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第 1 章 低コスト打上げシステムの事例調査・分析

1.4 諸外国の空中発射システム検討動向

1.4.1 米国

米国における空中発射システムは Pegasus ロケットが 1989 年に実用化され、発射母機で ある NB-52 と L-1011 が合わせて 38 回打上げ(うち 6 回失敗)の実績を上げている。2006 年現在、衛星打上げ手段として実用化している空中打上げシステムは唯一 Pegasus となっ ている。

図 1.4-1 Pegasus(Orbital Science)

米国の空中打上げシステムの開発は、1974 年に遡る。当時は衛星打上げロケットとして ではなく、大陸間弾道ミサイル(ICBM)である Minuteman-3 を C-5A ギャラクシー輸送機か らミサイル架台ごと落下させ発射する試験を行っている。

図 1.4-2 Minuteman-3 空中発射実験(USAF)

これら技術をベースとし、衛星打上げロケットとして Pegasus 開発が NASA を中心に 1980 年後半から始まり、1989 年に運用が開始されている。

この後も NASA や USAF 研究所内で、空中発射システムの研究は継続的に行われている。

それら研究には専用母機・既存機流用・既存機改造思想、固体・液体ベース等、様々な打 上げシステムが研究されているが、近年公表されている空中打上げシステムは、RASCAL に 代表されるような飛躍し過ぎたコンセプトを変更し、既存技術を流用し、その技術を段階 的に取り入れて、着実な空中打上げシステムを目指す方向性が提案されつつある。これは、

研究費を捻出している USAF や DARPA がコスト・性能を要求した研究テーマを与えているた めとみられ、後述する Spaceworks Engineering は米国内に存在し、信頼性の確立が見込ま れている技術で Pegasus 性能を上回る無人空中打上げシステムを提案している。

図 1.4-3 RASCAL(Space Launch)

Pegasus 以降の開発は、L-1011 の老朽化から B-747、DC-10 などを母機とするポスト Pegasus が Orbital Science と Boeing 社間で検討されたが、製造までに至っていない。ま た Pegasus よりも小型の打上げ手段として、1999 年に JPL と USAF-AFRL が F-15 空中発射ロ ケットの基礎研究を共同発表(SSC99-VII-1)している。これは、USAF が JPL との間で技術 的詳細を議論したもので、F-15 イーグル戦闘機を母機とする吊下げ式の空中打上げシステ ムを発表した。しかし USAF と JPL の共同研究はここで中止。2000 年からは USAF-AFRL 主導 に変更され、Orbital Science と Boeing で F-15 イーグルを発射母機とする空中打上げシス テムの研究は続けられている。

図 1.4-4 Pegasus 後継案(Boeing) 図 1.4-5 JPL-USAF の共同研究案(SSC99-VII-1)

2000 年初期から空中打上げシステムは、Pegasus のように技術開発の手段としてではな く、低費用ロケットとして注目されるようになった。それは、ICBM 派生型ロケットがロシ アで登場し、ドニエプル、ユーロコットらが小型衛星打上げ市場で圧倒的優位なポジショ ンを獲得、この低費用ロケットの登場で宇宙途上国・大学・企業らがこぞって衛星開発へ 参入、ロケットも市場競争が始まった。

この背景の中、米国は 2000 年初頭から、米国 ICBM をロシア同様にロケット化すべく、

USAF がジョージア工科大学へ研究を依頼、同大学は 2002 年に ICBM の有効活用研究の成果 を発表、地上・空中打上システムを発表(AIAA 2002-5854)している。そして価格的・性 能的に優位性が示せる空中打上げシステムへ注目、さらに研究を進め、2003 年に同大学は

「CHIMERA」コンセプトを発表(SSC03-VII-2)している。この論文によれば、母機は超音 速機の SR-71、ペガサスでも使用された NB-52、戦闘攻撃機 F-15E とし、ロケットはピース キーパーとミニットマン ICBM のロケットモータ及び、ATK サイオコール製モータを組み合

わせた空中打上システムを発表した。この研究成果からロッキードマーチン社が C-5 ギャ ラクシー輸送機を母機とする ICBM ベースの空中発射システムを提案している。

図 1.4-6ジョージア工科大学「CHIMERA」コンセプト(SSC03-VII-2)

これらと研究と平行しながら米国は、ロシアの ICBM ロケットに対抗し、Operational Responsive Space(ORC)という「ニーズに応じた即応型宇宙活動ビジョン」を掲げ、2003 年 DAPRA-FALCON 計画を立ち上げている。この計画は、高度 200km、傾斜角 28.5 度、重量 450kg の衛星を価格$5million(約 6 億円)以内で打上げられるロケットを製造せよという要求で、

Space Exploration Technologies Corporation(SPACEX)、Lockheed Martin、Airlaunch LLC 、 Microcosm の 4 社が開発フェーズまで勝ち残っている。SPACEX、Lockheed Martin、Microcosm は空中打上げシステムではなく、使い捨て式の地上発射型ロケットである。SPACEX は液体 酸素・ケロシンの低費用エンジン開発が注目され、Lockheed Martin は固体と液体ロケット の欠点を克服した概念のハイブリッドロケット、Microcosm は複合材軽量タンクを用いたク ラスター型液体ロケットを目標に開発されている。そして空中打上げシステムとしては、

Airlaunch LLC 社が液体酸素・プロパン燃料系でロケット(QuickReach)を開発中である。

2005 年・2006 年にモックアップ投下実験に成功している。また、エンジン開発も順調に進 んであり、2008 年か 2009 年には初打上げが予定されている。

図 1.4-7 Airlaunch LLC(QuickReach)

