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Fig. 6-1は、2 cm角のガラス基板上に成膜したポリジヒドロシラン膜をTP = 270–420°C

で焼成して得た厚さ50 nmのシリコン膜の外観写真である。膜の色はTP < 270°Cで透明

だが、TP = 300°Cで黄色が現れ、TP = 360°Cでa-Si:H膜によく見られる茶褐色が得られた。

ただし TP > 360°C では色はほとんど変化していない。この色の変化は、絶縁体であるポ

リジヒドロシラン(HOMO-LUMOギャップ = ħUV = 6.5 eV; 3章の結果から算出)から半導

体 a-Si:H へ変化している様子を表しており、TPの向上によってポリジヒドロシラン中の

シリコンが3次元のネットワーク構造を形成し、その結果バンドギャップが狭くなる事を 示している。

Fig. 6-1 塗布法で成膜された厚さ 50 nm のシリコン膜の写真。熱分解温度 TPは 270–

420°C 、加熱時間は15分、2 × 2 cm2の石英基板を使用。

塗布法によるアモルファスシリコン薄膜の作製

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ポリジヒドロシランの熱挙動を TG/DTA によって測定した。Fig. 6-2 に TG、DTA、 DTGカーブをそれぞれ示す。TG/DTGカーブに着目すると加熱温度Th = 100, 200, 300°C 近辺でポリジヒドロシランの重量が大きく減少している。一方でTh > 360°Cでは重量減少 はほぼなくなった。最終的には Th = 450°C のポリジヒドロシランは、加熱前と比べると 重量の 58%が失われており、42%が a-Si:H として残った。TDS の分析結果からこの重量 減少は熱分解によって発生したH2と SiH4ガスの脱離である事がわかっている。ポリジヒ ドロシラン中のSi–H、Si–Si 結合が熱により切断され、その断片の半分以上がシランガス として脱離し、残された断片が再結合によってa-Si:Hとなる。a-Si:Hのネットワーク構造 の形成はH2とSiH4ガスの脱離を伴って進行している。DTAデータは Th = 320°C 付近で 発熱を示す正の最大ピークを持ち、Th = 80–450°C の広い範囲に及んでいる。発熱反応は、

加熱によって切断されたポリジヒドロシラン中の Si–H、Si–Si が再結合によって Si–Si 結 合、つまり a-Si:H のネットワーク構造を形成しているためである。Si–H、Si–Si 結合の切

断とSi–Si結合の形成は80°C 程度から開始し、特に320°C 付近で強く起こる。

Fig. 6-2 ポリジヒドロシランの TG(太線)、DTA(細線)、DTG(点線)カーブ。加熱温

度は室温から450°C 。

次にポリジヒドロシランを加熱する事で得られた膜の光学バンドをラマン分光によって 評価した。Fig. 6-3(a),(b)はそれぞれTP=270–330°C 、TP=330–420°C で成膜された膜のラ マンスペクトルを示す。ラマンスペクトルは測定回数10回の積算値である。Fig. 6-3(a)に おいて、TP=330°Cの膜で典型的なa-Si:HにあるTO, LO, LA, TA光学バンド91がそれぞれ

476,387,288,154 cm-1に確認できる。一方でTP=270, 300°Cの膜ではそれらの明瞭な光学バ

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ンドは確認できない。Fig. 6-3(b)はTP =330, 360, 390, 420の膜のラマンスペクトルを示す。

スペクトルは全て TO バンドの強度で規格化した。更に TO バンドの半値幅と TPの関係 をFig. 6-3(c)に示す。TP = 330°Cの膜における光学バンドの出現は、3次元のa-Si:Hネッ トワーク構造がこの温度付近から形成される事を示す。そして Tp > 300°C では真空法で 作製された典型的な s-Si:H 膜と非常に似たスペクトルを示した。従って TP > 300°C で作 製された膜はポリジヒドロシラン膜というよりもむしろa-Si:H 膜である。観察されたTO バンドの半値幅はTPが300°Cから420°Cに上昇するに従い80.5から71.5 cm-1へ低下をし た。TO バンドの半値幅は Si–Si 結合角の揺らぎの大きさを反映しており、この値の低下 は短距離秩序性の向上と関連づけられている92。従って TP > 330°C の温度域で膜は、 a-Si:Hネットワーク構造の形成とSi–Si 結合がより不規則な構造から規則的な構造へと緩和 している。

