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 薬学6年制教育での核となる長期実務実習において、現行の指導システムでは、薬学 生に年間を通して活動する学校薬剤師の実務と職責の重さを学ばせるのに不十分であ る。

 この問題を解決するためには、まずは「薬剤師綱領」の意味するところを教えるとと もに、長期実務実習のモデル・コアカリキュラムのうち、「地域で活躍する薬剤師」ユニッ ト中の、学校薬剤師に関する到達目標と指導内容を見直し、実際の業務をより深く経験 することが必要である。具体的には、現行の指導では学校安全計画への参画・環境衛生 検査等の職務等を説明するのみにとどまっていた点を見直し、実際に学校に随伴し業務 を経験する機会を やし、学校管理者や養護教諭と接し、学校保健安全法の意図すると ころを体感すること等が挙げられる。

 加えて、実践の機会を やすということは、指導側が業務に関し十分掌握していなけ ればならない。すなわち、認定実務実習指導薬剤師がまず実際に学校薬剤師として従事

していることが重要であり、すでに学校薬剤師である場合は、業務内容をさらに深く理 解し、これまで以上の研鑚が求められる。

Ⅲ.まとめ

 以上、学校薬剤師の現状と今後の取り組みについて将来ビジョンを提示した。学校薬 剤師は、薬剤師本来の職能を学校保健活動の中で発揮することにより、国民が生涯を通 して健康な生活を送る事ができることを目的としている。学校薬剤師は、学校保健活動 を推進する中で学校環境衛生の維持・管理の指導・助言に加えて健康相談・保健指導を 学校関係者に行う必要があり、今後益々、学校保健活動への参画が期待されている。

 学校薬剤師を取り巻く環境が大きく変化しているこの時期に、職務内容を見直し、組 織のあり方を検討し、学校薬剤師個々のレベルアップを図るための制度を確立し、また 学校関係者、学校三師、関係団体、関係行政等との連携を密にすることにより、児童生 徒の学校環境の維持・改善と健康の保持に真に貢献することを目指したい。そのことが、

薬剤師そのものに対する信頼感の醸成と地位向上にも繋がっていくことになろう。

 これからの学校薬剤師は、積極的に保健教育に参画し、地域保健活動にも貢献してい かねばならない。例えば、全国民が受ける生涯を通しての医薬品適正使用教育は、学校 薬剤師による小学校・中学校・高等学校における系統的な教育に基づく「くすりの正し い使い方」から幕を開ける。今こそ、世界に類を見ない学校薬剤師制度がどれだけ有益 であるかを示すために、学校薬剤師は自負を持って積極的に業務に取り組まなければな らない。

 こうした時代の要請に応えるため、本稿では将来ビジョンとして、標準的学校薬剤師 モデルの確立、薬学生の長期実務実習指導内容の見直し等を提案した。これらを実現す るためには、学校薬剤師が職能を十分に発揮するための支援基盤を充実させる必要があ る。

 地域社会に貢献することは薬剤師の本来の目的であり、薬剤師の職能の全てをもって、

学校薬剤師として「学校保健活動」の推進にあたる時が来ている。

 薬剤師1世紀余の歴史は、医薬分業の推進を中心とする薬剤師職能の確立のための運動 史であった。そして今、院外処方箋は7億枚を超え、病院薬剤師業務は臨床業務にシフト し、その他薬剤師関連の法令制度の整備も進み、私たちは運動の一定の成果を上げつつあ る。しかし、薬剤師はこのままでよいのか、という焦りにも似た思いを多くの薬剤師が持っ ている。現行制度の中に“安住する薬剤師”のままでは、薬剤師の将来はないのではない か、と。

 私たちが目指してきた医薬分業は、数字的目標を達成することが「目的」ではなかった。

病院薬剤師の病棟活動も、医療チームにおける存在感を すことが「目的」ではなかった。

医療の担い手も、医療提供施設としての位置付けも、薬剤師教育6年制も、社会的評価を 上げることや、経済的豊かさを求めることが「目的」ではなかった。薬剤師が「国民の生 命や健康を守るために自らの職能を十二分に発揮する」という「目的」を達成するための

“ツール”として、先達も、そして私たちも、それらの実現に努力を続けてきた。

 今、超高齢社会を目前にして、経済も社会も大きな変革の時代にある。2025年、我が国 は、いわゆる“団塊の世代”の全ての人々が後期高齢者世代に達し、それから2050年ごろ まで、およそ30年近くにわたって高齢者人口は 加を続け、さらにその後も高齢者人口 40%の超高齢社会が続いていく。そのような時代をいかに乗り越えてゆくか、そのために 高齢社会の基盤である医療提供体制や年金、福祉制度をどのような形にしていくのか、社 会も政治も模索を続けている。少なくともこの10年の間に体制を作り上げていかねばなら ない。

 超高齢社会にあって、国民が、医療従事者に期待するものは、“健康で安心な長寿社会 の構築”への貢献であろう。人生80年を健康に過ごすために、国民の健康志向は更に強い ものとなるであろう。いつでも、どこでも、質の高い、優れた医療を受けることができる 医療体制を求める国民の期待はますます大きなものとなろう。それに応えるために、医療 従事者のなすべきことは、更に えてゆくであろう。薬剤師は、1世紀にわたる努力によっ て獲得してきた“ツール”を用いて、この10年の間に、来るべき超高齢社会に貢献できる 体制づくりを進めなければならない。更に一段上の役割、責任を果たしていかねばならな

 第一に、言うまでもなく、薬剤師の社会的責務の基本は、「人々の生命、健康を守るた めの、医薬品の適正な使用、安全性の確保を図り、医薬品の最大効果を引き出すこと。」

である。それは、医療の場だけでなく、医薬品開発、製造、流通など、どのような場で業 務を行っていようがその基本は共通するものであり、全ての患者や健康であり続けたいと 願う国民のために、オール薬剤師が弛まぬ努力を続けねばならない。直接患者と接するこ とがなくとも、自らが携わっている業務が人々のために貢献するという思いと高い倫理観 を持ち、常に視野を広げ、能力を高めることにチャレンジしていきたい。

 第二に、少子高齢化という国民的課題に貢献する薬剤師である。医療機関や薬局など「施 設完結型医療」の時代は終わり、これからは「地域完結型医療」の時代を迎えている。そ して、個々の医療従事者の「個別プレー」の時代ではなく、「チーム医療」が不可欠の時 代である。地域医療体制の一員として、医療チームの一員として、薬剤師はその責任を果 たしていかねばならない。加えて、薬剤師は、地域住民のセルフメディケーションに対す る支援まで、幅広く関わることのできるその特性を生かし、およそ医薬品の存在する全て の場にあって、社会的貢献を果たしていかねばならない。

 そして、このビジョンを支えるものは、薬剤師の学習、自己研鑽体制の構築である。平 成18年(2006年)から薬学教育6年制がスタートし、また、平成24年(2012年)4月から は、日本薬剤師会生涯学習支援システム(JPALS)が始まっている。これらのことは、

薬剤師の資質向上や業務の進展につながる基盤が整備されたことになる。生涯を通じての 弛まぬ学習、研鑽こそ、全ての医薬品に関し主体性をもって社会的責任を果たすという、

プロフェッションとしての役割を築き上げてゆく道である。

 薬剤師は他の医療資格者と比べ活躍できる分野は広い。本ビジョンでは、多様な薬剤師 の各職域の将来を論じたが、それぞれの場にあって職能分野の拡充に努め、新たな職務に 挑戦し、薬剤師の社会的存在の意義が全ての国民に周知されるよう、邁進していきたい。

発行人  児 玉  孝

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