• 検索結果がありません。

統計分析における親学歴の扱い

ドキュメント内 容のメカニズムに関する計量分析 (ページ 117-127)

6.3.1 教育達成に対する段階的な影響力

親学歴効果の説明理論として「成功確率」や「便益」を引き合いにだすとき、その効果 が段階的だということが仮説検証時に1つの目安となる。すなわち、親子の達成学歴が一 致するか否かの境目となる進学段階で親学歴の効果が明確化すると考えられるのだ。

吉川(2006)は「成熟学歴社会」において大卒/非大卒境界の重要性が増加し、親大卒か

否かによる機会の不平等が拡大するという。その理由は学歴下降回避の心理機制により、

大卒層の進学アスピレーションだけが選択的に加熱されるからである。吉川は戦後の一時 期、開放化に向かっていた大学進学機会が、1955年以降の出生世代から閉鎖化傾向に反 転するデータを提示している。

他方、近藤・古田(2009)は累積ロジット・モデルを用いて、学歴下降回避の仮定に適合 的な親学歴の効果が存在するかどうかを調べている。この仮定が示唆するような進学規範 が実際に働いているとすれば、親学歴が高卒と中卒との対比において、両者の差異が鮮明 になるのは、高校進学の段階だと予測できる。その後の進学については、どちらも親と同

6.3 統計分析における親学歴の扱い 107 等の学歴を達成しているので、親学歴による不平等は減少するはずである*3。近藤・古田 の分析は、このような仮説的なパターン*4にかなり近い結果を報告している。

また、古田(2008)は出生コーホートをわけ、男女別に教育達成に対する親学歴の効果 を分析した*5。それによると、1956-75年コーホートの男性で学歴下降回避の前提に整合 的なパターンがあらわれている*6

6.3.2 線型効果と非線型効果

親学歴が子の進学目標の下限を規定するという仮説に、これらと異なる角度からアプ ローチした研究にMare & Chang (2006)がある。そのイメージは親子の学歴の線型の関 係構造を土台として、親と同等の学歴に到達する段階で、非線型の効果が上乗せされると いうものである。前者は家庭の資源や本人の学力の効果をあらわし、後者は進学規範の形 成や教育経験の伝達にかかわるとする。そうすれば、この見方が教育の不平等にかんする 既存の理論のなかに納まることがわかる*7

*3もっとも、親高卒と親中卒とのあいだには高校進学を目標とする達成規範とは別に、両者の社会的位置の 差異にもとづく家庭資源の格差が存在する。このため、高等教育進学に対して親高卒の効果がなくなると は考えにくい。ただし、それ以前の進学段階ではそうした所有資源の効果には還元できない学歴下降回避 の力学が加わるため、高卒/中卒のあいだの不平等がより明確にあらわれると期待される。当然、同じこ とが親大卒と親高卒との対比についてもいえる。つまり、両者にとって高校進学は学歴下降回避のために 必須だからその段階では達成率の差は小さく、高等教育への進学段階で差が大きくなると仮説化できるの である(近藤・古田2009)

*4累積ロジット・モデルを使用した学歴下降回避のメカニズムの検証は、目的変数の各段階について定義さ れる累積オッズに対して、通常は1つしか与えられない変数効果を、目的変数の段階ごとに可変的とする ことにより可能となる(近藤・古田2009)。たとえば、中学、高校、高等教育の3段階の順序変数を累積 ロジット・モデルで分析する場合、親高卒のダミー変数は目的変数の段階とは関係なく、一定の効果をも つものとして推定される。この制約をゆるめ、親高卒の効果は高校以上への進学と高等教育への進学では 異なると仮定すれば、両者の効果の大きさを比べることで、親高卒がどの進学段階において、もっとも重 要な意味をもつのかを確認することができる。こうした技巧は順序変数の解析を取り上げた統計学の文献 では、変数効果に対する比例オッズの制約を解除する方法として紹介されている(Peterson & Harrell Jr

1990)。なお、近藤・古田はこの操作を説明変数と閾値との相互作用効果としてとらえ、議論をすすめて

いる。

*5古田(2008)の分析で使用されているのは、近藤・古田(2009)と同型のモデルである。

*6具体的には、親中等卒と比較したときの親義務卒の効果は高校以上への進学に対して強く、それ以降の進 学に対しては有意な効果がない。これに対して、親高等卒は高校以上への進学に対しては有意な効果を示 さないが、子どもを高等教育の進学へと促す段階では有意な推定値がえられている。

*7親学歴の線型の効果は教育の不平等にかんする第1次効果に、「費用」の負担能力などを加えたものとし て理解することができる。これに対して、非線型の効果は本章で議論している「便益」や「成功確率」の

