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異なる水害時の避難等の意思決定に展開した.具体的には2000年の東海水害を対象に意思決定 の状況や構造を分析するとともに意思決定の正統性に関する考察を行い,火山噴火災害で組み立 てた枠組みが水害に対しても展開可能なことを示した.また,水害においても,従来の防災計画 等に依拠した方法論の限界を踏まえ,首長による避難指示等の意思決定に焦点を当て,事前の想 定と異なる場合も含め,当該事態に即した状況判断や意思決定を適切に進めるための方法論の確 立や,意思決定に向けたリスク評価の強化,及び意思決定の判断基準の明確化と構築,意思決定 の正統性の担保に向け取り組むべき事項の提案を行った.

上述のように,従来あまり議論されてこなかった,自然災害時の危機管理における意思決定に 関する考察を通じ,課題を明らかにするとともにその解決に向けた具体的な方法論を示し,自然 災害時の危機管理に関する意思決定構造を明確に構築することを通じて,防災・減災機能の強化 するための提案を行った.

以下,各章の結論を示す.

第2章では,2000年有珠山噴火と避難等の災害応急対策を対象に,これまで議論されること の少なかった自然災害時の意思決定に関する考察を行い、これを基に意思決定構造を明らかにし た.まず,噴火と災害対策の記録を基にして噴火状況の推移,リスク評価、リスク認識と危機管 理に関する意思決定の関係を段階的に整理した.これを基に,災害対策現地合同本部の機能を分 析し,市町長による意思決定は,専門家によるリスク評価と災害応急対策の検討を基になされて いることを明らかにした.さらに,意思決定の判断基準は複数存在することを示した.

意思決定者(市町長)の意思決定の判断基準は複数あり,有珠山噴火のリスク評価とこれに基 づくリスク認識に対応し選択している.1つは,地域の全ての生命・財産を対象として期待被害 額を最小化する(あるいは期待社会的厚生を最大化する)原則である.この原則は平常時におけ る意思決定基準であり,効率性(有効性)に基づいた判断がなされる.もう1つは,災害の危険 性が高く(とりわけ生命への切迫性が高く)なった段階では,全てに対して生命の保護を明確に 優先させ,最も危険な人の状況を可能な限り安全にできるようなマキシミン原則ともいえる非常 時における判断基準が採用されることを明らかにした.また,各段階における意思決定は,リス クの程度に対応したリスク認識に基づく判断基準の選択と意思決定がなされることを明らかに した.

さらに,羽鳥らの研究に基づく討議倫理の考え方を有珠山噴火における意思決定の正統性の評 価に導入し,従来社会資本整備の計画に関する意思決定を対象としていたこの方法論が火山噴火 の危機管理にも適用可能なことを示すとともに,有珠山噴火におけるメタ合意の考察を行い,有 珠山噴火における意思決定の正統性に関する課題の指摘と対策の提案を行った.

第3章では,火山災害において想定外の災害が発生した場合の住民避難等に関する意思決定を 評価するための規範的方法論を確立した.

まず,火山災害に関わる危機管理問題が災害の展開状態(ステージと呼ぶ)に応じて変化する ことを指摘し,各ステージにおける意思決定の内容や優先事項について考察した.その際,危機 管理に関わる意思決定モードが通常時意思決定モードと非常時意思決定モードという 2 類型に 分けられることを指摘し,それぞれの意思決定モードを規定する判断基準や意思決定原理を明ら かにした.

また,災害ステージの進展に対応して意思決定モードを変更するための高次の意思決定原則

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(メタ原則)について述べ,メタ原則の下,意思決定者がどのような証拠に基づいて意思決定モ ードの変更を正当化し得るかについて考察し,社会における諸討議の中で形成される正統性に危 機管理に関わる意思決定の正当化の根拠を位置付ける規範的枠組みを構築した.

第4章では,第3章で整理した「自分の命を護る」という選択肢を保証することが,危機管理 に関わるメタ意思決定の妥当性を担保するためのメタ原則となることを踏まえ,火山噴火におけ る避難指示が具備すべき規範的条件と異常事態発生を判断するための避難ルールを作成するた めの方法論を提案し、有珠山噴火に適用し有効性を考察した.

住民の迅速で安全な避難に向け,過去の事例や火山学等の知識に基づいて,あらかじめ火口位 置を火口形成の可能性から見た空間的拡がりをもって想定し,複数の噴火シナリオの下で被災す る可能性の高い地域を避難対象地域として指定するとともに,設定した噴火シナリオ群に対して,

避難対象地域内に居住する住民に対して避難先,避難経路,避難手段等の避難シナリオを規定す る.このようにベンチマークとして想定する避難対象区域と避難シナリオで規定されるルールを 避難ルールと呼び,避難ルールが満足すべき規範的条件として,無損害条件,危険回避条件,普 遍化条件を提案した.

また,噴火と避難交通のシュミレーションモデルを用いて規範的条件を踏まえた最適避難ルー ルを作成する方法論を提案するとともに,最適避難ルールが有効でない場合の異常時対応ルール を作成する方法論も併せて提案した.さらに,提案した方法論を有珠山噴火災害に適用し方法論 の有効性を考察するとともに,現在の地域のもつ避難計画を規範的条件の下で評価し,課題を指 摘し対応策を提案した.

