4.3.1 出身階級による教育機会の不平等
表4.1が出身階級の影響力にかんするトランジション・モデルの結果を整理したもので ある。階級の効果にかんする仮定をいろいろ変えて推定したモデルの適合度を1列目から 3列目に示した。ここでの興味は各々のモデルの単独での適合度よりも、それらのあいだ の相対的な当てはまりのよさにあるので、4、5列目で報告した尤度比検定の結果を見なが ら、コーホート間の変化について検討していくことにする。
中等教育の機会は男女とも明らかに変化している。女性については階級の効果がすべて のコーホートで一定とするモデルと、その効果がコーホート間で異なると仮定したモデル
との対比 (M2/M1)から(表4.1B)、後者のほうがデータとの適合度がよいことがわかる
(p<0.05)。同じ傾向が男性にも見られるが、階級の効果に直線状の変化を仮定した場合
(M3/M1)のみ、モデルの適合度が5%水準で改善する(表4.1A)。
続けて変化の具体的な内容を見ていくことにしよう。男女別のモデルから階級の効果の 推定値*10 を取りだし、コーホートごとにまとめたものが図4.3 である。モデルの識別の ためにλ1 =0としているので、λm <0 (m=2,· · · ,M)であればサーヴィス階級(I+II) と比較し、他の階級の出身者は中等教育への移行時に上位のオプションに到達しにくいこ とを意味している。パラメータ推定値はすべてλm <0だが、本章の目的にとって重要な
*10図4.3の推定値は男性は表4.1Aの3列目のモデルに、女性は同Bの2列目のモデルにもとづいている。
以後も、とくに断りのない場合、2列目のモデルが機会一定のモデルより5%水準で好ましい適合度を示 すときはその結果を利用し、そうでないとき(p<0.05で適合度の改善が見られないとき)は3列目の結 果を用いてグラフを作成している。
4.3 トランジション・モデルの推定結果 75
表4.1 出身階級を説明変数とする男女別のトランジション・モデルの適合度 モデル(LL,df) 対比(G2,df, sig.) 1.機会一定 2.機会変化 3.直線変化 4. M2/M1 5. M3/M1 A.男性:中等移行 −422.30 −403.91 −412.97 36.79 18.68
(N=6549) 95 70 90 25 5
0.0604 0.0022 B.女性:中等移行 −711.39 −679.69 −695.93 63.41 30.93
(N=7729) 95 70 90 25 5
0.0000 0.0000 C.男性:高等移行 −102.88 −91.80 −99.32 22.16 7.11
(N=5656) 25 0 20 25 5
0.6265 0.2123 D.女性:高等移行 −107.33 −92.65 −105.10 29.36 4.46
(N=6648) 25 0 20 25 5
0.2491 0.4849 E.男性:高等達成 −110.84 −93.31 −99.97 35.07 21.76
(N=6591) 25 0 20 25 5
0.0870 0.0006 F.女性:高等達成 −112.36 −93.63 −106.29 37.46 12.14
(N=7781) 25 0 20 25 5
0.0522 0.0329
のは新しいコーホートにおける機会の不平等が基準のコーホート(1930-38年)からどの ように変化したかということである。
図4.3を見ると男性の自営(IVab)と農業(IVc)、半・非熟練(VIIa)でサーヴィス階級と の不平等が縮小している。女性でも 1939-48年コーホートから 1949-58年コーホートに かけて、農業と半・非熟練の機会が大きく拡大する。1959-68年以降はどの層でもサー ヴィス階級との不平等は一定である。やや不平等化しているように見えるコーホートもあ るが一貫した動きではなく、基準のコーホートよりもサーヴィス階級との不平等が有意に 拡大している階級はない。結局、大局的な動向としては若いコーホートでは中等教育の機 会が平等化したということである*11。
*11コーホート別のサンプルに通常の多項ロジット・モデルを当てはめた場合も、こうした傾向を確認するこ
