Appendix
105 Appendix
A 光散乱法
静的光散乱(SLS: Static Light Scattering)法は主に高分子溶液の特性解析に用いられる手法 であり、分子の大きさ、分子量、溶解性(第二ビリアル係数)等を測定する事が可能である。
SLS測定で求められる分子量は絶対分子量であり、基準となる標準試料が不要である。従 って標準試料が市販されていない新規高分子の分子量測定では、SLSが必要不可欠となる。
本研究では 3 章において、ポリジヒドロシランの特性解析に主にこの SLS 装置を用いる。
ここではSLS測定の原理について説明をする。
106
p acos
P E t . (A.2)
αp は溶媒中の散乱体の過剰分極率である。振動双極子は新たな電磁波を生み出すが、こ の二次的電磁波が散乱光である。散乱体から距離rだけ離れた位置での散乱光の電場Eは 次のように与えられる。
2 21 cos
p a l
E E t r
r
. (A.3)
λl、はそれぞれ光の波長と速度である。Eがrに反比例するのは散乱点より遠ざかるに従 って散乱光が分散して弱くなるためであり、cos 関数中の r/は散乱点から受光部まで光 が伝わるのに要する時間を表している。
SLSではある波長の光を測定試料に入射させ、散乱光の強度を散乱角度の関数として測 定する。受光部で検出された光電流は散乱光強度 I に換算される。I は電場の自乗の時間 平均の2倍に等しいため(A.3)より次のように求められる。
2 4
2 2
2 0 p 2 l
I E I r . (A.4)
I0は入射光の強度である。この式からIを求めるためにはαpの値が必要となる。散乱体積 Vc内に散乱体がn個ある場合、溶液の誘電率ε はΔε = 4πnαp/Vc増加する。SLS測定でよ く用いられる可視光領域の光に対し、透明な溶液の ε は屈折率 nRIの自乗に等しい。従っ て散乱体を含む溶液の屈折率はΔnRI = Δε/2nRI = 2πcNAαp/nRIM増大する。c、NA、Mはそれ ぞれ質量濃度、アボガドロ数、モル質量であり、c = nM/NAVcとなっている。ここからαp
はαp = (M/2πNA)nRI(dn/dc)と表される。(dn/dc)は溶液の屈折率増分であり、SLSの測定で重 要な物理量となる。
溶液中のn 個の散乱体に位置の相関が無い場合には I は(A.4)式の n倍になり、また Vc
に比例する。従ってIはI0、r、Vcという光散乱の測定条件に依存する。そこで解析ではI の代わりに、測定条件に依存しない試料固有の物理量であるレイリー比 R(θ)を用いる。
角度θでの散乱光の強度をI(θ)とするとR(θ)は次のように与えられる。
2 0
( ) I( )r
R I V
. (A.5)
SLSではR(θ)の角度依存性から各種解析が行われる。
Appendix
107
散乱ベクトル
次にSLS実験で重要となる散乱ベクトルについて説明する。Fig. A-1にあるように入射 光が座標の原点で散乱を起こすとする。入射光および散乱光の進行方向と同じ向きの単位 長さを持つベクトルをそれぞれe0、e とする。散乱ベクトル kは溶液の屈折率 nRIと入射 光の波長λl、それとe0、eを使って次のように定義される。
2nRI /l
0
k e e . (A.6)
この散乱ベクトルの絶対値kは次のように表され、θと関連付けられる。
4 RI / l
sin / 2
kk n .