その際、線型の効果は親の教育達成年数として扱い、非線型の効果は教育段階にダミー・

コードを与えて操作化をおこなう。そのような処理をすると、それら両者のあいだに完全 に近い対応関係ができるので、多重共線性の問題に抵触してしまい*8、両者の効果を識別 することはむずかしくなる。

ただし、目的変数を最終的な教育達成とはせず、各学校段階への移行に限定すれば、親 学歴の非線型効果はその段階への移行の有無をあらわす1つのダミー変数で操作するこ とができる。このような処理をすべての学校段階に対して加え*9、移行ごとにサンプルを 分割し、それらを縦に積み上げていけば、親子の学歴が一致するクリティカルな分岐点 において生じる付加的な効果は、結局は1つのダミー変数に集約される(Mare & Chang

2006)。それにより、教育段階の数だけ親学歴のダミー変数を用意しなくて済むのである。

本章は、この方法で教育機会を分析していく。この手法の採用により、親学歴の非線型 効果について、さまざまな相互作用効果を検討することができる。

そのような検討すべき相互作用効果として、時代との関係がある (吉川 2006; 古田

2008)。非線型の効果が顕在化する背景に、同一教育制度の長期継続や構造移動量の減

少——「成熟学歴社会」の到来——があることは、すでに指摘したとおりである。

線型と非線型の効果が複合的に形成する各世代の不平等の特徴を示すことは、機会構造 のより完全な全体像に近づくためにも必要な作業だといえる(Mare & Chang 2006)。

6.3.3 比例的関係と非比例的関係

さらに、教育機会の分析で指摘されている背景変数の非比例的効果——初期の移行段階 で、出身背景の強い影響力があらわれる——も、Mare & Chang (2006)の方法では簡単 に扱うことができる。移行をあらわす変数と親学歴との相互作用効果を回帰モデルに投入 し有意性検定をおこなえば、移行ごとに親学歴の効果が比例的(一定)か非比例的(可変) かはたちどころに判明するからである。

概念と関係するものだといえる。

*8親の教育達成年数を各学校段階に回帰させれば、その分散はほとんど説明し尽くされてしまうだろう。こ れは、当然ながら最終的な教育年数が何年になるかは、どの段階まで教育を受けたかに強く従属している からである。

*9着目する学校段階が中等教育への移行であれば親と本人の両方について、移行に成功したケースには1 それ以外のケースには0を付値する。その後の学校段階についても同様である。

6.4 分析結果 109 親学歴の段階的な効果について近藤・古田(2009)を参照すると、高校進学段階におけ る高卒/中卒の対比による差異が大きく、それに比べて高等教育段階で大卒/高卒の対比 がもたらす差異は、それほどでもない結果がえられている。出身学歴からの下降移動を避 けるような選択は、高校進学段階で顕著に見られるということである。

これに対して吉川(2006)は学歴下降回避の力学が生じる学校段階として、大卒/非大卒 の境界を重視していた。若いコーホートでは高校進学がユニバーサル化し、その「便益」

や「成功確率」は社会に広く共有されている(van de Werfhorst & Andersen 2005)。こ のため、高卒以上か否かは学歴取得にかんする不平等の争点にはなりえないという仮説 は、それなりにもっともらしく聞こえる*10

あるいは、親と同等の学歴をえたいとする進学規範や親のもつ学歴達成のノウハウがす べての教育段階で等しく作用するとすれば、親学歴の段階的な効果は、線型効果と異なり 比例的だと予測するのが適切かもしれない(Mare & Chang 2006)。

これらの問題について、日本社会を対象とした研究では、まだ正確な関係が示されてい ない。そして、この課題の探究は、最終的には教育機会の長期的な動向を解明すること に結びついていく。親学歴の段階的(非線型)効果と移行変数との関係を吟味することで、

コーホート比較において親学歴の影響力のどの側面が変化し、全体として機会の不平等が どう構造変動したのかを考察する際の、有用な手がかりがえられると期待できるからだ。

6.4 分析結果

6.4.1 移行率に対する親学歴の影響力

データ・変数・記述統計

本章でも前章までと同様に、SSMとJGSSの合併データを分析する。

今回の分析でもっとも重要な変数は回答者本人と親の学歴である。いずれも義務相当、

中等教育、短期高等*11、大学以上の4分類とした。

出生コーホート別の各学校段階への移行率を、親と本人のそれぞれについて表6.1に示

*10たとえば、高校は大学以上に選り好みさえしなければどこかの学校には入学できるので、進学と卒業だけ を問題にするのであれば、成功の見込みは一般的には高いといってよい。加えて、それだけ進学と卒業が 容易であれば、親学歴にかかわりなく高校に行かないことが一種のトラウマになる可能性はある。

*11高校卒業後の専修学校への進学を含む。

ドキュメント内 容のメカニズムに関する計量分析 (ページ 117-127)