第3章 ロケットシステム構想検討
3.1 ロケットシステム構想
本項では、空中発射ロケットシステム構想として、以下の検討を行う。
・ 空中発射用ロケットの基本要求と概略サイジングの検討
・ 機体構成ベースライン設定
・ 機能ブロック図(案)の設定
なお、ここで検討の対象とする機体は、空中発射システムの検討ベースラインとして設 定した、発射母機を亜音速機とする全備 9 トン級ロケット(ケース A)である。
(1) 空中発射用ロケットの基本要求と概略サイジングの検討
米国の Defense Advanced Research Projects Agency の分類では、マイクロ衛星の重量 は 10~100kg としていることから、100kg 級の小型衛星を地球低軌道(LEO)に投入できる 能力を持つロケットとする。また、将来の超音速機(戦闘機)への搭載も考慮したサイジ ングを行った。これより、推進系としては密度が高い推進剤を使用することが適当と考え られ、ペガサス同様に固体ロケットモータの適用を前提とした。
また、ステージ数については、図 3.1-1 に示すとおり、
・全備質量 9 トンの制約
・地球低軌道への衛星投入に必要な増速量 約 9000m/s
(=250km 円軌道速度 7800m/s-地球自転分 400 m/s+速度損失 1600 m/s(仮置き値))
・要求ペイロード質量 100kg
・固体ロケットの一般的な真空比推力 290s
・固体ロケットの一般的なステージ構造効率 12%
を前提として機体の概略サイジング検討を行い、3段式が適当という結果を得た。
検討方法
・多段式ロケットの理論獲得速度(ΔV)、及びペイロード比は、以下の式1、2で与 えられる。
・要求条件に従い、必要ΔV、ペイロード質量を設定するとともに、使用する推進剤の 特性を踏まえ各段の比推力(Isp)、構造効率(α)を仮定する。
・ペイロード比π0を最大にする最適なλi(3段式の場合は I=1,2,3)を求める。
・これより、要求されるペイロード質量を要求軌道に投入するための、最小機体サイズ が求まる。
◇式1 : 多段式ロケットの理論獲得速度(ツィオルコフスキーの式)
◇式2 : 多段式ロケットのペイロード比 (π0=ペイロード質量/全備質量)
⇒上記の通り、3段式の場合にほぼ全備質量9トンとなる。
図 3.1-1 全備 9 トン級ロケットの機体サイジング概略検討
検討条件
・必要ΔV 9000 m/s ←LEOに対する理論獲得速度の目安。
・ペイロード質量 150 kg ←最上段にアビオニクス・RCS搭載を仮定し50kg上乗せ。
・真空比推力 290 s ←固体ロケットで一般的な値。
・ステージ構造効率 0.12 ←固体ロケットで一般的な値。
上記条件で、全段ペイロード比が最大となるλiを算出。
1段 2段 3段 全機
推進剤 固体 固体 固体 -
比推力 Isp (s) 290 290 290 -
構造効率 α 0.12 0.12 0.12 -
λi 0.652 0.652 0.652 -
理論獲得速度Δvi (m/s) 3000 3000 3000 9000
ペイロード比π 0.259 0.259 0.259 1.7%
全備質量 (kg) 6368 1652 428 8598
推進薬質量 (kg) 5604 1454 377 -
不活性質量 (kg) 764 198 51 -
3段式固体ロケット 段初期質量
段ステージ推進薬質量
:ステージ数
:必要獲得速度
i i
n V
Isp g V
i
i n
i i
= Δ
⎟⎟ ⎠
⎜⎜ ⎞
⎝
⎛
× −
=
Δ ∑
λ
λ 1 ln 1
段ステージ全質量 段ステージ不活性質量
(構造効率)
:ステージ数
:全段ペイロード比
i i
n
i n
i i
i
=
⎟⎟ ⎠
⎜⎜ ⎞
⎝
⎛
− −
= ∏
α π
α π λ
0
0
1 1
(2) 機体構成ベースライン設定
(1)項の概略サイジング検討をベースに、機体の主要構成の検討を行い、全備 9 トン級 ロケット(3段式固体ロケット)の機体構成ベースラインを設定した。なお、発射母機、
及び母機搭載方式については、4.3 項の検討結果より、以下を前提とした。
・発射母機 : 亜音速機(ボーイング 747)
・母機搭載方式 : 吊り下げ式(翼パイロン下)
以下の図表に検討により得られた、機体構成ベースラインを示す。
図 3.1-2 機体概要図
表 3.1-1 システムベースライン 図 3.1-3 母機搭載方式ベースライン 図 3.1-4 飛行プロファイル
また、検討にあたって前提とした機体諸元のベースラインを以下に示す。
表 3.1-2 質量特性ベースライン 表 3.1-3 推進特性ベースライン 図 3.1-8 空力特性ベースライン
なお、上記はこれまでの固体ロケットの開発実績データや、ペガサスロケットの公開技 術資料等を元に設定したものである。従って、概ね妥当な設定と考えられるが、詳細には 各サブシステムの検討を行い、成立性を確認していく必要がある。
【音響環境の低減効果について】
上記諸元に基づき、一般に、空中発射のメリットの一つといわれるロケット点火時の ペイロード音響環境低減効果について概略検討を行った。実際、ペガサスでは、ロケッ ト点火時の音響環境は評定にならず、母機の離陸時が評定となっている。音響環境は通 常の陸上発射の固体ロケットに比べて非常に小さい(ペガサスのペイロード環境条件サ マリを図 3.1-9 に示す)。これは、点火時のモータ排気流の地面からのはね返りによる 音響増大効果がないことに起因している。
