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代表的ないくつかの液体試料の構造と SSM の計算で最も重要となる紫外領域の吸収振 動数ωUVとを示す。次に得られた光学パラメータを用いて計算した Hamaker定数 A の値 から、いくつかの液体の表面張力を求めた。次いでポリジヒドロシランの最適な溶媒を考 察する。それら議論を通して、今回の測定によって得た光学パラメータの妥当性を検証す る。なお、今回求めた光学パラメータの一覧はAppendix Eに示した。

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飽和化合物

Table 4-1に示すように、構造中に二重結合を持っていない液体のωUVはいずれも1.88 × 1016

rad/s 付近であった。アルカン類の ωUVの値は、Hough 達の報告値と一致している。vdW エネル

ギーを構成するロンドン分散力は、電子の振動によって誘起される静電的相互作用である。

ωUVは共有結合を形成する最外殻電子のエネルギー状態を反映しており、共役結合部がロ ンドン分散力の主なエネルギー源である。飽和化合物の共有結合は全て一重結合であるた め、エネルギー状態つまりωUVは似た値を示す。飽和化合物のみからなる系でHamaker定数 を計算する場合にTWAのような簡単な近似式でも良い精度で値が得られる理由は、ωUVが全て 似た値を示すためである。

Table 4-1 飽和化合物の構造とωUV

Name/structure ωUV (rad/s)

Water

H O

H

1.86×1016

Glycerin

HO OH

OH

1.89×1016

Hexane

1.88×1016 Octane

1.86×1016 Decane

1.85×1016 Tetrahydrofuran

O

1.88×1016

Cyclohexane

1.86×1016

シリコン化合物と有機溶媒の光学パラメータ

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不飽和化合物

化学構造中に含まれる不飽和結合の影響を確認するため、二重結合の位置が異なるヘキサン 類似体のωUVを比較する。結果をTable 4-2に示す。二重結合を1つ持つ1-ヘキセンはωUV = 1.72 × 1016 rad/sであり、ヘキサンωUV = 1.88 × 1016 rad/sよりもやや小さな値となった。二重結合 を2つ持つヘキサジエンはωUV = 1.53-1.57 × 1016 rad/sであり、更に小さな値となった。2つの二 重結合が共役していない 1,4-ヘキサジエンと 1,5-ヘキサジエンの ωUVがほぼ同じ値であるのに 対し、共役ジエンの1,3-ヘキサジエンはωUV = 1.34 × 1016 rad/sと最も小さな値となった。電子の 非局在化は最外殻電子のエネルギー状態、つまり ωUVを変化させる。孤立ジエンである 1,5-ヘキサジエンと1,4-ヘキサジエンのωUVがほぼ等しいのに対し、共役ジエンの 1,3-ヘキサジエン の ωUVは小さい。これは共役構造によるエネルギーの安定化が反映されている。共役長が伸び、

エネルギーが安定化するほどωUVの値は小さくなる傾向にある。

Table 4-2 ヘキサン類似体の構造とωUV

Name/structure ωUV (rad/s) Hexane

1.88×1016 1-hexene

1.72×1016 1,5-hexadiene

1.57×1016

1,4-hexadiene

1.53×1016

1.3-hexadiene

1.34×1016

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フッ素化物

フッ素基の影響をみるため、Table 4-3にデカリン類似体のωUVを示す。ただしメチルナフタレン のωUVのみ文献値から求めた。パーフルオロデカリンはωUV = 2.55 × 1016 rad/sであり、デカリン のωUV = 1.84 × 1016 rad/sよりも大きな値であった。フッ素基が導入された構造は大きなωUVを示 す。フッ素は電子吸引性が強く電子を局在化する効果が知られている。二重結合が電子の 非局在化によってエネルギーを安定化し ωUVを小さくするのとは反対である。フッ素基 の導入によって電子が局在化するためにωUVの値が大きくなる。

Table 4-3 フッ素置換デカリンとその類似体の構造とωUV

Name/structure ωUV (rad/s) Perfluorodecalin

F F F

F

F

F F

F F

F F F F F

F F F F

2.55×1016

Decalin

1.84×1016

Tetralin

1.42×1016

Methylnaphthalene

1.12×1016

シリコン化合物と有機溶媒の光学パラメータ

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アセチルアセトン

Table 4-4にアセチルアセトンの構造とωUVを示す。ωUV = 1.27 × 1016 rad/sと小さく、1,3-ヘキサ ジエンや、メチルナフタレンのような二重結合を持つ化合物に近い値を示した。ωUVが小さな理由 はアセチルアセトンのケト-エノ―ル互変異性にある。アセチルアセトンのケト型は孤立ジエンであ るのに対しエノ―ル型は共役構造である。アセチルアセトンがケト型の構造のみをとるならば不飽 和化合物の節から予想されるようにωUVは1.55 × 1016 rad/sに近い値を示すはずである。一方で エノ―ル型の構造のみをとるならば ωUVの値は更に小さくなるはずである。ωUVの測定値が 1.27

