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交換バイアスとは

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第 3 章 交換バイアスを用いた FeCo 磁性 層酸化膜の解析

3.2 交換バイアスとは

磁性体材料が異種の磁性相、即ち、強磁性体(Ferromagnetic Material: FM)、反強磁性体

(Antiferromagnetic Material: AFM)、あるいはフェリ磁性体(Ferrimagnetic Material: FIM)から 形成される界面を含む場合、磁場中冷却(Field Cooling: FC)後に磁化曲線を測定すると、磁化 曲線の中心が原点からシフトする。この現象を交換バイアスと呼ぶ。

固体は神が創りたもうたが、表面は悪魔が創った。(Wolfgang Ernst Pauli)

3.2.1 交換バイアスの発見

交換バイアスは1956年にMeiklejohnとBeanによりCo@CoOナノ粒子系で初めて発見さ れた[2]。CoはFM相、CoOはAFM相である。図3-1にCo@CoOナノ粒子の77 Kにおける磁 化曲線を示す。1 Tの外部磁場を印加してFCを行ったときの磁化曲線(実線)は、零磁場冷却

(Zero Field Cooling: ZFC)後の磁化曲線(破線)と比較すると、外部磁場とは逆の方向(負の 磁場)へその中心がシフトしていることが分かる。これは、AFM相であるCoOのネール温度

が293 Kであるため[3]、FM/AFM界面でFM電子スピンが一方向異方性を獲得したためである

と考えられた。

図 3-1[2] 77 K での Co@CoO ナノ粒子の磁化曲線。実線は 1 T の外部磁場中で FC を行った後の磁 化曲線、破線は ZFC 後に測定した磁化曲線を示す。

3.2.2 交換バイアス発現機構の定性的説明

交換バイアスはFM/AFM(またはFM/FIMやAFM/FIM)界面で起こる磁気モーメントの 相互作用により、界面近傍においてFM(またはFIM)相が磁化の異方性を獲得するために生 じる。図3-2に交換バイアスの発現機構の模式図を示す。

図 3-2[4] FM/AFM 界面における交換バイアス発現機構の模式図。TN 以下まで磁場中冷却(FC)を 行った後、外部磁場を掃引したときのスピンの配向を簡略化して描いている。

FM/AFM 界面を含む試料[図3-2(i)]をキュリー温度(TC)以下且つネール温度(TN)以

上の温度(TC > T > TN)からネール温度以下(TN > T)まで磁場中で冷却(FC)すると、界面 近傍のAFMスピンはFM スピンと相互作用して平行に配列する。そして残りのAFMスピン は正味の磁化がゼロとなるように反平行に配列する[図3-2(ii)]。この状態で外部磁場を逆方向 へ掃引すると、FMスピンは反転を始めるが、AFMの磁気異方性定数はFMのそれよりも十分 に大きいためAFMスピンは反転しない。従ってFM/AFM界面で強磁性的に交換結合している FM スピンを反転するにはより大きな磁場が必要となる[図 3-2(iii)]。しかし、一度反転した FMスピン[図3-2(iv)]を再び元の位置に戻す際は、AFMスピンがトルクとして働くため、少 ない磁場で反転できる[図3-2(v)]。その結果、磁化曲線は中心が原点からずれる。原点からの シフト量を表す磁場は交換バイアス磁場(Exchange Bias Field: HE)と呼ばれ、次式で表される。

2

) ( c,right c,left

E

H

HH

 (3-2)

Hc,right及びHc,leftはそれぞれ、正あるいは負の磁場を掃引したときに磁化がゼロとなるときの磁 場(保磁力)である。現実には、界面におけるスピンの配向や異方性、界面の粗さや欠陥、結 晶性など様々な要因がHEに影響を及ぼすことが知られている[4]。これまで、HEを統一的に説 明するために様々な理論が提唱され、今日ある程度は交換バイアスを理解することが可能とな ったが、全ての要因を考慮した包括的な理論は未だ存在せず、現在でも多くの研究者が理論と 実験の両面から交換バイアスの全貌を理解しようと尽力している。

3.2.3 二次元薄膜積層構造における交換バイアス

交換バイアスはナノ粒子系で初めて発見されたが、その後は二次元薄膜積層構造を利用し た研究が盛んとなった。何故なら、薄膜積層系はナノ粒子系と異なり、再現性良く均一な薄膜 積層構造を作製でき、尚且つ厚さの精密制御も容易だからである。薄膜積層構造において HE

がFMとAFMの厚さにどのように依存するか見てみよう。図3-3aにAFM層(Fe50Mn50)の厚 さを50 nmに固定し、FM層(Ni80Fe20)の厚さを変化させたときのHEの挙動を示す[5]。一般的 にHEはFM層の厚さ(tFM)に反比例することが知られており、以下の関係が成り立つ[4,6]

FM E

1

Ht (3-3)

