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職域におけるメンタルヘルス研究の現状・課題と将来展望

ドキュメント内 (ページ 104-107)

防医学の研究成果が大きく反映されている。しかしながら、変化し複雑化する労働環境の中で、

さらに充実した、科学的根拠に基づく職域のメンタルヘルス対策の展開が求められている。 

 

2.職域におけるメンタルヘルスの今後の課題  1)効果的な職域のメンタルヘルス対策の開発と普及 

職域におけるメンタルヘルス対策を科学的な根拠を持った活動として実施することが今後一層 重要となる。このために職業性ストレスおよびその健康影響の対策、精神障害の早期発見および 精神障害者の職場復帰の支援技術の効果評価が今後精力的に行われる必要がある。高い精度をも つ community intervention study を実施して個々の職域メンタルヘルス対策に対して有効性の科 学的根拠を明らかにすると同時に、これらの科学的方法論を具体的に現場で普及、推進する方策 が必要とされている。 

 

2)さらなる変化を見据えた職域メンタルヘルスの研究と対策 

  今後わが国の企業はさらに急激な変化を迎えると予想される。現在すでに進行しているリスト ラ、アウトソーシングをはじめとして、終身雇用や年功序列制度などの従来の企業文化が大きく 崩れようとしている。加速する情報通信技術の進歩も労働の態様をさらに大きく変化させようと している(ロボット技術、インターネット技術の浸透やテレワーク等)。女性労働者、高齢労働者 の増加も予想される。労働者のストレスは今後さらに増大し、かつ多様化すると予想される。ま た産業ストレスの問題は一国内にとどまるものではない。欧米諸国はいうまでもなく、アジア諸 国でも職業性ストレスは大きな問題として認識されつつある(4)。アジア圏の経済交流が盛んにな るにつれ、それぞれの国・文化における産業ストレスの理解と配慮は企業活動にとってもますま す重要になる。 

 

3.今後必要となる職域のメンタルヘルスの研究課題 

  職域のメンタルヘルスは、精神医学や臨床心理学などの臨床だけでなく、制度・法律、人間工 学、産業・組織心理学、経営学など広範な学術を融合してはじめて扱うことが可能になる領域で ある。その中で公衆衛生学・予防医学は主導的・中核的な役割を果たしている。 

今後必要な研究課題は、以下のようである。 

1)職業性ストレスの健康影響をさらに解明する必要がある。すでに明らかになりつつある循 環器疾患への影響に加えてがんや免疫機能に対する影響の評価、職業性ストレスの脳内メカニズ ムの生理心理学的解明、末梢ストレス経路の分子レベルでの解明が期待される。 

2)社会変動にともなう産業ストレスの動向を国、地域および事業所レベルでモニタリングす るための基盤整備(測定法およびモニタリング技術の開発)が必要である。特に職業性ストレス

効性評価の研究や実践的な対策事例の研究を推進する必要がある。特に中小規模事業所でも実施 が可能な低コストで簡便な対策手法の確立が望まれる。 

4)日本を含めたアジア諸国における産業ストレスの解明と対策に関する国際協力が推進され る必要がある。 

また、職域メンタルヘルスの研究者の養成や、その実践を担う高度職業人養成が体系的になさ れる必要がある。 

 

4.期待される効果 

  以上の研究により、職域のメンタルヘルスを効果的、科学的に推進するための方法論が確立で き、大競争時代・変革期における労働者の心の健康と労働生活の質を確保することができる。ま た対策の進展によって職域のメンタルヘルス問題による医療費および労働コストの損失を大幅に 軽減できると期待される。また、こうした研究成果は、国際的な企業活動の円滑な推進、職域の メンタルヘルスに関する国際保健医療協力の確立にも寄与すると予想される。公衆衛生学・予防 医学は、この領域で今後も主導的・中核的な役割を果すことが期待されている。 

 

文献 

1. Kawakami N, Haratani T. Epidemiology of job stress and health in Japan: Review of current  evidence and future direction. Industrial Health 37: 174-186, 1999. 

2. 川上憲人、原谷隆史.職業性ストレスの健康影響.産業医学ジャーナル 22(5):51-55,1999  3. ILO: Preventing stress at work. ILO Conditions of Work Digest 11(2), 1992. 

4. 東京医科大学国際シンポジウム:日米欧脱工業化地域における職業性ストレスと健康に関する 東京宣言.東京医科大学雑誌 56: 760-768, 1998. 

 

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