× 1016 rad/s と小さな値を示すのは、アセチルアセトンが溶液状態でケト型とエノール型の平衡状

態にあるためである。

Table 4-4 アセチルアセトンの構造とωUV

Name/structure ωUV (rad/s) Acetylacetone

O O

O O

H 1.27×1016

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シリコン化合物

Table 4-5にシリコン化合物のωUVを示す。ポリジメチルシロキサンのωUVはTable 4-1に示した 飽和化合物のωUVと近い値となった。ポリジメチルシロキサンの持つ Si-O、Si-C結合が C-O、 C-C結合と同様に飽和結合であるためである。対照的にCPSとポリジヒドロシランのωUVはTable 4-1に示した飽和化合物の値よりも小さく、むしろTable 4-2やTable 4-3に示した不飽和化合物の 値に近い。Si-Si結合はσ共役することが知られている66。この2つの物質のωUVが小さい理由は、

σ共役によるエネルギーの安定化を反映しているためである。

Table 4-5 シリコン化合物の構造とωUV

Name/structure ωUV (rad/s) Polydimethylsiloxane

Si O n

1.78×1016

CPS

H2 Si H2Si

H2Si SiH2 SiH2

1.13×1016

Polydihydrosilane H2 Si

SiH2 n

9.71×1015

シリコン化合物と有機溶媒の光学パラメータ

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表面張力の評価

測定によって得た光学パラメータを用いていくつかの液体の表面張力を求めた。(2.25) 式から求めた計算値と実測値とは良い一致を示した(Table 4-6)。CPS の表面張力の計算値 と実測値の誤差は 3%以内であった。σ 共役を持つ CPS もオクタンやデカリンと同様に vdW物質であると言える。

計算値と実験値の一致は、CPSを含め各種液体試料で今回求めた ωiCiの値が適切で あった事を示す。Hamaker定数Aを求める際に重要となるωUVCUVの物理的意味はそれ

ぞれ HOMO-LUMO ギャップ(バルクの場合にはバンドギャップ)と波動関数の重なりの大

きさに対応しており、そのようなミクロな電子状態とマクロな濡れ性が vdW エネルギー の式を通して密接に関わっている事が示された点は非常に興味深い。

Table 4-6 いくつかの液体の表面張力の計算値と実測値。単位はmN/m

Calculated Measured

Octane 21.9 21.4

Decalin 29.9 30.5

Toluene 23.1 27.3

CPS 32.5 31.6

ポリジヒドロシランの溶解性

ポリジヒドロシランもCPSと同様にvdW物質である。vdW物質間の相互作用は、エン トロピー項による予測不可能な相互作用や極性の影響も小さいために Lifshitz 理論で精度 良く求める事が可能である。そこでこの節では Hamaker 定数 A131の値を用いてポリジヒ ドロシランをよく溶解する溶媒の探索を行う。ここで添え字1はポリジヒドロシラン、添 え字3は液体となる。A131は溶質分子と溶媒分子の凝集エネルギーの差分、つまり溶液中 においたポリジヒドロシランの凝集力に比例をする。定性的にはこの値が小さいほど溶解 性が良い事を示す。溶媒はポリジヒドロシランと同様に vdW 物質の中から探索をする。

Table 4-7に、いくつかの溶媒中におけるポリジヒドロシランのA131を示す。

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Table 4-7 各種液体中のポリジヒドロシランのHamaker定数A131(単位はkT, T=293K)。カ ッコの中は沸点(°C)

Solvent A131 (kT) Solvent A131 (kT)

1,4-Cyclohexadiene (82) 1.03 Ethylcyclohexane (131) 1.52

1,3-Cyclohexadiene (80) 1.05 Tetradecane (254) 1.54

Cyclooctene (145) 1.15 1,3-Hexadiene (74) 1.55

Cyclohexene (83) 1.24 Cyclohexane (81) 1.56

Dicyclohexyl (227) 1.35 Methylcyclohexane (101) 1.60

Decaline (190) 1.35 Dodecane (215) 1.61

Methyl decaline (210) 1.36 Decane (174) 1.66

Dimethyladamantane (201) 1.37 1,4-Hexadiene (65) 1.72

Cyclooctane (149) 1.47 Cyclopentane (49) 1.75

Perhydrofluorene (253) 1.47 1,5-Hexadiene (59) 1.77

Hexadecane (287) 1.49 Octane (125) 1.8

Cyclodecane (201) 1.49 1-Hexene (63) 1.82

Cycloheptane (118) 1.50 Hexane (69) 2.06

TableからA131が最も小さな1,4-Cyclohexadieneや1,3-Cyclohexadieneが溶媒として適し ていると推測できる。実際にこれら液体はポリジヒドロシランをよく溶かした。しかし これら液体は本研究で用いる溶媒としては適していない。本研究ではスピンコート法で 安価な電子デバイスを作製する事が目的となる。従ってシリコンインクの溶媒には塗布 法に適した条件、具体的には沸点が 120-180°C でかつ安価な液体が求められる。これら 条件を満たす中でA131が小さな液体はCyclooctaneであった。従って 4章以降で用いるシ リコンインクの溶媒には Cycloctane を用いる。一方で 2 章の SEC-MALLS 測定で使用す る溶媒もまた、この Table から探索する事ができる。SEC-MALLS 測定では使用する溶媒 の沸点に制約はないが、安価で低粘度である事が好ましい。その条件の中で A131が小さ

な液体はCyclohexeneである。このようにして探索したCyclooctaneやCyclohexeneは、実

際にポリジヒドロシランを必要十分に溶解し、スピンコート塗布や SEC-MALLS 測定を 可能とした。Lifshitz理論を用いたA の見積もりが、CPSやポリジヒドロシランを含む液 体の濡れ性や溶解性の評価に有効である事が示された。

シリコン化合物と有機溶媒の光学パラメータ

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