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1)かかりつけ薬局・薬剤師の定着

 薬局・薬剤師が患者や消費者から「かかりつけ」として選ばれるためには、薬剤師によ る高い専門性に基づく指導・情報提供、相談応需体制、コミュニケーションスキル、一般 用医薬品を含む幅広い医薬品供給体制、在宅医療応需体制、地域の実情に応じた開局時間、

休日夜間の医薬品供給体制、薬局の店舗環境(プライバシー保護、バリアフリー等)の対 応が求められる。

 完全医薬分業を実施している欧州諸国の状況をみると、医師による調剤は極めて厳しい 制限下(山間僻地で薬局がない等)で例外的に認められる以外は禁止されている。一方、

薬局・薬剤師には、地域で必要な全ての医薬品を一元的に供給する義務が課せられており

(例外としてメールオーダー調剤のみを行うclosed pharmacyが存在する)、幅広い薬局・

薬剤師機能を提供する体制が整備されている。

 つまり、「調剤しか行わない薬局」は、わが国特有の形態であり、諸外国では「ありえ ない絵姿」であることを再認識する必要がある。今後、わが国で成熟した医薬分業を実現 する為には、薬学的な質の向上とともに、地域に密着した総合的な薬局・薬剤師サービス の提供体制を整備し、多くの薬局・薬剤師が「かかりつけ」として選択されることが求め られる。

2)在宅医療への薬剤師の関わり

 超少子・高齢化の進展に伴い、在宅医療の推進がわが国の医療提供体制における喫緊の 課題となっており、より多くの薬局・薬剤師が日常業務の一環として在宅医療に参加する 体制を整えることが求められている。薬剤師は、地域包括ケアシステムにおけるチーム医 療の一員として薬学的な専門性を活用し、在宅患者のQOLおよびADLの改善、在宅医療 における医薬品の適正使用、医療安全の確保、在宅医療チームの負担軽減、薬剤費用の適 正化などに貢献することが求められる。

 平成22年(2010年)に実施されたチーム医療推進検討会の報告では、「在宅医療を始め とする地域医療においても、薬剤師が十分に活用されておらず、看護師等が居宅患者の薬 剤管理を担っている場合も少なくない」という指摘があった。われわれ薬剤師はこの指摘を 真摯に受け止め、危機感をもって積極的に在宅医療に参加する取り組みを行う必要がある。

 現在、訪問薬剤管理指導等の届出は全保険薬局の7割を超えており、在宅医療の拠点数 としては十分な薬局数が存在している。しかし、実際に訪問薬剤管理指導を実施している 薬局は2割以下であり、薬局・薬剤師の潜在的な機能が十分に活用されていない状況にあ る。日本薬剤師会では、平成22年(2010年)より「在宅療養推進アクションプラン」を実 施し、かかりつけ薬局・薬剤師がより積極的に在宅医療に参加するための環境整備を進め ている。これを契機に、これまで在宅医療に参加する機会や意志がなかった薬局薬剤師が、

ごく当たり前の日常業務として在宅医療に参加することが望まれる。

3)医療提供施設となった薬局における開設者と管理薬剤師

 平成4年(1992年)の医療法改正において、薬剤師は「医療の担い手」として位置づけ られた。また、平成18年(2006年)の医療法改正において「薬局」が医療提供施設と位置 づけられた。平成25年(2013年)に制定される医療計画では、地域における医療提供体制 の中で薬局が果たすべき役割がより明確に位置付けられている。薬局は、個人や法人が所

有する私的な施設である一方、医療提供施設として地域における公共的な役割を担うこと が求められる。

 さらに、保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則第2条の3第2項において、「保険薬局は、

その担当する療養の給付に関し、健康保険事業の健全な運営を損なうことのないよう努め なければならない」と規定されており、公的医療保険サービスに関わる公的な保険医療施 設としての責務も負っている。

 そのため、薬局開設者には、一般的な経営者としての社会的責任はもとより、医療、介 護、医薬品供給、保健衛生など、薬局に求められる役割を十分に理解し、地域社会に貢献 する矜恃が求められる。