Fig. 6-3 塗布法によって成膜した Si 膜のラマンスペクトル。(a)Tp = 270–330°C (b)Tp =

330–420°C、TOバンドのピークで規格化をした。(c)TOバンドの半値幅のTP依存性

塗布法によるアモルファスシリコン薄膜の作製

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ラマン測定に加え、形成された膜中の空孔、水素量、酸素量をFT-IRとSIMS測定によ って評価した。Fig. 6-4(a),(b)にTP =270–420°Cの膜の1950–2200、550–750 cm-1のFT-IR スペクトルを示す。アモルファス構造が形成され始める TP > 300°C の膜ではスペクトル のピークは全て同じ位置に現れている。TP=330–420°C の膜の吸収スペクトルは 2000 と

2070–2090 cm-1とに 2 つのピークを持つが、後者が支配的である。また TPの上昇ととも

に2070–2090 cm-1のピークが減少をしている。2000と2070–2090cm-1の吸収スペクトルは

それぞれLSM (Low stretching mode)、HSM(High stretching mode)と呼ばれ、前者がバルク Si中のSi–H結合の振動を、後者がボイド表面のSi–H結合もしくはSi-H2結合の振動強度 に対応する。この両者の振動強度の比から膜中のボイド量を表す micro structure factor R が求められるが、これはa-Si:H膜の品質と密接に関わっている((6-1)式)93,94

R = I2090/(I2000+I2090). (6-1)

ここでI2090とI2000はそれぞれ2070–2090, 2000 cm-1の吸収係数の強度であり、実際にはピ ーク面積が用いられる。ポリジヒドロシランから得られたa-Si:H膜のRTp = 360, 420°C でそれぞれ0.91, 0.80であった。真空法で作製される良質なa-Si:H膜は膜中のボイドが少 なく、R は0.2 以下を持つ。我々の膜は膜中にボイドを多く含んでおり、膜質が低い事が 明らかとなった。TP = 270, 300°C の膜はピーク位置がやや高周波数側へシフトしている。

このピークシフトの理由は定かではないが、酸化か局所的な Si–H の双極子の変化である と思われる95,96。Raman スペクトルからも明らかなように、TP = 270, 300°C の膜は明確

なa-Si:H構造が形成されていない。

Fig. 6-4 TP = 270–420°Cの膜のFT-IRスペクトル。(a)1950–2200 cm-1 (b)550–750 cm-1

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Fig. 6-4(b)に示す 640 cm-1付近の吸収スペクトルは Si–H の変角モードに帰属される97

(6-2)式98を用いることで、640 cm-1のピーク面積から膜中の結合水素濃度 NH/NSiを見積も

った。

640 ( )

NH A   d

. (6-2)

ここで比例定数A640 = 2.1 × 1019 cm-2、シリコン密度NSiを5 × 1022とした。得られた水素

量の値はFig. 6-5に示した。

Fig. 6-5にTP = 270–420°Cで作製した膜中の水素と酸素の濃度をプロットした。酸素量

はSIMS測定によって、水素量はSIMS測定とFT-IR測定の両手法によって求めた。水素 量の値に着目すると、SIMS 測定の値と FT-IR 測定の値は良い一致を示した。これは膜中 の水素のほとんどがシリコンに結合した状態で存在している事を示す。ポリジヒドロシラ ン膜は、その構造から明らかなように室温で約 67%の水素を含む。TP = 270–420°C の範 囲において温度上昇と共に水素量が減少し、最終的には 10%程度にまで減少している。

ポリジヒドロシランの熱分解過程において多量の水素が脱離する事が示された。a-Si:H の ネットワーク構造の形成は水素の脱離を伴って進行する。一方で酸素に着目をすると、TP

< 360°Cの膜はa-Si:Hのネットワーク化が不十分なために酸化が進行している。

Fig. 6-5 TP = 270–420°Cの膜中の水素量と酸素量。黒丸はSIMS測定によって見積もった

水素、酸素量。白丸は640 cm-1のFT-IRスペクトルから見積もった水素量。

塗布法によるアモルファスシリコン薄膜の作製

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TG/DTA、ラマン分光、FT-IR 測定の結果から、TP上昇に伴うアモルファスシリコンネ

ットワーク形成の描像が推測できる。我々が以前報告をした TDS の測定結果から、ポリ ジヒドロシラン中のSi–Si 結合は主に 280°C 近辺から切断され始め、続いてSi–H 結合の

切断が 300°C 付近から開始する事が示されている。シリコンのネットワーク構造の形成

にはポリジヒドロシラン中の Si–H 結合の切断が必要であり、300°C 程度の温度が必要で あると考えられてきた。Fig. 6-3(a)のラマンスペクトルから、a-Si:H のネットワーク構造 が形成されるのはTP = 300-330°C の温度域である事が分かった。この結果は TDSの測定 結果から予測されるa-Si:H膜の形成温度と一致している。

