第 3 章 交換バイアスを用いた FeCo 磁性 層酸化膜の解析
3.3 ハイブリッドナノ粒子の合成
厚、粒径あるいは体積)が減少すると、HEが増大することが分かる。また、FIMを含む粒子で も交換バイアスは観察される。例えばSoaresらは、粒径約73 nmのフェリ磁性CoFe2O4ナノ粒 子を合成し、水素雰囲気下で粒子を還元することで表面を強磁性CoFe2へ還元した。具体的に はtFMを2.6 nm から 35 nmの間で変化させながら、CoFe2O4@CoFe2ナノ粒子を作製した[8]。 CoFe2O4@CoFe2ナノ粒子のHEを測定したところ、HEはtFMが減少するに伴って指数関数的に 増加した。
図 3-4 (a) Co@CoO ナノ粒子におけるHE(図中ではHEBと表記)及びHCのtCoO依存性[3]。(b) Ni@NiO ナノ粒子におけるHE(図中ではHEBと表記)のrNi-1(図中ではr-1と表記)に対するプロット[7]。
一方、Hu らは異なる寸法をもつコア@シェル型ナノ粒子(格子定数を 1 としたとき粒径 50の粒子)のHEをモンテカルロ法による計算から求めた[9]。図3-5aにAFM@FMナノ粒子の HEをtFMに対してプロットした図、図3-5bにFM@AFMナノ粒子のHEをrFMに対してプロッ トした図をそれぞれ示す。AFM@FMナノ粒子の場合ではHEはtFMに反比例するが、逆構造で あるFM@AFMナノ粒子の場合にはHEはrFMに対して複雑な挙動を示す。16 ≤ rFM ≤ 22の領域 では、HEはrFMの増加に伴い線形的に減少する。しかし、rFM < 16の領域ではHEはrFMに対し て振動的な挙動を示す。このような振動挙動は実験的にはこれまで観測されていない。22 < rFM
の領域では、tAFM 0となりHEはゼロに近づく。
ノ粒子に対してAgやAuを種媒介成長したりしてAgシェルの厚膜化を試みたのである。
図 3-5[9] コア@シェル型ナノ粒子におけるモンテカルロシミュレーションの結果。(a) AFM@FM ナノ粒 子におけるHEのtFM依存性。(b) FM@AFM ナノ粒子におけるHEのrFM(図中ではRFMと表記)依存性。
しかし、結論を述べると、AgやAu は還元電位が高いため、Agナノ粒子やAu ナノ粒子の均 一核生成を防ぐことが出来ないだけでなく、Ag シェルの厚膜化も難しいことがわかった。一 方、Ag@FeCo@Ag ナノ粒子において酸化されやすいはずの薄い FeCo シェルが全ては酸化さ れずにFeCo相を維持できているのは、AgコアからFeCoシェルへの電子移動によると考えら れる[10]。バルクの合金における電子移動は最初電気陰性度に従って起こるが、電気的中性を保 つために電荷再分配が続いて起こる[11]。電子移動の駆動力は界面を形成する異種材料の電気陰
性度の(χ)差である[11]。界面・表面では電荷再配分により、χが大きい元素から小さい元素へ 移動するという、バルクとは逆の傾向を示すことが報告されており、例えばWeightmanらは、
CuxPd1-x合金表面においてPd(χPd = 2.20[12])からCu(χCu = 1.90[12])へ電子移動が起こっている ことを報告している[13]。このような電子移動の詳細な説明に関しては付録に記載したので参照 頂きたい。Fe、Co及びAgのχは、それぞれ1.83、1.88及び1.93である[12]。これらよりも大
きいχをもつAu(χAu= 2.40)をAgコアに合金化できれば、FeCoシェルの酸化を更に抑制す
ることが出来るのではないかと考え、第2章で述べた粒子の生成機構を踏まえ、AgAu合金の コア及びシェルを有する AgAu@FeCo@AgAu ナノ粒子の合成を試みた。簡単のため、本章の みにおいて、Ag@FeCo@Agナノ粒子及びAgAu@FeCo@AgAuナノ粒子を、以後それぞれ“Ag コアナノ粒子”及び“合金コアナノ粒子”と呼ぶ。
3.3.2 試薬及び評価装置
【試薬】 酢酸金(III)[Au(OAc)3、純度99.99%]はAlfa Aesarから購入した。酢酸は和光純薬 から購入した。その他の試薬の購入先は2.2.1に記載したとおりである。
【評価装置】 化学組成分析及び化学状態解析は X 線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy: XPS、Shimadzu-Kratos AXIS-ULTRA DLD、AlKα線)を用いて行った。磁気特性 は超伝導量子干渉磁束計(Superconducting Quantum Interference Device Magnetometer: SQUID、
Quantum Design MPMS)を用いて測定した。光学特性は紫外可視吸光光度計(UV-Vis、Jasco V670)
により測定した。その他の評価装置は2.2.1に記載したとおりである。
3.3.3 AgAu@FeCo@AgAuナノ粒子の合成
合金コアナノ粒子の合成は、2.2.2 項に記載した Ag コアナノ粒子の合成法を基に行った。
異なる点は、250 ºC で注入する前駆体溶液を、0.6 mLのOLAと0.6 mLのトルエンに0.07 mmol のAgNO3を溶解した溶液と、0.8 mLの酢酸に0.05 mmolのAu(OAc)3を溶解した溶液を混合す ることで調整した点である。それ以外の合成条件はAgコアナノ粒子の合成と同じである。Ag とAuの理論組成比はAg : Au = 77 : 23である。第2章に記載したように、反応温度が250 ºC に達した段階ではAg ナノ粒子しか形成されておらず、注入された Ag 前駆体の一部はAg コ アの核成長に使われる。従って、Ag前駆体の一部をAu前駆体で置換することで、AgAu合金 コアとAgAu合金シェルを有する合金ナノ粒子を形成することが出来ると考えられる。注入す る前駆体の全てをAuで置換しなかった理由は、ナノ粒子をイメージングプローブとして利用 するためにAgの優れたLSPR特性を維持したかったためと、Auナノ粒子の還元触媒能は Ag ナノ粒子に比べてどうも低いようであり、AuコアではCo やFe カチオンの還元はAgコアほ
どうまく行われないという実験結果を得ていたためである。
合成直後のナノ粒子の磁気特性や化学状態の測定に際しては、ナノ粒子の大気への曝露を 最小限に抑えるために、合成終了後直ちにナノ粒子を真空乾燥し、合成完了から1時間以内に
XPSあるいはSQUIDの真空チャンバーに試料を導入した。大気中でのナノ粒子の経時変化を
調べるために、真空乾燥後の粉末状のナノ粒子を遮光された断熱箱の中に静置し、一定期間保 存後に適宜XPSやSQUIDによる測定に供した。