 現在、薬局の開設者は薬剤師に限られていないため、本来開設者自身が実施すべき薬局 管理の役割を勤務者である管理薬剤師が担っている場合が少なくない。薬事法および薬事 法施行規則では、開設者が管理薬剤師でない場合の遵守事項として「薬局の管理者の意見 を尊重しなければならない」と規定している。また、薬局管理者の義務として「薬局の管 理者は、保健衛生上支障を生ずるおそれがないように、その薬局に勤務する薬剤師その他 の従業者を監督し、その薬局の構造設備及び医薬品その他の物品を管理し、その他その薬 局の業務につき、必要な注意をしなければならない」「薬局の管理者は、保健衛生上支障 を生ずるおそれがないように、その薬局の業務につき、薬局開設者に対し必要な意見を述

べなければならない」と定め、薬局業務の質を担保している。

 一方、薬局の開設に際し、薬局が医療提供施設として果たすべき公共的な役割を担保す る仕組みがないことは問題である。今後、薬局・薬剤師が地域の医療計画・介護保険事業 計画等に対応できる体制を構築するためには、薬局開設における開設者要件、管理薬剤師 要件、提供するサービス内容、地域医療提供体制への協力などの義務化についても検討す る必要がある。

 また、薬局における業務上の過失等が発生した場合、薬剤師の開設者には薬剤師資格の 停止・取り消しなど身分に関する行政処分が行われるが、非薬剤師の開設者は民事及び刑 事上の処分のみにとどまることから、開設者要件と法的責任についても明確にする必要が ある。

4)副作用報告制度・DEM・ヒヤリハット事業

 副作用被害および薬害による被害の拡大を最小限にするためには、医薬品情報の充実が 求められる。薬剤師の重要な責務として、その情報源となる日常の業務で得られた副作用 情報を医薬品・医療機器等安全性情報報告制度に報告することが求められている。しかし ながら医療機関や薬局からの報告をみる限り、その件数は必ずしも十分であるとはいえず、

薬の専門家である薬剤師が積極的に副作用報告を実施する責務を果たすことが求められる。

 日本薬剤師会では平成14年度(2002年度)からDEM(薬剤イベントモニタリング)事 業を実施しており、カルシウム拮抗剤によるイベント発現をテーマとした平成18年度(2006 年度)事業では24万件を超える報告が寄せられるなど、副作用・薬害の防止に向けた意識 の高さを示す結果となっている。

 また、平成21年度(2009年度)より、公益財団法人日本医療機能評価機構による「薬局 ヒヤリハット事例収集・分析事業」が実施されている。本事業には、平成24年(2012年)

12月31日現在7,225薬局が参加しているが、参加薬局数および認知度は未だ い状況にあ り、全ての薬局が参加することが求められる。

5)薬学実習生の指導

 平成22年(2010年)5月より薬学生の長期実務実習が始まり、平成24年(2012年)3月 までの2年間で、 18,000人の実務実習が終了した。また、薬局の受け入れ態勢も、指導 薬剤師が 13,000人、受け入れ薬局数として 8,000薬局の受け入れ態勢が整っている。初 めての長期実務実習であったが、関係各位の努力と連携により大きな問題もなく、順調に 2年間の実習を完了することができた。

 今後は、長期実務実習をさらに安定して実施するため、より多くの薬局・薬剤師が実習 の受け入れに参加することが必要である。また、薬学生を指導することは、薬剤師にとっ て後継者を育成すると同時に、自己研鑽の機会ともなることから、今後とも指導薬剤師の 養成を継続することが必要である。

6)生涯学習

 薬剤師が職能を発揮するには、日常の業務で研鑽を重ねると同時に、生涯学習に取り組 むことで、時代とともに進歩する医療・薬物治療の高度化に対応することが求められる。

薬剤師が効率的かつ高いモチベーションを維持して生涯学習に取り組むためには、体系的 な指標に基づいた研修制度や認定制度が求められる。

 平成24年度(2012年度)より日本薬剤師会では、薬剤師に求められるプロフェッショナ ルスタンダード(PS)による体系的な学習の指標と、ポートフォリオ(学習履歴)と Web Testを組み合わせた認定制度の仕組みを持つ「生涯学習支援システムJPALS」をス タートした。JPALSは、多様な薬剤師の職種および業務経験に対応するシステムであり、

全ての薬剤師が活用し、積極的に生涯学習に取り組むことが求められる。