第 6 章 平均構造の研究 59
6.2 平均構造の定義方法
セグメント数N の単一な組成からなる孤立線状高分子と孤立環状高分子について平 均構造を定義する. 平均構造はシミュレーションから得られる多数の高分子の配座をサ ンプルとして用いて評価される. 具体的には,シミュレーション中で,初期の平衡化時間 Ti後に時間間隔∆T 毎に得られるM個の高分子配座をサンプルとして用いる. m番目 の高分子配座でi番目のセグメントの高分子重心からの相対位置座標を3次元列ベク トルRi(m)を用いて表す.
Ri(m)≡ ri(tm)−rc(tm). (6.1) ここで, tm = Ti +(m−1)∆T, m = 1, . . . ,M. また, rc は高分子の重心でありrc(t) = N−1PN
i=1ri(t)で定義される. このとき, m番目のサンプルの配座は 3N 次元の配座ベク トル
C(m)= tt
R1(m),tR2(m), . . . , tRN(m)
(6.2) で与えられる. 高分子がホモポリマーである場合, セグメント番号のつけ方を変えるこ とができる. それぞれのサンプル配座ベクトルC(m)から,C(m)と統計的重みの同じで あるK個の異なった配座を生成する.
C˜(m,k), m= 1, . . . , M, k= 1, . . . , K. (6.3)
6.2. 平均構造の定義方法 61 C˜(m,k)を生成配座ベクトルと呼ぶことにする. ここでKは,図6.1で示すように,孤立 線状高分子ではK =2,孤立環状高分子ではK = 2Nである. なぜならば,孤立線状高分 子では, 一方の端からセグメントに番号をつけた生成配座と,もう一方の端から番号を つけた配座と統計的重みが同じだからである. また,孤立環状高分子では,鎖に沿った並 進対称性があるため,どのセグメントからでも番号をつけ始めてよく,加えて,線状高分 子の場合と同様に逆の向きに番号をつけていくこともできるので, 2N 個の統計的重み の同じ生成配座を作ることができるからである. 生成配座ベクトルは,
C˜(m,k)= tt
Rn(1,k)(m),tRn(2,k)(m), . . . , tRn(N,k)(m)
(6.4) で与えられる. ここで, n(i,k) = (1−2r)ij + r(N+1), ij = ((i+ j−1) mod N) + 1, j= b(k−1)/2c,r = (k−1) mod 2= k−1−2jである. またijは Nを法としてi+ jに 等しく, 1から N の間の整数となる. kが奇数ならば n(i,k)は ij, 偶数ならばn(i,k)は N−ij+1となる. 次に,生成配座ベクトル{Cˆ(m,k) ;m=1, . . . , M,k=1, . . . , K},から,
1 N
2
1
N 2 1
N
2
N-1
1
N
2 N-1
(a)
(b)
【図6.1】: 統計的な重みが同じである K 個のセグメント番号のつけ方の方法. 線状高 分子(a)では,左側から右側への番号のつけ方とその反対方向での番号のつけ方は等価 であるので, K = 2となる. 一方, 環状高分子(b)では,並進対称性と周期境界条件があ ることから,どのセグメントから番号をつけ始めてもよく,さらに線状高分子と同様に 逆方向による番号のつけ方をしたものも等価と見なせるので, K =2Nとなる.
62 第6章 平均構造の研究 平均配座ベクトル
Cav∗=tt
Rav1∗,tRav2 ∗, . . . , tRavN∗
(6.5) を以下の方法で評価する. ここで, av∗はav0とav1のどちらかを表しており,それぞれ は以下で説明するタイプ0の平均構造とタイプ1の平均構造を表す. 最初に,それぞれ の生成配座ベクトルについて, 3次元回転操作Rm,k を求める.73) ここで,Rm,k は回転操 作を行った生成配座ベクトルと平均配座ベクトルとの距離の二乗d2(m,k)を最小にす る回転操作であり,二つの配座ベクトルの距離の二乗は,
d2(m,k) ≡ Rm,k
C˜(m,k)
−Cav∗2
(6.6)
= XN
i=1
Rm,k Rn(i,k)(m)−Ravi ∗2
(6.7) で定義される. つまり,回転操作Rm,kは生成配座ベクトルを平均配座ベクトルに合わせ る操作といえる.
従来,生体高分子などのヘテロポリマーに対して用いられてきた平均構造では,サン プル配座ベクトルのi番目セグメントは,平均配座ベクトルのi番目セグメントに合わ せる操作を行う. この従来の方法で得た平均構造をタイプ0の平均構造と呼ぶ. 本研究 では,サンプル配座ベクトルC(m)からセグメント番号のつけ変え, K 組の配座ベクト ルを生成した. タイプ0の平均構造ではセグメント番号のつけ方が重要であり,生成さ れた配座ベクトルC˜(m,k),k =1, . . . , Kはそれぞれ異なった構造として扱われる. これ より,タイプ0の平均構造の平均配座ベクトルCav0は次式で定義される.
Cav0≡ 1 MK
XM m=1
XK k=1
Rm,k
C˜(m,k)
. (6.8)
次に,ホモポリマーについて新しい平均構造の定義方法を提案する. この新しい方法で 評価された平均構造をタイプ1の平均構造と呼ぶ. タイプ1の平均構造では,生成配座
ベクトルC˜(m,k), k= 1, . . . , K について,セグメント番号のつけ方の違いを無視した,
サンプル配座ベクトルC(m)から生成された生成配座ベクトルC˜(m,k), k = 1, . . . , K の中で平均配座ベクトルに最もよく合う生成配座ベクトルだけを考える. すなわち,m を固定して, 生成配座ベクトルC˜(m,k)と平均構造との距離の二乗(6.7) を最小にする kの値kmin(m)を見つけ, ˜C(m,kmin(m))のみを用いて,平均構造を計算する. タイプ1の 平均構造の平均配座ベクトルCav1は次式で定義される.
Cav1≡ 1 M
XM m=1
Rm,kmin(m)
C˜(m,kmin(m))
. (6.9)
回転操作Rm,k の定義には,Cav∗が含まれているので,式(6.8)と(6.9)は自己無撞着的に 解く必要がある. そのため, 本研究ではCav∗ を評価するために反復法を用いた. 一回の
6.3. 結果 63