Fig. A-1 散乱ベクトルの定義
散乱光の干渉
次に散乱光の干渉効果について考える。散乱体からの散乱光が受光位置に達した時の位 相は散乱体の位置に依存する。まずここでは任意に選択した原点から散乱体j までの位置 ベクトル Rjを用いて散乱体の位置を決める(Fig. A-2)。入射光が j に到達するためには原 点よりもe0・Rj余分に進む必要がある。同様に受光面に達する光の距離は-e・Rjだけ長い。
合計すると入射光が散乱されて受光面に達するまで距離は j が原点にあるときよりも(e0 -e)・Rjだけ長い。従って受光面での位相は原点を基準にして次の分だけずれる。
(2πnRI/λ)(e0-e)・Rj = -k・Rj. (A.7)
RjとRmに位置する 2つの散乱体 j とm から散乱された光にはk・(Rj-Rm)だけの位相差が ある。散乱体が 3 個以上ある場合にはこれを一般化すればよい。原点から Rj 離れた位置 にある散乱体jからeの方向に散乱された光が受光面に達したときの電場EjはFig. A-2お
よび(A.3)式より次のように与えられる。
108
2 2
2 1cos j 0 2 1cos
j p a p a j
l l
r r
E E t E t
r r
R e e
R k . (A.8) Vc内にn個の散乱体が存在するならば、それらから散乱された光の強度Iは次のようにな る。
2 2
4 4
2 4 2
0 0
1 1 1 1
2 2
2 p n n cos j m 2 l p n n exp j m
j m j m
l l l l
I E I r I i
R R k k R R . (A.9)
この式からIは散乱体の位置に依存している事が分かる。溶液中の散乱体物質はブラウン 運動しているので、その運動に伴って I も時間的に変動することになる。SLS ではこの I の長時間にわたる時間平均値を測定する。
Fig. A-2 散乱光の光路差
分子内干渉効果
今までは各散乱体は 1 個の散乱要素からなるとしたが、実際の高分子の解析では Vc内 にN個の散乱要素(モノマー)からなる散乱体がn個存在する系からの光散乱を考える必要 がある。単純な拡張によって(A.9)式中の二重和は次のようにおきかえられる。
1 1
1 2
1 1 1 2
1 1exp 1 1exp 1 1 1exp
n n N N N N
j m j m j j
j m i nj m i n n j j i
k R R k R R k R R .
(A.10)
初めの 2重和は同一の散乱体に属す散乱要素 j1とm1についてとり、2番目の 2 重和は異 なる散乱体に属す散乱要素 j1と j2 についてとる。溶液が十分に希薄な場合、散乱体間の 相互作用は無視できるので(2.10)式の2番目の2重和はゼロとみなせる。(A.5), (A.7), (A.9),
(A.10)式から次の式が得られる。
Appendix
109
( ) op ( )
R K cMP . (A.11a)
1 1
1 1
2
1 1 exp
N N
j m
j m
P N i
k R R . (A.11b)
Kopは光学定数であり、Kop = 4π2nRI2(dn/dc)2λl-4NA-1で表される。P(θ)は分子内干渉因子と呼 ばれる。 は分子、粒子の形状と方向に関する時間平均を取る事を表している。方向に 関する平均だけを先に行うと(A.11b)式は次のようになる。
2
1
21 1 sin / 1sin /
N N N
jm jm j j
j m j
P N kR R N kS kS
. (A.12)
ここでRjm=|Rj-Rm|、Sjは粒子の重心から j までの距離を表す。式中のサイン関数をテイラ ー展開し、kが十分小さいとしてk5以上の項を無視する事で次のように簡略化される。
1 13 g2 2
4P R k O k . (A.13)
Rg2は自乗平均回転半径、Rgは回転半径と呼ばれ、分子の大きさを示す
分子間干渉効果
散乱体の濃度が高くなると、散乱体間の相互作用が重要になり、その位置に相関が現れ る。この場合、各散乱体からの散乱光の干渉効果を考える必要がでてくる。(A.9)式中の 2 重和の項を変形して次のようにおく。
1 2
1 2
2 2
1 1exp 1 1exp
n n N N
j m j j
j m i nN P n j j i
k R R k R R . (A.14)
ここでは球状粒子を考える(Fig. A-3)。系中に存在する散乱要素を、それが属す散乱体(高 分子)の番号aとその散乱体の中での散乱要素(高分子を構成するモノマー)の番号jとで表 す事にする。j の位置ベクトルRjはaの基準点(球の中心)の位置ベクトルRG,aとその基準 点からjまでの距離ベクトルsjを使ってRj = RG,a + sjと表され、(A.14)式中の2重和は次 のように表される。
, ,
1 1
exp G a G b n n exp j m
i j m i
k R R k s s . (A.15)
球内の散乱要素の分布は球の配置(RG,a - RG,b)に依存しないので、結局次のようにかける。
2
, ,
exp G a G b
N P ik R R . (A.16)
sjとsmは必ずしも同一球に属すベクトルではないが、RG,a = RG,bの場合を仮想的に想定す ると、jm に関する 2 重和の統計平均量は N2P(θ)と等しいとしてよい。従って R(θ)は相関 関数h(r)を用いて次のように書ける。
( ) op ( )
R K cMP S k . (A.17a)
110
1 n
exp
S k h r i d
V k r r . (A.17b)
ここでS(k)は構造因子と呼ばれ、kと粒子濃度に比例する。
Fig. A-3 球状粒子の位置の相関について