第 5章では,第 3 章で取りまとめた危機管理に関わる討議システムを基盤とした意思決定の 正統性の担保において不可欠なマクロ討議の俯瞰的把握を目的に,災害応急対策における意思決 定の正統性を評価するために,災害後に観測される新聞報道や web 上における発言や記事の内 容を分析してマクロ討論領域における討論内容の全体像を把握するための方法論を提案した.過 去に行われた災害応急対策における意思決定プロセスに関する正統性を評価し,今後想定される 災害における有効な災害応急対策の立案に資することを目指して,オントロジーの概念を援用し て観測される発言や記事の内容を概念化し,その内容を体系的に把握した.

まず,危機管理の特徴を述べた上で,これまであまりなされてこなかったマクロ討論分析にお いて,人々の要求表現を網羅的に把握することが,社会的意思決定の正統性担保にとって重要で あることを指摘した.次に,災害応急対策の正統性を担保する上で重要となる事前期に対策すべ き事項を発見する方法論を提案した.その際,オントロジーの概念を援用して,対策事項は予測 困難な自然災害に対応できるよう抽象的な概念として発見することができた.さらに,実際の災 害応急対策を事例とし,これまであまりなされてこなかった社会的意思決定の正統性評価を目的 とする定量的なマクロ討論分析を行った.その結果,既往研究の定性的な考察では見えてこなか った問題を発見でき,本研究の有効性を示すことができた.討論的代表性の観点からマクロ討論 領域における正統性要件を評価することに成功している.また,社会的意思決定の正統性担保の 観点から,将来起こりうる自然災害に対して,どのような対策事項に関して議論を蓄積すべきか について政策的示唆を与えることができた.

第 6章では、第 5 章までにまとめられた火山噴火災害を対象とした危機管理に関する意思決 定の構造と意思決定の正統性の担保に向けた枠組みを用いて,水害時の避難等の意思決定に展開

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した.水害においても,従来の防災計画等に依拠した方法論の限界を踏まえ,首長による避難指 示等の意思決定に焦点を当て,事前の想定と異なる場合も含め,当該事態に即した状況判断や意 思決定を適切に進めるための方法論の確立や,意思決定に向けたリスク評価の強化,及び意思決 定の判断基準の明確化と構築,意思決定の正統性の担保に向け取り組むべき事項の提案を行った.

具体的には2000年の東海水害を対象に意思決定の状況や構造を分析するとともに意思決定の 正統性に関する考察を行い,火山噴火災害で組み立てた枠組みが水害に対しても展開可能なこと を示した.まず,災害状況と避難等の意思決定のクロノロジーを整理し,これに基づき意思決定 に必要な情報構造の整理を行い,ハザードマップ情報,気象情報,洪水予報・警報等いずれもが 避難等の意思決定に必要な空間的・時間的絞り込み・限定に結び付いておらず,避難の意思決定 からの情報としての限界を明らかにするとともに,リスク評価とその絞り込み・限定に向け,降 雨情報や水位情報をリスク情報に転換し意思決定に用いる方法等の提案を行った.さらに,意思 決定の正統性の担保に向けメタ合意を得るためには,日常におけるハザードマップ作成の過程に おいて,事前のリスク評価を地域の住民等と協働で行い,居住する地域及び住民にとって重要な 事象(インシデント)を抽出し,どの程度生命への影響があるか,リードタイムをどの程度確保 できるのかといったリスク認識の形成に必要な共通基盤を作成し,この結果をハザードマップと してとりまとめるといったハザードマップ作成過程の高度化の重要性を明らかにした.

7.2 今後の課題と検討の方向性

近年,激甚な災害が頻発し,災害が事前の想定とは異なる形態や規模で発生している.こうし た状況に対応する危機管理における意思決定は,実際に避難する住民が少なく避難の実効性に欠 けることや,避難指示等の発令の遅れや結果的に避難範囲が過大であったなどの批判があり,困 難な状況に直面しているが,自然災害時の危機管理に関する意思決定については,従来ほとんど 議論されていない.本研究は,この自然災害時の危機管理における意思決定に関する研究に新た な切り口と先鞭をつけることが出来たと考えている.

しかし,本研究を進展させ,科学技術の進展を防災・減災の枠組みに社会実装していくために は,以下の3つの観点からの研究の積み重ねが必要と考える.

① 本研究では,火山噴火を対象に危機管理における意思決定の正統性に考察を加え,水害へ の展開を図ったが,災害の種類により被害の影響範囲や対策のリードタイムが異なるため,

意思決定構造が異なる可能性もある.例えば,水害のような進行型災害と地震のような突 発型災害ではリスクの影響範囲やリードタイム等のリスク要因や災害ステージの展開等,

危機管理時の意思決定問題や意思決定構造が異なる可能性がある.今後は,リードタイム や影響範囲の異なる他の種類の災害事例への適用可能性を検証し,意思決定構造の規範的 条件を明らかにし,意思決定とその構造の一般化や標準化を図る必要がある.こうした取 り組みを通じ,科学技術の防災・減災への社会実装や法制度等の整備により,実効ある防 災・減災の強化に結びつけることが可能となる.

② 危機管理に関する意思決定は,発生した段階においては時間等の厳しい制約があることか ら,社会的な理解や合意を得ることは実質的には不可能であるため,災害発生前の意思決 定に関するメタ合意を得ることが重要であることを示した.このため,行政と住民がリス