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「卸薬剤師の存在と役割」

 薬剤師法第一条の中にある「供給」の意味は、製造、輸入、販売等、医薬品流通にか かわることを広く包括する意味になっており、医薬品卸業に従事する薬剤師の存在とそ の役割についても、この薬剤師法第一条に明確に規定されている。また、薬害事件の発 生等から安全対策の強化が叫ばれ、医薬品卸業に従事する薬剤師の役割も、より高度な 供給・品質管理と安全対策を担うことが社会から強く求められるようになってきた。

「卸薬剤師の機能と役割」

 様々な医療機関にどのような医薬品を供給するかの判断について、医薬品卸側での適 切な管理が求められている。この適切な管理を行うため医薬品卸は、物流センターや営 業所に管理薬剤師を配置し、供給管理と品質要件確保に努めてきた。医薬品流通の中で 働く薬剤師の機能と役割により、表2に示す『毛細血管型』(少量多頻度、情報提供等

の多機能を有し、多くの取引先に対して配送をする型)と呼ばれる安全で安定した供給 体制が構築され、維持されてきた。

表2 毛細血管型流通「取引先軒数の欧米との比較」

(動脈流通)

医薬品情報を伴い、欧米に比べて多い取引先に納入 併せて医薬品比較情報の提供・少量多頻度配送

(静脈流通)

製品回収、副作用情報等の収集

卸の配送軒数(軒)

人口 病院 診療所 薬局 合計

日本 12,790万人 8,794 166,862 53,304 228,960

アメリカ 29,540万人 (2004)

5,759 — (2004)

64,562 70,321

ドイツ 8,260万人 (2003)

2,197 — (2004)

54,640 56,837

参照:厚生労働白書(平成22年(2010年)版)

 供給と品質管理に薬剤師が関与し深く関わることは、日本独自の医薬品流通の特徴で、

医薬品適正管理のあり方を世界に知らしめるものである。さらに、最近では災害やパン デミック対策における供給管理に医薬品流通で働く薬剤師が関わり、危機管理にも適合 した供給体制を確立するなど、世界の医薬品流通がめざす模範となっている。

「卸薬剤師の業務と役割」

 医薬品卸業に従事する薬剤師は、薬剤師の中でもその業務が医薬品の流通過程におけ る品質管理という組織内部で行われることや、病院・薬局等の医療施設のように、患者 と直接に対面し医薬品に関する情報を提供する等の業務を行っていないため、その仕事 内容が一部の医療従事者にしか広報できにくいという本質を有しており、とりわけ姿の

見えない状況となっている。

 医薬品卸業として、医薬品等の管理について、商品の供給は、品質を損なうことのな いよう、日本医薬品卸業連合会が独自に定めた自主規範である「医薬品の供給と品質管 理に関する実践規範」(Japanese Good Supplying Practice:JGSP)に沿った管理が行わ れている。医薬品は、生命関連商品であること、効果ばかりでなく副作用を伴うことな どの他に、その外観からは情報を得難いために、個別に情報の伝達を必要としている。

そのため流通においても情報の提供・収集やDI業務を行っている。また、得意先に医 薬品等の供給を行うMSに対し、その商品特性から専門的な教育が必要であり、加えて、

災害時の対応、地域薬剤師の研修や適正使用を図るための活動も、地域医療への貢献と して必要な業務となっている。

 日本の医薬品流通は、そこに働く薬剤師の一人ひとりが、医薬品の供給における品質 管理と安全管理に関する実践規範に基づいた高い職業倫理観を持って、弛まぬ努力を長 い間重ねてきたことで、この世界に誇れる体制の構築に寄与してきたといえる。

 以下、役割を大きく4項目(1.供給の管理、2.情報の提供・収集とDI業務、3.人材 の育成、4.地域との連携と貢献)に分けて示す。

1. 供 給 の 管 理         (JGSP(Japanese Good Supplying Practice))

 日本医薬品卸業連合会は、昭和50年(1975年)、「医薬品の供給と品質管理に関する実 践規範」(JGSP)を業界の業務指針として策定した。その後、医薬品等に対する安全対 策を強化する観点から、平成19年(2007年)には医薬品等の安全管理に関する項目を加 えた「JGSP2007」が、翌年には「JGSP2008(一般薬版)」が策定され、医薬品等に対 する安全対策強化が盛り込まれ、業務の一環としての「安全確保業務」が追加された。

管理薬剤師等(管理薬剤師及び薬事に関わる薬剤師)の業務及び役割が、この医薬品卸 業界の自主規範JGSPに明記されており(P167参照)、これに準拠して業務に従事し、流 通の一翼を担っている。

 JGSPでは、JGSP実施管理者である管理薬剤師の任務を  ⑴品質管理に関する環境衛生の維持についての指導  ⑵品質管理についての指導

 ⑶安全確保業務における運営状況の管理及び指導

と規定し、運営状況の管理・指導並びに意見具申を行うこととしている。

【管理薬剤師等の任務】

(1)薬事法に基づいた医薬品等の販売管理

 医薬品卸売業者は、医薬品の販売先等が限定されており、管理薬剤師が適正な販売 先であるかをチェックし、違法な販売が行われないように指導・管理している。

 また、得意先の許認可情報を調査し、コンピュータシステム的な販売規制により、

適正販売を実施しており、この得意先の許認可調査にも管理薬剤師が深く関与してい る。

(2)特殊な販売管理が必要な医薬品の管理

 厚生労働省の指導やメーカーの要請により、メーカーが納入を認めた医療機関や薬 局以外には販売できない医薬品がある。これらを受注した場合は、メーカーに納入可 否の確認を行い、メーカー MRが適正使用に関する情報を提供し、納入が認められた 後に販売が可能となる。このような医薬品のメーカーとのやり取りを行い、適正販売 を実施するのも管理薬剤師の業務である。

特殊な管理が必要な医薬品:

①重篤な副作用や催奇形性の危険性がある医薬品

②使用に際して医師等に手技講習の受講が義務付けられた医薬品

③使用に際して外部機関(第三者機関)の承認が必要な医薬品

④全例調査が義務付けられた医薬品 等

(3)品質管理に関する環境衛生の維持

 卸企業における医薬品等の品質管理に必要な建物の構造設備や作業環境等に関する 事項であり、卸企業に求められるものである。

①薬局等構造設備規則に基づく供給環境の維持確認

②作業環境の維持

③汚染対策

④保管設備、防災対策

⑤設備の正常稼動

(4)品質管理

 管理薬剤師等は支店・営業所の責任者と共に、薬事法や麻薬・向精神薬取締法等の 法令に基づき適正、かつ公正な物流、販売によって医薬品等の安定供給がなされるよ う、日常業務において医薬品卸企業の従業員に対するJGSPに則った指導に努める必 要がある。

 さらに、配送中の温度管理や盗難防止策、医薬品廃棄などへの対応についても考慮 しなければならない。

(5)安全確保業務における運営状況の管理

 安全管理業務手順書を営業所(支店等)に設置し、JGSPに則った指導が行われる。

また、営業所長(支店長等)との連携を密にし、MSの安全確保業務への取り組みの 指導を行う。

 さらに、トレーサビリティ確立のための流通履歴の管理や、回収品等を管理し、適 正使用への貢献が求められている。

①安全管理情報の収集・提供システム

②製造販売業者からの安全管理情報の医療機関等への配布

③製造販売業者からの安全管理情報の在庫製品への貼付

④トレーサビリティの確立

⑤回収品、戻り品 等