塗布法によるドープシリコン膜およびシリコンカーバイド膜の作製と 薄膜シリコン太陽電池への応用
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次にSiC高分子中の化学結合をFT-IRによって測定した。Fig. 7-4は、CPSとシクロヘ キセンを混合後、加熱条件として80°C, 2時間(標準条件)、30分、0分(加熱無し)の3条件 で作製したSiC高分子のIRスペクトルを示す。参考としてシクロヘキセンのIRスペクト ルも合わせて載せる。SiC高分子のスペクトル(Fig. 7-4(a)-(c))に現れた896と855 cm−1 の ピークはSiH2変角モードに帰属される。同様に 570と 700 cm−1のピークはSi–Si 縦揺れ
とSi–Si横揺れモードに帰属される104。570 cm−1のピーク強度はCPSの重合に伴って強く
なる。アルキルシランの IR スペクトルから105、スペクトル(a)と(b)に現れた 760 cm−1 の 小さなピークはSi-C伸縮モードである事が分かる。スペクトル(c)と(d)では3025 cm−1 に
=C-H の伸縮モードを示すピークが確認できる。CPS とシクロヘキセンを混合した後に加 熱することで、SiC高分子のスペクトル内でSi-C結合を示す760 cm−1 のピークが出現し、
一方で=C–H結合に対応する3025 cm−1のピークが消失した。この変化はCPS中のSiとシ クロヘキセン中のsp2炭素との間でヒドロシリル化反応が発生した事を示す。
Fig. 7-4 (a)-(c)SiC高分子(X=0.6)と(d)シクロヘキセンのFT-IRスペクトル。SiC高分子は、
CPSとシクロヘキセンを混合した後に異なる加熱時間によって作製された。(a) 80°C, 2時 間 (標準条件), (b) 80°C, 30分, (c) 加熱無し
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次にSiC高分子中の水素の結合状態を1H-NMRによって測定した(Fig. 7-5)。スペクトル
で5.66 ppmに現れたピークはシクロヘキセン内のsp2炭素に結合した水素である。同様に
1.91と1.53 ppmのピークはsp3炭素に結合した水素である。3.25 ppmのピークはCPS中
のSi-Hに由来する。1-2および3-4 ppmに現れたブロードなピークは高分子構造中のC-H およびSi-Hに対応する。X = 0.6の条件で作製したSiC高分子中にはシクロヘキセンがま だ残っているが、そのうちのいくらかは CPS と反応をして高分子を形成している。以上 の結果から、SiC高分子は構造中に Si-Si、Si-H、C-C、C-H、およびSi-C結合を含む事が 明らかになった。
Fig. 7-5 SiC高分子(X=0.6)の1H-NMRスペクトル。
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SiC 高分子中の炭素量を変えることで、SiC インクから形成される膜の特性は大きく変
化する。Fig. 7-6にX = 0, 0.2, 0.4, 0.6のSiCインクから作製したSiC膜Taucプロット106を 示す。プロットは(αE)1/2 = B1/2 (E–Eg)の形式で記述されており、, E, B, Egはそれぞれ吸収 係数、エネルギー(eV)、定数、光学ギャップである。フィッティングからX = 0, 0.2, 0.4, 0.6のSiC膜のEgはそれぞれEg = 1.55, 1.75, 1.88, 2.05 eVと求まった。SiC高分子の組成 でシクロヘキセンの組成比が多くなるに従い、Eg は単調に増加した。定数 B は膜の品質 を表すが107、X = 0.6を除いてほぼ4.7 × 105 eV−1cm−1の一定値となった。X < 0.4の条件に おいて、シクロヘキセンの添加量を増やす事でSiC膜の膜質の劣化なしに光学ギャップを 調整できる事が明らかになった。
Fig. 7-6 X = 0, 0.2, 0.4, 0.6の条件で作製されたSiC膜のTaucプロット。太線と細い線はそ れぞれ実測値とフィッティング線を示す。
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Fig. 7-7は、異なるXの条件で作製されたSiC膜中の炭素量 ([C] / [C + Si]) とEg を示 す。炭素量はXPSスペクトルのSi 2pとC 1sのピーク面積から求めた。SiC膜中の炭素量 及び Egは SiC 高分子作製時のシクロヘキセンの添加量に応じて変化する事が明らかとな った
Fig. 7-7 異なるXの条件で作製されたSiC膜中の炭素量と光学ギャップ
