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5.3.1 高分子液膜の安定性

この節では、観察されたポリジヒドロシラン膜の顕微鏡写真を示し、膜の安定性と

Hamaker定数とを比較する。

液膜の観察結果

Fig. 5-1(a)–(f)は 6 種類の基板(石英、ガラス、光学ガラス A、B、C、TiO2)上に成膜

されたポリジヒドロシラン膜の顕微鏡写真である。各写真の左上には SSM 法によって計

算されたHamaker 定数AALSを示す。AALSの計算は 3章で述べた。写真では 2種類の特徴

的な膜が確認できる。1つはドットのパターンであり、もう1つは連続的な膜である。

Fig. 5-1 異なる基板上に製膜されたポリジヒドロシラン膜の光学顕微鏡写真。 (a)石英, (b)

ガラス, (c,c’)光学ガラスA, (d)光学ガラスB, (e)光学ガラスC, (f)TiO2。 (c)と(c’) は同一基 板上の異なる箇所の写真である。Hamaker 定数 AALS の値を写真の左上に示す。写真右下 のバーは長さ100 μmに対応する。

Fig. 5-1(a),(b)にある石英とガラス基板上で確認できる高分子のドット状のパターンは膜

が破裂した事を示している。石英とガラス基板上の高分子のドット間の距離は異なってお り、前者の方の距離が僅かに短い。光学ガラス A 上の高分子膜では 2 つの状態が観察さ れた。膜の一部がパッチ状(patch-like pattern)に分裂した状態(Fig. 5-1(c))と、分裂の無い連 続的な膜(Fig. 5-1(c’))である。光学ガラスB、C、TiO2上の高分子膜(Figs. 1(d)–(f))はい ずれも連続的な膜となっていた。

塗布法によるシリコンインクの製膜性

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Fig. 5-1(b)にあるドット形状をSPMによって測定した。Fig. 5-2 に3次元像を示す。ド

ットは高さ1.31 μm 、底部の直径18.45 μmのドーム形状となっていた。

Fig. 5-2 ガラス基板上で観察されたポリジヒドロシランのドットの AFM イメージ。測定

から得たドットの高さと幅はそれぞれ1.31、18.45 μm。

Hamaker定数

Fig. 5-1 で観察された膜の安定性を定量的に議論するために、我々は6 種類の基板上の

高分子膜のHamaker定数 AALSをSSMによって計算した。また比較のため、TWA による 計算も行った。Fig. 5-3に示すように、固体基板上に成膜された厚さ Lの液膜のエネルギ ーAALSを求めた。

Fig. 5-3 固体基板上に製膜された高分子液膜の模式図

液膜の安定性は単位体積あたりの自由エネルギーF(L) = SL+LA+P(L)で決定される。こ こでSL とLA はそれぞれ固体/液体、液体/大気の界面エネルギー、P(L)は分子間力である。

液膜の厚みLが1m以下では重力項は無視できる。低極性物質ではP(L)はvdWエネルギ

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ーが支配的で、P(L) = WALS(L)となる(Appendix F参照)。非遅延のLifshitz理論によると、

WALSは次のように与えられる78,79。 ( ) 2

12

ALS AALS

W L

L

 

. (5-1)

この式によると、液膜はAALS > 0 で安定となり、AALS < 0で不安定となる80。石英、ガラ ス、光学ガラスA、B、C、TiO2上の液膜のHamaker定数の値はそれぞれ5.59 (48.93)、

1.43 (36.43)、6.34 (14.48)、13.81 (5.46)、29.28 (31.26)、44.56 (60.65)となる。計算は SSMとTWAで行い、カッコの中の値はTWAの計算結果である。SSMとTWAで計算さ れたAALSを基板の屈折率nRI(589 nm)に対してプロットした図をFig. 5-4に示す。TWAの 計算では、UVは固体基板とポリジヒドロシランの平均値を用いた。

Fig. 5-4 SSMとTWAによって計算されたAALSと6種類の固体基板のnRI

SSM、TWA両方の計算結果とも、石英もしくはガラス基板上の液膜は不安定(AALS < 0) である事を示した。一方で光学ガラスB、C、TiO2上の液膜は安定(AALS > 0)である事を示 した。ただし光学ガラスA 上の液膜に対するSSMとTWAの計算結果は異なる結果を示 した。液膜の安定性の観察結果は、光学ガラス A の上の膜を除いて Hamaker 定数の計算 結果と一致した。AALS > 0となる安定な系では連続的な膜となり、AALS < 0となる不安定 な系では膜が分裂して周期的なドットの塊になった。光学ガラス A の上の膜は、連続的 な膜とパッチ状の破裂した膜の両方が現れる準安定状態となった。いずれも SiO2が主成 分となる基板間での比較であるにも関わらず、安定(AALS > 0)な状態と不安定(AALS < 0)な 状態が現れる事は非常に興味深い。一般に屈折率は電子分極率に由来するものであること

塗布法によるシリコンインクの製膜性

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から、この結果は基板を構成する分子の分極率が大きくなると、vdW エネルギーによる 相互作用エネルギーが大きくなる事を示している。

5.3.2 ドットアレイのFFT解析

Fig. 5-1(a),(b)にある不安定状態の膜から出現するドットの配列に周期性があるのかを高

速フーリエ変換(FFT; Fast Fourier Transform)によって解析した。Fig. 5-5に、石英とガラス 基板上に出現したドットパターンの 1 次元 FFT スペクトルを示す。解析に用いた画像の 元データ(512 × 512 μm2)と、2次元FFTスペクトルを図中の右側に重ねて示した。

Fig. 5-5 石英とガラス基板上で観察されたポリジヒドロシランのドットパターンの 1D、

2DのFFTスペクトル。1D FFTスペクトルは2D FFTスペクトルから得た。解析で用いた 元画像は512 × 512 μm2 である(Fig. 5-1(a)と5-1(b))。元画像と2D FFTスペクトルは図の 右側へ重ねて表示してある。1D FFT スペクトルで観察された鋭いピークは、ドットに周 期性がある事を示す。ここから得られる、石英とガラス基板上のドットの周期はそれぞれ

53と69 μmであった。

1次元FFTスペクトルに現れた大きなピークは、ドットパターンがランダムでない事を 示す。ドットは周期λの配列を持っている。λの値は最大ピークの位置 kmaxから求められ る。石英と基板上に現れた膜のドットパターンは、それぞれλ = 1/kmax ≈ 53, 69 μmと見積 もられた。より高波数側の小さなピークはドットの径に対応する。

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5.4 考察