米国における空中打上げシステムは、費用と性能を特に意識したものが近年研究される ようになり、2005 年には Northrop Grumman/Panaero が F-14、Space Launch が F-4 ファン トム、Boeing・Orbital Science が F-15 を母機とする、小型衛星ロケット開発を提案して いる。別途ロッキードマーチンの C-5 ベースが計画提案されている背景も合わせれば、小 型・中型とサイズは異なるが全ての米国大手宇宙メーカーは空中打上げシステム計画を発 表したことになる。この大手間競争の中、Boeing らは 2006 年 4 月に当初発表のコンセプト を変更。F-15GSE(Global Strike Eagle)の空中打上げシステムを吊下式から背負式へと 変更している。背負い式へ変更したことから打上げ性能が向上したとみられ、同様に F-15 を母機とした空中打ち上げシステム開発を進めるイスラエルへの対抗策とも見られる。

図 1.4-8 F-14 エアランチ(tour2space.com) 図 1.4-9 F-4(Space Launch)

図 1.4-10 F-15(Boeing)

そして 2006 年、Orbital Science と Northrop Grumman と Lockheed martin が、USAF か ら HLV(Hybrid launch Vehicle)の技術検討コントラクトを受注した報道が流れている。こ の HLV の要求は、1 段目再使用、2 段目使捨ロケット。900kg~27t の間で打上げ能力を要求 し、48 時間以内に 2 回の打上げができるという事項が挙げられている。この HLV 要求から 分析すると、空中打上げシステムは、当初小型衛星打上げシステムだけだったものが、さ らに技術を伸ばして大型のものまで開発するビジョンを示した事になる。この背景には、

ロシア・ウクライナが母機を An-124 や An-225 とし、ロケットは Zenit や他の大型ロケッ トエンジンを使用した大型の空中打上げシステムを本格検討しているため、Airlaunch LLC の Quickreach が初打上げする頃にロシアは大型空中打上げシステムを保有している可能性 が高いと見られる。

また、Orbital Science と Northrop Grumman と Lockheed martin の他には Spaceworks Engineering 社が HLV 要求 と同様の ARES( Affordable REsponsive Spacelift Hybrid

Operational System)を 2006 年 11 月に発表している。

図 1.4-11 Lockheed Martin の HLV 案 図 1.4-12 Orbital Science の HLV 案

図 1.4-13 Northrop Grumman の HLV 図 1.4-14 Spaceworks Engineering の HLV

空中発射ロケット検討企業一覧

¾ Orbital Science/Boeing(F-15、DC-10、B-747、L-1011、NB-52、専用機:固体、液体ロケット)

¾ Airlaunch LLC/T/SPACE(C-17、B-747:液体ロケット、有人宇宙飛行用も検討中)

¾ Lockheed Martin

(C-5,専用機:ハイブリッド・固体ロケット)

¾ Northrop Grumman(F-14 、専用機:液体ロケット)

¾ Space Launch(F-4、専用機:固体ロケット及び液体ロケットベース)

¾ XCOR Aerospace

(専用機:固体ロケット、Sab-orbital飛行の際に打上げ)

¾ RocketPlane(リアジェット25型を改造:ハイブリッドロケット、Sab-orbital飛行の際に打上げ)

¾ SPACEWORKS Engineering (C-5を2機使用:大型液体ロケット、無人機ベース、コンセプト提案のみ)

これらの一方で、民間ベースの空中打上げシステムを開発する動向も見られる。その企 業 は XCOR Aerospace ・ T/SPACE ・ RocketPlane&HASTIC ・ Scaled Composites

(Sub-Orbital)である。これら企業は DARPA/USAF が研究開発の名目で支援している。米 国は民間の宇宙旅行事業について「国家予算だけに依存しないことを条件」に支援する方 針を示している。

以下に米国で公表された空中打上げシステムの過去・現在・将来を示す。

図 1.4-15 米国が発表した空中発射システムの過去・現在・将来

1.4.1.1 Orbital Science/Boeing

Pegasus を有する Orbital Science は、Boeing と共に F-15 を用いた小型衛星打上げロケ ットの開発を USAF から受注している。この F-15 打上げロケットの研究は 1999 年に遡る。

これら研究は 1999 年の「13th Annual AIAA/USU Conference on Small Satellites」にて 発表された。発表者は Aerospace Corp、JPL、Air Force Research Laboratory である。こ の時点では、吊下げ式の空中発射ロケットが発表された。この初期研究は 1999 年に終了、

その後は Air Force Research Laboratory を中心に研究を進めたとされている。そして 2003 年には F-15 MSLV(MICROSATELLITE LAUNCH VEHICLE)として発表され、これらコンセプトは Pegasus ロケット重量 23,000kg で衛星 340kg が軌道投入できる能力に対し、F-15 MSLV は、

ロケット重量 4550kg で衛星 100kg が軌道投入できると論文発表されている。ロケット重量 に対するペイロード比率が Pegasus の 2.6%に対し、F-15MSLV はロケットのみで 18%

(AIAA-LA Section/SSTC 2003-9002)である。費用は Pegasus の$20 Million(24 億円)に 対し、F-15MSLV は$5 Million(6 億円)と発表している。

しかし、イスラエルが同様に F-15 イーグルを使用した空中打ち上げシステムを検討して いる情報から 2006 年には大幅に設計案を変更し、[吊下げ式]から[背負い式]へと変更して いる。この結果、F-15MSLV の LEO100kg と比較して背負い式では 270kg と打ち上げ能力が向 上している。そのコンセプト図を示す。

図 1.4-16 2006 年発表の F-15 コンセプト図(Source:AIAA-RS4-2006-2001)

F-15 については、F-15C/D 型ではなく、F-15E 型でエンジンを強化した F-15GSE をベース にしている。