SiC膜中の結合状態はFT-IRスペクトルによって調べる事ができる。Fig. 7-8(a)はX = 0, 0.2, 0.4, 0.6の条件で作製したSiC膜の吸収係数スペクトルである。640, 760, 2000–2100, 2850–2920 cm−1のピークはそれぞれ、Si-H 横ゆれ、Si-C 伸縮、Si–H1,2伸縮、C–H2,3伸縮 モードである108。通常、真空法によって作製されたSiC膜は780 cm−1にSi-Cの伸縮モー ドのピークを示すが109、我々の膜は 20 cm−1 低波数側に同ピークを示している。これは 我々の作製した膜中の Si-C 結合は前駆体物質となる高分子中に現れたアルキルシランの 結合状態を反映しており、通常の Si-C 膜とは幾分異なるためと考えられる。890 と 990 cm−1に現れた小さなピークは Si–H2 縦揺れと C–Hn横揺れモードに帰属される110。X = 0 の条件で作製された膜はSiC高分子中に炭素を含まないため、炭素に由来するピークは表 れていない。
Fig. 7-8(b)は、加熱をしていないSiCインクを用いて作製されたSiC膜のIRスペクトル
である。つまりSiC高分子中にSi-C結合のない(Fig. 7-X(c))条件のインクを用いている。
この膜のスペクトルは、シクロヘキセンを添加していない条件の高分子(X=0)と非常によ く似たスペクトルを示した。SiC インク中にはシクロヘキセンが存在しているにもかかわ らず、膜中には炭素が確認できない。
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Fig. 7-8に示したSiC膜のIRスペクトルでは、760 cm−1に弱いピーク、2850–2920 cm−1 に強いピークを示し、一方で 1250 cm−1 にはピークが確認できない。Tawada らによると、
炭素源にエタンを用いて作製したSiCと、メタンを用いて作製したSiC膜とでは、前者で
780 cm−1のピークが著しく小さくなると報告されている111。これは炭素が主に C2H5グル
ープの形で膜中に入るためである。したがって、もし我々の作製した SiC 膜中の炭素が
CmHn (m > 2)の形で膜中に存在するとするならば、760 cm−1 のピークは小さくなるはずで
ある。加えて、Si-CH3の変角モードを示す1250 cm−1のピークが確認できない事から、膜
中にSi-CH3が存在していない事が分かる。C–H2,3 に帰属する2850–2920 cm−1のピークが
強く表れていることからも、多量の炭素が CmHnの形で膜中に存在している。以上のこと から、Fig. 7-8に示したSiC膜はSi–CmHn (m > 2)の形で多量の炭素を含んだ膜という事が 分かる。
Fig. 7-8 SiC膜のFT-IRスペクトル。(a) X = 0, 0.2, 0.4, 0.6の条件で作製されたSiC膜。 (b) CPSとシクロヘキセン混合後に加熱無しで作製されたSiC高分子(X = 0.6)を用いて作製さ れたSiC膜。
IRスペクトルのピーク面積から(7.X)式を用いてSi–C (NSi–C), Si–H (NSi–H), C–H (NC–H)の 結合数を求めた。定数Aとして、A760 = 2.13 × 1019, A2100 = 1.40 × 1020, A2850, 2920 = 1.35 × 1021 cm−2を用いた112。X = 0の条件で作製した膜は純粋なa-Siであるため、NSi−Hの計算では a-Si膜での評価でよく用いられるA640 = 2.1 × 1019 cm−2を用いた113。
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i i ( )
N A d
. (1)Fig. 7-9に、NSi–C, NSi–H, NC–H をXに対してプロットした。 Xの増加と共にNC–H は32
× 1021 cm−3まで増えるのに対し、NSi–Cは徐々に増加して2.1 × 1021 cm−3に達し、それ以後 は2.1 × 1021 cm−3の一定値を示した。X > 0.4ではSi-C結合が増加せずに炭素成分のみが 増加していることから、SiCの膜質は低下すると考えられ、これは Fig. 7-6の結果と一致 する。NSi–C が一定となる理由については後で議論する。NC–H が多いという結果は、XPS 測定によって求めたFig. 7-7とも一致する。膜中の水素の多くは、炭化水素の形で混入し ている。NSi–Hは X の値によって膜中の水素量は大きく異なるにもかかわらず、ほぼ 5 × 1021 cm−3の一定値を示した。Si–HはCPSの脱水素化によって形成されるためであり、炭 化水素中に含まれる水素が影響を与える事はないためと考えている。