今回、検討のベースラインとした全備 9 トン級ロケットの 1 段点火時ペイロード音響 環境条件(外部音場)の検討結果を M-V ロケットと比較して図 3.1-10 に示す。外部音響 レベルは M-V の約 20dB 減であり、空中発射による大きなペイロード音響低減効果が見込 まれる。
(3) 機能ブロック図(案)の設定
亜音速空中発射の全備 9 トン級ロケットの機能ブロック図(案)を図 3.1-11 に示す。
本図にて示した機能ブロック図(案)は、システム構成ベースラインとの整合をとりつつ、
システム/運用の簡素化とシステム安全確保の両立を目指して以下の点を考慮したものと なっている。
a. 設備系とのインタフェースの簡素化
点検運用、及び母機搭載時におけるインタフェースの簡素化を目指して、以下のイ ンタフェース構成とした。
・ロケット本体と外部との(RF 系を除く)電気的インタフェースは、主要なアビオ ニクス系機器が搭載される 3 段に集約する
・外部電源、及び緊急処置コマンド以外はシリアルインタフェースとする b. 飛行安全機能(FTS)の完全自律化、及び独立化
第 2 章及び第 4 章に示した通り、FTS 機能は完全自律化することを最終目標とする。
この際、搭載される他の機能とは電気的、物理的に完全に独立構成とする。
なお、各段に搭載される飛行安全機能は以下の通りとした。
<3 段(AFTS)>
・レンジング機能(GPS+IMU)
・レンジングデータ及びヘルスモニタの RF 送信機能
・破壊機能イネーブル処理機能(ロケット分離検出及び内蔵タイマによる)
・航法演算による自律破壊判定機能
・破壊(破壊火工品点火出力)機能
・下段側早期分離破壊イネーブル/ディスエーブル機能(内蔵タイマによる)
・電池及び EDLC(電気二重層キャパシタ)
<2 段、1 段(FTS)>
・早期分離検出機能
・早期分離破壊/指令破壊(破壊火工品点火出力)機能
・EDLC(電気二重層キャパシタ)
c. EDLC(電気二重層キャパシタ)の火工品点火用電源への採用
固体ロケットシステムの場合、火工品点火イベントが多いシステムになりがちな点 は否めない。そこで、火工品点火による大電流消費対応(低インピーダンス)の電池、
電流/電圧トランジェントによる他系への EMC への影響、等を排除すること、さらには これに伴う電池容量の低減による充電運用の簡素化を目的として、EDLC の採用を目指 す。
EDLC の基本構造はアルミ電解コンデンサとほぼ同様であり、コンデンサとしての取 扱い(大電流(急速)充電/放電運用が可能、使用温度範囲が電池に比べて広い、等)が可 能であるばかりでなく、アルミ電解コンデンサと異なり化学反応を伴わないため、サ
イクル寿命が原理的には無限大(実際は有限)で、かつ数~数 100F の容量を持つものが 市場には展開されており、火工品点火用として使用できる可能性は十分にあるものと 考える。
一例として、使用用途は全く異なる(小電流、長時間使用)が、はやぶさに搭載され た小惑星探査ロボット「MINERVA」にて、民生品をベースとした EDLC が開発/搭載され ている。
MINERVA に搭載された EDCL を図 3.1-12 に示す。
火工品点火回路に使用した場合として、容量 100F、セル電圧 2.5V のものを 12 個(6 直列×2 並列)搭載した場合の EDLC の充電特性、及び放電特性を解析した結果を図 3.1-13 及び図 3.1-14 に示す。
結果に示す通り、EDLC は急速充電が可能で、整備・点検運用時には完全放電状態に して電力ソースを排除することにより火工品回路の安全性も高められるという利点を 持つ。
以上より、火工品点火回路には EDLC を使用する方向で今後検討していくものとする。
d. GPS/INS の採用
最近の動向として、小型ロケットをはじめとして GPS/INS の採用が盛んになりつつ ある。空中発射システムにおいても GPS+IMU(最終目標は MEMS の適用による小型化) による複合航法を行う。なお、ロケット搭載においては、高ダイナミクス(G、jerk)対 応の GPS 受信機の開発が必要である。
また、ここに搭載される GPS 受信処理部、IMU 部、データ処理部(CPU)は、先に挙げ た自律型 FTS(AFTS)と共通化して使用することを視野にいれて開発を行う。
e. 共通バスの採用
空中発射システムによるデータインタフェースは原則としてデジタル化する。これ により、既存システムのようなデジタル/アナログ混在型のシステムに対して、
・艤装ハーネス数の大幅削減による組立・艤装性向上
・デジタル/アナログ変換回路の削減(部品点数の削減)によるシステム信頼性向上 を目指す。
なお、共通バス方式としては、Time Deterministic 性を有すること、冗長構成に対 するオプションが用意されていること、を条件に、既存の他分野で実績のある、ある いは標準化されている規格から選定する(⇒4.1.2 項を参照のこと)
f. BIT の Advanced 化とテレメータデータ容量の削減
テレメータ送信は民間インフラを利用した衛星経由でのダウンリングを目指すため、
データ伝送量は 100kbps 程度と考えるべきである。
システム全体のあり方として、機器レベルでは BIT の Advanced 化により、機器の健 全性、故障部位の特定を必要最小限の情報量で把握できることを目指す。
これにより、既存のシステムのようにアナログ計測データを地上でモニタするこ とによる煩雑なポスト処理、判断の遅れを回避する。