剤師の間で共同実務契 を結び、その契 を基に資格を付与さ れた薬剤師が診療ガイドライン等に基づくプロトコールに規定された内容に沿って、

患者ケア(患者の評価、薬物治療に関連する臨床検査の指示、投与計画の選択、医薬 品の投与、モニタリング、継続または修正等)を行うこと。

 

3)長期実務実習における指導者としての活動

 薬学生の長期実務実習は、薬学教育6年制の根幹であるとともに、薬学生の将来をも左

右する重要な制度である。長期実務実習をさらに安定して実施するため、より多くの薬局・

薬剤師が実習の受け皿として参加することが必要であるが、何より指導する認定薬剤師が 薬学生を指導できる資質を確保していることが重要である。また、薬局業務の質と管理体 制を充実させると同時に、実習の質を向上させるために不断の取り組みを実施することが 求められる。将来的には、指導薬剤師および受入薬局の認定、資質確認の在り方を見直す ことも必要である。

 薬学生の実習受け入れは、薬剤師にとって常に新しい薬学教育に触れる機会であると同 時に、第三者に薬局内をつぶさに見られることから、薬剤師に良い緊張感をもたらし、指 導薬剤師自身の自己研鑽ともなる。さらに、薬剤師の生涯学習においても、研究や学会発 表、バイタルサインや無菌調剤等の研修の場として、大学との連携も期待される。長期実 務実習を、薬学生と薬局薬剤師の相互に資質の向上をもたらす制度に育てることが必要で ある。

4)ICT化への取り組み

 薬局・薬剤師に欠くことのできない情報(厚生労働省、医薬品医療機器総合機構、日本 薬剤師会を含む医療関係団体や製薬企業による情報提供)の迅速な収集、JPALSやe-ラー ニングによる研修制度への参加、処方・調剤情報の電子化利用、地域医療連携ネットワー クや多職種連携における情報共有など、薬剤師が関わる様々な場面で、ICTを利用した情 報業務が標準となる。

 ICT化への対応が必須な状況では、デジタル・ディバイド(情報格差)が薬剤師業務の 質に影響を及ぼすことになる。また、技術が進歩してシステムが多様化するほど、その格 差は拡大することになる。薬剤師の薬学的資質とは関係しない要素で、業務の品質に格差 ができることは避けなければならない。そのため、日本薬剤師会が、医療情報や医薬品情 報の運用に関する情報提供とガイドライン等を作成するなど、薬剤師の情報格差の解消に むけたサポート体制の環境整備を行う必要がある。

 また、ICTを利用した調剤情報の疫学的な収集等により、国家的な事業である感染症サー ベイランス等に積極的に協力することにより、災害・危機管理対策と国民の健康維持に貢 献することも求められる。

   

まとめ ~薬局薬剤師の明るい未来を目指して~

 

 本稿では、医薬分業の完成を目指す上で取り組むべき、調剤業務、一般用医薬品供給、

在宅医療、チーム医療、地域活動などについて整理した。 

 これらの取り組みに共通する課題は、国民に顔の見える「薬剤師像」を示すことである。

そのためには、薬剤師の職能を高めることは勿論のこと、国民が何時でも気軽に利用でき るアクセス環境を整備することが重要である。国民に「処方箋を持っていなければ薬局に 入りにくい」という印象を与えてしまっては、国民から支持される成熟した医薬分業を構 築することはできない。

 現在の法体系では、職能団体である薬剤師会が、個人・法人が所有する薬局の運営方針 を強制することは極めて難しく、自主的な倫理規定等により公共性と水準を維持すること が唯一の方策である。しかし、薬局が医療提供施設として医療計画や地域包括ケアシステ ム等において地域医療を支える公共的な役割を担うことを考慮すれば、経営形態の別を問 わず、薬局の開設責任者は医療人たる薬剤師に限定するよう、要件を抜本的に見直すこと が必要である。さらには、薬局が地域で求められる全ての医薬品供給サービスに対応でき る規模を確保する観点から、薬局の適正な配置の在り方についても再検討が必要である。

 現在、超高齢化、人口減少による社会保障費の逼迫という将来に備え、様々な改革が実 施されようとしている。われわれ薬剤師は、地域における医薬品供給の責任者として、こ のような社会情勢に対応する質が高くかつ効率のよい医薬品供給体制を構築するため、提 供する多様な業務に関する結果について明確なエビデンスを示すことが必要である。その ためには、個々の薬局薬剤師が日常の業務および薬剤師会の活動を通じ、地域における医 療チームの一員として、新たな地域医療・介護提供体制である地域包括ケアシステムの整 備に取り組むとともに、薬学教育6年制と生涯学習制度を基礎として、医学・薬学の進歩 に応じた資質を担保することが極めて重要である。このような積み重ねが評価され、国民 から全ての医薬品供給を任されることこそが、医薬分業の完成への道筋である。

  

国民から顔の見える薬剤師像を確立するために

●医療・薬物治療の進歩に応じた新たな役割を創る

●地域に密着した健康ステーションの役割を創る

●医療チームにおいて多職種から評価される薬剤師像を創る

●地域包括ケアシステムに参画し、地域の医療・介護提供体制を創る

●成熟した医薬分業体制を創り、完全分業制度を実現する