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表面修飾に用いる水溶性ポリマーの合成と評価

ドキュメント内 JAIST Repository https://dspace.jaist.ac.jp/ (ページ 80-83)

第 4 章 ハイブリッドナノ粒子の表面修飾

4.2 表面修飾に用いる水溶性ポリマーの合成と評価

水溶性ポリマーを合成する出発物質として、アミノ酸の1種であるリジン(図4-1a)を単 位ユニットにもつε-ポリ-L-リジン(ε-Poly-L-Lysine: PLL、図4-1b)を選択した。PLLはドラッ グデリバリーのキャリアーや細胞の凍結保存剤、食品防腐剤などに利用されている[1]。重合度 は約32であり、数平均分子量(Mn)は約4090、重量平均分子量(Mw)は約4700であり[2]、分 子量分布(Mw/Mn)は1.14と狭い。PLLのアミノ基を介して様々な官能基を導入することが可 能である。本論文では、PLLのアミノ基にチオール基を導入したPLL−SH(図4-1c)と、カル ボキシル基及びチオール基を導入したPLL−COOH−SH(図4-1d)をそれぞれ合成した。

4.2.1 試薬及び評価装置

【試薬】 無水コハク酸(純度 ≥ 99%)と水酸化ナトリウム(純度 ≥ 98%)はSigma-Aldrich から購入した。PLLと2-イミノチオラン塩酸塩はそれぞれJNC. Co及びナカライテスクから購 入した。

【評価装置】 1H-NMRスペクトルは400 MHz核磁気共鳴分光装置(AVANCE III、Bruker Biospin)

により取得し、ゼータ電位は動的光散乱・光散乱電気泳動測定装置(Zetasizer Nano ZS、Malvern)

を用いて測定した。

自然の諸法則との一貫性があるならば、何が真実であっても不思議ではない。(Michael Faraday)

図 4-1 (a) リジン、(b) PLL、(c) PLL‐SH、(d) PLL‐COOH‐SH の構造式。(e) PLL‐SH と (f) PLL‐

COOH‐SH の1H-NMR スペクトル。

4.2.2 水溶性ポリマーの合成

PLL の1つのリジンユニットの分子量は128 g/molであり、1つのユニットに1個のアミ ノ基を含む。本論文では、PLL全体のアミノ基に対し、カルボキシル基が約70%、チオール基

が約 20%の割合で導入された PLL−COOH−SH と、チオール基のみが約 20% 導入された

PLL−SHを合成した。カルボキシル基の導入には無水コハク酸を、チオール基の導入には2-イ

ミノチオランを用いた。まず25 wt% PLL水溶液から10 mmolのリジンユニットに相当する量 を量り取り、7 mmolの無水コハク酸を加え50 ºCで1時間攪拌しながら反応させた。その後、

2 mmolの2-イミノチオランを加え、室温で2時間攪拌しながら反応させた。

得られた生成物を分画分子量(Molecular Weight Cutoff: MWCO)500の透析膜(スペクト ラ/ポア CE 透析用チューブ)を用いて2 日間透析した。その後凍結乾燥を2 日間行い、乾燥

したPLL−COOH−SHを得た。PLL−SHの場合は、10 mmolのリジンユニットに相当する PLL

水溶液を少量の塩酸でpHを中性にした後、2 mmolの2-イミノチオランを加えた。その後の操

作はPLL−COOH−SHの場合と同様である。

4.2.3 水溶性ポリマーの組成解析

カルボキシル基及びチオール基の導入率を調べるために、PLL−SH及びPLL−COOH−SHの

1H-NMRスペクトルを測定した。図4-1e,fにそれぞれPLL−SH及びPLL−COOH−SHの1H-NMR スペクトルを示す。カルボキシル基の導入率はチオール基を導入する前の1H-NMRスペクトル のケミカルシフトが2.5から2.7の間のピーク4と5の積分値から求めた。またチオール基の 導入率はピーク1から計算した。それぞれの積分強度はβ、γ、δの積分強度(6個のプロトン に対応)と比較した。表4-1に得られた水溶性ポリマーの組成をまとめた。l、m、nは図4-1c,d に記載したユニットを示す。また、この結果をもとに水溶性ポリマーの分子量を計算したとこ ろ、PLLの数平均分子量が4096 g/molであるのに対し、PLL−SHでは4512 g/mol(ユニットの 平均分子量:141 g/mol)、PLL−COOH−SH では6720 g/mol(ユニットの平均分子量:210 g/mol)

であった。

表 4-1 ポリマーのユニット組成。

PLL−SH (l : n)

PLL−COOH−SH (l : m : n)

理論値(%) 80 : 20 10 : 70 : 20 実験値(%) 87 : 13 18 : 70 : 12

4.2.4 水溶性ポリマーのゼータ電位

それぞれのポリマーを超純水に溶解したところ、PLL−SHはpH = 6を示し、PLL−COOH−SH

はpH = 5を示した。2種類のポリマー水溶液のpHを少量の塩酸または水酸化ナトリウムで調

整し、ゼータ電位を測定した結果を図 4-2 に示す。PLL にカルボキシル基を導入することで、

ポリマーの等電点がPLL−SH より酸性側へシフトすることが分かった。PLL−COOH−SHの等

電点はpH = 5付近であるのに対し、PLL−SHの等電点はpH = 8であった。

PLL−COOH−SHのゼータ電位が7 < pH < 10の範囲で不安定になる理由として、ポリマー

間での組成の違いや、無水コハク酸が導入された位置などの違いにより、プロトンの解離の仕 方がそれぞれのポリマー分子で微妙に異なり、多くの準安定状態が形成されたためだと考えら

れる。PLL−SHがアルカリ性側で負電荷を示す理由として、チオール基のプロトンが解離する

ことで、ポリマーが負に帯電した可能性や、プロトン化したアミノ基へ過剰量のカウンターイ オンが吸着し結果的に負電荷を示した可能性が考えられる[3]

図 4-2 PLL‐SH(青)及び PLL‐COOH‐SH(赤)のゼータ電位の pH 依存性。

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