Fig. 6-2のTG/DTAデータもまた同様の推測を可能とする。TP = 300–330°Cの温度域で

現れる大きな重量減少は、この温度域で多くのSi–H結合、Si–Si結合が切断され、その断 片がH2やSiH4ガスとして脱離する事を裏付ける。更にこの温度域で現れる DTA のピー クは、残された断片中で Si–Si の再結合が多く発生している事を示す。従ってポリジヒド ロシランの加熱によって切断された Si–H、Si–Si 結合が再結合によって Si–Si 結合、つま

りa-Si:Hのネットワーク構造を形成するのは主にTP = 300-330°Cである。ただし重量減少

が無くなるのがTP > 360°C であり、膜が安定化するのはTP = 300–330°Cでなく、更に数 十度高温側である。

膜の品質に着目をすると、我々の膜は多量のボイドを含んでいる。このボイドの原因と して考えられるのは、H2や SiH4ガスが脱離することで生成された空孔である。ポリジヒ ドロシランを加熱してゆくと、H2や SiH4ガスの脱離によって重量が半分以下に減少する。

これは大きな体積収縮を発生させるが、ガスの脱離した後の空孔の多くは残ったままにあ ると考えられる。このボイドは膜の電気特性悪化の原因となる。

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光学および電気特性

TP = 300–420°C の Si 膜の紫外可視領域の吸収係数の値を(6-3)式の形式でプロットし、

切片から膜の光学ギャップ(Tauc gap)99を見積もった(Fig. 6-6)。

1/2 1/2

(E) B E E(  g), (6-3)

ここで α は光学吸収係数、E は光子エネルギー(eV)、B は定数、Eg は光学ギャップ(tauc gap)である。近似直線の外挿値からTP = 300, 330, 360, 390, 420°Cの膜の光学ギャップはそ れぞれEg =2.40, 1.92, 1.64, 1.64, 1.64 eVであった。膜の品質を表すB値は5.7 × 105(TP = 300)、7.7 × 105 (TP = 330°C)、6.7 × 105 eV-1cm-1 (TP > 360°C)であり、TP < 330°Cの膜は、よ り高温の膜よりも品質が低い。一方でEgTpの増加と共に低下した(Fig. 6-6(b))。真空法 で成膜した a-Si:H 膜は水素量の低下に伴って Egが低下することが知られており、我々の 膜で表れる Eg の低下は熱分解過程の脱水素化に伴うものと考えられる。ただし TP >

360°CではEgはもはやTPに依存せずEg = 1.64 eVの一定値を示す。TP > 360°Cでは水素量 が減少したとしても、もはやEgに影響を与えるほど膜に構造変化が起きていない。

Fig. 6-6 (a) TP = 300–420°Cの膜のTaucプロット (b)Tauc gapとTPの関係

塗布法によるアモルファスシリコン薄膜の作製

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Fig. 6-7に、TP = 300–420°Cの膜の光伝導度σp、暗伝導度σd、スピン密度Nsの値を示す。

σdに着目をするとTP = 360°Cで大きく低下し、その後はほぼ一定値を保ちTP = 420°Cで 5.1 × 10-11 S/cmとなった。一方でσpTP = 360°Cで最小値を持つがほぼ10-7 S/cmの水準 を示した。Nsの値はTP = 300°Cで2.5 × 1016 cm-3だがTP = 360°Cで最大値を経て高温側で はやや減少をした。最終的にはTP = 420°Cで2.8 × 1017 cm-3に達した。

Fig. 6-7 TP = 300–420°Cの膜の伝導度とスピン密度。伝導度は室温で測定。

膜中の格子欠陥を示すNsが低下することによってσpは増加する100TP < 360°CのNsの増 加は、膜中のSi–H、Si–Si 結合の切断が支配的であるために未結合種が増加していると考 えられる。一方でTP > 360°CのNsの低下は、Si–Siの再結合が支配的であるために未結合 種が減少していると考えられる。TP > 360°C の膜は 103の光感度(σpd)を示すが、この値

は良質なa-Si:H膜101と比較して2桁程低い。これは高いNsによりσpが低下したためと考

えられる。良質な a-Si:H 膜の Nsは通常、1016台以下であるのに対し、今回得た膜は 1017 台と1桁以上欠陥が多い。a-Si:H 構造の形成過程で切断されたSi–H、Si–Siの一部が再結 合されずに未結合種として残存している。σpの向上にはこの未結合種の低減が不可欠であ る。しかしポリジヒドロシランを出発物質としてa-Si:H膜を得るためにはSi–H、Si–Si結 合の切断が必要であり、ある程度の未結合種が残ってしまう事は不可避である。従って電 気特性を向上させるためには、未結合種を終端するための後処理が必要となる。