上式はFM層が連続体である限り適用されるが、FM層が薄くなり過ぎて連続体を形成しなく なると、この関係式は成立しない。一方、tFM = 7 nmに固定したときの、HEのAFM層厚さ(tAFM) に対する依存性を図3-3bに示す[6]。tAFMを変化させたときのHEの挙動は複雑であるが、一般 的な傾向として、tAFMが充分に大きいときはHEは一定値を示す。tAFMを小さくしていくと、HE

は減少し最終的にはゼロとなる。どのくらいのtAFMHEの急激な減少や消失が観察されるの かということについては、材料や測定温度、試料内の微細構造に依存するため[4-6]、厳密に決定 することは難しい。交換バイアスが観測されるためは、次式を満たす必要がある。

INT AFM

AFMt J

K  (3-4)

KAFMはAFM相の磁気異方性定数、JINTは界面でのFM スピンとAFM スピンの相互作用エネ ルギー(カップリング定数)を表す。tAFMが減少すると交換バイアスが観測されなくなるのは、

この条件を満たさなくなるためである。

図 3-3 (a) AFM 層(FeMn)の厚さを 50 nm とし、FM 層(NiFe)の厚さを変化させたときのHE(●、図中 ではHexと表記)及び保磁力Hc(○)の挙動[5]。(b) FM 層(NiFe)の厚さを 7 nm とし、AFM 層(FeMn)の 厚さを変化させたときのHE(■、図中ではHebと表記)及びHc(▲)の挙動[4,6]

3.2.4 コア@シェル型ナノ粒子における交換バイアス

異なる磁性相から形成されるコア@シェル型ナノ粒子における交換バイアスの研究は、コ アやシェルの寸法制御、表面の影響、評価法の制限などから薄膜積層系ほど単純ではない。し かし、FM または AFM の寸法を変化させたときの交換バイアスの傾向は薄膜積層系の場合と 類似している。例えばFeygensonらは、粒径約11 nmのCoナノ粒子を熱分解法で合成し、液 相中でその表面を酸素バブリングにより酸化させた Co@CoO ナノ粒子を作製した[3]。酸素バ ブリングの時間を変えることで、粒径を変化させずに反強磁性CoOシェルの厚さ(tCoO)及び 強磁性Coコア半径(rCo)を制御した。tCoOと及びrCoは磁化測定と小角X線散乱測定から決定 した。このCo@CoOナノ粒子のHEを測定したところ、HEtCoOに対して非線形な応答を示し た(図3-4a)。tCoO  0及びrCo  1の場合、HE  0となる。Rinaldi-Montesらは、熱分解法によ り異なる粒径(約9 nm、11 nm、23 nm)をもつNiナノ粒子を合成し、その表面を酸化させる

ことで Ni@NiO ナノ粒子を作製した[7]。全てのサンプルにおいて反強磁性 NiO シェルの厚さ

(tNiO)は約2 nmであった。このNi@NiOナノ粒子のHEを測定したところ、HEは強磁性Niコ ア半径(rNi)の逆数に比例した。このように、コア@シェル型ナノ粒子における交換バイアス の一般的傾向として、AFMの寸法(膜厚、粒径あるいは体積)が増加、またはFMの寸法(膜

厚、粒径あるいは体積)が減少すると、HEが増大することが分かる。また、FIMを含む粒子で も交換バイアスは観察される。例えばSoaresらは、粒径約73 nmのフェリ磁性CoFe2O4ナノ粒 子を合成し、水素雰囲気下で粒子を還元することで表面を強磁性CoFe2へ還元した。具体的に はtFMを2.6 nm から 35 nmの間で変化させながら、CoFe2O4@CoFe2ナノ粒子を作製した[8]。 CoFe2O4@CoFe2ナノ粒子のHEを測定したところ、HEtFMが減少するに伴って指数関数的に 増加した。

図 3-4 (a) Co@CoO ナノ粒子におけるHE(図中ではHEBと表記)及びHCのtCoO依存性[3]。(b) Ni@NiO ナノ粒子におけるHE(図中ではHEBと表記)のrNi-1(図中ではr-1と表記)に対するプロット[7]

一方、Hu らは異なる寸法をもつコア@シェル型ナノ粒子(格子定数を 1 としたとき粒径 50の粒子)のHEをモンテカルロ法による計算から求めた[9]。図3-5aにAFM@FMナノ粒子の HEtFMに対してプロットした図、図3-5bにFM@AFMナノ粒子のHErFMに対してプロッ トした図をそれぞれ示す。AFM@FMナノ粒子の場合ではHEtFMに反比例するが、逆構造で あるFM@AFMナノ粒子の場合にはHErFMに対して複雑な挙動を示す。16 ≤ rFM ≤ 22の領域 では、HErFMの増加に伴い線形的に減少する。しかし、rFM < 16の領域ではHErFMに対し て振動的な挙動を示す。このような振動挙動は実験的にはこれまで観測されていない。22 < rFM

の領域では、tAFM  0となりHEはゼロに近づく。

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