第 3 章 抽出されたリスクファクタの統計的検証
3.1 先進事故自動通報(AACN)の効果と傷害予測アルゴリズム
事故自動通報システムの効果は医師と負傷者の接触までの時間の短縮として定義づけら れる.医師と負傷者の接触までの時間を算出するためには,救急隊による活動時間に関す るデータが必要になる.
(1)救急搬送における事故自動通報による時間短縮効果
Fig.3.1.1 に救急搬送における事故自動通報の重傷度判断による救命救急の時間短縮 の期待値を示す.まず,ACNにおいては事故が起きてから消防が覚知するまでの時間は自動 通報を行うことによって短縮できる.加えて重傷度判定結果が付随した先進事故自動通報
(AACN)では救急隊は現場に到着する前に負傷者が重傷か否かの判断ができるため,受け 入れ病院の選定と搬送の連絡をすることが可能になる.
これにより現場で実施している病院選定時間が短縮でき,現場での活動時間が短縮でき る可能性がある.整理すると以下の2つの要素となる.
① 受傷(事故発生)-覚知時間とその短縮可能時間
現状の通報時間は中央値で8.9分の時間を要している(1).したがって,事故自動通報での 実験を参照すると7分の時間短縮が可能になると考えられる.
② 病院選定時間の短縮
傷害予測結果が付随した先進事故自動通報(AACN)では,救急隊が現場に到着する前に 負傷者が重傷か否かの判断ができるため,救急車が移動中に近隣の病院へ搬送の連絡をす ることが可能になると予想される.
救急隊が現場で活動している活動時間は平均で 14 分である.米国の救急ガイドライン BTLS(Basic Trauma Life Safe)では現場活動時間として7分を推奨している(2).高エネルギ ー事故と判定された時などに現場活動時間を極力短縮し,病院への搬送を優先する救命救
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急活動モードをLoad&Goと呼ぶが,AACNのデータによりLoad&Goが実施され現場における 負傷者の観察時間と救急隊が実施している病院選定時間が短縮されることが期待されると すると,覚知までの時間短縮と合わせ,初期治療まで十数分の時間短縮が期待される.高 エネルギー事故の判断は,現状では救急隊が現場に到着した後,車の損傷等の確認結果か ら判定されるが(2)(5),事故自動通報に傷害予測アルゴリズムの死亡重傷発生率の予測結果を 加えることによってこれに代わる判断を通報の覚知と同時に行うことが可能となる.それ により,搬送病院の選定の早期化と,救急隊の現場活動時間の短縮が期待される.
Fig.3.1.1 救急搬送における事故自動通報の時間短縮
(2) AACNにより医師が現場出場した場合の負傷者接触までの時間短縮
傷害予測結果が付随した事故自動通報システム(AACN)の情報が病院でもリアルタイム で閲覧でき,ドクターカー,ドクターヘリで急行することが可能であれば,医師と負傷者 との接触時間を短縮することができると考えられる.Fig.3.1.2 にドクターヘリの出動を 伴う救急搬送における事故自動通報の重傷度判断による時間短縮の期待値を示す.現状の ドクターヘリの出動判断は,先行して現場に到着した救急隊が必要と判断してからヘリの 出動要請を行う.益子らによればヘリの出動には事故発生から約20分を要し,ドクターヘ リ搭乗医師が現場で負傷者と接触し治療を開始するまで約38分となっている(3).AACNのデ ータから傷害予測アルゴリズムを活用し死亡重傷発生率の予測を通報した実験を行った結 果,ドクターヘリの出動までの時間は3分となり,医師の負傷者接触までの時間は17分短 縮されるという効果が確認されている(3).
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Fig.3.1.2ドクターヘリ出動における事故自動通報の時間短縮
(3)高エネルギー衝突判断以外の救急隊の要望の大きい事故自動通報データの効果 実態調査における救急隊のインタビューから,高エネルギー衝突判断以外にも重要視さ れる情報が存在することが明らかになった.これらの情報は,救急隊の出動台数とレスキ ュー隊の出動判断の早期化に関係するものである.Fig.3.1.3に負傷者が複数あった場合,
閉じ込めのある場合などのAACNデータの効果を含む救命救急活動の時間短縮効果の期待値 を示す.AACNのデータの中には,ΔV,助手席着座有無,2回以上の衝突有無,横転などの 情報がある.これらの情報を早期に取得・活用することによって以下の効果が期待できる と考えられる.
・助手席着座有無
最初の救急隊が現場に到着する前に, 負傷者の数が複数かどうかを情報として得ること ができる.通常救急車1台に負傷者は1名であるので,2名の負傷者が存在する時は2台の 救急車が必要となる.通常は最初の救急隊が現場に到着して初めて2台目の救急車の要請 が掛るが,AACNの情報により最初から2台で出動できれば,2台目は十分以上の時間短縮 となる.
・多重衝突
事故車が2回以上の衝撃を受けたか,横転があったかは傷害確率にも関係する同時に,
レスキュー隊の出動判断に影響がある.2回以上の衝撃を受けた,もしくは横転した車両に は乗員が閉じ込められている可能性が高い.この場合は乗員を車の外に救出することが救 急隊のみでは困難になるケースが考えられる.一般にこれらの情報が入った場合には,消 防からレスキュー出動の判断がなされる.これらの場合も救急隊が現場に到着する前に出
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動することにより,十数分の時間短縮が期待できる.
Fig.3.1.3 AACN データによる時間短縮効果(負傷者が複数・閉じ込めある場合)
以上をまとめると,
・ITARDAの調査データ(1)によると事故発生(受傷)-覚知時間は事故自動通報システム(ACN)
により直接短縮できる可能性がある.
• AACN により現場活動時間と移動中に救急隊が病院へ連絡することができれば病院選定時 間の短縮可能性がある.
・AACN により医師が現場出場した場合の負傷者接触までの時間短縮について事故自動通報 システムからの情報によって,消防から医師出動を要請し,医師が現場出場した場合,医 師と負傷者の接触まで,十分以上の短縮が可能であると考えられる.
・救急隊複数出動が必要なケースや,レスキュー隊の出動が必要なケースにおいても時間 短縮の可能性がある.
このように事故自動通報システムが導入されれば,負傷者と医師との接触時間を短縮する ことは可能になると考えられる.一方で交通事故のうち軽傷事故が殆どである現状では,
無駄な出動を避けるためにも医師が出場すべき交通事故であるかの判断が重要な要素にな る.そのために事故自動通報システムにおける車両からの情報での重傷度を判定する傷害 予測アルゴリズムが重要である.
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