第 4 章 自動車乗員を対象とした傷害予測アルゴリズム
4.3 交通事故ミクロ調査データによる実傷害との検証
4.3.1 交通事故総合分析センター公表データによる検証
67
68
以上という可能性が車載データから得られる情報から予測されるとき,重大な傷害の危険 性がある事故と判断されなければならないとされている(6).
米国CDCのガイドラインがISSが15以上の確率が20%以上をHigh Risk Collisionとし ていることに準じて,本研究の傷害予測アルゴリズムの予測から得られる死亡重傷発生率
の値20%を閾値として,予測値と実傷害結果の照合を行い評価した.
その結果22件中のうち19件で死亡重傷発生率が20 % 以上と予測され,的中率は86 % で あった.これより傷害予測アルゴリズムによる死亡重傷発生率の予測は一定の信頼性を得 ることができることが明らかになった.一方で,3件の事故例(Case_6,12,19)について は,死亡重傷発生率の推計値は10 % 以下であり,アンダートリアージ(実傷害を過小に評 価する)に相当する結果であった.
4.3.2 交通事故ミクロ調査データによる検証
ここではITARDAにより提供されるわが国の交通事故ミクロ調査データを使用して,傷害
予測アルゴリズムの検証を行った.交通事故ミクロ調査データのデータセットは MAIS3+の 36ケースとISS15+の25ケースを含む385のデータから成る.Table 4.3.1に傷害レベルと 衝突方向パターンのケースの数を示す.
Table 4.3.1 交通事故ミクロ調査データの中の MAIS3+ and ISS15+ ケース 前面 ニア
側面
ファー 側面
後面
AIS AIS1,2 181 61 72 36
AIS3+ 22 5 9 0
ISS ISS14- 188 63 73 36
ISS15+ 14 3 8 0
交通事故ミクロ調査データからMAIS3+またはISS15+の重傷のケースを抽出し,傷害予測 モデルの評価において使用した.交通事故ミクロ調査データの各々のケースの事故条件を 傷害予測アルゴリズムのパラメタとして使用し,死亡重傷発生率の計算を行った.交通事 故ミクロ調査データのΔVの数値は,傷害予測アルゴリズムを実行するために擬似ΔVに換
算して(2)(3)(4)使用した.
前面衝突: 擬似ΔV = ΔV/0.7 側面衝突(near side): 擬似ΔV = ΔV/0.8 側面衝突(far side) : 擬似ΔV = ΔV/0.8 後面衝突: 擬似ΔV = ΔV/1.0
69
米国CDCのガイドラインのISSが15以上の確率が20%以上をHigh Risk Collisionとし ていることに準じて,この研究においては,傷害予測アルゴリズムで計算される20%以上の 死亡重傷発生率のケースを重大事故と定義し,20%未満のケースは軽傷と定義する.アルゴ リズムから得られる判定予測結果を,交通事故ミクロ調査データの実際の AIS および ISS の値と比較した.
4.3.3 傷害予測結果と実傷害との関係
ここまでで開発したロジスティック回帰分析をさらに精度を上げるために衝突方向毎に 回帰式を作成するフルモデルとし,交通事故ミクロ調査データでMAIS3+のケースを抽出し,
傷害予測アルゴリズムを用いて個々のケースについて死亡重傷発生率の予測を行った(7).
Table 4.3.2に衝突方向別のロジスティック解析結果として,個々のリスクファクタの推定
結果とWald検定の結果を示す.同表より,衝突方向別にデータを分けて解析した結果にお いてもそれぞれのリスクファクタにおいて統計的有意性をもつモデルとなっている
(p<0.001)ことが示されている.
