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 医療は、患者満足の最大化が最優先目標となる。医療の質は、核となる診療の質と看護 の質及び組織の運営管理力やホスピタリティ等の支持体制の質の総和と考えられる。診療 や看護の質を確保するためには、患者の権利と責任に基づく患者自身の医療への参加、安 全・安心な医療提供体制の確立、医療者間の患者情報の共有が必要で、具体的な取り組み としては、倫理委員会等での患者権利の擁護、診療の標準化(診療ガイドラインやクリニ カル・パス)、医療安全委員会、感染対策委員会、栄養サポートチーム等の各種委員会・チー ム活動と各科カンファレンスや症例検討会の開催等が挙げられる。

 一方、医療機関はその役割や機能によって提供出来る医療に一定の範囲や限界がある。

したがって医療の質は、「個々の医療機関の役割や機能に見合った医療の水準」と言い換 えることが出来る。つまり、各医療機関にとっての医療の質は、「(その医療機関にとって)

普通(あたり前)の医療を、普通(あたり前)に提供すること」となる。

 注意すべきは、「普通」であることの規定が、医療機関と患者・家族に代表される社会 の双方によって行われることである。また、普通(あたり前)の水準は、常に進歩的に変 化することを見逃さないことも重要である。抗がん剤の無菌調製を例に挙げれば、10年前 に病棟で行われていた調製は、今日では誰も「普通であること」とは認識していない。

 診療や看護の質を周りから支える取り組みには、療養環境の整備、職場及び周辺の環境 衛生管理、施設・設備管理、職員の健康管理、職員・患者への教育・啓発活動等がある。

 以下に、薬剤師が関わるべき医療サービスの質の向上に向けた取り組みを挙げるが、個々 の施設特性を考慮して取り組まれたい。

(1)医療関連感染対策への関わり

 医療関連感染対策が効果的・効率的に行われるには、感染管理について組織的に検討す る体制と手順が整備され、それに基づく組織的な活動が展開されることが必要である。

 具体的には、①感染管理に関する委員会と活動主体である感染制御対策チーム(ICT)

の設置、②科学的根拠に基づく標準予防策や感染経路別予防策の策定、③アウトブレイク の監視・調査体制とその制圧手順の整備、④抗菌薬使用指針の整備と遵守、⑤感染管理に 必要な院内・院外の情報収集・分析・評価とその活用、⑥職員に対する教育活動等が必要 であり、各施設の状況に応じて薬剤師は適切に関わらなければならない。特に、組織的活 動が困難な施設では、薬剤師が感染制御の中核的な役割を担うべきであり、抗菌薬や消毒 薬の適正使用の促進に留まらず、各種手順や対策の整備と見直し、院内分離菌や抗菌薬感 受性の把握、主要な感染症の発生状況の把握、施設特性を考慮したサーベイランスの実施、

院外の情報収集・発信、職員教育等への積極的な介入が望まれる。

(2)多職種連携

 入院から退院までの過程で様々な職種が関わるが、職種間の情報共有の場である病棟カ ンファレンスには必ず参加すべきである。特に退院時カンファレンスは療養の継続性の観 点から特に重要で、薬剤師は入院中に提供された薬学的サービスの内容と留意すべき事項 を退院後のケアスタッフに過不足なく伝えることが求められる(「4.退院時の関わり」

参照)。なお、情報提供にあたっては書面が望ましい。

 診療ガイドラインやクリニカル・パスの作成にあたっては、登録する薬剤を医薬品安全 管理の立場から提案することも必要である。

 各診療科の症例検討会には、担当薬剤師の参加が望ましい。

(3)医薬品安全管理

 医療機関内には、医薬品を始め毒物・劇物等の様々な薬物が存在する。薬の専門家を自 認する以上、安全管理の対象を医薬品に限定すべきではなく、医療機関で使用する薬物全 般を対象とすることが望ましい。

(4)その他

 医療サービスの質を向上させるための取り組みには可能なかぎり関わることが望まし い。職員の教育・研修への関わりは率先して行い、臨床研修指定病院にあっては指導者の 一員として適切に関与することが求められる。

 また、薬剤部・薬局業務の質の評価指標(クオリティ・インディケーター)を設定し、

薬剤部・薬局の質改善の取り組みを客観的に評価する仕組みを作ることも重要である。薬 剤部・薬局業務の質の評価指標としては、薬剤管理指導患者の再入院率や疑義照会後の処 方変更率、プレアボイド報告数、副作用報告数等があり、医療機関の特性を考慮して設定 して差し支えない。