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生徒 2 名の学習の特徴に関する分析

第 5 章 本質的学習環境に基づく生徒の学習に関する予備調査

第 2 節 生徒 2 名の学習の特徴に関する分析

5-2-1. 定量的分析

本質的学習環境のプリント学習終了後,まず二つのクラスでおこなった事前,事 後テストにより学習の効果を調べた.事前,事後テストの結果を表

5-1

に示す6

表 5-1:予備的調査の事前,事後テストの平均正答率(%)とそのほかの情報

(出典)筆者作成.

事後テストの平均正答率は事前テストの平均正答率よりも高かった.しかし平均 正答率を比較するため

t

検定をおこなったところ,有意差はみられなかった7.一方 で,平均計算所要時間は

79

分から

46

分へと大幅に減尐しており,プリント学習の 効果が時間短縮にみられた.さらに詳細を把握するため,各小問の正答率平均を表

5

2

にまとめた.

表 5-2:事前,事後テストの各小問平均正答率(%)

(出典)筆者作成.

事前,事後テスト結果の各小問における平均正答率を比較するために

t

検定をお

6

参考資料5-4A組とC組の結果を参照.

7

t(60)=1.748, p=0.086.

事前テスト 事後テスト

人数 61 61

平均点 36.38 38.93

最高点 76 73

最低点 4 8

分散 263.58 287.70

標準偏差 16.24 16.96

事前 事後

1:計算 1ー14 20.5 19.5

2:数列 15-19 5.8 8.7

3:数列の説明 20-22 0.8 1.4

4:計算の文章問題 23-25 2.3 2

5:逆算 26-27 1.5 1.5

6:文章問題 28-32 4.4 4.4

7:作成問題 33 0 0.2

8:長方形の周 34 0 0.1

9:未知の問題 35 0 0.5

小問番号と内容 対応問題番号  全体平均(%)

93

こなったところ,小問

2,8,9

に有意差がみられた8.それらは数列の認識や未知問 題へのとりくみに関する内容であった.

また,第

8

学年次から全員が継続的に本質的学習環境をおこなっていた

A

組の事 前,事後テストの平均正答率に

t

検定をおこなったところ,小問

2,8,9

に加え,

小問

3

の「数列の説明」についても有意差がみられた9

小問

1

における計算部分の正答率が減尐したのは,プリント活動の範疇外であっ た小数,分数,正負の数が含まれており,プリント活動で扱う頻度が低かった除法 の正答率が下がったことが原因として挙げられる.小問

4, 8

は内容と直接関係しな かった.小問

7

は活動で扱った作成問題とは異なる文章問題で,多数の生徒が答え られなかった.

このように正答率の伸びも極めて限定的であり,直接的にプリント学習で扱わな かった内容での正答率の減尐は,生徒の学習の改善が難しいことを示している.た だし生徒の答案を個別にみた際に,若干生徒の成長がみられる事例もあった.事後 テストにおける記述問題小問

3

のある解答をとりあげる.

問題:次の数列の規則を言葉で説明しなさい.

問題

20 1,3,5,7,9…

事前テスト解答

11 →事後テスト 解答 2

ずつ加える(Add by 2)

問題

21 2,5,8,11,14,17…

事前テスト解答

20 →事後テスト 解答 3

ずつ加える(Add by 3 )

この答案は事前テストにおける無解答から,事後テストでは文章の意味を正確に とらえて正しい英語で解答しており,一連の活動の効果がみられた.そこでこのよ うな生徒の細かい変化の詳細や,正答に達しなかった誤答のいくつかの段階をとら えるために,次に実際の生徒のプリント学習から定性的な考察をおこなう.

5-2-2.定性的分析

ここでは特に高次的能力の獲得過程を中心に,普段の数学の成績が下位生徒アー ノルド(男子)と上位生徒ルーシー(男子)の活動記録を検証する.これら

2

名の 選出理由として,ルーシーは出席,提出率が

100%で活動が連続的に把握可能であ

8 小問2の結果: t(60)=5.618,p=0.000<.001,小問8の結果:t(60)=2.052,p=0,045<.05,小問9の結果:

t(60)=4.119,p=0.000<.001.

9

参照.A組の小問2の結果:t(29)=5.40,p=0.000<.001,小問3の結果:t(29)=2.859,p=0.008<.01,小問8 の結果:t(29)=2.112,p=0.043<.05,小問9の結果:t(29)=4.853,p=0.000<.001.

94

ったことと,

2

名の活動は各成績群の生徒たちに多くみられた特徴を満たしていたこ とが挙げられる.

下位生徒のアーノルドは問題行動が多い生徒として,注意を受ける生徒であった.

授業を途中退席し,抜け出して仲間たちと外にいることも多かった.数学の成績は 下位で,授業中の私語が多いものの,発言はほとんどみられなかった.「数学はわか らない」と言っていた生徒のうちの

1

名である.片言の英語の会話はでき,会話が 複雑になると現地語にきりかえた.

アーノルドの事前テストは

14%,事後テストは 13%であった.事前テストでは 2

桁の加減,

1

桁同士の乗法しか解くことができず,事後テストでは事前テストで解い た問題には答えず,代わりに数列の穴埋め問題を正答した.いずれにせよ,事前,

事後テストともにアーノルドは文章問題では無解答であった.