Fig. 7-9 SiC膜中のSi–C (三角形), Si–H (黒丸), C–H (白丸)の結合数。 横軸はX をとり、
左側縦軸はSi–C とSi–H、右側はC–H をとった。
我々の作製した SiC 膜中に現れた Si-C 結合がどのように形成されたのかを知る事は重 要である。SiC膜中に現れるSi-C結合は、シクロヘキセン中の=C–HとCPS中のSiとの 間の化学結合によって生じたSi-C結合によるものである。シクロヘキセンとCPS を混合 した後に加熱を行わない SiC高分子は、その構造中にSi-C 結合を含まない事がFT-IR か ら示されたが(Fig. 7-4(c))、この高分子を用いて製膜されたSiC 薄膜中にもやはり Si-C結 合は含まれていない(Fig. 7-8(b))。Si-C 結合を含む膜を形成するためには、Si-C 結合を有 する高分子を用いる必要がある。更に 7.2節で簡単に述べたが、シクロヘキセンの代わり にシクロヘキサンを用いた際にも、Si-C 結合を含む膜を得る事ができない(ここでは図示 していない)。この結果は明らかにシクロヘキセン中の sp2炭素が薄膜中の Si-C 結合形成
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において重要な役割を果たしている事を示す。シクロヘキセン環はオゾン分解以外では極 めて安定な環構造であるのに対し CPS は比較的簡単に開環することから114、CPS とシク ロヘキセンの反応ではCPS の開環が発生していると考える。仮にCPS がシクロヘキセン 中のC=C結合と1:1のモル比で反応するとするならば(Fig. 7-10)、Si-C結合数はCPSとシ クロヘキセンが等モルになるまで増加する。両者のモル数が等しくなるXの値は0.4であ り、これはFig. 7-6およびFig. 7-9で指摘した、膜の物性の振る舞いが大きく変化する値 である。さらにこの反応ではCPSとシクロヘキセン各1分子から1つのSi-C結合しか生 じないため、当然SiC高分子中のSi-C伸縮ピークの強度が弱くなるはずであり、Fig. 7-4 の結果とも一致する。以上のことからSiC高分子はCPSとシクロヘキセン中のsp2炭素と の反応によって合成された(Si5H10–C6H11)1–13 の構造を持つ高分子と推測される。そしてこ のSiC高分子の構造とFig. 7-8, 7-9の結果を加味すると、SiC薄膜はSi–CmHn (m > 2)の形 で多量の炭素を含んだ構造であると結論付けられる。
Fig. 7-10 CPSとシクロヘキセンのヒドロシリル化反応
塗布法によるドープシリコン膜およびシリコンカーバイド膜の作製と 薄膜シリコン太陽電池への応用
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ドープシリコン膜
塗布法によって作製した p-Si および n-Si 膜のアモルファス構造を確認するために
Raman測定を行った(Fig. 7-11)。比較のため6章で得たi-Si膜のスペクトルも併せて載せ
る。全ての Si 膜はいずれも典型的な a-Si:H 膜とよく似たスペクトルを示した。白燐、も しくはデカボランをドーパントとして添加したシリコンインクを用いても、未ドープのシ リコンインクを用いた場合と同様のアモルファス構造を持つSi膜を得ることができる。
Fig. 7-11 塗布法で作製したp-, i-, n-Si膜のラマンスペクトル
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次に厚さ 50 nm の p-Si および n-Si 膜の室温での暗伝導度とドーパント濃度の関係を
Fig. 7-12 に示す。参考のため 6 章で得た i-Si 膜の値を併せて載せる。ドーパント濃度は
SIMSによって測定をした。p-Siおよび n-Si膜はいずれもドーパント濃度の増加に伴い伝 導度が向上した。ボロンと燐がそれぞれp-Si および n-Si 膜のアクセプターもしくはドナ ーとして機能している。ただし伝導度の値は真空法で作製された膜の値よりも1-3桁程低 い。i-Si膜と同様に膜質の改善が必要である。ボロンと燐の濃度の上限はCPSに対するデ カボランと白燐の溶解度によって決まり、それぞれ7 × 1021、2 × 1021 cm−3であった。
Fig. 7-12 25°Cにおけるp-Si, n-Si膜の暗伝導度と膜中のドーパント濃度の関係。比較のた
め、i-Si 膜の暗伝導度も併せて載せた。p-, i-, n-Si 膜はそれぞれ丸、三角、四角のシンボ ルでプロットした。