コココココ
lo g o d d s λ
-1.0 -0.5 0.0
1930-38 1939-48
1949-58 1959-68
1969-78 1979-88 男男
1930-38 1939-48
1949-58 1959-68
1969-78 1979-88 女男
I+II III
IVab IVc
V+VI VIIa
図4.3 隣接ロジット・モデル(ACモデル)による中等教育機会の分析;各コーホート における出身階級の効果
これに対して高等教育への移行については、どのように仮定を変えても教育の機会は変 化していないことが示唆される(表4.1C、同Dの4列目と5列目)。2列目のモデル(機 会変化を仮定)のパラメータ推定値を見てみると(図4.4)、男女のどちらでも機会の平等化 ないし不平等化というような単調な傾向は認められないことがわかる。
それでは、戦後の日本で出身階級と高等教育との関係はまったく変わらなかったのだろ うか。必ずしもそうではないことが高等教育の達成を分析した2項ロジスティック応答モ デルの結果からわかる(表4.1E、同F)。階級の効果にかんする直線変化の仮定は男女のい ずれにおいても5%水準で有意な結果(M3/M1)を示している。
図4.5は高等教育達成(表4.1E、同F)のモデル(3列目)から階級×コーホートの相互
とができる。
4.3 トランジション・モデルの推定結果 77
コココココ
lo g o d d s λ
-2.5 -2.0 -1.5 -1.0 -0.5 0.0
1930-38 1939-48
1949-58 1959-68
1969-78 1979-88 男男
1930-38 1939-48
1949-58 1959-68
1969-78 1979-88 女男
I+II III
IVab IVc
V+VI VIIa
図4.4 2項ロジスティック応答モデルによる高等教育機会の分析;各コーホートにお
ける出身階級の効果
作用効果(λv)を取りだしたものである。男性では自営、農業、半・非熟練においてサー ヴィス階級との不平等が顕著に縮小している。女性の傾向は男性ほど明瞭ではないが、高 等教育の達成に対する農業の地位は明らかに改善しているといえる。
4.3.2 親学歴による教育機会の不平等
最後に親学歴を説明変数にもつトランジション・モデルの結果を確認する。親学歴の影 響力は変化していないとする予測とは異なり、中等教育への移行の分析 (表4.2A、同 B) では、それらについて変化を仮定するモデルのほうがデータに対する適合度がよい(4列 目における対比)。
変化の様子は出身階級の結果とはかなり異なる(図4.6)。男性では高等層(3ab)と義務
コココココ
lo g o d d s λ
-3.0 -2.5 -2.0 -1.5 -1.0 -0.5 0.0
1930-38 1939-48
1949-58 1959-68
1969-78 1979-88 男男
1930-38 1939-48
1949-58 1959-68
1969-78 1979-88 女男
I+II III
IVab IVc
V+VI VIIa
図4.5 2項ロジスティック応答モデルによる高等教育達成の分析;各コーホートにお
ける出身階級の効果
層(1abc)とのあいだで不平等が縮小している。しかし、それ以外に平等化へと向かう動
きは見られない。親中等(2bc)×コーホートの効果(λ2u)は推定値の大半が負の符号を示 し、女性サンプルでは統計的に有意となっているものもあった(p <0.05)。その傾向は図 4.6 にあらわれている。女性の場合、高等層に対する中等層の不利は、6つのコーホート のあいだで確実に拡大している。
高等教育への移行が目的変数の分析(表4.2C、同D)では、コーホート別の機会変化(2 列目)の仮定も、また直線変化(3列目)の仮定もモデル間の対比(M2/M1およびM3/M1) では相互作用効果の存在が否定される。
ただし、個別の効果パラメータにはいくつか有意な推定値が見られたので、表4.2 (C、 D)の結果(2列目のモデル)を使い、これまでと同様のグラフを作成した(図4.7)。それ