Table 4.3.2 衝突方向別ロジスティック回帰分析結果
Coefficients Standard error p-value Coefficients Standard error p-value
Intercept -4.432 0.0151 <.0001 -4.113 0.0362 <.0001
Delta-Vpseudo Under 30 km/h - - - - -
-31-40 km/h 2.694 0.0152 <.0001 0.621 0.0356 <.0001
41-50 km/h 3.436 0.0150 <.0001 1.353 0.0455 <.0001
51-60 km/h 3.851 0.0160 <.0001 1.707 0.0677 <.0001
Over 61 km/h- 4.508 0.0144 <.0001 2.614 0.0732 <.0001
Belt use Yes -1.351 0.0118 <.0001 -0.963 0.0367 <.0001
No - - - - -
-Multiple crash Yes 0.077 0.0136 <.0001 0.137 0.0213 <.0001
No - - - - -
-Occupant's age Under 54 years - - - - -
-55-64 years 0.580 0.0142 <.0001 0.232 0.0225 <.0001
Over 65years 0.970 0.0147 <.0001 0.381 0.0312 <.0001
Coefficients Standard error p-value Coefficients Standard error p-value
Intercept -2.586 0.0351 <.0001 -2.869 0.0406 <.0001
Delta-Vpseudo Under 30 km/h - - - - -
-31-40 km/h 1.897 0.0356 <.0001 1.786 0.0459 <.0001
41-50 km/h 2.481 0.0474 <.0001 2.409 0.5970 <.0001
51-60 km/h 2.904 0.0553 <.0001 2.538 0.7190 <.0001
Over 61 km/h- 3.524 0.0429 <.0001 3.119 0.5190 <.0001
Belt use Yes -1.361 0.0349 <.0001 -1.458 0.0402 <.0001
No - - - - -
-Multiple crash Yes 0.153 0.0333 <.0001 0.228 0.0377 <.0001
No - - - - -
-Occupant's age Under 54 years - - - - -
-55-64 years 0.495 0.0329 <.0001 0.444 0.0400 <.0001
Over 65years 0.780 0.0359 <.0001 0.577 0.0459 <.0001
Risk factors
Frontal Impact Model (n=2,654,255)
Rear Impact Model (n=1,980,774) Risk factors
Nearside Impact Model (n=217,128)
Farside Impact Model (n=218,994)
70
本研究で示した傷害予測アルゴリズムは,車載エアバッグ展開装置の記録情報の利用を 前提とした計算量の少ない比較的簡易なモデル構造としている点が特徴であり,今後の車 載システムからの通報データを用いた傷害予測への利用が期待できる(11).その上で,傷害 予測アルゴリズムにより得られた予測結果の実際の交通事故における救命活動への活用方 策に関しては,米国CDCのField TriageのExpert Panelでは,「車載データから得られた 情報により,重傷(ISSが15以上)発生率が20 %以上と推計された時に,重大な傷害が発 生するリスクが高いと判定する」ことを推奨しており(12),わが国においても参考になる指 針と考えられる.
Fig.4.3.1に異なる衝突方向別に,20%以上の死亡重傷発生率および,19%以下の死亡重傷
発生率を表す.今回のデータセット中,後突に関してはMAIS3+またはISS15+データがなか ったため,この衝突方向については検証ができていない.
傷害予測アルゴリズムの予測結果では,正面衝突の MAIS3+の事例中 77%が死亡重傷発生
率20%以上と判定された.右(ニア)側面衝突は60%,左(ファー)側面衝突では78%となった.
同様に ISS15+のケースを抽出し,死亡重傷発生率の予測を行った.Fig.4.3.2 に異なる
衝突方向別の予測結果として,20%以上の死亡重傷発生率および,19%以下の死亡重傷発生 率のケースの比率を表す.正面衝突中79%が,死亡重傷発生率20%以上と判定された.右(ニ ア)側面衝突は67% ,左(ファー)側面衝突では87%となった.この結果は,死亡重傷発生率
の閾値を20%と設定した時にアンダートリアージの判定となる事例が21%存在することを示
す.これらの結果から,傷害予測アルゴリズムでもたらされる計算結果に閾値を設定する ことにより,アンダートリアージの確率をコントロールできることが判る.目標とするア ンダートリアージの確率を実現する適切な閾値の設定により,実際の救命救急活動の現場 での運用が可能と判断できる.
Fig.4.3.1傷害予測結果と実傷害との関係(MAIS3+cases)
71
Fig.4.3.2 傷害予測結果と実傷害との関係(ISS15+cases)
本研究で開発した傷害予測アルゴリズムの重傷の定義は,わが国の交通事故統計マクロ データで使用される重傷の定義(30日以上の入院)である.そこで交通事故ミクロ調査デ
ータのMAIS3+とISS15+に関し,わが国の交通事故統計マクロデータの『重傷』の定義への
近い傾向があるかどうかを検証する必要がある.Fig.4.3.1とFig.4.3.2の結果からわが国 の重傷の定義はISSに対しより相関がある結果となった.
加えて傷害予測アルゴリズムは,交通事故ミクロ調査データでMAIS1とMAIS2および ISS14以下のケースの死亡重傷発生率の予測に適用された.結果を,Fig.4.3.3とFig.4.3.4 に示す.傷害予測アルゴリズムの予測結果では,正面衝突のMAIS2以下の事例中69%が死亡 重傷発生率19%以下と判定された.右(ニア)側面衝突は82%,左(ファー)側面衝突では69%
となった.
同様にISS14以下のケースを抽出し,死亡重傷発生率の予測を行った.Fig.4.3.4に異な
る衝突方向別に,20%以上の死亡重傷発生率および19%以下の死亡重傷発生率を表す.正面
衝突中69%が死亡重傷発生率19%以下と判定された.
この結果は,死亡重傷発生率の閾値を20%と設定した時にオーバートリアージの判定とな
る事例が31%であることを示す.
Fig.4.3.3 傷害予測結果と実傷害との関係(MAIS 1,2 cases)
72
Fig.4.3.4 傷害予測結果と実傷害との関係(ISS 14-cases)