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第 7 章 結び目部分の研究 73

7.2 結び目部分の定義方法

本研究では, 結び目をもつ部分鎖の定義方法として, 切断・接合の方法を用いる. 切 断・接合の方法では,部分鎖を切り出し,その両端を“適切な”経路でつなぐことにより 元の環状高分子と同じ結び目をもつ部分鎖を見つける. そして,この条件を満たす最短 の鎖長をもつ部分鎖を結び目部分をもつ部分鎖として定義する. 具体的には,次の手順 で結び目部分の部分鎖を評価する.

1. 任意の2つのセグメントを選び, 2つのセグメントを両端とする部分鎖を切り出す. 2. 切り出した部分鎖について, 両端セグメント同士を“適切な”経路で結び,環状鎖

を生成する.

3. 生成された環状鎖について, Alexander多項式を計算して,結び目型を評価する.20)–23) 4. 環状高分子から切り出される可能なすべての部分鎖の中で,元の環状高分子と同 じ結び目型をもち,かつ,最短の鎖長をもつ部分鎖を, 結び目をもつ部分鎖として 定義する.

経路の選び方には,切り出した部分鎖のトポロジーを変えないような経路を選ばなけれ ばいけない. しかし従来の研究では,この条件を満たすような経路を生成する方法は提 案されておらず,環状鎖を生成したときの誤判定をより少なくする方法のみが提案され

てきた.47)–50) この誤判定が生じる原因は二つあり,一つは経路と切り出した部分鎖の間

で発生するもの,もう一つは部分鎖や経路と残りの鎖の間で発生するものである. 以下 では, 前者を内部干渉の問題, 後者を外部干渉の問題と呼ぶ. これらの問題が生じたと き,例えば,自明な結び目をもつ環状高分子を調べたにもかかわらず,両端をつなぐ経路 によって生成された環状鎖には,三葉結び目型が現れてしまう. 内部干渉の問題は図7.1 のような高分子配座のときに発生する. この内部干渉の問題の原因は,切り出した部分 鎖と両端をつなぐ経路が絡み合ってしまうことにある. よって,内部干渉を解消するた めには,切り出した部分鎖が分布する領域に侵入しないような経路を選べばよい. 一方 で, 外部干渉の問題は図7.2 のような配座のときに発生する. この外部干渉の問題の原

7.2. 結び目部分の定義方法 75 因は,注目している切り出した部分鎖や部分鎖の両端をつなぐ経路と残りの鎖の絡み合 い方が変化してしまう事にある. よって,外部干渉を解消するためには,切り出した部分 鎖だけでなく,残りの部分鎖の分布も考慮した操作を行わなければいけない. このとき, 切り出した部分鎖と残りの部分鎖が互いに分けられていることが重要である. この条件 の関係が満たされていれば,第2章で述べた結び目の分解と合成の議論を適用すること ができる.

本研究では,部分鎖をつなぐために2つの経路の選び方を用いた. 一つ目の経路は,先 行研究で提案されたものであり, 切り出した部分鎖の重心を用いて生成した経路であ

(a) (b) (c)

【図7.1】: 内部干渉の問題. 部分鎖の両端をつなぐ経路と部分鎖自身との絡まり合い の問題. それぞれの図では, 自明な結び目をもつ環状高分子の配座を黒色の曲線で, 切 り出した部分鎖の両端を赤色の丸で示す. 図(b)での緑色の曲線は両端をつなぐ経路を, 緑色の丸は経路を生成するために用いた部分鎖の重心位置を示す. 図(c)は切り出した 部分鎖と経路から生成した環状鎖であり,明らかに三葉結び目型であることがわかる.

(a) (b)

(c)

【図7.2】:外部干渉の問題. 部分鎖や両端をつなぐ経路と,切り出した残りの鎖との絡 まり合いの問題. 各図の曲線と丸は図7.1と同様に定義した. 自明な結び目をもつ環状 高分子にもかかわらず,生成された環状鎖は三葉結び目型であることがわかる.

76 第7章 結び目部分の研究

る.49), 50) もう一つの経路は, 本研究で新たに提案したものであり, 切り出した部分鎖を

内包し,両端のセグメントに接する球を用いて生成した経路である.

経路 (A) :重心を用いる経路の選び方

重心を用いる経路には,端点をAとBとする切り出した部分鎖について,以下の手順 で生成する経路を用いる.(図7.3)

1. 部分鎖の重心Cを求める.

2. 半直線CAとCB上の無限遠点DとEを選ぶ. 3. 無限遠点を経由した経路ADEBを生成する.

この方法で得られた環状鎖では, 内部干渉と外部干渉の両方の問題が生じるため,誤判 定が起きることが知られている. 先行研究では立方格子模型のシミュレーションによっ て,この経路を用いた結び目部分の判定が行われている. そこでは, N =500の自明な結 び目をもつ環状高分子の中で,部分鎖を自明な結び目でない結び目型と誤判定した確率 は0.2%であったと報告されている.50) 以下では,経路(A)を用いた結び目部分の定義方 法を解析(A)と呼ぶ. また解析(A)によって評価された結び目をもつ部分鎖と残りの鎖 の鎖長を,それぞれ `(A)K , `(A)R とする.

経路 (B) :球を用いる経路の選び方

球を用いる経路には,端点をAとBとする切り出した部分鎖について,以下の手順で 生成する経路を用いる.(図7.4)

1. 以下の3つの条件を満たす球の中心の位置座標と半径を求める.

• 端点AとBが球に接する.

• 切り出した部分鎖が球内部に入っている.

• 残りの部分鎖が球内部に入っていない.

具体的には,端点AとBに接する球として, 端点の2つセグメントのみが接する 球,端点の2つの他に1つの内部セグメントに接する球,端点の2つの他に2つの 内部セグメントに接する球のあらゆる組み合わせについて考える. ここで, 球の 中心の位置座標と半径は, 4つのセグメントの場合は一意に決まるが,それ以下の セグメント数の場合は一意に決まらない. そこで, 3つのセグメントから評価する 場合には, 3つのセグメントからなる三角形の外接円を大円とする球を考える. ま た, 2つのセグメントから評価する場合には, 2つのセグメントをつなぐ直線を大 円の直径とする球を考える.

2. 得られた球面上のAとBをつなぐ大円を経路として生成する.

7.2. 結び目部分の定義方法 77 この経路の選び方では,切り出した部分鎖と残りの部分鎖とは球の内と外で分離される ことが保証される. よって,内部干渉と外部干渉の問題は発生しない. 以下では,経路(B) を用いた結び目部分の定義方法を解析(B)と呼ぶ. また解析(B)によって評価された結 び目をもつ部分鎖と残りの鎖の鎖長を,それぞれ `K(B), `(B)R とする.

(a) A

B

(b) C

D

E

(c)

【図7.3】: 重心を用いる経路の選び方. それぞれの図では円柱は隣接しあったセグメ ント間ボンドを,赤い球は高分子の重心位置を,青い球は切り出した部分鎖の端点を表 す. 緑色の球は部分鎖の重心の位置座標を表す. 緑色の円柱は半直線CAとCBと経路 を,青色の円柱は結び目をもつ部分鎖を表す.

(a) A

B

(b) (c)

【図7.4】: 球を用いる経路の選び方. それぞれの図では円柱は隣接しあったセグメン ト間ボンドを,赤い球は高分子の重心位置を,青い球は切り出した部分鎖の端点を表す. 図(b)と(c)の半透明の球は, 経路を生成するために用いた球を表す. 図(b)の緑色の円 柱は球表面上に生成した経路,図(c)の青色の円柱は結び目をもつ部分鎖を表す.

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