第 6 章 総括
6.1 各章の研究成果とまとめ
て考察した結果、Ag@FeCo@Agナノ粒子は様々な現象が重畳し自己組織的に形成されること が明らかとなった。この事実は非常に興味深く、第2章で得られた見識はAg@FeCo@Agナノ 粒子に限らず、その他のヘテロ構造ナノ粒子の作製において実用的な知見となるであろう。
<第3章>
内 容 : ナ ノ 粒 子 の 磁 気 特 性 の 評 価 は 磁 気 分 離 を 行 う 際 に 必 須 で あ る 。 第 3 章 で は
Ag@FeCo@Agハイブリッドナノ粒子の磁気的性質の変化を調査した。その結果、FeCoシェル
の外側は合成後、Co0.5Fe0.5Oへ酸化していることが明らかとなった。飽和磁化は合成直後が最 も高く、時間経過とともに減衰することが確認された。また、強磁性体 FeCo と反強磁性体 Co0.5Fe0.5Oの界面で形成される交換バイアスを観測した。
成果: 粒子の酸化状態を明らかにした。ナノ粒子系における交換バイアスの研究は薄膜積層 系より難しいものの、第3章に示した粒子の厳密な構造解析結果と組み合わせることで交換バ イアス磁場を記述するのに相応しい構造パラメーター(FM と AFM の体積比)を本論文で初 めて見出した。また、交換バイアスを利用することで粒子表面の酸化膜の厚さを推定する方法 を提案した。更に、粒子表面の酸化に伴う交換バイアス磁場の時間変化を追跡することで、界 面積の減少に起因した交換バイアス磁場の振動現象を実験系で初めて観測した。本成果は、ナ ノ粒子の精密構造解析と物性解析を体系的に行ったことによって初めて得られたものであり、
そのような報告は既往の文献にはほとんど無いのが現状である。従って、ナノ粒子系の交換バ イアスの研究者にとっても新たな視点を与え得るものと期待される。
<第4章>
内容: 合成直後のハイブリッドナノ粒子は水に分散しないため、第4章では細胞実験に向け
た水分散Ag@FeCo@Agハイブリッドナノ粒子の作製を行った。具体的には2種類のpHに対
する電荷応答が異なるポリマーを合成し、粒子表面の配位子交換を行うことで水分散ナノ粒子 を作製した。また水分散ナノ粒子のコロイド分散安定性を評価した。更に、磁気分離の際に特 定のオルガネラを標的とすることを考慮し、粒子表面へビオチン-アビジン相互作用を利用し た粒子表面へのタンパク質修飾を試みた。
成果: 水中での電荷応答の異なる2種類の水分散ナノ粒子を作製することに成功した。粒子 表面へビオチン標識された任意のリガンドを修飾することが可能となり、オルガネラ特異的タ ンパク質に対する抗体などを修飾することで、粒子の様々なオルガネラへのターゲティングに おいて有望となった。
<第5章>
内容: 実際に水分散Ag@FeCo@Agハイブリッドナノ粒子を用いたオートファゴソームの磁 気分離を検証した。粒子はトランスフェクション試薬と混合することで巨大な複合体を形成し、
細胞内へ導入されると、ゼノファジーによりオートファゴソーム内に内包される。オートファ ゴソームは最終的にリソソームと融合し、粒子はオートリソソームへと移行される。このナノ 粒子の細胞内での局在変化をプラズモン散乱を用いたイメージングにより観察した。また各段 階のオルガネラ(初期エンドソーム、オートファゴソーム、オートリソソーム)を自動磁気細 胞分離装置により磁気分離した。
成果: 粒子の細胞内での局在を追跡することに成功した。また、オートファゴソームの磁気 分離に成功した。以上の結果より、Ag@FeCo@Agハイブリッドナノ粒子はイメージング能と 磁気分離能を併有しているため、オートファゴソームに限らず、その他のオルガネラの磁気分 離プローブとして汎用性・利便性・拡張性が高いことを実証した。既存の方法では分離に長時 間、過酷な環境を要したオルガネラでも、磁性-プラズモンハイブリッドナノ粒子による磁気 分離で、脂質や膜タンパク質などの解析が容易となり、細胞生物学における基礎研究をはじめ、
臨床研究、創薬などの分野において多大な貢献をもたらすだろうと期待できる。
図 6-1 本論文の章構成。