第 6 章 平均構造の研究 59
6.3 結果
6.3. 結果 63
64 第6章 平均構造の研究 を無視し, ˜C(m,1)かC˜(m,2)のいずれか一方を用いるため,サンプル配座ベクトルでの 非対称性は,そのまま評価される平均構造に反映される. ここで,タイプ1の平均構造が 平面構造になる理由は次のように考察できる. 原点を含んだ平面についての鏡映操作を Mとし,回転操作Rについて新しい回転操作
R0 =MRM (6.10)
を定義する. このとき, R
C˜(m,k)
−Cav∗2
= M
R
C˜(m,k)
− M(Cav∗)2
(6.11)
= R0
M
C˜(m,k)
− M(Cav∗)2
(6.12) の関係が保たれる. したがって,回転操作Rm,kがC(m˜ ,k)とCav∗に対して回転後のC(m˜ ,k) とCav∗の距離を最小にするとき,回転操作R0m,kがM( ˜C(m,k))とM(Cav∗)に対して回転後 のM( ˜C(m,k))とM(Cav∗)の距離を最小にする.kmin(m)はmを固定して, (Rm,k( ˜C(m,k))− Cav1)2を最小にするkの値であるから,同じkmin(m)が(R0m,k(M( ˜C(m,k)))− M(Cav1))2を 最小にするkの値になっている. すなわち,C(m)とCav1からRm,kmin(m)が得られたとする と, M(C(m))とM(Cav1)からR0m,kmin(m)が得られる. 式(6.9)の鏡映構造は次のように得 ることができる.
M Cav1
= 1 M
XM m=1
M
Rm,kmin(m)
C˜(m,kmin(m))
(6.13)
= 1 M
XM m=1
R0m,kmin(m)
M
C˜(m,kmin(m))
. (6.14)
【図6.2】: セグメント数N = 40の孤立線状高分子のタイプ0 (a)とタイプ1 (b)の平 均構造. それぞれの図では,円柱は隣接しあったセグメント間のボンドを,赤い球は高分 子の重心位置を表す.
6.3. 結果 65 この関係から, M個のサンプル配座C(m),m = 1, . . . , Mから計算されたタイプ1の平 均構造をCav1とするとき,M個のサンプル配座の鏡映配座M(C(m))から計算されたタ イプ1の平均構造は,Cav1 の鏡映M(Cav1)によって与えられることがわかる. 孤立線状 高分子はアキラル性をもつので, サンプル配座の鏡映配座M(C(m))は, サンプル配座 の実配座C(m)と同じ統計的な重みをもつ. 言い換えれば,M(C(m))のアンサンブルは, C(m)のアンサンブルと同じになる. したがって,平均構造Cav1 と平均構造の鏡映構造 M(Cav1)は同じ構造となり,Cav1 =R(M(Cav1))を満たす回転操作が存在することがわか る. この結果は,評価された平均構造は必ず,平面構造もしくは,鏡映対称面をもつ立体 構造にならなければいけないことがわかる.
6.3.2 自明な結び目をもつ環状高分子の結果
図6.3は, セグメント数N = 40の自明な結び目をもつ孤立環状高分子の平均構造で
ある. 図6.3 (a)では,タイプ1の平均構造はx-y平面上にある頂点数が N = 40の正多
角形の構造であった. 前述したように, 2N個の生成配座ベクトルC˜(m,k),k=1, . . . , K はセグメント番号のつけ方を変えることにより,サンプル配座ベクトルC(m)から生成 される. タイプ0の平均構造を評価するときには, 2N個の生成配座ベクトルは全て同じ 統計的な重みをもつので,評価されたタイプ0の平均構造は2N個のセグメント番号の つけ方のいずれに対しても同じでなければいけない. したがって,タイプ0の平均構造 の全ての位置ベクトルが互いに違っているならば,その平均構造はDN 対称性をもたな ければならず, 正N角形になる. ここで, DN 対称性の2N個の対称操作が2N個のセグ メント番号のつけ方の変え方に対応している. 一方で, 図6.3 (b)では,タイプ1の平均
【図6.3】: セグメント数N = 40の自明な結び目をもつ環状高分子のタイプ0 (a)とタ
イプ1 (b)の平均構造. 各図での円柱と赤い球は,図6.2と同様に定義した.
66 第6章 平均構造の研究 構造は, タイプ0の平均構造と同様に x-y平面の構造となったが, 凹凸のある多角形で あり, DN 対称性は満たされていないことがわかる. この結果は前述と同じように説明 することができる. タイプ1の平均構造の評価方法では,セグメント番号のつけ方の違 いを無視するため, 各サンプル配座ではDN 対称性を満たさず,その特徴は平均構造に 引き継がれる. 自明な結び目をもつ環状高分子はアキラル性をもつ構造であるため,自 明な結び目をもつ環状高分子の配座のアンサンブルを考えると,サンプル配座とサンプ ル配座の鏡映配座は同じ統計的な重みをもつ.したがって,線状高分子と同様に,平均構 造は鏡映対称性をもつ. 評価された平面状の構造は,この条件を満たす可能な構造の一 つである.
6.3.3 三葉結び目をもつ環状高分子の結果
図 6.4はセグメント数N = 30, 40, 60, 80, 110, 120, 160, 240の三葉結び目をもつ 環状高分子のタイプ0の平均構造である. 前述したとおり,タイプ0の平均構造はセグ メント番号のつけ方の2N 個の操作について不変である. よって, 80 ≤ N ≤ 160での平 面構造からのずれは,統計の悪さに起因している. 平面構造からのずれを無視すれば,図 6.6の平均構造は x-y平面上の多角形と見なすことができる. 次に多角形のセグメント 位置の分布を知るために,角度θiを調べる. ここで角度θiは1番目とi番目のセグメン トのx-y平面上に射影した位置ベクトルのなす角度であり,
cosθi = Rav01,xRav0i,x +Rav01,yRav0i,y q
Rav01,x2+Rav01,y2 q
Rav0i,x 2+Rav0i,y 2
, (6.15)
sinθi = Rav01,xRav0i,y −Rav01,yRav0i,x q
Rav01,x2+Rav01,y2 q
Rav0i,x 2+Rav0i,y 2
, (6.16)
で定義される. ここで,Rav0i,α はタイプ0の平均構造のi番目セグメントの重心からの相対 位置座標ベクトルRav0i のα成分である. 図6.5は,横軸が(i−1)/N,縦軸がθi/2πのグ ラフである. 図からわかるように,タイプ0の平均構造は,N ≤ 110の領域では2重ルー プ構造に,N ≥ 120の領域では1重ループ構造になっている. または,タイプ0の平均構 造はN ≤ 110の領域では N が偶数のときN/2個の頂点をもつ正多角形に, N ≥ 120の 領域ではN個の頂点をもつ正多角形になっている. ここで注意すべき点は,セグメント 数が偶数である2重ループ構造のとき,Rav0i =Rav0n(i,N/2), i= 1, . . . , N/2が満たされるの で, セグメント番号のつけ方を変える2N 個の対称操作は, DN/2 対称性になることであ る. セグメント数が大きくなるにつれての2重ループ構造から1重ループ構造への転移 は,セグメント数Ntav0 =110∼120でおきる. この転移は結び目部分の非局在-局在転移 に関係があると考えられる. なぜならば,もし配座R( ˜C(m,k))の結び目部分が非局在状 態の場合,平均構造のx-y平面への射影は重心を取り囲み,局在状態の場合,重心は取り 囲まなくなるからである. また, N ≥ 120の三葉結び目をもつ環状高分子のタイプ0の
6.4. 結論 67