• 検索結果がありません。

第 6 章 平均構造の研究 59

6.4 結論

6.4. 結論 67

68 第6章 平均構造の研究

図6.1 (a) に示したセグメント番号のつけ方の2つの方法に対応している. 自明な結び

目をもつ孤立環状高分子では,タイプ0の平均構造はx-y平面上のN個の頂点を持つ正 多角形の構造となり, DN 対称性をもつことがわかった. ここでは, DN対称群の2N 個の

操作は,図6.1(b)のセグメント番号のつけ方の2N個の方法に対応している.

本研究で提案した 二つ目の平均構造の定義方法では, セグメント番号のつけ方を変 化させて生成したK 個の生成配座ベクトルを同じ構造と見なした. 1 つのサンプル配 座ベクトルC(m)に対し,K個の生成配座C˜(m,k), k=1, . . . , Kのうち最小のd2(m,k) を与える生成配座ベクトルC˜(m,kmin(m))のみに注目した. こうして得られた平均構造 をタイプ1の平均構造と呼ぶ. 対応する平均配座ベクトルは式 (6.9) で定義される. タ イプ1の平均構造では各サンプル配座C(m)からセグメント番号をつけ変えることに より得られるK個の生成配座ベクトルC˜(m,k(m)), k = 1, . . . , Kのうち1つのみを平 均に用いる. このため,各サンプル配座C(m)に現れるタイプ0の平均構造のもつ対称 性からのずれが,タイプ1の平均構造に引き継がれることになる. 孤立線状高分子では, タイプ1の平均構造 はx-y平面上の歪んだ放物型の構造となり, y軸についてのC2 対 称性はあらわれなかった. 自明な結び目をもつ環状高分子では,タイプ1の平均構造 は x-y平面上の凹凸のある多角形の構造となり, DN対称性はあらわれなかった. 構造の鏡 映操作について考えると, サンプル配座から評価された平均構造の鏡映構造は,サンプ ル配座の鏡映配座から評価された平均構造を与える. 線状高分子や自明な結び目をもつ 環状高分子のようなアキラル性な高分子構造では,実配座と鏡映配座とは同じ統計的な 重みを持ち,鏡映配座のアンサンブルは実配座のアンサンブルと一致する. その結果,平 均構造はその鏡映構造と一致する. したがって,アキラル性な構造のタイプ1の平均構 造は, 平面構造もしくは, 鏡映対称面をもつ立体構造になるべきである. 線状高分子と 自明な結び目をもつ環状高分子のタイプ1の平均構造は,どちらも平面構造であったた め,上記の条件が満たされていることが確認できた.

セグメント数N の三葉結び目をもつ環状高分子の タイプ0の平均構造 は,偶数であ る N ≤ 110の領域ではN/2個の頂点をもつ正多角形の2重ループ構造に, N ≥ 120の 領域では,N 個の頂点をもつ正多角形の1重ループ構造になった. これらの評価された 平均構造では, セグメント番号のつけ方を変える2N 個の方法の対称操作について, 不 変であることがわかる. セグメント数を大きくするにつれて起こる, 2 重ループ構造か ら1 重ループ構造への転移は, 転移セグメント数Ntav0 = 110 ∼ 120で起きることがわ かった. この転移は,結び目部分の局在-非局在転移に関係していると考えられる. 三葉 結び目をもつ環状高分子はキラル性の構造であるので,評価されたタイプ1の平均構造 は鏡映対称面をもたずサンプル配座と同じ結び目型をもつ. タイプ1の平均構造の結び 目部分は, セグメント数が小さいときには高分子全体に広がっており,セグメント数が 大きいときには高分子鎖の一部に局在していることがわかった. セグメント数を大きく するにつれて起こる,結び目部分の非局在状態から局在状態へのクロスオーバーは,ク ロスオーバー セグメント数Nxav1 ' 120付近で生じる. この値はタイプ0の平均構造に おけるNtav0の値と一致する.

第5章の緩和現象の研究結果では,最も遅い緩和を与える波数の転移は,結び目部分の

6.4. 結論 69 局在化に起因すると推測し, この転移に関する特徴的なセグメント数はNc = 96 ∼ 144 であった. 本研究では,平均構造による研究結果から結び目部分の局在化を3次元構造か ら直接確認できた. そして,その特徴的なセグメント数はNtav0 = 110∼ 120, Nxav1 ' 120 であることがわかった. よって, NcNtav0,Nxav1の値と一致していることから,本研究の 結果は,第5章の推測を実証しているといえる.

本章では,平均構造を用いた解析を行い, 平均構造が結び目をもつ環状高分子の結び 目部分の局在性を研究するために,有効な手段であることを示した. 実際に, 3次元構造 である平均構造を直接見ることにより,結び目部分の局在の有力な証拠を得ることがで きた. 三葉結び目をもつ環状高分子ではセグメント数が大きくなるにつれて, タイプ0 の平均構造では2重ループ構造から1重ループ構造へ転移した. この転移は結び目部分 の局在-非局在転移に対応している. 第2章で説明したとおり,三葉結び目は(3,2)-トー ラス結び目である. よって, 三葉結び目はトーラスの緯線に沿って2周する構造である ため, タイプ0の平均構造の N の小さい領域であらわれた2重ループ構造は自然な結 果といえる. 結び目型 K = 51, 71, 91 もトーラス結び目であり, これらの結び目をもつ 環状高分子の平均構造では,三葉結び目とは同じようなセグメント数に依存した転移を 起こすと期待される. 三葉結び目をもつ環状高分子のタイプ1の平均構造は,本来の構 造と同じ結び目型をもつことがわかり,結び目部分の局在性を直接評価することができ た. また,三葉結び目をもつ環状高分子はキラル性の構造であるので,評価されたタイプ 1の平均構造は鏡映対称性をもたない構造であった. 一般に, キラル性である結び目を もつ環状高分子では,タイプ1の平均構造は,鏡映対称性をもつ必要がない. 全てのトー ラス結び目はキラル性の構造であるため,そのタイプ1の平均構造も同じ結び目型を示 し,結び目部分の局在性が現れると期待できる. 他方,アキラル性の結び目をもつ環状高 分子の平均構造は興味深い. なぜならば, これらの平均構造は,平面構造もしくは鏡映 対称面をもつ立体構造になるからである. トーラス結び目ではない,アキラル性の結び 目として最小交差点数が最も小さい素な結び目は結び目型K =41の八の字結び目であ る. したがって,八の字結び目をもつ環状高分子の研究は今後非常に重要である.

70 第6章 平均構造の研究

【図6.4】: セグメント数N = 30, 40, 60, 80, 110, 120, 160, 240の三葉結び目をもつ環 状高分子のタイプ0の平均構造. 各図での円柱と赤い球は,図6.2と同様に定義した.

6.4. 結論 71

【図6.5】:セグメント数N =60, 110, 120, 240. の三葉結び目をもつ環状高分子のタイ プ0の平均構造のセグメント位置の分布. 横軸はθi/(2π),縦軸は(i−1)/Nである. 図を 見やすくするために, N = 120と240のデータでは, (i−1)/N = n/60 ,n= 0,1, . . . , 59 のみをプロットした.

72 第6章 平均構造の研究

【図6.6】: セグメント数N = 30, 40, 60, 80, 110, 120, 160, 240 の三葉結び目をもつ環 状高分子のタイプ1の平均構造. 各図での円柱と赤い球は,図6.2と同様に定義した.

73