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van der Waals エネルギーと溶解現象

溶解とは、溶質分子と溶媒分子の相互作用によって生じる物理現象であり、vdW エネ ルギーと関係がある事は直感的に理解できる。そこでここでは、溶解現象を vdW エネル ギーの観点から説明する。ある物質が溶媒に溶けるには、系の自由エネルギーを小さくす る必要がある。溶解時に系の体積と圧力が変化しないと仮定すると、ヘルムホルツの自由 エネルギーF=U-TSを考える事になる。ここでUTSはそれぞれ内部エネルギー、温度、

エントロピーである。溶解現象を考えるのに先立ち、Fig. 2-9 に示すように細長い極性分 子が持つ自由エネルギーを計算する。

Fig. 2-9 相互作用する2つの極性物質。物質は2個の電荷素量±qを持ち、任意のx軸に対

し傾きθi、回転角φを持つとする。

分子間相互作用と液体の物理現象の基礎

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2個の細長い分子が互いに接近している時、距離rだけ離れ、互いにある角度θに配向し、

それぞれのモーメントu1u2を持つ 2個の双極子に対するFUは次のように与えられ る。

 

1 22 2

2 6

3 4 0 r BT

F u u

  k Tr

  . (2.26a)

 

1 22 2

2 6

0

2 3 4 r BT

U u u

  k Tr

  . (2.26b)

ここでε0εLはそれぞれ真空の誘電率、液体の誘電率である。ここから、

1

F U TS  2U. (2.27)

となる。すなわち相互作用している2個の細長い分子が接近して配列すると、全エネルギ ーの半分が消費され、それは最終的に熱として散逸される。このエネルギーは分子の回転 自由度を小さくするために消費される相互作用のエントロピー成分であり、系の 50%を 占めることもある。ある極性物質が溶解(溶媒和)すると、分子を配列するために多くのエ ネルギーがエントロピーとして消費される事から、溶解性の議論ではこの成分の正しい見 積もりが重要となる。

2.4節で述べたように、vdWエネルギーは、Keesom、Debye、Londonと呼ばれる3つの 相互作用からなる。それぞれ、極性―極性、極性―非極性、非極性―非極性間の相互作用

を表し、Keesom 相互作用がエントロピー成分を含む。つまり、溶解性を考える際にはエ

ントロピー成分の見積もりが重要だが、vdW エネルギーにはそれが正しく考慮されてい る。

このような理由から、物質の溶解性は vdW エネルギーを用いて正確に議論できるはず である。しかし極性物質においてしばしば vdW エネルギーから予測したエネルギーと実 験値とでは大きな乖離を示す。この原因は2 つある。第 1 に、連続体理論であるLifshitz 理論では物質を原子の集合体でなく連続体のバルク物質とみなすため、溶媒和のような分 子表面近傍に限定された相互作用による物理現象の取扱が原理的に難しい。溶媒和した極 性分子は明らかに配向性を有するが、バルク状態の溶媒分子と配向した状態の溶媒分子と を区別して扱う事ができない(Fig. 2-10a)。つまり原子スケールの距離でこの理論が適用で きるとは考えにくく、定量的な評価は困難である。第2に、媒質中の分子の構造変化に伴 うエントロピーの変化が考慮できない点である。例えばある物質を溶媒に溶かしたとする。

電荷の偏りがある物質同士が接近すると、界面では電子授受能力の差により電荷移動が起 こり、電子雲(双極子)が変化する(Fig. 2-10b)。この電子雲の変化によって生じるエントロ ピーの差分エネルギーだけはどうしても理論的に扱う事ができない。ただしこの差分エネ

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ルギーは半経験的にはAB相互作用という括りで扱う事が可能である。水系の極性物質で は軌道性相互作用による水素結合が重要となるが、この水素結合によって引き起こされる 親水疎水相互作用がエントロピー的相互作用であり、このAB相互作用に一括して含める 事ができる。

Fig. 2-10 溶解現象における連続体理論の問題点 。灰色が溶質分子、水色が溶媒分子とす

る。(a)非溶媒和の分子がランダム配向であるのに対し、赤線で囲まれた領域にいる溶媒 和した分子は配向性を有する。同じ分子群でも配向性が異なるために赤線の領域内外で誘 電率に差が現れる。(b)ある溶質分子を媒質中に移した際に、電子授受能力の異なる物質 と接近することで電子雲に変化が生じる。この変化によって生じるエントロピー的相互作 用の変化分は理論的に扱えない。

以上の事から、vdW エネルギーを用いて溶解性を議論するにはいくつかの制約がある 事がわかる。第1 に連続体理論であるLifshitz 理論を用いている限り溶解性の定量的な議 論はできない。第2にAB相互作用を加味しない場合には、非極性物質以外を扱う事はで きない。しかし逆に言えば、対象としている系が vdW 物質であれば、その溶解性の定性 的な議論をする事は可能である。4 章ではこの考えに則って、ポリジヒドロシランの溶解 性を議論する。

分子間相互作用と液体の物理現象の基礎

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参考文献

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36 V. A. Parsegian, and B. W. Ninham, Nature 224, 1197 (1969).

37 L. Bergstrom, Adv. Colloid Interface Sci. 70, 125 (1997).

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39 J. N. Israelachvili, J. Chem. Soc. Faraday Trans. 2, 69, 1729 (1973).

40 D. Tabor, “Colloid Despersions” ch. 2, pp23-46, Royal Society of Chemistry, London (1982).

41 C. J. V. Oss, M. K. Chaudhury, and R. J. Good, Chem. Rev. 88, 927 (1988).

28 3 章 シリコン前駆体高分子の解析

はじめに

シリコンインクの開発において、材料の評価は最初に取り組むべき課題である。本章で はシリコンインクで用いるシリコン前駆体物質としてポリジヒドロシランを合成し、主に 静的光散乱計を用いて特性評価を行う。静的光散乱計の測定原理については Appendix A に記す。この高分子は加熱によってシリコンの熱分解および再結合を起こし、最終的に半 導体シリコンとなる。またこの高分子は有機溶媒に可溶であり、適切な溶媒に溶解させる 事でシリコンインクとなる。従ってポリジヒドロシラン溶液を用いると、スピンコート法 やインクジェット法のような簡便な手法でシリコン膜を製膜する事が可能となる。