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ロシア・ウクライナ・カザフスタン

第 1 章 低コスト打上げシステムの事例調査・分析

1.4 諸外国の空中発射システム検討動向

1.4.2 ロシア・ウクライナ・カザフスタン

ロシアでは、1990 年代に空中打上げシステムの検討が行われていたが、財政難により検 討は遅延していた。しかしここ数年、天然資源輸出による経済回復基調から延期していた 宇宙計画を進め始めている。また、ロシア・ウクライナの宇宙技術が 1990 年後半から急激 に市場進出を始めており、ICBM 派生型打上げシステム・Zenit-3SL・SOYUZ・COSMOS などが ロシア・ウクライナから米国・欧州市場へ進出した。

空中打上げシステムでは

(1) M-55 LAUNCHER(ロシア・オーストラリア)

(2) ISHIM(ロシア・カザフスタン)

(3) Polyot(ロシア)

(4) Svitiaz(ウクライナ・ロシア・米国・欧州)

が挙げられる。これら空中打上げシステムは、戦闘機・大気観測機・大型輸送機を発射母 機とした空中打上げシステムである。

図 1.4-57 M-55(Source: AFP 通信) 図 1.4-58 ISHIM(Source: Flight International)

図 1.4-59 POLYOT(Source: ALAC) 図 1.4-60 Svitiaz(Source: yuzhnoye) M-55 を用いた空中発射システムは、ロシア及びオーストラリア政府間の合意に基づいて 開発するとしており、報道によれば 2005 年 10 月の報道では 3 年間で$200mil の開発費を拠 出する予定としている。M-55 は高高度偵察機として開発されたが冷戦終了後は大気観測機 としてイギリスとロシアによる合弁企業 Geoscan が利用している。Geoscan では、M-55 を 利用したマイクロ衛星打上げシステムを考案・公表した経緯があり、オーストラリア・ロ シア政府間のほかにイギリスの Geoscan (UK) Plc 関与説が指摘されている。

ISHIM は、カザフスタン宇宙機関「Kaskosmos」が Mig-31 を使用した打上げ手段を入手す べく、ロシアとの共同開発で進められている。打上げ方式は吊下げ落下方式であり、これ ら開発に EADS が参加表明したとの情報もある。

Polyot は、ロシアの Air Launch Aerospace Corporation(ALAC)が開発を検討している。

これは An-124(ルスラン)大型輸送機を母機とした後部扉放出落下方式の空中打上げシス テムである。An-124 の老朽化及び騒音・燃費規制の問題から An-124 エアランチの存続は不 可能であると言われていた。しかし An-124 製造元のアントノフ社は 2006 年 6 月、騒音・

燃費規制をクリアしたエンジンを搭載した An-124 の製造再開を決定、商用輸送機として販 売開始し空中打上げシステム仕様を意識した An-124AL 型を発表している。また、一部では イギリスやアメリカがロケット輸送及びエアランチ用として An-124 に CF-6 エンジンを搭 載した仕様で An-124 を発注する動きがある。これら背景から An-124AL 型による Polyot の 事業続行の環境が整ったため、ロシア・ブラジル・インドネシアから空中打上げシステム の販売を行うべく、事業計画が練られている。

Svitiaz は、ウクライナの Yuzhnoyes Space Design Office が An-225-100 を母機とする

Zenit の空中発射システムである。この会社の株主は「Space International Services, LLC:

25%(露)」、「Joint Venture with foreign investments established as closed partnership:

8.5%(伊・蘭)」、「Kosmotras:12.5%(露)」,「Sea Launch Limited Partnership, LLC:

5%(ノルウェー、US、露)」である。このうち Kosmotras はドニエプル打上げ事業を実施 している会社であり、Sea Launch Limited Partnership, LLC は Zenit-3SL を海上打上げす る Sea launch 国際共同企業である。An-225-100 はエンジンを 6 基搭載する超大型輸送機で あり、旧ソ連のスペースシャトル「ブーラン」を輸送した実績がある。(米国スペースシ ャトルの輸送機は B-747)

図 1.4-61 ブーラン輸送機 An-225-100 図 1.4-62 シャトル輸送機 B-747

(yuzhnoye) (NASA)

Svitiaz は、Zenit-3 を背負い式で空中打上げするコンセプトを目指している。Zenit-3 は、ロケットの構造が高張力鋼で製造されており、液体ロケットにも関わらず構造強度が 高いことで知られている。空中打上げシステムにおいて構造強度が高いことは、ロケット 側に大規模改造の必要がないため、開発費用低減に結びつく一方、空中打上げによる効果 により打上げ性能が向上するメリットがある。Svitiaz では、Zenit-3 の無翼型・有翼型が 検討されている。もし、Zenit が空中打上げ事業をすれば、Zenit は陸上・海上・空中打上 げ全てに対応可能な液体ロケットになるとの指摘がある。これら可能性から Zenit-3 の性 能向上を目的とした Zenit-4 の開発が地上打上げベースで開発が開始されたとの情報があ る。

