第 4 章 自動車乗員を対象とした傷害予測アルゴリズム
4.4 結言
本章で構築した傷害予測アルゴリズムにより,ロジスティック回帰分析を用いることで 複数リスクファクタの組み合わせによる多様な衝突モードにおける乗員の死亡重傷発生率 を一意に予測することが可能となった.これまで,擬似ΔV,右(ニア)側面衝突,シート ベルト非着用および年齢,の個々のリスクファクタの死亡重傷発生率に対する効果につい てはわが国の事故データ分析から報告されているが(8)(9)(10),提案する傷害予測アルゴリズ ムではこれらの複数のリスクファクタの組み合わせ効果による死亡重傷発生率への影響を 定量的に予測できることを示した.得られた結論は以下である.
(1) わが国における事故自動通報の傷害予測アルゴリズムは,交通事故統計マクロデータを ベースとし,目的関数を死亡重傷発生率,リスクファクタを2,3 章の成果から得られ た事故データとし, 速度を表す量としては擬似ΔVを採用するロジスティック回帰分析 から得られる.
(2) 十分なデータ数を有し,取得データに偏りのない交通事故統計マクロデータをベースデ ータとして採用することにより,個々のリスクファクタに対するの傷害予測値は統計的 有意性が確保された結果が得られた(p<0.001).
(3) 本研究の傷害予測アルゴリズムを適用して得られる結果事例は以下である.
・衝突方向では右(ニア)側面衝突,左(ファー)側面衝突,前面衝突,後面衝突の順に死 亡重傷発生率が高い結果となる.
・全ての衝突方向において,シートベルト着用に比べて,シートベルト非着用では,死 亡重傷発生率が2.5倍から3.0倍程度増加する.
・年齢の影響では54歳以下に対し,65歳以上のケースでは死亡重傷発生率は1.5~2 倍に増加する.
(4) 米国CDCの「重傷発生率が20 %以上と推計された時に重大事故と判定する」基準を適用
し,本章で示した交通事故ミクロ調査データとの照合結果では,予測結果に対する閾値
を20 %とした場合に良好な結果を示し,傷害予測アルゴリズムによる予測結果は一定の
信頼性を得ることができている.しかし,実傷害結果を過小に評価するアンダートリア ージの事例もあり,この原因および傷害予測アルゴリズムの改善が今後の課題である.
実際の運用にあたっては,アンダー/オーバートリアージの許容度合を含めたリスク判 定の閾値について医療従事者との議論が必要である.
以上より,本研究で示した傷害予測アルゴリズムは路上事故における多様な衝突モード
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を包括した自動車乗員の傷害予測を可能とし,救急隊や救命医に対してより直接的な傷害 予測結果の情報提供を可能とすることで,現状の救命救急活動における重傷度評価の支援 に有効であることを明らかにした.
このことは, 搬送先病院の早期選定,ドクターカー・ヘリ,レスキュー隊の出動判断等 の救急の初動活動を車載システム側で支援し,潜在的避けえた外傷死の予防を実現する目 標にとって効果的であると考えられる(13).
76 参考文献
(1) 吉田傑,長谷川卓,富永茂,西本哲也:事故データによる傷害予測に関する研究,自 動車技術会論文集Vol.43, No.2,March 2012, pp.275-280(2012)
(2) 嶋村宗正:シートベルトの効果に関する研究, ITARDA自主研究報告書,2003,p.78-81 (3) H.Saruwatari,S.Yoshida; Research for improve accuracy of crash velocity and
delta-V of side crash,JAMA-ITARDA collaboration study report (2010)
(4) H.Saruwatari,S.Yoshida; Research for improve accuracy of crash velocity and delta-V of frontal and rear crash,JAMA-ITARDA collaboration study report (2011) (5) 交通事故総合分析センター:交通事故例調査・分析報告書(平成18年度),pp.234-367
(2007)
(6) ADVANCED AUTOMATIC COLLISION NOTIFICATION AND TRIAGE OF THE INJURED PATIENT,
Centers for Disease Control and Prevention
(7) S.Yoshida,T.Hasegawa,S.Tominaga,T.Nishimoto (2016):Development of injury prediction models for advanced automatic collision notification based on Japanese accident data,International Journal of Crashworthiness,DOI:10.1080/13588265.
2015.1132970
(8) 松井靖浩ほか:側面衝突時の乗員傷害について-衝突車の種類が被衝突車の乗員傷 害に及ぼす影響-,自動車技術会論文集,Vol.40,No.2,pp.295-300 (2009)
(9) 水野幸治ほか:衝突事故における車両緒元と乗員傷害の関係-交通事故統計を用いた正 面衝突及び側面衝突に関する分析-,自動車技術会論文集,Vol.28,No.4,pp.123-128 (1997)
(10) Shimamura.M.et al:The Effects of Occupant Age on Patterns on Rib Fractures to Belt-Restrained Drivers and Front Passengers in Frontal Crashes in Japan,
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(11) 西本哲也ほか:救急救命型ドライブレコーダーの開発,自動車技術会論文集,Vol.36,
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(12) Sasser SM,Hunt RC,Sullivent EE,et al.:Guidelines for field triage of injured patients: recommendations of the National Expert Panel on Field Triage,MMWR Recomm Rep.2009 Feb 27;58(7):172.
(13) 益子邦洋ほか:事故自動通報システム(ACN)が起動するドクターヘリシステム構築 の必要性,救急医学,Vo.34, pp.533-537 (2010)
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