4.2.1 自由物体図と曲げモーメント,せん断力,軸力の符号
長さlの長尺状の部材において,部材の長手軸方向にx軸を取り,xとx+ ∆xに位置する2つの仮想断面m,
nを考えて,部材を長さx,∆x,l−(x+ ∆x)の3つの領域に分割する.x,∆xの長さを有する領域のそれぞれ の右端と左端はそれぞれ位置xの仮想断面mの表裏の関係にあり,その表裏を併せ持つ幅dxの仮想断面では,
水平方向の力,鉛直方向の力,力のモーメントがつりあっていなければならない.図のように,物体およびそれ を仮想的に分割した各領域に作用するすべての力と力のモーメント,例えば,荷重,支点反力,支点モーメント,
仮想断面の曲げモーメント,せん断力,軸力などを描画した図を自由物体図という.
材料力学では,混乱を避けるため,内力として仮想断面に作用する曲げモーメントM,せん断力F,軸力N のそれぞれの符号について,図に記された向きを正と定める.幅∆xの領域に着目すると,曲げモーメントM は左端で時計回り,右端で反時計回りとなる対を正とし,その結果生じる凹の変形を正の曲げとする.せん断力 Fについては,左端で鉛直上向き,右端で鉛直下向きとなる対を正とし,これは微小部分に時計回りの偶力モー メントを生じる.それによって,仮想断面に生じるせん断応力τについても同様に定義される.軸力N に関し ては,微小部分の両端を引張るものを正とし,圧縮するものを負と定め,垂直応力σも同様に定義される.材料 力学の問題を解くには,しばしばこれらの内力は未定係数であり,その向きがわからないだろう.このような場 合には,とりあえず正方向を仮定し,力のつりあいの式,力のモーメントのつりあい式を立てるなどして議論を 進めればよい.
4.2.2 微小領域における力学的つりあいと曲げモーメントの変化
物体あるいはその部分領域の自由物体図に基づいて,その静止条件から,力学的つりあいの式が導かれる.自 由物体図がxy平面図であれば,x方向成分とy方向成分の力の総和をゼロとし,部材に作用する力のモーメン トの総和をゼロとする,すなわち, ∑
Px= 0 (29)
∑Py= 0 (30)
∑Mz= 0 (31)
.こが得られる.つりあいの式ははりのような静止した物体では,その全体はもちろん,各微小領域など,仮想 断面で切り取られた領域でも成立しなければならない.さらに,力のモーメントのつりあい式は任意の回転力中 心に対して成立する.
前節の部材例において,微小領域に着目すると,x軸に沿う水平方向とそれに垂直な鉛直方向の外力が作用し ていないため,xとx+ ∆xに位置する左端と右端の仮想断面において,せん断力F(x)とF(x+ ∆x)の大きさ は等しく,N(x)とN(x+ ∆x)も同様である.しかし,微小領域に外力モーメントが作用するしないに関わら ず,曲げモーメントM(x)とM(x+ ∆x)は等号で結ばれない.なぜなら,せん断力F(x)とF(x+ ∆x)が偶 力モーメントを発生するからである.幅∆xの微小領域において,長さlに比して十分小さい部材の鉛直方向幅 を無視すると,水平力のつりあい,位置x+ ∆xの仮想断面の周りのモーメントのつりあいはそれぞれ,
N(x+ ∆x)−N(x) = 0, F(x+ ∆x)−F(x) = 0, M(x+ ∆x)−M(x)−F∆x= 0 のように表記され,これより,
N(x+ ∆x) =N(x) F(x+ ∆x) =F(x) であり,位置の増分∆xと曲げモーメント増分∆M の関係は
∆M ≡M(x+ ∆x)−M(x)
=F∆x
のように表される.上式は∆M がせん断力Fに支配されることを示す.∆x→0とすると,微分記号を用いて,
F(x) = dM
dx, M(x) =
∫
Fdx (32)
のように表される.上式は幅dxの任意の領域における力のモーメントのつりあいを反映したものである.微小 領域自体に鉛直方向の集中荷重あるいは分布荷重が作用する場合は,2つの仮想断面の作用する互いに逆向きの せん断力Fの大きさは同等でないため,例えば,後述するように,
F(x+ ∆x) =F(x) + ∆F のように定義して,せん断力と曲げモーメントの議論をすればよい.
図26: (a)曲げモーメントと軸力,(b)せん断力,曲げモーメントと軸力,(c)横荷重とせん断力,曲げモーメン トと軸力が作用する微小幅のはり.
図 27: (a)単純支持はりと(b)その自由物体図,および (c)x < a(d)x > aにの長さxのはりの自由物体図.