また空中打上げシステムではないが、空中打上げシステムに付随するフライバックブー スタとして、ロシア Energia 社が Energia-2 を、ロシア Khrunichev 社が Baikal の技術研 究を進めている。Energia は超大型ロケットのブースタとしてのフライバック、Khrunichev は Angara ロケットとしてのメインもしくはブースタとして搭載が検討されている。これら フライバックブースタ技術の協力関係を結ぶため、ボーイング社のデルタロケットチーム が、エネルギアと共に共同研究を進めている。

図 1.4-63 Energia-2(Source: Energia) 図 1.4-64 Bikal(Source: Khrunichev)

1.4.2.1 M-55 LAUNCHER

2005 年 10 月、インターファックス通信は、ロシアとオーストラリアが共同で空中打上げ システム開発開始を報道した。その記事によれば、母機は「M-55 Geofizika 」と言う大気 観測機である。参加企業はロシア側が Myasishchev Experimental Engineering Plant、

オーストラリア側が Technoimport Company が参加している。さらにイギリスの Geoscan (UK) Plc が関与している可能性が指摘されている。

M-55 は米国の U-2 偵察機に対抗すべく建造された機体である。しかし冷戦後はロシア・

イギリス合弁企業の Geoscan が利用して大気観測運用されている一方、宇宙船(C-21)打 上げ機として Space Adventures が利用計画の発表している。

図 1.4-65 M-55 Geofizika(Lotnictwo.net) 図 1.4-66 M-55 と C-21(Space Adventures)

この M-55 のスペックは、単座型、 Perm/Solovyev 社製 PS-30-V12 ターボジェットエンジ ンが 2 基で推力は 49 kN (11,025 lb)、最大速度 750 km/h (466 mph)、最大上昇可能高度 は 17000m (55,775 ft)、全幅 40.7 m (123 ft 6 in)、全長 24.0 m (78 ft 9 in)、全高 4.8m (15 ft 9 in)ある。最大離陸重量は 44,000 lb (19,950 kg)以上と言われ、搭載可能重量は 5500kg と公表されている。

ロケット仕様は公表されていないが背負い打上げ方式である。しかしロシア・オースト

ラリア間で開発予定の空中打上げシステムの開発費は 3 年間で$200mil と発表されている。

Myasishchev Experimental Engineering Plant と Technoimport Company が共同で進めてい るものと見られる。

ロシア・オーストラリア間で空中打上げシステムの開発が行われる以前に、イギリスと ロシアでは Geoscan (UK) Plc らが空中打上げシステムの検討資料を発表している。その資 料によれば、計画名は「M-55 LAUNCHER - Airborne Micro-Satellite Launch Complex Based on M-55 Stratospheric Aircraft」、参加企業は

(1) MYASISHCHEV Design Bureau,(Zhukovsky, モスクワ、ロシア).

(2) GEOSCAN International Agency on Complex Monitoring of the Earth, Natural Disasters and Technogenic Catastrophes(モスクワ、ロシア).

(3) ARSENAL Design Bureau, (Saint Petersburg、ロシア)

(4) Geoscan (UK) Plc, (ロンドン、イギリス)

である。MYASISHCHEV Design Bureau は今回の露・豪間開発企業として名を連ねていること から、イギリスーロシア間の共同開発からロシアーオーストラリア間の共同開発に乗り換 えた可能性が考えられる。

Geoscan が発表した資料によると、ロケットは 2 段式で 1 段目は固体、2 段目は液体とし、

ロケット全体重量 5500kg としている。打ち上げ能力は高度 200km へ 100~150kg を目標と している。飛行プロファイルを示す。

図 1.4-67 飛行プロファイル(Source: Geoscan)

M-55 は最大 5500kg のロケットを搭載して離陸し、高度 17km まで上昇する。そして速度 マッハ数 0.7 でロケットと切離し、第一段目の固体ロケットが点火、上昇を開始する。そ

して第一段目は高度 25km、マッハ数 1.9 で切離され、液体エンジンが燃焼を開始、高度 200km、

傾斜角 51 度の軌道へ最大 150kg の衛星を投入するとしている。

表 1.4-2 M-55 LAUNCHER の性能(Source: Geoscan)

Mass of satellite, kg Perigee, km Apogee, km 50

100

1064 735

1191 781

Geoscan が公表した資料によれば、この M-55 LAUNCHER の販売は小型衛星を開発し、宇宙 事業へ参入を目指す「アルジェリア、アルゼンチン、ブラジル、チェコ、チリ、デンマー ク、エジプト、イラン、マレーシア、モロッコ、ナイジェリア、パキスタン、韓国、トル コ」らを市場ターゲットに入れている。

