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 国民の自らの健康に対する関心は、「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本 21)」の推進や健康 進法の施行等の国の方策とインターネットの普及による情報入手の

容易さが相まって急速に高まっている。

 また、医療構造改革の一環として始まった特定健診・特定保健指導は、健診によるスク リーニングと自らの行動変容を促すことにより生活習慣を改善するもので、生活習慣病の 一次予防策と位置づけされている。

 薬剤師は、これらに代表される予防医学的な取り組みに対して、その職能を可能な限り 提供すべきであろう。

(1)特定健康診査・特定保健指導への関わり

 特定健康診査は、内臓脂肪症候群に着目した健康診査であり、糖尿病、高血圧症、脂質 異常症等の生活習慣病の予防を図ることを目的としている。特定保健指導は、特定健康診 査の結果から、生活習慣病の発症リスクの程度に応じて生活習慣を見直すサポートを行う ものである。

 薬剤師が担当出来る範囲は、特定保健指導における食生活改善指導と運動指導であるが

(いずれも所定の研修受講が必要)、特定健康診査では喫煙習慣がリスク要因として挙げら れていることから、喫煙者に対する積極的な禁煙指導を行うことも必要である。

(2)市中感染症モニターへの関与

 医療関連感染管理に必要な外部情報は、最新かつ正確な情報を組織的に収集し、関係職 員に伝達され活用される必要がある。薬剤師は、医薬品情報活動を日常的に行っており、

情報の収集・整理・提供の手順は熟知している。また、インターネット等の情報収集のた めの環境も整備されていることから、専任の情報収集担当者が配置出来ない施設では、感 染管理に必要な情報の管理者として適任と思われる。

 情報は、厚生労働省や国立感染症研究所、国立衛生試験所、都道府県の感染症情報セン ター、地域の医師会等から収集するが、世界保健機構(World Health Organization:

WHO)、疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)の 情報も有用である。最近では、健康危機情報早期収集システムや学校欠席者情報システム 等の適時性の高い情報収集が行われるようになっており、インフルエンザの流行等の速や かな情報収集が可能になっている。

(3)ワクチンの管理と接種

 予防接種は、感染予防、発病予防、重症化予防、感染症のまん延予防等を目的としてい る。対象疾患は、定期の予防接種(一類・二類疾病)の他、B型肝炎母子感染予防事業に

基づく予防接種(B型肝炎)や任意の予防接種(子宮頸がん、ヒブ、小児用肺炎球菌)が ある。ワクチンは、保管条件が厳重であり使用期限も短いことから保管・管理には薬剤師 が関わることが望ましい。具体的には、予防接種の予 受付とワクチンの確保及び出庫、

接種スケジュール調整、接種後の副作用発現のモニター及び報告が考えられる。また、担 当者や担当部署がない施設では、医療従事者へのワクチン接種の推奨や啓発、海外渡航者 への必要なワクチン接種の勧奨は、薬剤師が適任と思われる。

(4)市民教育への関わり

 地域で開催される健康や保健に関する催しに参加し、お薬手帳の携行と利用の方法、医 薬品の正しい管理方法、医薬品や健康食品の適正使用等について啓発活動を行い、食事・

運動相談や禁煙相談等の健康相談にも預かる。

 具体的には、自治体主催の健康フェア等に三師会(医師・歯科医師・薬剤師)の一員と して地域薬剤師会と協働する他、ロータリークラブ等の地域親睦団体への参加、学校薬剤 師としての教育・啓発活動、各種媒体を通じた定期的な情報発信等が考えられる。

 施設内での開催は、地域開催に比べ相談者の目的意識が高い。上記の活動に加え、服薬 相談や健康相談、喫煙者には禁煙の動機付け支援が行い易い。また、健康診査の受診や適 切な診療科への受診勧奨を行うことも可能となり、市民の健康な生活に貢献出来る。

(5)災害時の対応

 災害時の病院薬剤師の役割には、自院で果たすべき役割と被災地等に赴き医療チームの 一員として医療支援を行う場合があり、病院の機能や特性に応じた役割を果たすことが求 められる。備蓄用医薬品の選定・管理・確保は全ての医療機関での共通の役割であり、医 薬品の緊急時対応マニュアルの整備とともに多職種への周知が必要となる。患者・家族に は非常時の服用薬の確保について(「処方箋医薬品等の取り扱いについて」平成17年(2005 年)3月30日 薬食発第0330016号、一部改正 平成23年(2011年)3月31日 薬食発 0331第17号)日頃から周知を図る。また、除細動を含むBLS(Basic Life Support)やト リアージ法等の救急救命手技・技術は、薬剤師も習得することが望ましい。

