第 II 部
9.4 微小領域における力のつりあい,力のモーメントのつりあい
並進運動も回転運動もしない静止した部材については,力のつりあい式と力のモーメントのつりあい式が対象 とする部材全体および仮想断面で切断された各部分において成立する.一般に,既知であるのは外力のみである から,支点に作用する反力や仮想断面に作用する内力などの未知の定数は力のつりあい式や力のモーメントの つりあい式に基づいて決定される.材料力学は剛体の力学に準じた力学的考察に幾何学的変形の考察を導入し,
フックの法則に基づいて構造物の強さ評価するものであるから,その法則性の多くは力のつりあい式や力のモー メントのつりあい式に基づいて導出される.また,幅がゼロに漸近した仮想断面の表裏が領域においても,力学 的につりあうのは,力あるいは力のモーメントであり,一般に「応力がつりあう」という表現が用いられること はない.
9.4.1 垂直応力が作用する微小領域
x=x1に位置し,幅dxでx軸を法線とする面積Aの仮想断面において,y =y1,z=z1に位置する微小面 積dA (= dydz)の領域を考える.その表裏2面にともに垂直で,互いに逆向きである応力σxxがあるとすると,
対象領域に直に外力が作用していない場合には,x軸方向の力の総和は σxxdA−σxxdA= 0
となり,力がつりあっている.応力σxxがdAに一様に分布していることは,幅dyに等分布荷重σxxdzが作用 していると見なせるので,それをdAの図心Gに位置するσxxdAの集中荷重に置き換えてよいことは後述の面 積モーメント法を学ぶことにより理解できるだろうが,ここでは,dx,dA (= dydz)をそれぞれ,有限の∆x,
∆A (= ∆y∆z)に置き換えて力のモーメント成分が発生しないことを示す.
垂直応力による軸力に関して,まず,∆y→0のσxx∆Aの極値を考えると,
σ ∆A=
∫ y1+∆y(∫ z1+∆z σ dz
)
dy= (σ ∆z) ∆y→σ dy∆z, (∆y→0)
図 75: 垂直応力が作用する体積(a) ∆x∆y∆z(b) ∆xdy∆z(c) dx∆y∆z (d) dxdy∆z の微小領域.
となり,σxxdAに帰着する.このとき,有限の値∆xに比べて幅dyは十分小さく,dxdyの図心Gからx=x1
上の各点へ下した直線の傾き角|∆θ| ≪1であるため,力のモーメントに寄与する成分 σxxsin ∆θ=σxx∆θ+o(∆θ)
のように表され,∆θ→0では無視してよい.よって,これに垂直な成分 σxxcos ∆θ=σxx×1 +o(∆θ)
が支配的であり,∆θ→0において上式はσxxに一致する.さらに,∆x→0としても同様であり,力のモーメ ント成分は発生しないことがわかる.次に,∆x→ 0の後に∆y →0とする場合を考えると,∆x→0のとき に,y1≤y ≤y1+ ∆yの任意の領域で腕の長さ∆x/2→0であるから,力のモーメントの成分が生じず,さら に∆y→0として同じ結果を得る.また,最初に∆z→0と仮定し∆zをdzに置き換えても成立する.以上に より,微小領域の力学的つりあいにおいて,軸力σxxdAのみを考慮すればよいことが証明された.
力のつりあいを考える対象領域を微小領域dAから仮想断面内全体の領域Aに拡大するには,上の左辺各項の 微小軸力を領域A全体で面積分すればよいから,
∫
AσxxdA−
∫
AσxxdA= 0, (
N =
∫
AσxxdA )
が成立し,領域Aに外力が作用していない時には力がつりあっていることが確認される.ここで,引張り応力σ が仮想断面内で一定でなく,y,zを変数とする関数形σ(y, z)をもって分布していたとしても上式は成立する.
図76: せん断応力と共役せん断応力が作用する体積 (a) ∆x∆y∆z(b) ∆xdy∆z (c) dx∆y∆z(d) dxdy∆zの微 小領域.
9.4.2 せん断応力が作用する微小領域
引張り応力に代えて,x軸を法線とする面積Aの仮想断面の表裏2面にy方向を向くせん断応力τxy=τxy(y, z) をもって分布している仮定すると,y方向での力のつりあいは微小断面積dAと全断面積Aのそれぞれに関して,
−τxydA+τxydA= 0
−
∫
AτxydA+
∫
AτxydA= 0, (
F=
∫
AτxydA )
のように表される.しかし,体積dxdA (= dxdy∆z)の微小領域を考えて,xy面内における領域の図心G(xG, yG) = (x1+ dx/2, y1+ dy/2)の周りでの力のモーメントの総和を反時計回りを正として考えると,せん断力τxydAが ある2つの仮想断面の図心(yG, zG) = (y1+ dy/2, z1+ dz/2)までの距離はともにdx/2であるから,
−τxydA·dx
2 −τxydA· dx 2
となりゼロにならず,矛盾する.仮に,σxxのような垂直応力が存在したとしても,力のモーメントに寄与しな い.図心G周りで上式と逆の反時計回りのモーメントを与えて力のモーメントをゼロにするためには,x方向を 向くせん断応力τyxが断面積dxdzの2面にあると考えなければならない.それゆえ,新たにせん断応力τyxを 断面積dxdzの2面に追加して,力のモーメントの総和を計算しそれがゼロであるとすると,
−τxydy∆z·dx
2 −τxydy∆z· dx
2 +τyxdx∆z·dy
2 +τyxdx∆z· dy
2 = 0, (dydz= dA)
が成立し,上式より,τyx=τxyの関係が得られる.すなわち,微小領域が回転運動をせず,静止する場合に,任
する微小面積dAの領域に誘起され,それとは垂直な面積dxdzの断面に,τxy(x1, y1)と同じ大きさを有するせ ん断応力τyx(x1, y1)が誘起されて,力のモーメントがつりあうことがわかる.τyxをτxyに関する共役せん断 応力という.
さて,微小領域では,図心を力のモーメントの回転中心としたが,ある弾性体部材の力のモーメントのつりあ い式を考えるとき,部材のどこを回転中心に選ぶべきであろうか.動力学では回転運動の中心軸の周りで,力の モーメントの運動方程式やつりあいの式を考えたが,材料力学の多くの問題では部材は静止している.結論は,
部材の内外のどこに回転中心をとってもよく,いずれにおいても力のモーメントのつりあいが成立する.ただし,
棒やはりを長さxで切断して仮想断面を考える場合には,つりあいの式において,未知のせん断力などを考慮し なくてもよいようにするため,しばしば,切断面が回転中心とされる.