1.4.2.2 ISHIM

ISHIM は、ロシア・カザフスタン両国による政府間共同開発計画である。Mig-31D を使用 した吊下げ式空中打上げシステムである。開発資金の提供はカザフスタン政府であり、ロ ケットの開発は Moscow Institute of Heat Engineering 、発射母機の開発は Mig-31D を製 造する MiG Corporation である。開発の合意は 2006 年 1 月、カザフスタン政府と Moscow Institute of Heat Engineering が Ishim Space System の開発について契約締結。その 後 MiG Corporation が project に参加したとの情報がある。カザフスタン政府は、ソ連崩 壊後 に 43 機の MiG31 を受取った経緯があり、この MiG31 を space program などへ活用す べく、以前から検討を重ねていた。また、ロケットを開発する Moscow Institute of Heat Engineering は Topol-M (ICBM) と Bulava (SLBM) の開発実績がある。これら実績から ISHIM は固体ロケットベースで製造するとしている。

空中発射母機は Mig-31D である、この機体は冷戦時代に開発された衛星攻撃兵器(ASAT)

用として、カザフスタンに配備されていた歴史がある、MiG-31D は 1987 年に試作機として 2 機が製作され、現在でもカザフスタンに保管されている。この MiG-31D をベースに Ishim project 用 (MiG-31I と呼ばれている様子) を開発するとしている。 予定では 2007 年中 にテスト飛行を行うことになっている。

固体ロケットは Smart-1 をスケールダウンした設計になり、MiG-31I と同時期に開発完 了させる予定としている。

図 1.4-68 Mig-31I(Source: espacial.org)

図 1.4-69 ISHIM飛行プロファイル(Source: www.astro.cz)

表 1.4-3 ISHIM 主要データ(Source:Kazcosmos)

Key Characteristics of the Air-launched Rocket Complex “Ishim” The field of application of the Complex

Commercial launches of small civil satellites and operationally responsive maintenance of multi-satellite constellations

Performance of the Complex

Mass of the payload delivered to the circular orbits with inclination of 46°

ƒ

Up to 160 kg – orbit of 300 km/Up to 120 kg – orbit of 600 km The size of the payload fairing

ƒ

Length: 1. 4 m / Diameter: 0.94 m Aircraft-carrier MiG – 31D

ƒ

Launch mass: 50 t

ƒ

Maximum distance traveled by the Complex before performing the launch: 600 km

ƒ

The altitude range for performing the launch: 15-18 km

ƒ

Velocity range for launches: 590-620 m/s Small Rocket «Ishim»

Launch mass of the rocket: 10.3 t Length of the rocket: 10.76 m Diameter: 1.34 m

ISHIM ロケットは、重量 10.3t、全長 10.76m、直径は 1.34m である。ロケットを搭載した Mig-31I は離陸後 15~18km へと上昇、速度は時速 2,120~2,230km としている。その後 3 段式固体ロケットを分離、1 段目と 2 段目の分離は Mig-31I 側で確認、三段目の分離は IL-76MD で確認する。追跡管制は空中管制機 IL-76MD を使用するとしている。ロケットから 送信されるテレメトリデータは IL-76MD へ提供されるとしている。

図 1.4-70 IL-76MD(Source: aviation.ru)

打ち上げ能力は、50-160 kg の衛星を高度 200km~1200km の円軌道から太陽同期軌道 投 入可能としている。衛星搭載フェアリングの可能寸法は全長 1.4m、直径 0.94 mである。

事業場所(空港)は Karaganda City に近い Sary-Arka 空港としている。ただし顧客の要 求に応じて何処の空港でも出向くとしている。また打上げシステムに関するメンテナンス 設備は移動式にするとしている。

サリー、イスラエル航空産業や伊フィンメカニカが Ishim 計画に興味を示している。打 上げ費用は、$1mil~$2mil(1.2 億円~2.4 億円)の間としている。2007 年に打上げ実験を 予定している。

1.4.2.3 POLYOT

Air Launch Aerospace Corporation(ALAC)は An-124 貨物航空会社 Polyot Cargo Airlines と Khimavtomatiki Design Bureau によって、 1999 年 5 月に設立された。

ロケットは 3 段式液体であり、航空機は大型輸送機 An-124AL の貨物室に収納した貨物扉 を開放した放出打上げである。エンジンは第 1 段が NK43M、第 2 段が RD0124、最終段 upper stage は Modified RD0158 としている。うち第 2 段の RD0124 は SOYUZ-M で実績を挙げてい る。燃料は全て液体酸素/ケロシンである。衛星搭載スペースは直径 2.65 x全長 8.65m で ある。打上能力は非常に高く、LEO 3000~4000kg、GTO 1600~1700kg、GEO 600~800kg と している。