上位生徒のルーシーは第

8

学年時には数学の成績は平均的であったものの集中力 がなく,教室で騒ぎ落ち着きがなかった.第

9

学年になり授業にも真剣にとりくみ,

成績も向上した.授業後に個別に質問してくる数学に意欲的な生徒で,英語,現地 語双方によるコミュニケーションを図ることができた.

ルーシーの事前テストは

55%,事後テストは 57%であった.ルーシーは事前テス

トで整数の四則計算はほぼすべて解くことができたが,分数,小数,負の数の計算 を誤答した.文章問題では数列の規則を記述する問題を解くことはできなかったも のの,そのほかの文章問題を何問か正答した.さらに事後テストでは,事前テスト では答えられなかった数列の規則を記述することができた.

分析にあたりプリント学習のなかでの計算部分,自由作成問題,パターンの記述 部分の三点に着目して,

2

名の生徒がどのように本質的学習環境の学習をおこなった のか考察する10

5-2-2-1.成績下位のアーノルド

アーノルドは,数の石垣の計算を積極的におこなった(図

5-1).

10 パターンの記述や自分の考えを文章で記述するのは,ドリル番号6,8,9,15,16,19,21で,これらを 参照して述べる.

95

図 5-1:下位生徒の計算部分(1)

しかし図

5-2

のように乗法と除法のタブララサに入ると適当に解答したと思わ れる答案を作成し,実際解答部分も不正解が多かった.

図 5-2:下位生徒の計算部分(2)

5-3

の自由作成問題では,ほかの生徒と比較しても作成数は尐なく,例をその まま使ったり友人のプリントを写したりする箇所がみられた.

図 5-3:下位生徒の自由作作成問題

文章で答える問題では,すべての回を通して

3

回目の記述部分のみ,アーノルド は解答した(図

5-4).

同じ問題を記述

96

(注)訳:真ん中が一番大きい.

図 5-4:下位生徒の記述(第 3 回)

アーノルドは計算箇所を解いたものの,第

3

回の記述以外で計算後のパターンの 気づき,発見の記述はまったくなかった.

5-2-2-2.成績上位のルーシー

9

A

組の成績上位群に属するルーシーは,図

5-5

に示すように四則計算を正確 におこなった.

図 5-5:上位生徒のプリント学習の計算部分(第 17 回)

数の石垣の自由問題では裏の白紙部分を用いて

6

つ作り,ルーシーは石垣を多く 作成する意欲をみせた(図

5-6,図 5-7).

図 5-6:上位生徒が自主的に作成した数の石垣(1)

97

図 5-7:上位生徒が自主的に作成した数の石垣(2)

パターンの気づきを述べる記述部分を詳しくみる.数の石垣から数のパターンの 変化を記述する問題(図

5-8)では,ルーシーは「試行錯誤する数の石垣は難しい

から頑張って解かなければいけない」と感想を述べた.英語表現も文法的には意味 が通じず,わかりにくい.

(注)6回目訳:1.最初の数の石垣は,数を入れて作る.2.次の数の石垣はとても難しい.

自分を助けるような正しい答えを入れなければならない.

図 5-8:上位生徒の記述部分(1)

どのように解いたか自分のやり方を説明させる問題(図

5-9)では無解答であっ

た.

(注)7回目:白紙.

図 5-9:上位生徒の記述部分(2)

98

この問いは大部分の生徒が白紙で提出しており,問いの意図が伝わりにくい問題 であった.

次に

6

回目と類似した問題(図

5-10)では,三つの底辺の数が 15

で,段数が異 なる数の石垣を全体的にとらえるようになった.パターンの気づきでは「底辺の数 が

15

だ」と指摘している.一方で「頂上の数は違う」という曖昧な記述がみられる.

(注)8回目訳:気づいたことは,底辺の数がすべて15で,頂上の数はそれぞれ異なる.

図 5-10:上位生徒の記述部分(3)

次に続く

9

回目(図

5-11)では「気づいたことは,最初の石垣の真ん中の数が

次の石垣の左側に来ている」と述べ,例示して自分の説明を補足して,具体性があ る説明をおこなった.

(注)9回目訳:気づいたことは,最初の石垣の真ん中の数が次の石垣の左側に来ている.

図 5-11:上位生徒の記述部分(4)

15

回目では言葉が尐ないものの,数パターンの変化を観察して記述しようと試み た(図

5-12).

99

(注)15回目訳:94,5,6,7でかけられており,その答えはどんどん大きくなっている.

図 5-12:上位生徒の記述部分(5)

19

回目は,美しい包みの答えの数の変化に気づかせる問題で,ルーシーは意欲的 にとりくみ,説明を補足するために例を用いて述べた(図

5-13)

(注)19回目訳:気づいたことは,かけられる数の並びと,かける数の並び(上の数)が同じだ.

図 5-13:上位群の生徒の記述部分(6)

しかし,21回目ではルーシーは「位どり(place value)」を記述できず,不明瞭な 表現に戻った(図

5-14).

(注)21回目訳:気づいたことは,数が一緒で,最初の数は1, 199, +188だ.

図 5-14:上位群生徒の記述部分(7)

22

回目ではルーシーは用語や表現に苦労していたが,例を用いて

10

の位の数字 を「真中の数」という表現を用いて,数学的な考え方を記述した(図

5-15).