• 検索結果がありません。

既存仮説の再定式化

ドキュメント内 容のメカニズムに関する計量分析 (ページ 136-139)

級はそこまでの教育を必要とせず、長期の教育継続は状況次第でリスクにさえなる*6。 上記の2つの立場の主要な対立は、高等教育の変化をめぐり生じている(Blossfeld &

Shavit 1993)。産業化の基本仮説と文化的再生産論は、中等教育機会の漸次的な開放とい

う点において合意が見られる。その一方で高等教育について、前者は(中等教育と同様の) 平等化を予測するが、後者は機会の不平等が継続ないし拡大すると想定している。

7.3.2 社会的出自の多様性

教育機会の動向に関心があるとき、一次元的な尺度で社会的出自を操作化する*7と、現 実の変化のあり方をミスリードするおそれがある。最近、ヨーロッパの研究者が相次いで こうしたことを指摘している(Bukodi & Goldthorpe 2012; Buis 2013)。それらの研究が 報告する知見は暫定的なものだが、教育達成に対するさまざまな背景変数の効果が同じ流 れに沿って変化するわけではない可能性には、じゅうぶん注意する必要がある。

本章の関心とは少し離れるが、近藤(2012)はPISA (国際学習到達度調査)の結果を利 用して興味深い社会過程を描きだしている。近藤は多重対応分析により多数の地位変数か らなる多次元空間をとらえ、途上国では階層構造の一次元性が強いものの、経済発展によ り経済的資源と文化的資源との対立がすすみ、階層構造が多次元化していく様子を示し た。さらに、このようなマクロな社会の変化とともに、学力のミクロな規定構造において 文化的資源が影響力を強めていくとされている。

近藤(2012)の知見のうち、ここで着目するのは社会全体が豊かになるにつれて家庭の

経済力の効果が削がれ、(親学歴に代表される)文化資本の相対的重要性が高まるという部 分である。この傾向を成人の教育達成にまで敷衍したなら、産業化のすすんだ社会ではミ クロな機会構造が変容し、階層化の過程が多次元化するとの予測が成り立つ。つまり、出 身背景による不平等の中心が(家族の)職業から学歴へと移っていくということである。

*6この考え方は文化的再生産論よりも合理的行為論の主張に近い。文化的再生産論をこういうかたちで紹介 したのは、この仮説から集合的行為者の思惑のような曖昧な要素を排したかったからである。それでも、

支配階級は再生産戦略の一環から高等教育に特別の関心をもつという仮説の要点に、何ら変更はない。肝 要なのは(高等)教育機会の変化にかんする産業化の命題との対立であり、Blossfeld & Shavit (1993) 解説をふまえ、ここでは文化的再生産論の名称を採用するのが適当だと判断した。

*7社会的出自を出身階級(もしくはそのもとになる父親の職業)と同一視する手続きがその典型例である。

7.3 既存仮説の再定式化 127

7.1 各仮説における社会構造の変化と教育機会の不平等

中等教育 高等教育

職業 学歴 職業 学歴

産業化(Treiman)仮説

文化的再生産仮説 const./+ const./+

階層多次元化仮説 + +

MMI/EMI仮説 + + + +

持続的障壁仮説 const. const. const. const.

Note,不平等の縮小;+,不平等の拡大;+,進学率が飽和し たコンテクストでは不平等が縮小;const.,不平等の継続.

7.3.3 教育機会の趨勢についての仮説群の要点

産業化、文化的再生産、階層多次元化の理論的予測に加え、ここでは教育不平等研究の 経験的知見にもとづく2つの仮説を取り上げる。

進学率が飽和するまで機会の不平等が保たれ、その後は天井効果による不平等の縮 小期が訪れるとするMaximally Maintained InequalityおよびEssentially Maintained Inequality (MMI/EMI)仮説*8(Hout 2006)と、教育拡大は家族間の相対的な機会の改善 に寄与しないとする持続的障壁の命題(Blossfeld & Shavit 1993)である。

これらの仮説群により現実的な教育機会の変化のパターンはおおむね網羅される。それ をまとめたのが表7.1である。本章はコンテクスト間の教育機会の差異をマクロ・レベル の回帰分析で検討し、上掲のどの仮説が機会の動向を的確に説明するのかを探っていく。

*8EMI仮説は次の事実確認にもとづき成立した(Hout 2006)。アメリカやオランダをはじめとするいくつ かの国では、進学率の飽和という現象をまたずに機会の平等化が実現した。Houtはその理由を一部の 学区や地域において他の場所に先駆けて進学率が飽和したことに求めている。そのような事情をふまえ、

Hout(進学率に)地域ごとの傾向差がある場合、国全体では進学率があまり高くないときでも局地的 な飽和の動きを反映して、機会の平等化が観察される可能性があると推測した。これがEMI仮説の内容 である。EMI仮説は進学率の飽和とその後の平等化というプロセスが地域単位で生じていると仮定した 推論であり、マクロ・レベルの分析単位を地域に置けば、MMI仮説との区別はなくなる。なお、Lucas (2001)Effectively Maintained InequalityHoutEMI仮説とは別の論理で構成されている。

ドキュメント内 容のメカニズムに関する計量分析 (ページ 136-139)