 災害 遣医療チームへの薬剤師の参加によって診療効率が格段に上がることが評価され ており、電気・通信基盤などの社会基盤が壊滅的な影響を被る大規模災害では、お薬手帳 などの紙媒体や面接による処方薬の情報収集および備蓄医薬品の種類と備蓄量を勘案した 最善の処方支援が行える体制の整備が必要である。

 電気の供給停止により電子カルテ、オーダリングシステム等が停止する事態も想定し対

応法を定めると共に、秤量機器、薬包紙や薬袋等調剤に必要な備品、消耗物品を備蓄して おくことも忘れてはならない。

 なお、日本薬剤師会を含め各薬剤師会が発行している『薬剤師の災害対策マニュアル』

は必読の書である。

表1:大規模災害時の病院薬剤師の役割

日常の準備 急性期(直後~ 3、4日程度) 亜急性期(~ 2、3週間程度)

ライフラインの途絶、情報の 混乱、医薬品・医療器具の破 損、不足、外傷患者集中

ライフライン復旧、物資の搬 入、救援体制の整備、慢性疾 患の 悪、ストレス性障害の

• 備蓄医薬品の管理

• 災害救護用医薬品のリスト作

• 災害救護用医薬品の管理

• 医薬品のニーズの把握

• 被災者の受け入れ(特に重 傷患者への処置)

• 被災地における医療支援

(投薬、服薬指導、収容施 設への巡回による常用薬の 確認・相談)

• 処方支援(限られた医薬品 からのベストチョイス)

• 備蓄医薬品リストの作成

• 通常在庫+3日分程度の発注

• 災害時 束処方の作成

• 取引医薬品卸との協議

• 地域の薬剤師会との協議

• 緊急連絡網の整備

• 使用可能な医薬品の把握

• 現場への医薬品の供給

• 医薬品の確保

束処方の調剤と服薬指導

• 軽傷者の処置

• 環境衛生対策

• 医薬品の供給と確保

• 調剤と服薬指導

• 環境衛生対策

• 救命救急のスキル習得*1

• 備蓄医薬品の選定*2

• 災害時 束処方の作成

• 備蓄医薬品の管理*3

• 他のメディカルスタッフと の連携*4

• 服薬継続が必要な患者(イン ス リ ン・ 心 疾 患 治 療 薬・ 抗 HIV等)への災害時の対応に ついての患者教育実施*5

• 医療救護所設営場所・近隣の 災害拠点病院の確認

• 使用可能な薬剤の把握

• 医薬品の確保

束処方の調剤と服薬指導

• 軽症者の処置

• 他医療施設への搬送支援

• 医療救護所との連携

• メディカルスタッフの健康 管理

• 衛生状態の管理

• 医薬品の確保

• 服薬指導

• 使用出来る代替医薬品の提

• 重要患者への連絡

• 他医療機関との連携

• 衛生状態の管理

 注)

*1:スタッフが少ないため、薬剤師もACLS・上級救命救急・AED使用手技・トリアー ジ法などの救急スキルの習得が必要。

*2:「薬剤師の災害対策マニュアル」等を参考に、医師の使いやすい薬剤を選定する。

また、全職種が診療所に参集できない場合も想定した外傷用処置材料・経口補液な どの検討も行う。

*3:備蓄医薬品が期限切れで廃棄処分とならないように、日常診療内で使用できるよう に管理する。

*4:薬剤師が到着できなくても他のメディカルスタッフが使用できるよう、医薬品の在 庫場所・常用量等に関するマニュアルを整備する。

*5:診療所が機能しなくなった場合の対処方法をあらかじめ教育しておく。特に、「処 方箋医薬品等の取扱いについて」(平成17年(2005年)3月30日 薬食発第0330016 号、一部改正 平成23年(2011年)3月31日 薬食発0331第17号)によって、「大 規模災害時等においては、医師等の受診が困難な場合、又は医師等からの処方箋の 交付が困難な場合に、患者に対し、必要な処方箋医薬品を販売する場合」が認めら れていることを周知する。